超不定期更新コラム

4/12  Ch.シュバルブラン垂直
シュバルブランの垂直試飲に行ってきました。 全部で11ビンテージプラスセカンド2ビンテージの13種類。 一度にこれだけ飲める機会はそうはないことを考えれば、1万7500円という 参加費用は高くはないと思います。少なくとも、1万5千円で96ロマネコンティ1杯 飲むことに比べれば、コストパフォーマンスは良かったんじゃないかな。

午前と午後二回の催しのうち、予約の時点ですでに午後の会は満員だと 言われて、午前中の会にしたのですが、行ってみるとこちらも会場は満員で、 みなさん一生懸命メモをとっておられました。これだけ来ているのだから誰か 知り合いがいるんじゃないかな、と思ったたら、案の定小田島ジュニアとバッタ リ。 一方、私のとなりのテーブルはちょっと大人数の団体さんで、そのうちの 一人はどこかで見たような顔。誰だっけかなあ、と思いだせず、家に帰って 雑誌をめくっていて、ああこの人だと気がつきました。それはEVIワインス クールの校長さんでした。面識はないのだけど、雑誌でよく見かけるので、 なんとなく顔を覚えていたのでした。

ここで、Ch.シュバルブランについての若干の解説を。 「シュバルブラン」の名称は「白馬」を意味し、サンテミリオンとポムロールの 境界付近に位置しています。広さは約40hで鉄鉱石、砂利、砂、粘土の 混ざった土壌。この土壌がカベルネフランの生育にあっているようで、混醸 比率はボルドーの主なシャトーの中では異例のカベルネフラン主体となって います。 格付け的にはCh.オーゾンヌと並ぶ「サンテミリオン・プリミエグランクリュク ラッセA」で、 名実ともにサンテミリオンのトップブランド。これらにペトリュス、それに5大 シャトー をあわせて、俗にボルドーの8大シャトーと呼ばれたりします。
前述のとおり、このシャトーの大きな特徴は使用品種に「カベルネ・フラン」の 割合が 高いことです。 カベルネフランはシノンやブルグイユといったロワール地区の赤ワインでは主品 種として 用いられ、ハーブの香りのする若くてフレッシュなワインに仕立てられることが 多いですが、 ボルドーではカベルネソーヴィニヨンのキツイタンニンをやわらげるためにメル ローとともに 混醸されることが多いです。 ちなみに混醸比率についてはメドックは大抵カベルネソーヴィニヨンが主体、ポ ムロールや サンテミリオンではメルローが主体となることが多いですが、カベルネフランが 主体となる ものは極めてレアで、メジャーなシャトーではこのシュバルブランくらいのもの です。

試飲の際は、グラスは3つまでしか使えないので、一度に2ビンテージ、それに もうひとつ のグラスには水を注ぐ形になります。飲み終わったらグラスを水でリンスしてま た新しい ビンテージをついでもらいにいくわけですが、一度に二銘柄となると、何と何を 持ってくるか が結構ポイントです。私は新しいほうから順番に飲んでいきましたが、小田島氏は 93と83、とか、82と90とか大胆な飲み比べをしていて、なるほどなあと 思いました。

あと、さすがに13種類全部飲んでいると最後は酔っ払ってしまうので、エノテ カさんには ワインを吐き出す紙コップを常備しておいてほしいところです。もっとも貧乏性 の私は結局 ほとんど飲み干してしまったのですが、さすがにセカンドなどは非常にもったい ないと思い つつ、ひとくちふたくち飲んだだけでとどめました。

さて、試飲した印象ですが、まず特徴的なのは、カベルネフランの個性なのか、 若いうち から非常にしなやかで飲みやすいということ。 それから、なんというか、全ビンテージにわたって、乾燥ハーブっぽいちょっと 独特の香り やフレーバーが感じられました。 味わいとしては俗なたとえなんですが、冷やしたロイヤルミルクティー や、カフェオレのような、そんな甘苦くて、薫り高いフレーバーが印象的でし た。

ビンテージ間の比較では、90年以降とそれ以前でかなり違います。これが、ス タイルの変化 によるものなのか、経年変化によるものなのかは私にはわかりませんが、 90年代のものが、樽香のしっかり効いた凝縮感のある、わりと流行のスタイルな のに 対して、それ以前のものは個性がはっきりと現れた独特のスタイルのように感じ ました。

個別に見ると、やはり圧倒的だったのは、82と90。 この両者を比べると、複雑で官能的な芳香は両者とも譲らずといったところです が、 味わいについては、前半の非常になめらかな味わいや凝縮感に共通点があるもの の、 フィニッシュにかけての味わいが、90は心地よいタンニンが感じられるのに対 して、 82はすべて溶け込んで非常に軽い、シルキーなフィニッシュでした。さすがに これは 8年間の年代の差によるものなのでしょう。 他のビンテージでは85もすばらしく、また70年代と60年代の3銘柄についても揃って高水準でした。

一方、ちょっと期待はずれだったのは、93。香りも閉じ気味で、あれっ、こん なものという 拍子抜けなイメージがありました。
全般に熟成のスピードはどちらかというと早めな気がしますが、年数を経てもヘ タることなく、 蔵出しで状態がよいこともあって、きれいに熟成しているのが印象に残りました。 シュバルブランはとりわけ日本人好みといわれ、またボルドーワインの中で一本 選べと言われたら これを選ぶ人が多いと聞きますが、なるほど、若いうちからの飲みやすさ、官能 的な芳香と凝縮された しなやかな味わい、そして長い年月を経てもすばらしい味わいをキープしている ことなど、メドック の5大シャトーとは異なった個性を持つすばらしいワインだと思いました。

シュバルブランの社長、ピエール・リュルトン氏、割烹小田島の大祐氏 と。