超不定期更新コラム

噴いたワイン

記録的な猛暑だった7月だが、8月になってずいぶん暑さもやわらいだようだ。 このまま落ち着いた天候が続いてくれと祈りつつ、何本か続けて、「噴いた」 ワインを飲んでみた。

ワインが高温にさらされ、熱で中の液体が膨張すると、コルクを押し上げたり、コルクの隙間をぬって、ワインが外に漏れてしまうことがある。 これを「噴く」といって、ラベルやキャップにダラリとワインの痕跡がついたボトル は熱を受けた証拠とされ、敬遠されることが多い。 同様に、キャップシールの部分を手で回しても回らないようなボトルも、吹いた際に漏れた液でキャップシールが癒着している可能性があるので敬遠したほうがいい、 ということはTipsのところで書いた。

一方で、夏場のワイン購入には吹く危険がつきまとう。 というのは、クール便で送ると、クール便の温度は低すぎる(クロネコ○マトで 3度前後とか)ので、そこから家に持って行くまでの間に、急激な温度変化に 見舞われることになるからだ。
実際に高熱にさらされるのは、冷蔵車から玄関口までの数分であっても温度 変化が急激なので、噴く可能性は小さくない。
また、ブルゴーニュの生産者などでは、瓶の口ギリギリまで液体が入っている ものも多く、それらは少しの温度変化でも吹いてしまうらしい。

では、実際に「噴いた」ワインのお味はどうかということだが、4本ほど続けて 飲んだところでは、どうもほとんど影響は感じられないのだ。
いや、噴いたものと噴いてないものを比較試飲したわけでは ないので、正確に言うと、「今回飲んだ4本のボトルからはネガティブな印象は 感じられなかった。」ということだろう。

噴いた、噴かない以前という以前に、熱を受けたワインの特徴を一般に言われている ことから挙げると

・果実味がフラットになる。
・タンニンはやわらかくなる。
・苦みというかエグミのような要素を感じやすくなる。
・味わいと不一致な熟成香が感じられる。

というようなことのようだが、今回試したボトルでははっきりこれらが確認できる ものはなかった。
とはいっても、 もちろんこれをもって、「噴いても大丈夫」とはならないのは言うまでもない。

まず、同じ「噴いた」にしても、ずっと高温の場所に放置されていたか、一瞬急激な 温度変化にさらされただけかによって状況は全然異なる。
我が家のワインの場合おおむね今年の春先に購入したものなので、「一瞬」では ないにしても、何年も常温で置かれたような「重症患者」ではない。 したがって、重症患者だった場合はこの限りではないかもしれない。

次に、今回のように噴いた直後のダメージは大したことなくても、長期に亘っての 影響はわからない。
個人的には、若くしてマディラ香を感じるワインの多くは、若いうちに熱が入って、 その後 全うな熟成をしなかったからではないか、と勝手に思い込んでいる。

もうひとつは白ワインの場合。なにせ今回飲んだのはすべて赤ワインだったので…。
どこかで、白ワイン、なかでもマロラクティック発酵させていないフレッシュなもの は吹いてしまうと致命傷になる、マロラクティック発酵させたものでも、その場は大丈夫でも 時間 とともに急速に衰えるなんてという話を聞いたことがある。
ほんとだろうか。 ほんとかもしれない。
「マロラクティック発酵させてない」なんてところが妙に説得 力があるし。

これらについては、遠からず実験してみたいと思っている。

ちなみに、少し話がそれるが、先月行った信濃屋の試飲会で話を思い出した。 このときはCh.コルトン・グランセの69年が出された が、コメント欄にも書いたように、店の人がそれと同じ木箱のボトルを7本開けたと ころ、 各ボトルの状態にはかなり大きな違いがあったそうだ。 私が飲んだのは状態でいえば、3〜4番目ぐらい(それでも相当に美味だったんだけ ど…) で、もっとも状態の悪いボトルはマディラ香がかなり出ていたそうだ。
ほとんど同じ条件下で熟成されたはずなのに違いが出てしまった理由としては、
1.箱の置いてあった位置関係の違い。すなわち下の方に埋もれていたものと、一番 上で 光にあたっていたものとの差
2.ボトリングの違いで、コルクが緩めだったものに空気が入って酸化してしまった
などが考えられるだろう。

さすがに30年という年月を経ると、ごくわずかな環境の違いも大きな差となって出て しまう ものなんだなあ、と感心した次第。

まあ、でも今のところ、暫定的な結論としては、 「程度にもよるが、若い赤ワインで、噴いた状況を自分で把握しているものであれば、1年くらいのう ちに飲む 分には大きな影響はない。」と言っていいんじゃないだろうか。この件については、また継続的に実験なり検証なりしてレポートしたいと思う。

なんか、こんなことばかりやってると、「劣化ワイン博士」になりそうだなあ。(^^;