超不定期更新コラム

マルズ・バー

ワインレストランやワインバーの類には、比較的よく行っている方だと自負している私であるが、なぜか今まで行く機会のなかったのがマルズバー。

ブルータスの3/15の綴じ込みの「The Wine Bar 2001」によると、このバーに対する評価は、竹中充氏が「大変結構」(他に「大変結構」は銀座シノワ、エノテカ、テロワール)、楠田卓也氏が5つ星(他に5つ星は銀座シノワ、渋谷シノワ、エノテカ、テロワール、オザミ・デ・ヴァン、Vin Vino Brule)と、両ライターとも最高の評価を下している。
今挙げた店の中で私が行った事ないのはマルズバーだけ。ということで、自然と期待も高まろうといものだ。

その念願?のマルズバーにやっと行く機会ができた。

狭い路地裏にある立地にちょっと迷いながら到着。近くに「M's Bar」という店があるから間違えないようにしよう。(といって、間違えたのは私)店内は明るくもなく、暗くもない照明の明るさ加減が心地よい。私たちが行ったときにはすでに満員で、後から来た客が何組か申し訳なさそうに断られていた。

ちなみにマルズバー自体はカウンター6席と4人がけテーブル1席というこじんまりした店だけど、昨年すぐそばに「ビストロ・マルズ」という姉妹店が出来たそうだ。こちらはより本格的なフレンチメニューを供するということだが、残念ながらこの日ビストロ・マルズの方も予約は満杯だった。

もっとも、マルズバーの方も夕食のニーズに十分対応できるだけのメニューを揃えている。「合鴨のサラダ」やら「牛肉のカルパッチョ」やら「カニクリームコロッケ」やら、注文した皿はどれも満足の行く味だったし、仕上げにオムライスや稲庭うどんなどのメニューもちゃんとある。

ワインリストは各国のハイコストパフォーマンスなワインがバランスよく揃っていて、さすが、と思わせる。値段も十分リーズナブル。グラスワインの数はスパークリングや食後酒を入れて20種類ほどある。後で列記してゆくけど、このグラスワイン銘柄のチョイスはなかなか面白い。
今回はここの名物のひとつ、 「おすすめワイン5グラス」のセット(5800円)を頼んでみた。これは スパークリングからデザートワインまで、5種類をグラスで楽しめるというセットだ。ふつうこういうセットって、廉価なワインばかりテイスティンググラスかなんかで出てくるようなものを想像してしまうんだけど、そこはさすが天下のマルズバー、泡、白、赤×2、デザートの各銘柄がそれぞれさらに数種類の候補の中から選べる仕組みになっている。もちろんグラスもその都度、ワインに合ったきちんとしたものが出される。それに5種類飲み終わる頃には酒量の多くない私などはへべれけになってしまうほど、量もたっぷりだ。

<一杯目> 泡
・ドン・ペリニョン92
・グリーン・ポイント96 からチョイス。

→グリーン・ポイントはモエ・エ・シャンドンがオーストラリアで作る銘柄。私はあえて、グリーン・ポイントの方を選んでみたが、なかなか期待にたがわぬ味わいだった。

<二杯目> 白
・メリーヴィル・ソーヴィニヨンブラン99
・ソノマクトラー・レピエール97
・クローズ・エルミタージュ99(アラン・グライヨ)
・シャブリ・サン・マルタン(ラ・ロッシュ)
・コルトン・シャルルマーニュ87(ボノー・デュ・マルトレ)
※コルトン・シャルルマーニュは追加料金にて。

→ここでハプニング。
87をグラスで開けるなんて太っ腹!と感心しつつコルトン・シャルルマーニュを注文。ところが、これがいけない。ボトルが残りわずかなのでちょっと心配だったのだけど、案の定出されたワインは蒸れたダンボールというか、湿った新聞紙というか、ようするにかび臭いのだ。いつもならそれでも文句を言わずに飲む私だが、今回は店の対応を見てみたくなって、あえて、クレームをつけてみた。(お店の方、ゴメンナサイ)

