暮らしと税金分科会 基調報告 



 これは第37回税研集会の上記の分科会での基調報告とするための
文章です。         

                                                       


1 暮らしと税金

 (1)関心が集まる暮らしと税金、経済

 昨年9月に経済企画庁が1997年4月〜6月の国民所得統計速報を発表しました。これによると、
価格変動分を差し引いた実質GDP(国内総生産)が前期比で2.9%のマイナスになっていました。
これは1974年の石油ショック後の状況(1〜3月期3.4%マイナス)に次ぐ大幅なマイナスです。なぜ
こうなったかというと、消費税アップの影響で個人消費がマイナス5.7%となったからです。さらに、
総務庁家計調査によると97年8月の勤労者世帯の消費支出では収入が高い階層(上位20%)で
は2.1%の増(前年同月比)に対し、下位20%では8.8%の減少となっていることが注目されました。

 夏以来これらのことをマスコミは大きく報道しました。
 消費税の税率がアップしたうえに、特別減税がなくなり、医療保険の自己負担の増加、年金掛金
も増えています。これらが消費を押し下げた原因であることは衆目の一致するところです。
 平成9年度予算の審議の際十分に推測できたことであり、反対の声も強かっただけに押し切った
政府の責任は大きいといわざるをえません。
  ところで、最近若い世代で家計簿を付ける人が増えているといいます。貯蓄広報委員会の調査
(96年度)では20歳台で50.7%(全体平均で39%)が記帳しているとのことです。
 予算・税金と暮らしに関心がより集まる条件が整ってきているように見えます。

 (2)税金とは 

 消費税の導入以来暮らしの全面を税金が覆うようになっています。下に分類するように日本では
いろんな税金があり、それらが国と地方自治体の主要な歳入となっています。

〔税金の分類〕

 ■国税

  収得税 所得税、法人税

  財産税 相続税、贈与税、地価税

  消費税 酒税、消費税、揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油税、たばこ税、関税、
       消費譲与税、地方道路税、電源開発促進税

  流通税 有価証券取引税、登録免許税、印紙税、取引所税、自動車重量税、日本銀行券発
        行税、とん税、特別とん税、

 ■道府県税 

  収得税 道府県民税、事業税、法定外普通税、

  財産税 固定資産税、自動車税、鉱区税、狩猟者登録税、

  消費税 道府県たばこ税、ゴルフ場利用税、特別地方消費税、法定外普通税、

  流通税 不動産取得税、法定外普通税

  他   水利地益税、自動車取得税、軽油引取税、入猟税、

 ■市町村民税

  収得税 市町村民税、法定外普通税

  財産税 固定資産税、軽自動車税、鉱産税、特別土地保有税、

  消費税 市町村たばこ税、法定外普通税

  他   水利地益税、共同施設税、国民健康保険税、都市計画税、入湯税、宅地開発税、

      事業所税、

2 家計と税金

 (1)現代家計の特徴

 近時、家計の変化のなかで「家計の個計化」と「世帯格差」が注目されています

 家計の個計化は世帯全体の同一行動が減少し、個人別の行動が増えるにしたがって商品の
購入も個人ごとに行われるようになり、世帯の家計調査をしても世帯全体の収支は掴めなくなっ
ていることをいいます。
 世帯格差では、従来は所得額の区分によるものに分析の主眼がありましたが、最近は世帯の
類型による格差への関心が強くなっているようです。なかでも高齢者の世帯(有職で多額の資
産を持つ世帯は別にして)では無職夫婦のばあいでは収入が23万6千円で、その91%が社会保
障の給付によるものであり、可処分所得よりも消費支出が上回りそれを貯金の取り崩しでまかな
っているのが実状となっています。今後社会保障給付の充実がなければ、この傾向は強くなる一
方でしょう。

