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朝日新聞の記事〜ワインブームは夢か幻か

6月17日の朝日新聞に「ワインバブルは夢か幻か〜やっぱり日本人にはあわな い?」 という刺激的な見出しの特集が載っていた。

他新聞購読者のために 簡単に要約すると、

・97年から98年5月ぐらいまでがブームのピークだった。

・それがブームが去り、98年は41.7万klだった出荷量が99年には29.8万klに まで 落ち込んでしまった。

・在庫を売りさばくために、業者は投げ売りをしている状況。 特に各社がもてあましているのは、1998年以降に注文輸入したワインで、 ある大手メーカー担当者は「一箱買ってもらうには、少なくとももう一箱をただ でつけない とだめ」と語る。

・ブームを支えた南半球のワインも、輸入量が4割近く減っている。 たとえばアルゼンチンは日本への輸出量が99年には前年比1/4まで落ち込ん だ。 チリのサンタ・リタ社の担当者は「98年があまりに売れたんで楽天的になりす ぎた。 日本で売れなかったワインをチリ国内でさばくのにとても苦労した。」
・それでも南半球勢にとっては、日本がアジアでもっとも大きな市場であること にはかわら ないし、日本で話題になっていることもあって相変わらず強気。
・最近目につくのは「2000年ヌーボー」。キッコーマンやサッポロビールは ほぼ予定数量を完売した。

・ワイン業界が期待を膨らませているのは、今年9月に予定されている、酒類販 売 の規制緩和。既存の酒販店との距離規制が廃止されることにより、スーパーやコ ンビニが 酒を販売する免許の取得に乗り出すからだ。
・ただし、ワインの売り上げが昨年の7割程度にとどまっている店もあり、免許 を取得しても どれだけ売り場を広げられるかを疑問視する向きもある。

・ワインバブルのおかげで低価格物を中心にすそ野は広がったが、梅雨があけ、 ビールが ぐっと売り上げを増やす夏場が正念場だろう。

とまあ、全般に「宴のあと」的な論調。
まあ一般の人からみるとそんなところか もしれない。 コアな?マニアの世界では、相変わらず、通 販の電話予約初日に一時間以上も待 たされたり してる状況はかわらないんだけどね。

記事の中で、二人のコメントが載っている。

一人はヴィノテーク主宰の有坂さん。(以下要約)
「ワインはまだ伸びていくと思うが、これ からはもっと 飲む人と見向きもしない人とに別 れていく、今はその過渡期。今後もっと定着し ていく ためには酒販店がもっと知識を持って消費者に提供することが大事。」
とのこ と。さすが。

もう一人は「お酒に詳しい科学技術ジャーナリスト」の赤池学さん。

「これだけ落ち込んでしまったら、赤ワインならなんでも飛びついたようなブー ムは もう起こらないでしょう。日頃食卓に並べてなじみ具合を考えると、私からすれ ば日本酒と 比べて特に魚と合わなかった。ブームに乗って毎日飲んでいた人もせいぜい週末に飲めば 十分と考えるようになったのでしょう。」

なんだかなあ。
そもそも日本酒と比べてという発想が、「おいおい!」だし、魚と合わなかった というのはいったい何を飲んでのこと?と聞きたくなる。
そりゃ濃厚な南米のカ ベルネを焼き魚と 飲むよりは日本酒のほうが絶対合うでしょうよ。

ただ、この科学ジャーナリスト氏のシロウトっぽい意見にも拝聴すべきという か、図星だなあと思う こともある。
すなわち、ワインとわが国の食卓とのマッチングの難しさだ。

ブームのころは、多くの人が、健康にいいから、という理由でワインに飛びついた。
実際、ビール一杯飲んだだけで真っ赤になってしまう私の母ですら、晩酌でワインを飲 んでいたものだ。しかし、「健康にいいから」という理由だけで続けるのには無理 があったようだ。 こないだ実家を訪れた時には、やっぱりビール一杯に戻ってしまっていた。

焼き魚だとか、煮物だとか、うどんだとか、そういった食事との相性とか、抜栓 後の保存が利かないこと とか、それ以前に、赤ワインの「渋味」になじめないとか、おそらくそういった 理由から、だんだん 飲む頻度が減ってしまったことは想像にかたくない。

私自身はワインと料理の相性にはあまり頓着しないほうだが、一般的にいえば、 ビールの守備範囲 の広さや、日本食とともに長い歴史を歩んできた日本酒に比べれば、ワインが日 本人の食卓にマッチ する場面がやや不利なのは致し方ない。
その分、料理次第では、ビールでは味わえないようなワインと料理の「マリアー ジュ」を楽しめる わけだから、TPOにあわせて、ある時はビール、ある時は日本酒、そしてあると きはワイン、という飲み方 が定着するのが理想だろう。

そういう意味では確かに猫も杓子もと行った調子の一時のワインブームは行きすぎというか、ちょっと加熱気味だったのかもしれない。
でも、今回のブームによって、多くの人がワインに目をむけ、そして「学習」し た。どういった場面なら 美味しく飲めて、どういった場面ではビールにしておいたほうが無難なのか。
そしてその中から、ブームとは関係なく、ワインを飲む人たちの裾野が確実に広がったことを思うと、新聞の記事のような 「あのブームはなんだったんだ」的な論調はには賛同しかねるし、 日本人にとってそれなりに意味のあるブーム だったと私は思うのだ。

まあでも、ブームが去って値段が安くなるのは歓迎だけど、あんまり下火になっ て、選択の幅が狭まるの は悲しいので、やはりそこそこにワインには頑張ってほしいと思うけどね。