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開業医の小児科独習法

第四〜九章

2006.04.16. 掲載
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第四章:図譜作成で学ぶ
第五章:説明パンフレット作成で学ぶ
第六章:講演することで学ぶ
第七章:学校医、園医として学ぶ
第八章:CD−ROMで学ぶ
第九章:Web検索で学ぶ


第四章:図譜作成で学ぶ

同じ病気でも、その症状や経過に個人差が大きい場合が少なくありません。これまで出版された医学図譜には、それぞれの病気の典型的な写真が1〜2枚掲載されているだけのことが多く、診療には不十分なことがあります。教科書的な様相ばかりではないのが、実地臨床の実像だからです。

そこで、私の医院に来られた患者さんを写真に撮って、それを整理分類すれば、診療に役立つ図譜ができることを思いつき、ポラロイドカメラを購入しました。ポラロイドにしたのは、撮影して十数秒後に写真をお見せして、不都合なところが写っていないことを確認していただくことができるからです。それでも、あそこの医院に行くと写真を撮られるとの噂が広まり、来院を敬遠される患者さんが出てきました。

77年6月から約5年間に亘って撮影し、その数は約800枚、疾病の種類は約50種となりました。これらの写真を22冊のアルバムに整理し(図2)、診察机の前の書棚に置き、診察の際の説明によく利用してきました。これは同じ病気でも症状が千差万別であるとか、時間的に変わっていくとか、似た病気との微妙な違いなどを説明するのに役に立ちました(図3)。

この「開業医の小児科独習法」を書き終えたら、次はこの写真を整理して「開業医のための診療図譜」を作り、Webに掲載しようと思っています。

図2 22冊の疾病アルバム

図3 水痘のいろいろな発疹


第五章:説明パンフレット作成で学ぶ

私は病気の説明にパンフレットをよく利用します。製薬会社が持ってきてくれるものには良いものが少なくありません。しかし、自分の求めるパンフレットが無い場合もあります。そのため自家製のパンフレットをお渡しする場合もよくあります。

今から30年ばかり前では、「溶連菌感染症」「異型肺炎」「過敏性腸症候群」などの病気は余り知られておらず、家庭医学の書物には載っていない病気でした。そこで、77年5月から、「医学豆知識」というパンフレットを作って、患者さんにお渡しして、病気の説明に活用しました。その大部分は医学常識の中で、私が重要だと考えることを、私のことばで書いたものでした。

しかし、「下痢と嘔吐の食事療法」については、有用な医学常識を見つけることができなかったので、自分の経験を元に、生理学の知識を活用して考え出したものです。80年1月にそのパンフレットを作りましたが、それから26年が過ぎた現在でも、通用する内容だと自分では思っています。人に教えることも、教えるためのテキストや説明文を作ることも、自分にとってよい勉強になります。

医学豆知識

 病気の話    1.溶連菌感染症 77.05.09.    2.風疹 77.05.16.    3.膀胱炎 77.05.25.    4.異型肺炎 77.05.30.    5.流行性耳下腺炎 77.06.06.    6.夏かぜ 77.06.20.    7.夏季熱 77.07.18.    8.アレルゲン 77.07.25.    9.喘息 77.09.05.   10.無害性心雑音 78.06.22.   11.百日咳 78.07.11.   12.伝染性紅斑 80.04.23.   13.過敏性大腸症候群 83.01.16.   14.蟯虫症 89.05.10.   15.カモガヤ花粉症 90.06.24.   16.予防できる心臓病 90.12.09.  検査の話    1.検尿(尿検査) 77.08.21.    2.血沈 77.10.16.    3.心電図 77.10.24.    4.尿検査データの読み方 91.05.15.  からだの話    1.内臓(消化器系) 77.05.02.    2.循環器 77.07.04.  食事の話    1.下痢の食事療法 80.01.16.    2.嘔吐の食事療法 80.01.30.  薬の話    1.薬の種類 77.04.24.    2.薬物アレルギ― 77.07.11.

