「私の好きなヨーロッパの街」《3》
「私の好きなヨーロッパの街」の第3弾はまたもや東欧ですが、今回はハンガリー東部の小さな
街…と言うよりは村? この地図でも探しにくい街ヘレンドは、知る人ぞ知る有名な磁器ヘレン
ドの生産地。イギリスの女帝ヴィクトリアに大層気に入られたという銘品を産出している。
ヘ レ ン ド
朝9時にブタペストを専用バスで出発し、途中、休憩のためバラトン湖畔のリゾート、バラトンフューレッドに立ち寄ったあと、しばらく田園風景の中を走り、街らしいたたずまいも見ないうちに、広々とした道路の両側に磁器工場や関連施設が集まっている所に着いてしまった・・・という感じだった。
到着は午前10時。

あっけらかんとした風景に、ちょっと調子が狂う。かねて、小さな町(と言うより村?)と聞いて
いたので、どんな草深い田舎だろうと頭の中で思い描いていたが、この辺り一帯の様子は、日本を基
準にした私の貧弱な想像力を見事にひっくり返してくれた。道路の右手に磁器工場とヘレンド磁器博
物館の建物が並び、道路を隔てた向かい側に、しゃれたショップが建っている。
どう見回しても、ここ磁器工場のほかには、農業・畜産以外の産業らしいものは見当たらない。ブ
ダペストで買った地図を取り出してヘレンドの位置を確認してみる。ブダペストの西南西に細長く横
たわっているバラトン湖の北に位置し、北部バコニー地方の中心地ヴェスプレムという、やや大きな
街から西に伸びている8号線で15キロばかり。
ヘレンドで制作されているのは磁器。アヴィランド(フランス)、リチャード・ジノリ(イタリア)
ロイヤル・クラウン・ダービー(イギリス)、カイザー(ドイツ)、ミントン(イギリス)、ポルス
グルンド(ノルウエー)などと並ぶ銘窯。ロンドンで開催された万国博に出品されたヘレンド磁器を
ヴィクトリア女王に献上したところ、大層気に入られて、いろいろ注文されるようになってから、一
気に名声が広まった・・・という。
貧弱な知識しか持ちあわせていない私は、ヨーロッパの陶磁器といえば、ドイツのマイセン、フラ
ンスのリモージュ、オランダのデルフト、イギリスのウエッジウッド、イタリア・スペインのマジョ
ルカくらいしか頭にない。ヘエーッ、ヘレンドもいい線行っているんだ、と、変なところで感心。ヘ
レンドでの磁器生産は1889年に始まり、高級テーブルウエアーとして珍重されている。

私たちは先ずヘレンド博物館の見学から始める。年代順に展示された作品を順に見て廻った。直
径が40cmか50cmもある大皿が多い。イギリスの貴族たちが女王の謁見を賜っている絵柄、ミ
レーの有名な「晩鐘」を描いたものも有り、19世紀末以降に制作された逸品ばかりが並べられていた。
細かい筆使いで見事な花柄や風景、人物が描かれた大壷、食卓に気品を添えるテーブルウエアーの数
々。
特に、今世紀に入って他国との交易、物流が盛んになってくると、需要の多いテーブルウエアーが
多くなり、展示も豪華なテーブル、椅子を並べ、その上に正式のコース料理に用いる食器セットや蝋
燭立てなどが並べれている。どれもこれも華やかな限り。
博物館の展示を見終わったところで、隣の工場に入り制作過程の見学。これは日本の陶芸、漆器、
その他の工房の見学とたいして変わらない。轆轤成形しているところは見られなかったが(殆どが型
に入れての成形だと思う)、透かし彫りしているところ、絵付けしているところ・・・日本と変わり
ない。近傍のオバサンたちが普段着の上に、作業衣をつけてテーブルに向かっていた。1室に4、5卓
の作業台があり、線画の下絵、彩色のほか、二人ばかりは半乾きの花瓶に小さなナイフで透かし彫り
の作業をしていた。
●透かし彫りしている職人 ●絵付けしている職人
絵付けしている女性職人も、透かし彫りしている人も、傍らを喋りながら通り過ぎる観光客、無遠
慮に覗き込む人にも慣れっこになっているのだろう。勿論、たいていの日本人は喋りかけようにも、
ハンガリー語はさっぱりだろうし、仕事を邪魔されるような質問を受ける気ずかいはない。ただ黙々
と手先に神経を集中している。
一通りの見学を終わって玄関ホールに出る。受付のところでは、簡単な土産品や絵葉書が置かれて
いる。外に出ると向かいにハンガリーでは一番大きなヘレンド・ショップがある。

●建物の三方がガラス張りの明るいヘレンド・ショップ
ヘレンド・ショップは三方がガラス張りの瀟洒な建物。小皿、カップなどの値ごろのものから、花
瓶、高価そうなテーブル・ウエアまで、壁面に沿って作り付けられた戸棚から、各所に置かれた陳列
ケースいっぱいの品揃え。大小いろいろ。値段もピンからキリまで。中にはウン十万円するものまで。
ここでは必ずヘレンドの食器セットを手に入れようと、勢いこんでいた人も居たが、値段を尋ねて眼
を白黒。・・・まあ、値ごろなセットをカードで買ってしまったようだった。私も、せっかくだから
と自分に言い聞かせ、辛うじて手の届くものを2点買い求めた。
ショップには、食卓の実用品ばかりではなく、日本の工房でもよく見掛けるような、気の利いた装
飾品も見られた。

●ヘレンド・ショップの店内
ヘレンド・ショップの隣には、観光客用の小公園のような広場があり、カフェ・テラスのようにテ
ーブルや椅子が並べられていた。