超不定期更新コラム |
ムートン垂直 |
今回のムートン垂直、実は行こうかどうしようか最後まで迷っていた。 前回の「BIG5テイスティング」はすごい混雑で、座りきれない人たちが通路にまであふれていたが、さすがに今回は午前午後二回に分かれていることもあってか、会場はゆったり。ボトルが一斉に抜栓されると会場内に独特のベリーのような朽ち木のような芳香が満ちあふれた。 ダルマイヤックとクレール・ミロンは私のよく飲む銘柄。個人的にはダルマイヤックの方により良い印象を持っていたけど、今回二銘柄をじっくり飲み比べてみたら、クレールミロンも悪くない、というか、クレールミロンの方がよりバランスが良い印象。まあその違いはわずかで、ブラインドで出されても判別
は難しいけれど。 ムートンのトップバッターは、なかなか開いてくれなそうな95を後に回して、まず93から。
88も香りはすばらしい。というか香りだけならこれが今回一番かもしれない。ところが味わいが全般 に乾いていて、特に余韻がストンと消えるようで、あれっ?という感じだった。家に帰ってR・パーカーの「ボルドー」を紐解いてみたら、ここでも余韻の短さが指摘されていたので、的はずれな感想じゃなかったと、ちょっと嬉しくなった。 88の次が81までさかのぼってしまうのは惜しい。 81は軽い繊細な味わい。果実味がちょっとドライアウトしてる感じもあって、1級としては少し物足りないかな。実は我が家にも81は一本あるんだけど、買値の2万は高かったかとちょっと悔しい気分。 75は私の周囲の人たちやエノテカのスタッフの方々が口々に賞賛していたビンテージ。私にはこれもやや後半のタンニンがしつこく感じられたけれど、総じて78を大柄にしたような印象で、たしかにすばらしい出来だった。このビンテージは実はGWに信濃屋の試飲で飲んだばかり。あの時は抜栓直後だったためか、果 実味があまり感じられず、ガラスのような厳しい味わいだったのを覚えている。今回は蔵出しで状態が良かったことに加えて、おそらくウルトラデキャンタを使ってることも良い方に影響しているんだろうね。 なんてのんびり試飲していたら、残りの時間が40分くらいになってしまった。いかんいかん。 71は全般にひなびたような香り、味わい。年代相当に熟成された感じがあるが、ストラクチャーはしっかりしてるようだ。 シャガールのラベルがすばらしい70年。ところが残念なことに香りが閉じている。しばらくするとバラの香水のような甘く深みのある香りがほんのりと香ってくる。これは明らかにこれまでの70年代とは異なるキャラクターだ。 81から71までは年代によって乾いた香りが強く出てるものと、リキュール香に代表される甘い香りが強く出てるものがあり、味わいは全般
に軽く繊細で、ビンテージによってはまだタンニンが目立っていたり、ひなびた味わいが強かったりした。 67はパーカー氏が「もう飲み頃をとっくに過ぎているだろう。」と酷評してるビンテージ。評点は70点。 ここまで来て、残りは95、82のビッグな2銘柄。 最後に残った82。以前やまやで試飲したときに比べると大分開いてきてるがまだ閉じこもりがち。味わいはすべての要素の密度が濃く、緻密で、それでいて自然で無理がない。最近よくある「ひたすら凝縮しました」というのとは違った、静謐さすら感じさせる、クルマにたとえるとシルキーシックスと呼ばれるBMWの6気筒エンジンのような
質感。それでいて、なかなか全貌を見せてくれないようなもどかしさ。 まあ、そんなこんなで、82や70、95といった高価なビンテージもすべて吐き出すという罰当たりな試飲をしてきたわけだけど、結論としては行ってよかったと思った。特に今まで飲んだことがあるビンテージが今回飲んでみると、個体差なのか経年変化なのかデキャンティングの有無なのか、いずれかは断定できないけれど、大分印象が異なったのが興味深かった。 |