そのパンフレットの中で、今でも通用するものを、「実用医学知識」として、野村医院のホームページに掲載しました。その内の、小児科関係分10タイトルをここに再掲します。再掲するに当り、もう一度内容を読み返してみましたが、訂正すべき箇所が非常にわずかであることに驚いています。

医学の進歩は確かに目覚しいけれど、普通の病気については格別の進展はなく、30年前の医学常識で充分間にあうようです。しかし、その前の10年と比較すると、その違いは歴然としています。私が医師となった1962年から開業をした1973年頃までは、日本が経済成長を遂げた期間であり、同時に医学の面でも格段の進歩発展のみられた期間だったようです。

ホームページ掲載「実用医学知識」からの抜粋

1.溶連菌感染症
(1)正式な名前
正しく言うと、A群β(ベーター)溶血性連鎖状球菌感染症ですが、略して溶連菌感染症と呼ばれます。子供に多い病気で、これは「溶連菌一次症」「溶連菌二次症」に分けられます。

(2)溶連菌一次症とは
普通、溶連菌感染症と呼んでいるのがこれで、溶連菌による扁頭炎とか猩紅熱がその代表です。そのほかにリンパ腺炎、中耳炎、とびひなどの一部も溶連菌の感染で起こることがあります。溶連菌による扁頭炎の特徴は、のどの痛みが強く、突然高い熱が出やすいことです。猩紅熱になると扁頭炎のほかに、皮膚にこまかい発疹が現れ、舌が莓のようになります。これを「いちご舌」といいます。

(3)溶連菌一次症の診断
のどの赤く腫れている部分を綿棒などで擦りとり、培養して溶連菌を証明する(咽頭培養)ほかに、血液検査でASLO(アスロ)ASKなどの検査結果から推定することもあります。ASLOはASO(アソ)とも略されます。例えば、感染初期に採血したASOの数値が、3〜4週間後に調べた数値より充分に高くなっていると、まず溶連菌感染症と考えられます。

(4)溶連菌感染症の治療
ペニシリン系かセフエム系の抗菌薬が100%有効で、服用して1〜2日で熱の下がってくることが多いのですが、完全に治すためには1週間から10日位服用を続ける必要があります。

(5)猩紅熱とのちがい
猩紅熱も溶連菌感染症の一つですが、この病気は明治時代に法定伝染病に指定されたまま取り消されていないので、医師がこの診断名をつけると、法律に従い患者は伝染病棟に隔離される他、周囲の消毒をするとか大変なことになってしまいます。

現在では、ペニシリン系をはじめ有効な抗菌薬がたくさんあるので、伝染性についてはそれほど心配する必要はありません。猩紅熱は溶連菌感染症の一つで法定伝染病ですが、溶連菌感染症自身は法定伝染病に指定されていません。そのため医師は猩紅熱を含めた病名として溶連菌感染症という診断名をつけることが多いようです。家族内にこの病気の患者が出たら、子供は予防的にペニシリン系などの抗菌薬を服用させるほか、よく「うがい」をさせておくことが望まれます。

(6)溶連菌二次症とは
溶連菌感染症が重要なわけは、溶連菌一次症に続いて3〜4週間後に急性腎炎やリューマチ熱を引き起こす可能性があるからです。この急性腎炎やリューマチ熱を溶連菌二次症と呼びます。これは一次症の治療が適切でなくて病巣感染が作られてしまい、これに対する一種のアレルギー反応として急性腎炎やリューマチ熱が引き起こされるのです。

もちろん、溶連菌感染症(一次症)にかかれば必ず二次症になるというわけではなく、体質とか色々の要素が関係するので、実際に二次症まで進むのはまれと言えます。しかし、一次症を完全に治しておけば二次症になることがほとんど無くなるので、一次症を予防し、たとえ感染しても一次症の段階で正しく診断し、適切な治療をすることが大切なのです。(77.5.9記)

注:「伝染予防法」は98年に改正されて「感染症予防法」に改名され、「猩紅熱」は法定伝染病でなくなりました。

2.風疹
(1)原因
風疹ビールスによる感染症

(2)症状
麻疹より小さな赤い発疹が急に出はじめ、12時間くらいで全身に拡がります。発疹の出る2〜3日前から頚や頭などのリンパ腺が腫れて、触ると軽い痛みがあります。発疹は2〜3日で消えるのが普通ですが、大人がこの病気にかかると重症になりやすく、色々な合併症を伴いやすいので注意が必要です。

(3)感染と発病の関係
風疹ビールスに感染してから発病するまでの期間は約2週間で、発疹の現われる4〜5日前から4〜5日後までが最も感染力が強く、他人に感染させる危険があります。感染しても2%〜30%の人は発疹などの症状がなく、これを不顕性感染といいます。しかし、この場合でも他人に感染させる可能性はあります。

(4)診断
風疹が流行している時には症状から診断ができますが、流行していない時は、血液を調べて血清の風疹抗体価で診断します。発疹が出ている時の抗体価よりも、その後2〜3週間後で調べた抗体価が4倍以上あれば、風疹であったと診断します。風疹と同じような発疹の出る病気は、赤ちゃんがなる突発性発疹やそのほかのビールス性感染症などがあり、薬のアレルギーの場合もあります。だから、流行期以外は血清診断が重要です。

