パドック至上主義

パドックは一般ファンが馬の体調を知る唯一の場所といってもいい。もちろん返し馬もあるが、遠すぎて双眼鏡が必要であったり、あっという間に終わる返し馬に比べてパドックは短くても10分以上は眺められる。
そして、なにゆえにパドックが大事か? それは
基本的に条件馬に能力差はほとんどない
ということである。これは過去10年近くにわたって能力指数を作り続けてきて確信した。能力指数で条件戦を買おうと思ってもみんな同じような指数でケンということになってしまうことが多いのだ。
かつ、パソコンがこれだけ普及した時代、指数は誰でも手軽に入手でき、抜けた能力の持ち主がいても単勝1倍台。これでは勝負にならない。
では、どこに着順を決める要素があるか?
ひとつには「展開」がある。これはFBI(Furlong Balance Index)でカバーする。
もうひとつが「体調」である。競走馬は日々トレーニングに明け暮れてストレスもたまるし、疲労も蓄積する。その中でうまい具合に疲労が回復し、持てる能力を発揮できる馬が1レースに何頭か出走してくる。これを狙い撃ちするのだ。
そのためのパドックの見方である。

1.パドック解説書のデタラメ
世に「パドックの見方」を解説した入門書は数多くあるが、大半がデタラメである。
デタラメといっても全部が全部間違いというわけではないが、「入門書」というにはいささか詳細すぎてかつ「当日の気配」という点に関してはほとんど役に立たないことばかりが並べられている。
私も今までいくつか読んできたが、よくあるものを挙げてみよう。
●パドックは横(今回のメンバー)の比較ではなく、縦(その馬の過去の状態)の比較である
故・大川慶次郎氏のような記憶力の持ち主ならともかく一般ファンに何千頭もいる競走馬の過去のパドックを覚えておけ、なんてのは無茶な話。今はパソコンで映像を見られるがそんなもん見てから当日の状態と比べるなんて時間はない。
●外を周回している馬は好調
これは一部の競馬場では正解。ただし、ほとんどの競馬場では大外れ。そもそもこの格言の根拠は「外を周回するというのはそれだけ余計に長い距離を歩いているということだ」。
数学もできないバカが言い出したと思うんですけどね。
正解の競馬場は京都。これは円形なので外を周回するというのは確実に長い距離を歩いている。周りの馬と同じペースで歩けていればそれだけ速く歩けているということになる。
不正解は、例えば、極端なのは東京。東京のパドックは長方形。外を回っても内を回っても、距離差は角々のわずか数m分。1周何十m歩いての数mなのでほとんど関係ない。
そもそも、早足になっている馬というのは気合が乗り過ぎていることが多く、好調というよりは気性に問題があることが多い。
●馬の眼を見ろ
これが一番笑える。馬の眼を見て「今日走るか走らないか」分かるんなら「馬がしゃべれる」も同然。他にトモの踏み込みとか蹄の形とか首の使い方とかそういった細部を観察するというのは多い。
だが、それは「馬を買う」時に重要なことかもしれないが、「当日の体調」を見るのにはあまり大事なことではない。元々、踏み込みの浅い馬だっているわけだ(こういうのが毎回2着とかに来ると毎回馬券は外れるということになる)。

2.誰にでもできる簡単なパドック診断
出走馬の過去のパドックを覚えてなくても、馬の細部の見方が分からなくても、誰にでもできる簡単なパドックの見方。今ここに明かされる。

 一.全体を見渡せる位置から見ること
 二.馬の全身の動きを見ること
 三.「止まれ」で立ち止まった時の立ち姿がもっとも重要

では、解説していきましょう。
まず一から。個別に見ても何も分かりません。個別に見て有効なのは過去の状態を覚えているような特異な才能を持った人だけ。全体を眺めて動きのスムーズな馬を探しましょう。

二。馬のどこを見るか? というと「動きがスムーズかどうか」。これだけ。稀に坂路で40秒台の猛時計を叩き出して条件戦で人気をかぶっては沈んでいく馬がいます。こういうのは調教のやり過ぎ、つまり調教の失敗ですね。調教での疲労がとれないままレースに来ている。人間でもトレーニングのやりすぎで肝心の当日に筋肉痛というのはあること。
競走馬の場合、日々トレーニングをしているので疲労が蓄積したままのことが多いわけですね。大半の出走馬がそんな状況で出てきてるわけです。どこか痛いところがあるから動きがぎこちなくなる。
逆に体に痛みや張り(悪い意味での)がない馬は非常に滑らかな動きをします。こういうので展開が向きさえすれば複勝圏内はまず間違いないですね。
もっと具体的にいうと、トモが上下動しているのはぎこちない動きと見ていい。「よっこらしょ、よっこらしょ」って歩いているようなもんです。
対して、トモが水平に移動している、かつ動きが鈍くない(歩みが遅すぎない)というのが「スムーズな動き」です。歩幅とかはあまり関係ないですね。短い歩幅でも前につんのめるような感じがなく歩けていれば好調とみていいでしょう。

三。これは二を補完する、というよりも二よりも分かりやすく馬の状態を見ることができる方法です。
あなたが「そこにしばらく立ってなさい」といわれた時、どんな姿勢をとりますか?
おそらく「やすめ」の姿勢になりますね。なぜなら、それが楽だからです。
直立不動の姿勢をとれる、というのは楽をしなくても済むときですね。馬でも一緒です。
止まった瞬間、後ろ脚が片一方だけ後ろに残っていたり、後ろ脚の左右に幅がある馬は「やすめ」の姿勢をとっています。これは直立不動をとれない、つまりどこかに疲れが残っているということです。もちろん、馬のクセもありますが。
前後の脚4本ともがまっすぐに立っている馬というのは間違いなく好調です。ただし、調教を全然やってないから疲れがないというのもいますが…
実際の流れとしては、まず2,3周は動きがスムーズな馬を探します。で、チェックを入れる。徐々に筋肉がほぐれてきて動きがよくなってくる馬もいますが、最初からスムーズな馬のほうが疲労が少ないのは言うまでもありません。
その時点でおそらく5頭前後に絞れていると思いますが、15分前の「止まれ」でチェックを入れた馬の立ち姿を見ます。これは場合によっては全然離れた場所にいる馬を複数探さなければならないこともあります。だから全体を見渡せる場所から眺めることが重要なのです。
新馬戦なら返し馬を見るのも有効ですが、そうでなければ返し馬はそんなに気にしなくても大丈夫です。ここまででほぼ体調チェックは完了です。後は馬券の組み立て(実はこれが一番難しい)。


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