超不定期更新コラム

4/21 外観の表現

香りの表現、味わいの表現、と来ましたので、ここでちょっと外観の 表現にも触れておきます。香りや味わいに比べれば、色なんて見た目そのままなんだから、あんまり大きな要素ではないじゃないかと思われる方もいるかもしれません。でも、実際色からはさまざまな情報が得られるのです。

◆熟成による色調の変化
ワインの年代は色調からかなり推測することができます。
普通、赤なら、
紫→ルビー→ガーネット→オレンジがかったガーネット→レンガ
白なら
濃い黄緑→黄緑がかった黄色→黄色→麦わら色→黄金色→琥珀色→褐色
というように変わっていきます。

赤ワインですと、全体の色調だけでなく、とくに縁の部分に色調の変化が顕著に出ます。 若いワインがは縁があざやかな紫であることが多いですが、それが ピンク色がかかるようになり、やがてオレンジ色が見えるようになって、 熟成とともに透明がかった、なんというかはかなげな色調になります。また、縁から中心方向へのグラデーションも、若いうちは境目が わかるような感じですが、熟成してアルコールが溶け込んで来ると 美しい階調のグラデーションになります。

●ルビーとガーネットはどう違うのか?
赤ワインの色を表現するとき、ルビーといういべきかガーネットと いうべきか悩んだことはありませんか。私もそれぞれの宝石のサンプルの写 真を見せていただいたことがありますが、実物は暗い色をしたルビーもあれば明るい色調のガーネットもあるので、余計混乱してしまいます。それぞれの色調の特徴については、岡本真理恵氏はその著書「ワイン・テイスティングを楽しく」の中で
「ルビー=ピンクを濃くしたような明るい赤」
「ガーネット=オレンジ系の黒っぽい赤」
とワインの世界では一応了解されている、と述べています。 なんとなく、典型的な例として、ブルゴーニュの特に村名クラスの場合 ルビーを使うことが多く、凝縮したボルドーの場合は通常 ガーネットを使うことが多いように思います。 まあ、実際にはお互いの境界線はあいまいであり、テイスティングする人の基準に よって違ってくるのは致し方ないところです。

●「〜がかった」「濃い/薄い」
であるからこそ、色調の表現の際には、ニュアンスを添えるのが重要 になってきます。 ある同一のワインを表現するとき、「濃いルビー」と言う人と「やや明るい ガーネット」言う人がいても不思議ではありませんが、これだとちょっと 情報量が不足していますよね。これに「紫がかった濃いルビー」、「縁に 紫の見えるやや濃いめのガーネット」というようなニュアンスを添えること によって、ストライクゾーンは確実に狭まりますし、「紫」という熟成度合いの情報が入ることになります。

●色から得られる情報
色から得られる情報は年代以外にもまだあります。
たとえば、目の前の赤ワインが濃い色調である場合、以下のことが推測できます。
1.色が濃いということは、果実が熟しているということ、すなわち日照条件の良い南の地方で作られたワインである。
2.もしくは、天候の良い収穫年に作られたワインである。
3.ブルゴーニュであれば、「グランクリュ」「プリミエクリュ」など、  より上位 のランクのワインである。
4.濃い色調がでやすい品種が用いられたワインである。(カベルネソーヴィニヨン以外でも、マルベックとか、ジンファンデルとか、シラーなどといったバリエーションが考えられます。) 

ブランドテイスティングの場合、これだけ条件が絞り込めれば、この あとの香りや味わいの判断がしやすくなるわけです。

●色調と香りの関連性
ワインの見た目の色調と香り、特に果実香は関連性があります。 たとえば、あざやかな明るいルビー色であれば、そこから得られる香りも赤系果 実、すなわちフランボワーズ、イチゴなどを真っ先に考えます。一方底が見えないような濃い色調の場合は、果 実香もブラックベリー、 ブラックチェリーなどの黒系果実のものであることが多いわけです。 したがって、香りを嗅ぐステップにおいては、その色調から、出発点として想定される香りはかなり絞り込むことができます。

●ジョンブ、ラルム、ディスク
これらの言葉はいたずらにテイスティングコメントを難しくしているような気がして、私はあんまり使いたくないんですが、いずれもワインの「粘性」
を表す言葉です。
グラスを斜めに傾けて、そのあとゆっくり元に戻すと、中の液体は ゆっくりとグラスの壁面 をつたって落ちてきます。このゆっくり尾を引きながら落ちてくる様子を、ジョンブ(脚)、ラルム(涙)などと表現し、粘性の高いワインほど、これがゆっくりになります。
「ディスク」というのはワイングラスを上からみたワインの表面の部分のことを言いますが、テイスティングの時には、横から見てこのディスクの厚みをチェックします。こちらもやはり粘性の高いワインほど、グラスと接している部分が盛り上がったようになっており、「ディスクは厚め」などと表現します。
粘性が高いということは大抵の場合は「アルコール度が高い」ことを意味し、したがって、凝縮度の高い、南の地方で作られたワインであるか、良作年に作られたワインであることが考えられます。また、甘口ワインの場合もその糖分によって、粘性は高くなります。
粘性についてはポートワインなどで試してみるととてもよくわかると思います。

このように、外見、特に色からは、そのあとの香り、味わいの判断に行く前の出発点として さまざまな情報が得られます。
なんだか今回は教科書的になってしまいまいたね。
私自身、復習の意味をかねて、下記の文献を大いに参考にしました。

「ワインテイスティングを楽しく」岡本麻理恵著 白水社
「ワイン味わいのコツ」 田崎真也著 柴田書店