(5)風疹が恐い理由
風疹は三日はしかといわれ、普通は症状は軽いのですが、ほとんどの人の白血球は減少しています。時には関節炎や紫斑病を併発することもあり、何日も高熱が続くこともあります。しかし、風疹が恐いのは、妊娠している女性がこれにかかると、非常に高い割合で奇形児が生まれる可能性があるからです。妊娠1ヵ月では約50%、3ヵ月でも20%の奇形児が生まれるといわれています。しかし、妊娠5ヵ月以上ではほとんど心配ありません。(77.5.16.記)


3.異型肺炎
非定型肺炎ともPAPとも言います。正しくは原発性異型肺炎。

(1)原因
マイコプラズマ(インフルエンザビールス位の大きさの微生物)によるものが30〜50%(マイコプラズマ肺炎)、その他クラミジアによるもの(クラミジア肺炎)、ビールスによるもの(ビールス肺炎)などがあります。

(2)症状
咳が激しく、38〜39度程度の発熱があり、風邪をこじらせた様な感じがします。聴診器でラッセル音の聞こえることが多く、胸のX線写真では肺炎様の陰影が見られますが、細菌性の急性肺炎のような重症感は少なく、白血球数や血沈も正常に近いことが多いのです。

(3)治療
抗菌薬の中では、テトラサイクリン系とマクロライド系が最も効果があります。しかし、いま一番よく使われているペニシリン系とかセフエム系の抗菌薬は無効です。抗菌薬は最低10日間位、できれば2〜3週間以上服用するのが望ましいとされています。

(4)経過
テトラサイクリン系かマクロライド系の抗菌薬を服用すると、症状は10日以内に改善され、胸部X線写真も3〜4週間以内に正常となります。しかし、時には重症化することもあり、家族内感染がかなり多いのが特徴です。親子、兄弟、夫婦が続けてこの病気にかかることもそれほど珍しくはありません。(77.5.30.記)


4.アレルゲン
アレルゲンとは喘息とかじんま疹のようなアレルギー性の病気を引き起こす可能性のある物質を言います。

(1)食品
  1) 青い魚(さば、さけ、ます、まぐろ、かつお、いわし、さんま)
  2) えび、かに、いか、貝類
  3) 豚肉、鶏卵、牛乳、乳製品
  4) 大豆、そば、ほうれん草、なすび、山いも、里いも、たけのこ
  5) チョコレート、ピーナツ、コカコーラ、アルコール

(2)薬品
  1) 抗菌薬(抗生物質、化学療法薬)
  2) 鎮静薬
  3) 解熱薬
  4) ヨード類
  5) 局所麻酔薬

(3)吸入性物質
  1) ハウスダスト(家の中のほこり、その大部分はダニ)
  2) 花粉(スギ、カモガヤ、ヨモギ、ブタクサなど)
  3) 穀物粉(小麦粉、そば粉)
  4) そばがら
  5) 動物の毛(ねこ、犬、羊、小鳥)絹
  6) 古い綿
  7) 煙(タバコ、蚊トリ、ストーブ、たきびなど)
  8) 臭い(ペンキ、香水、殺虫剤、ベンジンなど)

(4)昆虫
  ダニ、蜂、蚊など(77.7.25.記)


5.喘息の予防
(1)アレルゲンをさける
アレルゲンの中では室内のホコリ(ハウスダスト)が一番よくありません。電気掃除機でよくホコリを吸い取るように気をつけましょう。ホコリの出やすい毛布、カーペットをなるべく使わないようにします。ホコリの中のダニが悪いと言われていますので、部屋は日当たりと風通しをよくするような工夫が必要です。布団とくに掛け布団は日光に干してダニを殺すようにし、枕はそばがらや羽毛入りを止めてスポンジに変えます。

ネコ、イヌ、小鳥などのペットは飼わないようにします。子供では牛乳や卵、チョコレート、ピーナツなどがアレルゲンになることがあります。そのような子供には、これらの物を与えないようにします。 (2)気管を刺激するものをさける
特にタバコは、本人はもちろん他人が吸っている煙も有害です。その他殺虫剤、ベーブ、化粧品、砂ぼこり、新建材の臭いなどでも起こることがあります。

(3)かぜを引かぬように注意する
かぜに続いて喘息の出る人も多いので、皮膚をきたえ、ビタミンCの多い野菜や果物をじゅうぶんにとり、風邪にかからないように気をつけましょう。風邪気味だと感じたら早めに治しましょう。