私:「あのう、このグラス、ちょっと香りを嗅いでみてくれませんか?」
ソムリエール:(キョトンとして、何が起こったかいう表情)
私:「いや、ちょっと、ブショネじゃないかと…」
ソムリエール :(香りを嗅いでみて)「はぁ、このくらいであれば…」(と困惑)
私:「いえ、決して文句を言っているわけではないんですけど、ちょっとカビくさいような気がするなあ、と思っただけで。」
ソムリエール:「抜栓して時間がたっているので…」
私:「そうですよね。87ですもんねえ。 いいんです、いいんです。」
ソムリエール:(立ち去る)
少しして マダムがやってくる。
マダム:「すみません。ブショネではないと思うんですけど、古いワインなので抜栓して時間がたってしまうと…。今新しいのを開けますので。」
といって、新しいボトルから注いだワインを差し出す。
私:「えっ、これいただいちゃっていいいんですか?」
マダム:「どうもすみませんでした。」

というわけで、抜栓したてのこのグラスの美味しかったこと。香りだけでなく、味わいの立体感や余韻が全然違う。前に出されたものと飲み比べると、まるで別のワインだ。

今回の事件、すかさず新しいグラスを出してくれたフォローには感激したけれど、前日抜栓の87の白を出してくるのはやっぱりちょっとバツかな。まあでも、87をそもそもグラスで開けようという心意気は評価したいし。 この辺はグラスワインを扱う上で宿命的な問題かもしれませんね。

なお、ちょっとイヤミな客を演じてしまった私だけど、出されたワインにクレームをつけたのは、今回を含めて生涯2度だけです。(笑)

<三杯目> 赤1
・Ch.シャススプリーン97
・キャンティ・ルフィーナ・レゼルバ90
・ホワイトホールレーン・メルロ96
・ターブラス・クリーク97

→赤の一杯目はさまざまなセパージュが勢ぞろい。私はターブラス・クリーク(Ch.ド・ボーカステルの作り手がカリフォルニアのパソ・ロブレス地区で作るローヌブレンド)を注文。これも香りがやや弱くなっていて、抜栓後時間が経過がしてた気配があったけど、このぐらいは仕方ないだろう。

<四杯目> 赤2
・ヴォルネイ・サントノ・デュ・ミリュー96(コント・ラフォン)
・Ch.ヌフ・デュ・パプ96(Ch.ド・ボーカステル)
・ドミナス97
・Ch.マグドレーヌ96
・ドメーヌ・ド・ガフリエール85
※ヴォルネイ・サントノ(+900)とドミナス(+1200)は追加料金。

→これはすごいラインアップ。みんな飲みたい。一方で少し知恵がついてきたので、残りの少ないボトルは敬遠し、新しめのものを。ということで、同伴者たちにドミナスとドメーヌ・ガフリエール85をあてがって、私はヴォルネイ・サントノを注文。そしてみなで回し飲み。ヴォルネイ・サントノはまだ堅かったけど、残りの二つは実にすばらしかったっす。

<五杯目> 甘
・Ch.ド・ファルグ93
・ロイヤル・トカイ・アスー・5プットニョショ
・リブザルト・アンバー91
・テイラー・トニー・ポート20年

→もうこの辺になると満腹に加えて酔いも回って、 目がトロンとなってくる。
ロイヤル・トカイを飲んでみたが、酸が予想よりずっとしっかりしていて飲みやすかった。 しっかし、リブザルトとはまた、マニアックな品揃え…。

ということで、店を出たのは23時近く。およそ3時間いたことになるけど、その間も、帰る客があるとすかさず次の客が入ってきて、空席が出る事がなかったのがスゴイ。
置いてあるワインはシノワとはまた違った意味でよく吟味されているし、料理はどれも美味しい。値段もリーズナブル。
それに、マダムとソムリエール嬢の、淡々として、それでいて気配りの届いたサービスがなんともいえず心地よい。店の出口にラファエロの聖母子像のカレンダーが飾ってあったけど、まさにそんな雰囲気といったら誉めすぎか。

というわけで、最後に私の満足度はと聞かれれば、こんな長文のコラム書いてるぐらいだから、言うまでもありませんね。