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開業医の小児科独習法

第十章とあとがき

2006.04.16. 掲載
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第十章:小児の薬
あとがき

第十章:小児の薬

この「開業医の小児科独習法」の最後として、小児の薬についてまとめました。ただし、小学校高学年以上の小児は成人の薬を使うことが多いので、ここでまとめた小児の薬は、1歳から8歳くらいの小児に使う薬となります。医院全体で使用している薬の種類は、内服薬と外用薬を合わせて約360種類ですが、繁用している小児の薬は36種類で、全体の10%でした。

驚いたことに、その内の22種類は開業当初から使っていたもので、全体の6割を占めています。それは抗菌薬5種についても同じで、最初から使ってきたサワシリン細粒、ケフレックスシロップ用細粒、ミノマイシン顆粒の3種に対して、途中から使い始めたのは、改良型のマクロライド系のクラリスドライシロップとセフエム系第3世代のセフゾン細粒の2種で、いずれも発売とほぼ同時に使っています。

開業したころ、ケフレックスを大量に使う医療機関は少なく、枚方市と交野市の病院を含む医療機関の中で、当院は2番目にたくさん使っているとメーカーに言われたことがあります。ケフレックスは、大学にいた頃から使っていて、殺菌力に優れ副作用の少ない薬なので、開業してからも積極的に使ってきました。ふり返ってみて、私は何か新しいものを取り入れる時は、ほとんどの場合、世の中で一番早いグループにいたと思います。ところが、一旦良いと思えば、よほどのことがない限り、それを使い続けるのも私の性分のようで、苦笑してしまいます。

小児の薬用量

成人量に対する小児の薬用量の換算式(Von Harnach の換算式)をより使いやすいように簡略化して、野村医院方式として使ってきました。

小児の薬用量(野村医院方式)

 年齢    1歳    3歳    6歳    12歳   成人 
 薬用量    1/4    1/3    1/2    2/3    1 
      3     4     6     8    12 
 体重    10kg    15kg    20kg    30kg    50kg 

注:こどもは成人より体重当たりの薬用量が多くなる


あとがき

32年間の開業医生活をふり返ってみて、私にとって何が一番良かったかと考えてみると、不思議なことに、診療科目としては標榜をしなかった、小児科の診療ができたことでした。それによって、小児科の醍醐味を味わうことができたのです。私が小児の診療で味わった醍醐味とは、具体的には、どのようなことだったのかをお話します。

その第1は、「大人にはない小児の特徴」を知ったことです。私が診察をしようとすると、乳幼児はほとんどのこどもが、最初からじっと私の目を見つめ続けます。そして、得心が行ったと思われるまで、それを止めません。それには、こちらが恥ずかしくなるほどですが、その時に視線をそらさず、微笑み返します。すると、ほとんどのこどもは、同じように微笑んでくれるのです。そして診察が楽しくなります。

私は50年近く黒ぶちロイドメガネを着けてきました。ときどき、「そんな眼鏡を着けていると、こどもの患者さんに恐がられるでしょう?」と尋ねられます。ところが、そうではないのです。こどもは、このメガネを珍しいものとして、好奇の目で見ているのかも分かりません。

また、こどもの観察力は鋭くて、診察室の周りだけでなく、遠いところに置いてあるものでも、少し変わっただけで、きょろきょろもしていないのに、違いを目ざとく発見するのには驚きます。ことばも満足に話せない幼児に、このようなすばらしい能力があることを知って、嬉しくなります。

もう一つの特徴は、「こどもは、ある日突然変わることが多い」ということです。これまでいつも泣きわめき、聞き分けなく暴れまわっていたこどもが、ある日突然お利口になるのを何度も経験しました。だから、泣き暴れる子にも腹が立たず、いつこの子はお利口になるのかという興味で一杯です。聞き分けのない子に気を使う母親に対しては、「この子も、ある日突然良い子になるよ」と話します。

そして、お利口になった時には、すぐに心からほめ、ご褒美として手近にあるこども用の簡単な品物をあげることもあります。それによって、少なくともこどもは恐がらなくなり、こちらを好きになってくれることも、よくあります。こうして良い感情が二人の間にできあがると、それからの診療は、楽しくなります。

醍醐味の第2は、「素因と環境のどちらが人間の個性に大きく関係しているか」を示唆する実例を、経験できたことです。私は昔から、人の才能や性格、体質などに影響するのは、素質と環境のどちらが大きいのかということに関心がありました。アメリカとロシアは、環境を重視するのに対して、ドイツは素因を重視してきたように思っています。開業をして、2卵性双生児の兄弟を4〜5組と3卵性三つ子1組の成長を見てきた結論は、こどもの持って生まれた素質は、環境や育てかたでは変わりにくいということです。

2卵性双生児で男の子同士、女の子同士という同じ性のこどもの成長を何組か見てきましたが、性格や体質、顔かたち、罹る病気の種類や頻度まで違うことが多かったのでした。興味深かったのは、乳幼児のころ双子の一方が絶えず病気で来院していたのに、少年期になるとそれが入れ替わり、よく病気をしていたこどもが、病気を滅多にしなくなったというケースで、それを母親と一緒に面白がったことを覚えています。

その極めつきが、「泣く子、笑う子、怒りんぼ」の3卵性の三つ子の女の子の姉妹で、1歳から5歳まで診察をしてきましたが、いつも泣く子は泣き、笑う子は笑い、怒る子は怒るので、それが可笑しくて、いつまで続くのか興味津々でした。この姉妹が罹る病気に違いはあまりなかったのですが、性格は、いつまでも違っていました。

個性と言えば、良い子なのに、突然地団太を踏んで泣き怒るのを見ることがあります。自分でしたいことを、親が代ってしてしまった時などで、例えば、診察室のドアを一人で開けて出て行こうとしたのに、親が手を貸したりした時などに、よく起こります。これは、自我ができ始める時期なのかもわかりませんが、面白く思いました。このような自立したい子も、その反対に甘えて依存したい子もいて、小さい時から個性はいろいろあるようです。

醍醐味の第3は「人の成長過程を見ることができる」ことです。幼児が成長して行く過程を続けてずっと見ることができるのも、開業をして知ったよろこびです。少し見ない間に、見違えるほど成長していて驚くことがよくあります。幼かった子が、少年らしく少女らしくなった時、小学校の高学年から中学生の頃の一時期だけに見られる、輝くような美しさ、大学生になって大人びてきた頃、社会人に変身した姿、そして、母親父親として来院されるようになり、その子どもが父親や母親によく似ていて、昔のことが話題になったりなど。これらは開業医でなければ、味わうことができない喜びです。

醍醐味の最後は、幼い時から診療して来た子が親になり、その親の親とを合わせて、「3世代を通して診療できること」で、まさにホームドクター、ファミリードクターです。これも開業をして小児科も診療してきたから味わえる喜びです。これらの小児科の醍醐味は、開業するまでは想像もしていなかったことでした。

このような醍醐味を味わわせてもらった小児科を、私は「 learning by doing 」で身につけました。その学習法をまとめたのがこの「開業医の小児科独習法」です。その結果、小児科を標榜せず、1歳以下の乳幼児は診療しないという条件下で、小児の診療を大過なく行なうことができました。これは、私にとって自分の生きた記録の一部ですが、小児科医以外の開業医にとって、お役に立つところがあれば、望外の幸せです。


<2006.4.16.>

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