 (2)豊かさと家計

 数年来「生活の豊かさ」とは何かが問われるようにようになっています。「豊かさは」は包括的な
概念で一口では言い表せませんが、所得、社会保障、環境、労働時間、教育、社会資本、治安な
どが関係してきます。国連の開発計画では96年から貧困の尺度を所得から人間の能力に変更し
ています。資料としては古いですが総理府が1988年に実施した「経済構造調整に関する世論調査」
のなかで「生活の豊かさを実感していない理由」を聞いています。その回答は以下のとおりでした。

   税金社会保険料の負担が重い      60.6%

   国の経済力の割には個人の所得が少ない 55.1

   労働時間が長い            34.9

   住生活が充実していない        24.5

   外国と比較して価格の高いものがある  23.1

   社会資本の整備が不十分である     22.6

   医療・教育の水準が低い        11.5

   職生活が充実していない         5.3

   外国品の良い商品が手に入りにくい    5.3

   国内や外国の情報が不十分である     1.7

   その他                 1.3

   わからない               2.8

 
 今でも回答結果が含意する国・経済のあり方への「批判」は有効です。

 
 (3)税金と家計

 日本生協連の「全国生計費調査」は系統的でかつ1957年から続いている家計に関する調査です。
この調査の1996年度分から税金と家計に関する数字を拾ってみます。












 94年から96年までは所得税と住民税の特別減税があったので上のような結果になっています。その
一方で社会保険の掛け金の上昇が目立ちます。
 生協連では96年については消費税額調べを別途取り組んでいます。その一部をグラフにしたのが下














の図です。縦軸は消費税の割合、横軸は収入階層で単位は万円です。

 消費税の逆進性がはっきりとでています。

3 暮らしと財政

 (1)暮らしと予算

 家計は予算のあり方で大きく変わります。収入項目では各種社会保障給付があり、支出項目では税
金、社会保険料、公営住宅の家賃、水道料金、診療費、大学の授業料、保育所費用等々と挙げればき
りがないくらいです。
 税金の負担を考えることと、予算つまり税金の使われ方を考えることは切り離せません。この点からも
暮らしと予算について考えてみることは重要です。

 (2)財政危機と構造「改革」                

  @ 財政危機 

 「財政赤字」と「財政危機」が毎日のように報道されています。そのうちの大半が政府のキャンペーン
の影響を受けています。
 「財政危機」の内容について政府はいろんな文書で・公的債務残の高のGDP比は主要先進国のなか
で唯一上昇している ・国が発行した公債発行残高が約254兆円になる(平成9年度末) ・シュミレーシ
ョンを行うと経済が破綻する ・一般政府財政赤字を加えたところの潜在的な国民負担率が2025年には
70%以上となること などを広めています。

 これに対してはいろんな批判があります。
 山家悠紀夫氏(第一勧銀総合研究所)は「危機論」一般への批判ですが「偽りの危機 本物の危機」
という本のなかで次のように述べています。

 1 具体的な事実によっていない。表面的な現象や一部の数字によってのみ説かれている
 2 「危機論」への対応がマクロの経済効果をあげるという面からしか考えられていない。   
   多くの人々の生活や文化にまで影響を及ぼすことについて幅広く考える必要がある
 3 「危機論」が企業経営の立場からしか論じられていない。マクロの経済が良くなれば生
   活もよくなるとは思えない。もっと生活の立場からきちんとものを考えるなければなら
   ない。(前掲書277頁)

 確かに財政の赤字が続くことは国民にとっても悪影響があります。福祉や教育へ予算へ圧迫が強く
なり、増税の声が強くなり、特に現状においては消費税増税の声がすぐ出てきます。
 また、財政赤字が拡大すると金利が上昇する要因とな経済の不安定要素となります。政府の言う「ク
ラウディグ・アウト」という現象です。現にイタリアでは起きて公債発行の金利が異常に上昇したといいま
す。ただし、今の日本でこれに直結するとはいえない面もあります。欧米に比べて貯蓄残高がかなり高
い水準にあるからです。
 さらに国債・公債の発行が異常に膨れるとその利払いにより、結果的に庶民の税金が利子となり機関
投資家や資産家に流れることになります。
 財政危機は一般国民にとっても解決されるべき課題です。

 

