病理・細胞診部門におけるエタノールの再利用  

広島市立安佐市民病院 臨床検査部

【はじめに】

 病理検査室では、標本作製の課程でエタノールを大量に使用しているが、これらは使用後、排液として処分されている施設が一般的である。最近、我々はこの処分される使用済みエタノールを、エバポレーター(蒸留装置)によって蒸留・再生を行い、再利用の可能性を検討したので、その概要を報告する。

【使用機器】

検討に使用した機器は、蒸留装置であるヤマト科学社製のロータリーエバポレーターとネオクールアスピレーターである。蒸留条件は、浴槽温度を60℃、冷却水温度5〜10℃、アスピレーターを動作させて蒸留を行った。蒸留後の再生エタノールに脱水剤としてモレキュラー・シーブスを加え、アルコール濃度を上げたものを再使用した。(上図1)

【対象溶液】

 蒸留の対象は、病理・細胞診検査の標本作製課程で使用されるエタノールである。このエタノールは、主に染色や包埋過程で使用されるために水分や染色色素、脂肪成分などが混入している。

 【検討内容】

 検討内容は、

【結果】

 1)使用後のエタノールから蒸留により得られる再生エタノールの回収率は83.3±1.57%であり、蒸留に要する時間は、40〜45分/1リットルであった。

 また、蒸留前に認められた染色色素による着色や脂肪による混濁は、1回の蒸留操作により完全に消失した。(左図)

 2)蒸留前のエタノール濃度は92〜96%であり、蒸留により回収されたエタノール濃度は蒸留前後で、あるいは2回以上の蒸留でも大きな濃度変化は認められなかった。

 3)再生したエタノールは、染色過程における脱キシロールや脱水に、また組織包埋過程でも再使用することが可能であった。

 4)これらの結果、新規のエタノール購入量を約40%減少させることが可能となった。

【まとめ】

 最近は、環境保護や資源の再利用が重要視されるようになっている。エバポレータを使用すれば、染色色素や脂肪などが混入しているエタノールでも1回の蒸留操作でそれらを除去することが可能であり、病理検査室でも再生したエタノールを使用することが可能であることが判明した。また、再利用によりエタノールの消費量も減少させることが可能であった。

参考文献:芹沢昭彦ら:病理検査室における有機溶媒廃液の蒸留・再利用.病理と臨床 13.10:1461-1464.1995

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