(4)皮膚をきたえる
うす着、乾布摩擦、冷水摩擦、風呂に入る前に身体が赤くなるほど皮膚をタオルなどでこすり、風呂上がりに冷水をかぶる、などの方法を夏からはじめるのが効果的です。水泳や日光浴も効果があります。

(5)規則正しい生活をする
肉体的にも精神的にも過労をさけ、規則正しい生活をします。

(6)精神的に強くなる
不安、不満、ジレンマ、イライラ、などが引き金となって喘息の起きることがあります。そのほか子供の場合、親の過保護や放任、親の心理状態が不安定な時などに起きることもよくあります。そこで喘息の子供から親を引き離すと喘息が治まったり、軽くなることがあります。

(7)楽に呼吸ができるようにする
腹式呼吸を身につけると呼吸がしやすくなります。また、夜は食べすぎないように気をつけ、腹式呼吸がしやすいようにすることも大切です。

(8)水分をじゅうぶんとる
痰が切れやすいように、水分を充分とることも大切です。(77.9.5.記)

6.下痢の食事療法
(1)対症療法
病気の治療にとって、対症療法が原因療法に劣らず大切な場合が多くありますが、特に下痢の場合は、食事療法などの対症療法が重要です。

(2)下痢の対症療法
下痢の対症療法の中で、一番良い方法は、水分とか電解質や栄養分を点滴注射で補給し、その間は絶食を続けて、胃腸を休ませることです。しかし、それができない時には、食事療法が重要となります。

(3)胃結腸反射
人のからだは、胃の中にたくさんの物が入ったり、冷たい物が入ってくると、反射的に大腸の動きが高まり、大便をしたくなるような仕組になっています。これを「胃結腸反射」といいます。下痢の時には、腸の動きが非常に激しくなっていて、「胃結腸反射」も大変敏感になっています。そのため、少し食べても、すぐに腸が激しく動き、下痢になりやすいのです。

(4)下痢の食事療法の原則
そこで、下痢の食事療法の原則は、1)胃腸を刺激しないものを、2)できるだけ少量づつ、3)その代わり何回にも分けて与えることです。例えば、1回の量を10分の1に減らす代わりに、10回に分けて与えるのです。このように、少しづつ胃に入れてやると、ちょうど唾液(つば)が胃の中に入っても「胃結腸反射」が起こらないと同じで、反射的に腸の動きが高まることはありません。このようにして胃の中に入った唾液の量は、大人では1日2000mlにもなると言われているので、馬鹿にできない量なのです。

(5)適した食事
下痢に適した食事として、湯ざまし、番茶、ポカリスエット、うすいハチミツ、重湯、かたくり、リンゴジュース、野菜スープ、味噌汁などが良いでしょう。牛乳は下痢をしやすいので避ける方が安全です。粉末ミルクはこれまでの半分くらいにうすめて(1/2乳)与えます。これらの食事を、少しづつ、何回にも分けて与えることです。下痢が治っていくに従って、徐々に普通食に戻していきますが、決して急ぎ過ぎないことが大切で、こじらせると、なかなか治り難くなります。

(6)良くない食事
下痢に良くない食事は、1)冷たいもの、2)センイの多い野菜や果物、3)豆類、4)卵、5)脂肪の多いもの、6)刺激物(コーラ、サイダー、コーヒー、アルコール、特に冷えたビール)、7)一度にたくさん急いで食べること、などです。

(7)絶食
絶食は胃腸を休ませる意味で良いことですが、点滴注射で水分や電解質を補給する必要があります。点滴注射ができない時には、食事療法で水分や電解質を補給することになりますが、良くない食事の仕方で、2000mlの水分摂取ができたとしても、下痢で4000mlの体液を失えば、差し引き2000mlの脱水を引き起こすわけで、それよりは、絶食だけの方がましということになります。そういうわけで、下痢を強めない食事療法が大切です。下痢に適した食事を少しづつ、何回にも分けて与え、決して一気にたくさんの量を胃に入れないように!(80.1.16.記)

7.嘔吐の食事療法
(1)原因療法と対症療法
嘔吐は重大な病気の一症状であることがあり、その場合はもちろん原因療法が一番大切です。しかし、対症療法で悪循環を断ってしまうだけでも治る単純な嘔吐もあり、それは特にこどもに多く見られます。

(2)嘔吐の対症療法
嘔吐の原因が何であっても、嘔吐が続くと、からだの中にエネルギーの原料が入って来なくなります。そうすると、生きていくために必要なエネルギーを、自分のからだの成分を分解して得なければなりません。普通は、脂肪組織の一部が分解されて、エネルギー源となります。その際に、アセトンという一種の毒がからだの中に作られ、貯まってきます。このアセトンは脳の嘔吐中枢を刺激して嘔吐を起こさせます。そのため、一層食事が摂れなくなり、からだは脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。そうすると、アセトンが作られ、これが嘔吐中枢を刺激してますます吐気が強くなるという悪循環ができあがってしまいます。

