超不定期更新コラム

ランシュバージュ垂直

ランシュバージュと聞いてなにを思い浮かべるだろうか?

・5級でありながら、2級レベルに匹敵する実力と価格。
・ジャン・ミッシェル・カーズ氏が醸造。
・アメリカ人好み
・プアマンズ・ラトゥール

絶賛する人がいる一方で、私が愛読している「今日からちょっと ワイン通」の著者の山田健氏は、その著書の中で、下記のように述べている。

「なるほど<ランシュバージュ>は大きなワインである。ボディもしっかりしており、押し出しも堂々としている。しかし、その姿形を「山」にたとえると、「大きな台地」に近いものがあるのだ。つまり、他の名酒たちがそなえている「美しい稜線」というものがまるでなく、その山容を愛でようにも、ただひたすら平板な広がりがあるだけで、途方に暮れてしまうのだ。こういうワインを、ぼくは『フィネス』の代表にはしたくない」

ふ〜む。わかるような、わからないような…。

私はといえば、93、94あたりのビンテージはしばしば飲む機会があったが、評価の高い80年代についてはあまり飲んだことはなかったので、これだけまとめて飲める機会に出会えたのは素直に楽しみであった。(しかもそれで8800円という価格も魅力。)
ところが実際臨んでみると、逆にそのアイテム数の多さに閉口させられることになったのだ。
なにせ全部で18種類である。
いくら1アイテムがテイスティンググラスにちょこっととはいっても、 さすがにこれだけ飲むと酔っ払ってしまう。 今回はさすがに過去何度かの学習効果によって、 「酔っ払って肝心な82や90や75などの味を覚えていない」ということに はならなかったけれども、エノテカの垂直試飲で今回ほどへべれけになって 帰ったのは初めてだ。

えっ? テイスティングなのに、吐き出さずに飲んでるのかって?

そうです。飲んでます。だってもったいないもん。(^^;

以下、試飲で飲んだ銘柄の印象。

<Ch.レ・ゾルム・ド・ペズ>

R・パーカーも「控えめな価格で高い品質を求めるのであれば、レ=ゾルム=ドゥ=ペズはいつでも真面目に検討したいワインである。 講談社 『BORDEAUX ボルドー 第3版』 」と評価しているこの銘柄は、いかめしいワインが多いイメージのあるサンテステフの銘柄で、セパージュも カベルネ・ソーヴィニョン70%、メルロ20%、カベルネ・フラン10% というオーソドックスなものでありながら、例外的なほどやわらかく飲み口のやさしいワインだという印象がある。今回試飲したいくつかのビンテージも、その印象を裏切ることなく、 チャーミングで美味しいワインだった。 特に95はリッチで香りも甘くすばらしかったので、私も一本購入してきたほどだ。
個性的という点においては、ある意味ランシュバージュよりもこちらの方が個性がはっきりしていると思った。
ただ、今回86を飲んでみて思ったのだけど、若いうちから飲みやすい代償なのか、このワイン、やや熟成が早いようだ。

<ブラン・ド・ランシュバージュ>
白の「ブラン・ド・ランシュバージュ」は1アイテムだけだったが、なかなか高水準で美味 しくいただけた。ソーヴィニヨンブランの爽やかさとセミヨンのふくよかさがよく調和した愛想の良い白。 赤ばかり続くテイスティングの中で、こういうのがあるとアクセントになってよいと思った。

<オーバージュ・アヴェロー>
セカンドの 「オーバージュ・アヴェロー」については、これだけアイテム数があると、出されても印象に残らないし、実際飲まずに帰ってしまった方も多かったようだ。
ただ、たとえば今回も97ビンテージがそうだったように、年によっては、現時点ではセカンドのほうが飲みやす かったりするのがあるし、 格付けワインのセカンドワインの品質にはかなりバラツキがある中、総じて、 「オーバージュ・ アヴェロー」の水準は高いと言ってよいんじゃないだろうか。

<Ch.ランシュバージュ>
今回のテイスティングで感じたのは、ひとことでいうと、ランシュバージュというワインは実にオーソドックスなワインだなあ、ということ。

一緒に数ビンテージ飲んだ「レ・ゾルム・ド・ペズ」が早熟かつ、やわらかくてチャーミングなワインなのに対して、こちらはあくまで正統派のスケールの大きな ワインであり、なるほどメドックを代表する銘柄のひとつに挙げられるのも理解できる。
ただ、 各要素が豊かで、誰かが言うように「肩幅のしっかりした」印象のワインなんだけど、一方で、テクスチャーなどは際立って なめらかとは感じられず、目指している方向性は繊細さとか優雅さというベクトルではないようだとも思った。

今回飲んだ 80年代は、果実香でいうと、黒系というよりはややトーンの高い、むしろカシスぐらいの感じ。
ウエットで甘い、90、85、 ドライでやや内向的な、88、86 その中間ぐらいの82、75 と、ビンテージによってキャラクターがそれぞれ異なっていたところが面白い。
スケールでいえば、やはり82と90が頭ひとつ抜きんでている感があったけれど、 85、86、88なども十分大柄なワインだった。 90年代のものは以前93や94年を飲んだときは、ブラックベリーや黒鉛などの香 り豊かな、 スパイシーなポイヤックらしいワインという印象だったけれど、今回飲んだ95や9 7につい ては、ユーカリやハーブなどの豊かなフレーバーが香るワインだった。

個人的に気に入ったのは90、85、82あたりだったが、ごいっしょしたT氏は8 6を推していた。 また、93が開いていて今美味しく飲めたのも印象的だった。

格付けでいえば、たしかに2級に匹 敵する実力は感じられるけれども、スーパーセカンドクラスかというとそこまではいかないな、と いうレベル。 まあ値段的にもそんなところなわけだから、市場と言うのは正直なものだ。

試飲を終えてから再度冒頭の山田氏のコメントを思い出した。

う〜ん、なるほど…。


配布されたパンフレット。 表紙にラベルが貼ってあるのがちょっと格好いい。

今回のおみやげ。 さて、なんでしょう? わかる人はすぐわかる。