ワンドットゼロ サッポロ 
ムービングイメージフェスティバル2001

「ワンドットゼロ・サッポロ」の画像です

 札幌に、またひとつ新しい映像フェスティバルが誕生した。その名は「ワンドットゼロ・サッポロ・ムービングイメージフェスティバル2001」。五年前にロンドンで始まった世界最大のデジタル映像祭だ。日本初の開催が、東京ではなく、札幌だというのが、嬉しい。11月23 から25日の3日間に百以上の先駆的な作品を上映。監督らゲストも多数来札し、上映後のトークはいつも盛り上っていた。


openning party

  ワンドットゼロ・サッポロ・ムービングイメージフェスティバルのオープニング・パーティが、11月22日夜、札幌のEDiTで開かれ、プログラムの説明と来札したゲストのあいさつが行われた。ほんの触りの映像ではあるが、その独創性と質の高さは一目瞭然。ゲストも個性派ぞろいで、各プログラムの後のトークにも期待が高まった。

  onedotzeroは、昨年のMIX2000でも紹介されたが、グラフィックデザインやイラストレーション、ニューメディア、クラブのバックグラウンドから生まれた、本来の映像制作の伝統とは異なる新しい世代のフィルムメーカーを発掘した最新のフィルムとTVプロジェクト制作を展開している。1996年にスタートし、2001年の今年は、第5回目のデジタル映像のフェスティバルをロンドンのICAで開催した。

 プロデュースした久保俊哉氏は「まず、札幌とロンドンの人のつながりがあり、電子メールやウェブを通じて人脈がどんどん広がって、今回実現できた」と、組織に頼らない人と人の直接的な出会いとインターネット環境が原動力になったことを強調。「映画から来た文脈もあるが、音楽、デザイン、ゲームから来た部分、そして統合されたものを観ることができる、新しい映像体験と言える。新しい動きがあることを知ってもらえる。メディアを統合するものの一つの方法として、デジタルがあると考えている」とワンドットゼロの意義を説明した。

 ゲストは、シェーン・ウォルター(Shane Walter)、ハマー・アンド・タングス(Hammer + Tongs)=ニック・ゴールドスミス、ガース・ジェニングスの2人、マーク・ニール(Mark Neale)監督、古田亘(Wataru Furuta)(プロデューサー)アンドリュー・トーマス(Andrew Thomas)(プロデューサー)、プロジェクトキャド(映像クリエーター)、ロケットデザイン(WEBムービー)、エアロスティック(VJ)ら。


burst the earth 地球大爆破

  ミュージックビデオ監督による野心的なデジタルSF短編フィルム。当初は4編上映の予定だったが、急きょ5編のフルバージョン上映となった。「spector21」は、デーブ・スペクターのキャラクターと田中秀幸監督らしい悪意に満ちたコメディ。BSで上映できたのは奇跡的。「passenger on board」(サイモン・テイラー監督)は、スタイリッシュなタイポグラフィが印象的な落ち着いた作品。タクシードライバーの孤独が伝わってくる。「worst contact」(関口現監督)は、宇宙人との共同生活を描いた危ないコメディ。二人の会話が可笑しい。「ETERNAL LIFE」(フランク・サクラメント監督)は、ハリウッドの新星によるクオリティの高い映像が見物。宇宙人アリアとして窪塚洋介が登場する。

 コメディとシリアス系を組み合わせた後には、さらにユニークな「bakuha.com」(竹内スグル監督)が控えていた。スーツケースの中の死体が麻薬の密売人、そして宇宙人へと渡っていく。荒唐無稽な物語だが、スローモーションと字幕を使い、ミュージックビデオのような仕上がりになっている。プロデュースした古田亘氏は、BSデジタル開局記念特番として企画し、既存の製作システムではなくミュージックビデオ監督を登用することで、これまでにない質の番組づくりを目指した。各20分の短編ながら、ミュージックビデオ監督にとっては長い作品になるので、監督たちのテンションを保つのが大変だったと話していた。完成後は社内からの不評を浴びたが、各地での上映会では絶賛され、海外でも公開している。


wavelength 01

  ミュージックビデオのプログラム。力のこもった斬新な作品がそろっていた。h5: bardou-jacquet + houplainの「oualalaradime / zebda + into your arms / ben diamond」は、コンピューターゲームから始まってアニメーションのさまざまな手法を駆使し、見本市のような多彩さ。「oualalaradime / zebda + into your arms / ben diamond」では、さらに実写も交えて融合が進んでいる。この方向性の到達点か。spike jonzeの「weapon of choice / fatboy slim」は、クリストファー・ウォーケンがホテルの中を踊り回る分かりやすいコンセプトでまとめた。

 私がもっとも刺激を受けたのは、stephane sednaouiの「i can't wait / mirwais」。ノイズが増幅し、自在に変形する身体のエロティシズムに満ちあふれた作品。不気味ではあるが、魅力的でもある。フランシス・ベーコンの絵画をさらに進めるとこんな感じになるのかもしれない。アイデアを卓越した技術で描き切った力に、脱帽した。笑えるものが求められている中で、異彩を放っていた。hammer + tongsの「imitation of life / rem」は、ラウンジパーティーを舞台にしたポップでコミカルな世界。手慣れた感じがする。