この悪循環を断つことが、嘔吐の対症療法として、特に重要になってきます。吐気止めの薬を注射したり、坐薬を入れたり、薬を飲んだりして、嘔吐中枢を抑えるのも対症療法の一つです。その他には、エネルギー源(ブドウ糖が一番効果的)を注射とか、口から与えることで、脂肪分解によるエネルギー獲得を不要にしてアセトンができないようにすることも大切な対症療法です。ブドウ糖の点滴注射や静脈注射は有効ですが、食事療法で解決できる場合もよくあります。

(3)嘔吐の食事療法
固形物を食べるのは止めて、水分だけとします。甘いジュースや砂糖水、ハチミツなどが良いでしょう。牛乳は吐きやすいので控えます。たとえ水分だけでも、一度にたくさん飲むと吐きやすいので、少しづつ与えます。甘いジュースでも吐く時は、「アメ玉」をしゃぶらせ、水分を少しづつ与える方法が良いでしょう。「アメ玉」の代わりに、「氷砂糖」「角砂糖」でも構いません。下痢をしていない場合は、氷のかけらも胃の粘膜を麻酔させる働きがあり、嘔吐を鎮めることがあります。シャーベットは良いのですが、アイスクリームは、クリームが入っているので好ましくありません。

人間が生きていく上で一番大切なのは酸素であり、その次は水分、その次はエネルギー源です。この三つがあれば、人間は何日間でも生きていくことができます。エネルギー源としてからだに摂り入れられるのはブドウ糖です。ご飯やおかゆなどは、消化分解されてブドウ糖になってから、からだに吸収されるので、ブドウ糖のような簡単なものを最初から摂取する方が効果が早く出ます。(80.1.30.記)

8.過敏性腸症候群
(1)イライラの腸
わが国では過敏性腸症候群と言う難しい病名で呼ばれていますが、外国では「イライラの腸」と簡単明瞭です。これは悪いものを食べたわけでなく、腸に癌や潰瘍がでいているのでもないのに、長期間下痢や便秘、腹痛などが続く病気です。このような症状が長く続いても体重が極端に減るとか、貧血になるとか、一般状態が悪くなることはほとんどありません。この病気になると腸が非常に敏感になり、腸の動きが高まっています。

(2)症状
症状として下痢だけが続くもの、下痢と便秘を繰り返すもの、粘液便だけが続くものなどがあります。便秘は痙攣性といわれるもので、コロコロした兎の糞のような便になります。腹痛は左の下腹部に一番起こりやすく、みぞおちにくることもあります。腹痛は食事をした後に起こりやすく、これは胃に物が入ってくると「胃結腸反射」が働いて大腸の動きが高まるためで、大便を出したり、オナラをすると痛みが軽くなります。

(3)原因
この病気は職場や学校家庭などでトラブルがあり、不満とか腹立ちイライラ状態にありながらこれを辛抱しなければならない時によく起こります。もちろん同じトラブルがあってもあまりイライラしない性格の人もいれば、イライラしても腸にこないで喘息になったり、心臓とか血圧にくる人もあります。これは体質の違いでしょう。最近この病気で悩む人が増えていて、代表的な現代病の一つになっています。

(4)治療
治療はストレスをうまく解消し、イライラをさけるように工夫をすることが一番大切ですが、それが難しい時には一時的に精神安定剤が必要なこともあります。また早食いをせず、お腹を冷やさないように注意し、消化の良い食べ物をとるようにします。腸の動きを抑える薬がよく利きます。(83.1.16.記)

9.蟯虫症
(1)蟯虫(ぎょうちゅう)とは
蟯虫は一番多い寄生虫で、幼稚園では40〜50%、小学校では4〜5%が感染しているといわれています。蟯虫の卵は口から入って感染し、胃や腸で成長して成虫となります。この成虫は子供が就寝して肛門部が暖まり、肛門の括約筋が緩むと肛門の外にはい出て産卵します。その数は1時間に6000個から10000個といわれています。このため肛門周囲のかゆみによる、不眠や集中力の低下、情緒の不安定、学業成績の低下などに関係することがあります。

(2)家族内感染
蟯虫が肛門部をはい回る時のかゆみのために指で肛門をかくと、卵が爪や指につきます。この手に付いた卵が食べ物などと一緒に口に入ると、また感染することになります。これを自家感染といいます。そのほか下着や寝具についた卵によって周囲の人達が感染する場合も多く見られます。そういうわけで、誰かが蟯虫に感染していると、家族の者も感染している可能性があります。だから、家族全員同時に治療することが望ましいのです。

