アニマトリックス・レビュー

「マトリックス」を補完し、相対化するオムニバス・アニメ9作

アニマトリックスDVDジャケット




 「マトリックス」が日本のアニメから大きな影響を受けてつくられたことは、広く知られている。2003年6月3日DVD発売の「アニマトリックス」は、日本人アニメ作家を中心とするコラボレーションによって制作。「マトリックス」の世界を補完し、遊び、押し広げ、さらには相対化さえしている。

 監督の個性を生かして作られているので、統一感はないが、アニメの多彩な可能性がストレートに伝わってくる。ウォシャウスキー兄弟が脚本を手掛けた前半の4作品は、「マトリックス」ワールドを補完する内容。「ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス」は、「マトリックス」と「マトリックス リローデッド」を直接つなぐ内容に驚かされる。

 DVD映像特典では、日本を中心としたアニメーションの歴史を関係者の証言によって浮かび上がらせる内容が秀抜。手塚治虫アニメの先駆性が、極めて正当に評価されているのが印象的だった。「アニマトリックス」は、アニメーションの歴史に新たな1ページを記す、注目すべき試みだろう。


 (1)「ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス」(アンディ・ジョーンズ監督)は、まさに「マトリックス リローデッド」への序章と呼ぶべき内容。しかも、濃密な映像的魅力が詰め込まれている。
ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス(2)「セカンド・ルネッサンス パート1」(前田真宏監督)は、マトリックス・ワールド形成の歴史を解き明かす内容だが、いろいろと仕掛けがある。戦争フィルムのパロディを多用し、戦争についての思考を迫る。好戦的なアメリカに対する映像を駆使した正面から批判は、見事だ。(3)「セカンド・ルネッサンス パート2」(前田真宏監督)も、戦争の悲惨をリアルに描いている。「きれいな戦争」など、ないということを執拗にみせつけてくる。

 (4)「キッズ・ストーリー」(渡辺信一郎監督)は、「マトリックス リローデッド」の新キャラ・キッドが、覚醒したときの物語。静と動のコントラストの巧みさ、映像の疾走感が素晴らしい。(5)「プログラム」(川尻善昭監督・脚本)は、日本的な様式美を強調したマトリックス・ワールド。「PARTY7」のアニメ監督を務めた小池健監督(6)「ワールド・レコード」(川尻善昭脚本)は、荒削りな画風が魅力。短距離陸上選手がスピード感の中で自己を相対化するという視点がユニークだ。

 (7)「ビヨンド」(森本晃司監督・脚本)は、マトリックスのエラーゾーンという設定を使って遊んでしまった森本監督らしい世界。トリニティーが登場する(8)「ディテクティブ・ストーリー」(渡辺信一郎監督・脚本)は、レトロな画風が斬新。 落ち着きがあって、しびれる。(9)「マトリキュレーテッド」(ピーター・チョン監督・脚本)は、独創的なねちっこい幻想シーンにおぼれた。金属的でありながら生々しい。

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Visitorssince2003.06.08