 


j-star sapporo

  札幌で活躍するクリエーターの作品上映の後に、東京サイドの作品を上映するプログラム。project cad(プロジェクト・キャド)は、室蘭工大の建築科の卒業生からなるグループ。建築デザインを中心としながら、タイポグラフィー、映像、音楽などの分野の融合を目指している。中でも、タイポグラフィーのセンスは抜群だ。「僕たちは建築デザインを志してきて、プレゼンテーションなどでデジタルに関わる機会が多くなった。デジタルのツールに接しなければ、絶対に映像はやらなかった。デザインのジャンルがなくなり、クロスオーバーしてきている」「映像へのアプローチが、はじめから映像をやりたいという人たちだけでは、なくなってきた。私たちが映像をやり始めたのは、空間に対して、ものを付加していくことを建築サイドからやっていこうと思ったときに、VJがやりやすかったのがきっかけ。ミックスすることの楽しさをこれから考えたい」と話していた。

  rocketdesignの「infinity」、aerostitchの「everlasting 'X-mix'」、extra designのso-netCMなど、いずれも個性的。静かな雰囲気の中にハイセンスな動きを盛り込んでいる。東京の作品が、笑いやリリシズムといった個性を前面に打ち出しているのに対して、ややおとなしめの印象も受けた。

 


hammer &tongs

 「ハマー・アンド・タングス」の画像ですハマー・アンド・タングス(Hammer + Tongs)のニック・ゴールドスミス、ガース・ジェニングスの2人が、自身製作のミュージックビデオ作品を紹介する魅力的なプログラム。ジョークを交えながらのプレゼンテーションは、作品同様に楽しさ一杯だった。彼等が長らく映画製作の夢を持ち続け、今実現しようとしていることも分かった。映画への熱い思いが伝わってきた。

 Eelsの「Last Stop: This Town」は、高度なCGによる人の顔のニンジンがベース。元ネタのビデオも見ることができた。かわいい牛乳パックが登場するブラーの「Coffee and TV」では、最後の昇天シーンに拍手喝采。独創的なアイデアをもとに、思いっきりふざけてはいるが、人間や物に対する温かなまなざしが感じられて、観ていて気持ちが良い。

 


wow+flutter 01

 これまでの映像制作とは違った手法を使った先駆的な作品群。未完成ながらも、未来を感じさせる作品が並んでいた。ohnny hardstaffの「future of gaming」は、プレイステーション2のために制作された作品だが、宇宙人のおぞましい侵略の姿が、象徴的な描かれていて不思議な世界へと連れていく。面白さという点では、犬の背中で行われるノミなどの昆虫と殺人マシーンのバトルが行われるloic bail + aurelien deplouxの「ap 2000」が、印象に残った。

 


No Maps For These Territories

 マーク・ニール監督の画像です「サイバースペース」という言葉を生み出し電脳世界を予言した、「ニューロマンサー」などで有名なSF作家ウィリアム・ギブソンの長編ドキュメンタリー「ノーマップス・フォー・ジーズ・テリトリーズ」。監督はマーク・ニール。U2のメンバーが音楽を担当している。私にとって、ワンドットゼロ最大の収穫。ミュージックビデオ的な映像処理と、魅力的な人物に肉迫するというドキュメンタリー的な手法が見事に融合した傑作。

 1週間、50時間のインタビューという長い時間をかけてギブソンの心を開き、これまでにない貴重な肉声を記録するとともに、サイバースペースの中にいるかのように巧みな映像編集を行っている。そのデジタル処理が、ギブソンの語るビジョンを鮮明に浮かび上がらせる効果を上げていた。謙虚にして果敢な試み。ギブソンを自動車の後部座席に乗せてアメリカ各地を移動しながら語ってもらうという手法は、ギブソンのドキュメンタリーとしては最上のアイデアだったと思う。マーク・ニール監督は「ウィリアム・ギブソンのフアンであり、ギブソンのことを記録したかった。皆に知ってもらいたかった。そのままのギブソンが出ていると思う」と謙虚に話していたが、並々ならぬ自信も感じた。

 


meeting people is easy

 レディオヘッドの「OK Computer」ツアーを記録したグラント・ジー監督のドキュメンタリー。日本でのツアーの様子も克明に残っている。少し恥ずかしい。「No Maps」ほど斬新ではないが、ミュージックビデオ的な処理も取り入れ、DVを基本にしながら、さまざまなタイプのカメラを使っている。レディオヘッド内の人間関係はもちろん、グラント・ジー監督とレディオヘッドの関係が微妙に変化していく過程が面白い。アクが強くて敬遠していたレディオヘッドが、少しずつ好きになってしまう奇妙な魅力がある。

 


pin ワンドットゼロ・日本オフィシャル・サイト


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 Visitorssince2001.11.23