(3)検査
便の中などに蟯虫(10mm位の白い糸のような形の虫)を発見すれば、診断は確実ですが、普通は肛門周囲に生みつけられた卵を調べます。これは朝起きた時に肛門周囲にセロテ−プを張ってからはがし、そのテ−プを顕微鏡で調べて虫卵の有無を確かめるのです。

(4)予防
生活上の注意は入浴時に肛門周囲をよく洗うこと、ふだんから爪を切り、手を清潔にして指を口に入れないこと、手づかみで食べる時には特に手を良く洗ってから物を食べること、パンツや敷布を日光に当て、よく洗濯することなどです。

(5)薬の飲み方
コンバントリンという薬を空腹時(夜寝る前)に飲むと、ほとんど1回で駆虫されます。しかし蟯虫の卵は布団や下着などにも散乱していて、それが手を介して口に入ってしまう可能性があります。そこで念のため1週間から10日間あけてもう一度この薬を服用することをおすすめしています。駆虫薬を飲んだ後、駆虫が成功したかどうかを調べる検査は、大便が出た翌日の朝、起きた時に肛門の周囲にセロテープを貼って調べます。(89.5.10記)

10.カモガヤ花粉症
(1)早春の花粉症
毎年2月3月のある日からくしゃみ、鼻水鼻づまり、目がかゆい、涙が出るなどの症状の患者さんが急にたくさん来られるようになります。これは今ではすっかり有名になったスギ花粉症の始まりで、4月から5月に入ると徐々に少なくなってきます。

(2)晩春からの花粉症
ところが6月に入っても症状がとれない方や、毎年5月頃からスギ花粉症のような症状に悩まされる方が何人かはいらっしゃいます。このような方を検査すると、カモガヤの花粉に過敏になっていることが多いものです。スギ花粉症がポピュラーになったので、この方たちの多くも、自分はスギ花粉症が頑固に長引いているのだと思いこまれています。

(3)カモガヤ
カモガヤはイネ科の植物で、道ばたや休耕地にはびこる雑草です。この草の写真をお見せすると「ああ、この草か」とすぐに分かっていただける、どこにでもある雑草なのです。これは明治の初期に我国に入ってきた牧草で、今では日本中で見られます。5月から8月に開花するので、この花粉にアレルギーのある方は、この時期になると花粉症で悩まれます。カモガヤがイネ科の植物であるのなら、稲はどうかと思われるでしょうが、幸いなことに稲による花粉症はほとんどありません。

(4)スギ花粉症とカモガヤ花粉症のちがい
カモガヤ花粉症はスギ花粉症と違って、ある日からいっせいに多くの人に症状が出るということはなく、時期もスギの2月から4月に対して、カモガヤは5月から8月と遅れて現れます。この症状はスギが中年女性に多いのに対して、こちらは子供に多いような印象を受けます。気候が良くなって戸外で遊ぶ機会が増えることも関係しているのでしょう。カモガヤ花粉症はスギ花粉症よりも数は少ないようですが、症状の強い場合が多いようで、喘息や皮膚炎を起こした人もあります。 毎年春から夏にかけて花粉症の症状が出る方は一度医師を受診されることをお勧めします。(90.6.24.記)


第六章:講演することで学ぶ

人に教えたり講演をしたりするには、自分の知識を整理しなければならず、それによって理解を深めたり、誤りを正すことができたりして、非常に勉強になるものです。しかし、小児科関係では、校医をしている小学校のPTAの依頼で「学童に多い病気の症状と対応」について86年11月に行った講演しかありません。そのスライド原図が残っていますので、それを記録しておきます。


学童に多い病気の症状と対応

1.熱がある(発熱)
 1)発熱とは
   測り方、時間、年齢、程度
 2)原因
  多い病気、少ないが重大な病気、病気がはっきりしない場合
 3)対策
  A.応急処置....家庭での対応
  B.医師の診察が必要な場合
  C.基本的な注意

2.頭が痛い(頭痛)
 1)どのような痛みか?
   場所、時間、起り方、持続性、性質
 2)他の症状があるか?
   発熱、嘔吐、意識障害、けいれん、ふるえ、咳、のどの痛み、腹痛、下痢など

3.のどの痛み
 1)のどの解剖
   口腔、舌、歯肉、扁桃腺、咽頭、アデノイド、喉頭、気管、リンパ節
 2)扁桃腺
   扁桃肥大、扁桃炎、溶連菌感染症
 3)のどの病気の原因
   扁桃炎、咽頭炎、喉頭炎、気管炎、口内炎、歯肉炎、リンパ節炎
 4)のどの病気の予防と対策
   うがい、マスク、食事

