超不定期更新コラム

ブラックベリーの香り
白状しよう。
実は、私は、「ブラックベリー」の香りをきちんと嗅いだことがなかった。
デザートのパイなんかで何度か食していたけれど、果実そのものやジャムにはいまだお目にかかったことがなかったのだ。

残念ながら、我が家の家宝? ネ・デュ・ヴァン54種セット」にも、ラズベリーやブルベリー、カシスはあるがブラックベリーは入っていない。

そのわりに、おまえはテイスティングのコメントの中でよくブラックベリーを使ってるじゃないか、と言われそうだね。これは言い訳をすれば、ワインスクールで講師が「これはブラックベリーの香りですね。」なんて言うのを聞いて、ふ〜ん、なるほどというような記憶をたどって、パイで食べた時の香りと重ね合わせて、そう書いていたのである。
つまり、なんというか、間接キスのようなもので、ワインを通して間接的にしかブラックベリーの香りを体験したことがなかったわけだ。

まあ、こういうものって「火打ち石の香り」など、他にもまだあるのだけどね。

でも赤ワイン、とりわけフルボディのものを好んで飲む私としては、火打ち石よりよっぽどブラックベリーの方がコメント使用頻度が高い。

そんなわけで、私としても一度きちんとそのものズバリの香りを嗅いでみたいとずっと思っていた。ところが、一般 の食材店なんかだとなかなかないんだよね、ブラックベリーって。私の住んでる三軒茶屋は大きな商店街があるんだけど、週末探した範囲では見つけることができなかった。(ってそんなに真剣に探してないが…)ブルーベリーやラズベリーは掃いて捨てるほどあるんだけど。

それで、先日天気がよかったこともあって、会社の昼休みに広尾までブラックベリー探しに行ってきた。なぜ広尾かというと、あそこは外人が多いので、そこいらで見かけない食材もあるだろうと。明治屋とかナショナル麻布とか大きいスーパーもあるし。

まずは明治屋へ。ジャムのコーナーを探したら、あった、ありました。ブルーベリーやイチゴにまざって一種類だけ。拍子抜けするほどあっさり見つかったので、ついでに缶 詰のコーナーも探して、ブラックベリーのシロップ漬けも買った。

せっかく来たので、その足で「ナショナル麻布スーパーマーケット」へ。
こちらでもあっさりブラックベリーのジャムを発見。まあ同じものを買っても仕方ないから、ここではドラッグストアのコーナーで「ユーカリオイルのエッセンス」を購入。実はユーカリもイマイチ自信がなかったのさ。

そんなこんなで、会社の常識的な昼休みの時間をかなりオーバーしたが、収穫はあった。その後数日忙しくて手つかずだったのだけど、ようやく今日、家でこれらを開けてみた。

まずはブラックベリーのジャム。う〜ん、凝縮感。新世界の非常に凝縮されたワインなんかに見られる香りですね。
次ぎに、シロップ漬け。形がちょっとおどろおどろしくて、気味が悪い。正直あんまり美味しそうじゃない。ところが、ひとくち口にふくんで驚いた。いや、これはまさに、そのものズバリ。ボルドーのそれも「ポイヤック」や「サンテステフ」あたりにまさに典型的に見られる香りだ。 私のイメージで真っ先に浮かんだのはかってよく飲んだ「Ch.・ラフォンロシェ95」。ブラックベリーの香りをラフォンロシェに例えてる私って、なんか本末転倒だけど、結論としてはどちらもおおむね私のイメージしていた通 りの香りで、今までのコメントを訂正しなければならない事態にはならずに済んだ。ただ、シロップ漬けの方は、イメージ以上にズバリそのものという香りなのに改めて驚いた次第。
もうひとつ。ユーカリオイル。これはひとことでいえば、「タイガーバーム」 の香り。サロンパスも近いかもしれない。まあそれ系の香りです。
ユーカリとブラックベリージャムはあえて買い込むほどのことはないけど、ブラックベリーのシロップ漬けは、嗅いだことない人は機会があったら嗅いでみるといい。きっと私と同じく「あっ、ボルドーワインの香りだ!」と思うこと請け合いだ。

ついでに、私の仕入れたベリーに関する雑学をいくつか紹介しよう。

・ベリー種は植物学上は三科にわかれる。
ユキノシタ科スグリ類…レッドカラント、ブラックカラント(=カシス)
ツツジ科コケモモ類…ブルーベリー
バラ科キイチゴ類…ラズベリー、ブラックベリー

・ベリーは北欧などで特に栽培がさかん。日照時間が短く、冷涼な気候の地域では南国のようなたわわなフルーツは得られない。したがって、これらベリー類が貴重なビタミン源であり、日持ちしない欠点を補うためにジャムなどにする工夫が考えられた。ワインの香りに頻繁にこれらが出てくるのもそういう事情による。

・カラントとは日本語でいうフサスグリ全般(←この言葉自体一般的でない気もするけど)をさす。名前の由来は古代ギリシアの都市国家コリント特産の干しブドウと果 実が似ていたからだとか。

・別名で呼ばれることが多いので整理すると…
レッドカラント=グロゼイユ(仏)
ブラックカラント=カシス(仏)
ラズベリー=フランボワーズ(仏)
ブルーベリー=ミルティーユ(仏)
クランベリー=コケモモ
ブラックベリー=ミュール(仏)=桑の実

・厳密にいうと桑の実とブラックベリーはイコールではない。
桑の実はマルベリーという別品種だが、姿形が似ているためにフランス語では、どちらもミュールと呼ばれているわけ。

・日本のイチゴの生産量、消費量はともにアメリカについで世界2位。ちなみにイチゴは厳密にはベリー類に含まれない。

・ブラックカラント(カシス)はビタミンCが豊富で、咽頭炎や風邪によいといわれている。味はちょっとクセが強いため、ジャムやソース、酒に用いられるのが一般 的で、特にクレームドカシスは有名。ちなみにクレームドカシスを白ワインで割ったカクテルが「キール」、スパークリングワインで割ったものが「キールロワイヤル」、もひとつボジョレーの赤ワインで割ったものは「キール・カーディナル」。

・アメリカではアルファベットを教える時、BはブルーベリーのB、と例えるほどブルーベリーはポピュラー。一方日本でブルーベリーの栽培が始まったのは1951年。日持ちしないため、当初はジャムなどの加工品が主だった。

・ブルーベリーの薬効はよく知られている。ブルーベリー中に含まれるアントシナニン色素に視力回復の効果 があるというので我が国でもブームになった。

・これは第一次世界大戦中のある戦闘機のパイロットが、毎日祖母の自家製のブルーベリージャムをたっぷりぬ ったパンを食べたところ、暗闇でもよく目標が見えた、という物騒なエピソードが発端となった。

・ちなみにブルーベリーの視力回復の効果は結構即効性があって、四時間後くらいから効果 が出始め、24時間ぐらい持続する。
ただし、効果を得るには半端な量ではダメ。

・というわけで、眼に持病のある私は茶碗一杯くらいの冷凍ブルーベリーをこのところ毎日食している。(^ ^)