4.せき(咳嗽)とたん(喀痰)
 1)乾いた咳(空咳)
 2)湿った咳(痰のある咳)
 3)ゼイゼイ、ヒューヒューという咳
 4)白い痰、ねばい痰
 5)黄色い痰、きたない痰、臭い痰
 6)特徴のある咳
   喘息性気管支炎、喉頭炎、百日咳、異型肺炎(マイコプラズマ肺炎)
 7)家庭での処置

5.はなと鼻づまり
 1)水ばな、くしゃみ、鼻づまり
   感冒(かぜ)、鼻炎、アレルギ―性鼻炎
 2)黄色いはな、鼻づまり
   鼻炎、副鼻腔炎
 3)鼻血、咳、気管支炎との関係

6.お腹が痛む(腹痛)
 1)どのような痛みか?
   場所、起こり方、持続性、性質、時間的関係(特に食事との関係)
 2)思い当たる原因はないか?
   食べた物、食べ方、お腹を冷やした
 3)他に症状はないか?
   発熱、嘔吐、下痢、便秘、血便、腹が張る
 4)場所別の多い病気
   みぞおち、へその周り、左下腹、右下腹、お腹全体
 5)特殊な腹痛
  A.精神的原因が関係している病気
   反復性臍疝痛、過敏性腸症候群、十二指腸潰瘍
  B.少ないが重大な病気
   急性虫垂炎、腸紫斑病、腸重積
 6)家庭での応急処置
   お腹を暖める、薬を飲む、大便をする
   浣腸をする(ただし、右下腹部が痛む時は不可)
 7)医師の診察を受ける必要がある腹痛
   高熱、嘔吐、激しい下痢、血便、家庭の応急処置で治らぬ

7.吐く(嘔吐)、吐きけ(悪心)
 1)嘔吐は重大な病気の症状かもしれない
   急性虫垂炎、食中毒、腸閉塞、髄膜炎、脳腫瘍、硬膜下血腫、急性肝炎
 2)嘔吐の原因で多いもの
   急性胃炎、急性胃腸炎、感染性胃腸炎、自家中毒、急性扁桃炎、扁桃肥大
 3)吐く(嘔吐)、吐きけ(悪心)の原因
   嘔吐の原因とほぼ同じ
 4)悪心、嘔吐の処置
   食事療法
 5)医師の診察が必要な場合

8.下痢
 1)下痢の原因
   細菌感染、ウイルス感染、暴飲暴食、アレルギ―性、神経性
 2)他に症状はないか?
   発熱、嘔吐、腹痛、血便、下痢と便秘のくり返し、かぜの症状
 3)家庭での処置
   腹を温める、薬、食事療法
 4)医師の診察が必要な場合
   高熱、激しい腹痛、激しい下痢、嘔吐、血便、脱水状態

9.しんどい、ふらつく、疲れやすい
 1)原因
   貧血、結核、慢性腎炎、リウマチ熱の軽症、病巣感染、悪性腫瘍の初期、起立性調節障害
 2)起立性調節障害
  大症状
   A.たちくらみ、めまい、B.立っていると気分が悪い、C.入浴やいやなことで悪心
   D.どうき、息切れしやすい。E.朝が起き難い
  小症状
   a.顔色、b.食欲、c.腹痛、d.疲れやすい、e.頭痛、f.乗り物酔い

10.発疹
 1)発疹のかたち
   麻疹様、猩紅熱様、水痘様、蕁麻疹様、多形滲出性紅斑様、紫斑、輪状
 2)他の症状はないか?
   発熱、かゆみ、リンパ腺腫大、口内炎


第七章:学校医、園医として学ぶ

1.園児・学童の検診

全体の視診(肥満、るいそう)、顔の視診(貧血、黄疸)、口腔内の視診(扁桃肥大)、前胸部の視診(みずいぼ、水痘、とびひ、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患、濾斗胸や鳩胸などの胸郭変形、手術痕)、前胸部の聴診(呼吸音)、心尖部心基部の聴診(心雑音)、背部の視診、聴診は前胸部と同じで、それ以外に脊柱変形(側彎症)の有無を見る。

2.学校伝染病の類型と出席停止期間の基準

第2種:
インフルエンザ(解熱後2日を過ぎるまで)
百日咳(特有の咳が消失するまで)
麻疹(解熱後3日を過ぎるまで)
ムンプス(耳下腺の腫張が消失するまで)
風疹(発疹が消失するまで)
水痘(全ての発疹が痂皮化するまで)
咽頭結膜熱(主要症状が消退した後2日を経過するまで)
ただし、いずれも医師が伝染のおそれがないと認めたときはこの限りではない。

第3種:
腸管出血性大腸菌、および眼感染症
出席停止期間は、医師が伝染のおそれがないと認めるまで
その他の伝染病
必要があれば学校長が学校医と相談して第3種の伝染病として出席停止などの措置をとることができうるもの
A.条件によっては出席停止の措置が必要となるもの
溶連菌感染症
(適切な抗菌薬治療開始24時間を過ぎて全身状態のよい者は、医師の判断によって登校が可能、ただし治療の終了時期については、医師による判断が必要)
ウイルス性肝炎
(A型肝炎は、肝機能が正常になった者については登校が可能。B型・C型肝炎についてはその大部分はキャリアであり、これらについて感染予防の目的で患者を出席停止とする必要はない)
手足口病とヘルパンギーナ
(症状の変化には注意を要するが、全身状態が安定した者については登校が可能。回復後も3〜4週間は糞便中にウイルスが排泄されることがあるが、感染力はそれほど強いものではなく、またこれらの理由で子どもたちを長期にわたって欠席とすることは実際的ではない。厳密な流行阻止を目的ということよりも、患者本人の状態によって判断する)
伝染性紅斑
(発疹が出現したときには既にウイルスの排泄はなく、感染力もほぼ消失している。したがって、発疹のみで全身状態のよいような者については登校が可能)
マイコプラズマ感染症
(急性期症状が改善した後に全身状態のよい者については登校可能)
流行性嘔吐下痢症
(主な症状から回復した後、全身状態のよい者についてはその感染力は弱く、登校可能)

B.通常出席停止の必要はないと考えられる伝染病
しらみ
(感染者、感染の疑いのある者の治療は必要であるが、他疾患を媒介したり他疾患に発展することはないので、通常は出席停止などの必要はない)
伝染性軟属腫
(多数の発疹のある者については、プールでビート板や浮き輪を共用しない、タオルなども個人用のものとするなどの配慮は必要となるが、通常は出席停止などの必要はない)
伝染性膿痂疹
(膿痂疹の治療は必要であり、直接の接触を避けるように指導を必要とするが、通常は出席停止などの必要はない)


第八章:CD−ROMで学ぶ

小児科勉強のテキストとした図書の中で「今日の診療 CD−ROM」のことを書きました。これは、1991年11月に医学書院から発売され、それ以後毎年更新があり、現在の第15版(2005年版)まで継続購入して診療に利用してきました。

この1枚のCD−ROMに、1)今日の治療指針 本年度版、2)今日の治療指針 前年度版、3)今日の診断指針 最新版、4)今日の整形外科治療指針 最新版、5)今日の小児治療指針 最新版、6)今日の救急治療指針 最新版、7)臨床検査データブック 最新版、8)治療薬マニュアル 本年度版という医学書院発刊の8冊の医学書籍が収納されています。

まず第1の使い方は、この中の「今日の小児治療指針」の全部と「今日の治療指針 本年度版」の小児疾患の章、「今日の治療指針 前年度版」の小児疾患の章、「今日の救急治療指針 最新版」の小児の救急の章などを通常の医学書的に利用します。

しかし、最も有効な使い方は、これら3書籍はもちろん、残りの5書籍も合わせて、CD−ROMに含まれている全書籍をデータベースとして取り扱い、これに対して3個以内のキーで検索することによって、より広く、適切な情報が得られます。これは、次に述べるWeb検索に準じた方法です。


第九章:Web検索で学ぶ

2001年に「Google」が登場してより、Web検索は革命的に機能が向上し、今なお向上発展が続いています。そのため、通常の医学書やCD−ROM版の医学書には掲載されていない医療情報を、Web から得る場合も少なくはありません。私の場合、これによって小児科を学んだ部分が、最近は増加しています。

ただし、いくら検索機能が向上してきたからとは言え、「玉石混交」の大量情報から、「玉」の情報を取り出すスキルはやはり必要で、そうでなければ、情報の荒海に翻弄されてしまうかも分かりません。そう言うわけで、これからの医師は、1)Web検索能力と、2)検索で得た情報を処理する能力と、3)情報を評価する能力が重要になると思われます。

Web検索だけでなく、今は個人のパソコン内の情報を検索する「デスクトップ検索」も無料で提供され、瞬時に効率よく検索を行なうことができるようになっています。これらの技術を使いこなせることも、これからは必要になってくるでしょう。


<2006.4.16.>

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