 A 財政構造改革法

 政府が財政危機克服の第1歩として提案してきたのが、昨年11月28日に成立した「財政構造改革法」
です。その実際の影響は大きいにもかかわらず、国会での審議中や成立後のマアスコミでの扱いは驚
くほど小さいものでした。
 この法律が提案されるに至った経過は、まず1955年の11月に武村大蔵大臣が財政危機宣言を行った
ことをうけて財政制度審議会は特別部会をつくり財政構造改革について方法を検討をはじめました。平成
8年7月には中間報告−「財政改革を考える・・明るい未来を子供たちに」を発表し、同年12月に最終報告
を出しています。この最終報告を受けて平成9年1月に歴代総理経験者などをいれた財政構造改革会議
がつくられ、「5原則」が打ち出されました。これを「財政構造改革法」という法律に仕立てたわけです。

主な内容は次のとおりです。

【全体目標】

○2003年度までに国と地方を合わせた財政赤字のGDP比を3%以下

○2003年度までに単年度の赤字国債の発行をゼロ

○特別会計や財政投融資の見直し

【98年度歳出削減策】

○国・地方の一般歳出の伸びをそれぞれマイナス

○公共事業費は97年度当初予算比7%減以下

○社会保障費は同3000億円増に抑制

○ODAは同10%減以下

○科学技術振興費は同5%増以下

○防衛費などその他は前毎年度同額以下

○制度的補助金以外の補助金を1割削減

【その他】

○財政構造改革の進展具合に応じて歳出削減の追加措置を実施

 

 この法律の主な問題は次の点です。

○衆議院の委員会審議はわずか11日

○歳入面には一切触れていない

○生活のあらゆる面で福祉関連予算を将来的に削るものとなっている。

○医療の負担増は9月のものを上回る増加を3年続ける

○公共事業(事業の量を維持)や軍事費(前年度並み)が事実上の「聖域」となっている

○公共投資の長期計画(昨年12月決定)では前の計画に比べて総額で40.9%もの増となって いる。
  期間の延長を2年とみて7年でやっても一年あたりの金額で501億円の超となる

○公共事業の財源となる建設国債の発行の抑制策が不明

○軍事費(防衛費)も「前年度なみ」ということで世界の趨勢に反するものとなっている

○予算の単年度主義を崩す。施策の内容を問うことなく支出の削減が義務づけられ、国会の審
  議権が無視される

○すべて実施しても赤字財政からの脱却はできず、赤字国債ゼロの目標達成には福祉削減また
  は消費税の増税へ導くものとなっている

○景気や個人消費への影響が考えられていないので、不況に追い打ちをかける

 

 (3)財政危機の原因

  @ 社会保障が危機の原因か

 財政危機の原因について財政制度審議会の「財政構造改革特別部会最終報告」(1996年12月)
は、「我が国は高度成長期の昭和30年代後半から40年代後半にかけて、欧州並みの社会保障制
度を導入し、このため財政には高齢化に伴って歳出が大きく拡大する構造が組み込まれた。また、
その後のオイル・ショックによる経済の低迷や、90年代の不況を公共投資の増額や減税等の思い
切った景気対策を行うこと等によって乗り切ってきた。その結果として、財政には極めて多額の公
債残高が累増するに至っている」と説明しています。













*上のグラフは「平成9年度財政関係資料集」(編集:参議院予算委員会調査室)194ページの表から作成

 こういう見地に立って「改革」には「60兆円、GDPの約13%を占めるに至った社会保障給付の引
下げ」が必要だと説明します。公共投資はその次に検討が必要だとされます。本当にそうでしょうか。

   A 公共事業が「危機」の原因

 













*上のグラフは「平成9年度財政関係資料集」(編集:参議院予算委員会調査室)194ページの表から作成

 政府は財政赤字の主要な原因が公共事業費になることを認めませんが、岩波一寛氏は「財政破綻と
公共事業」(「経済」97/3)という論文のなかで次のことを指摘しています。

○日本の財政膨張の最大要因は、公共事業費である。 

○社会保障関係費は通常年間総額60兆円とされるが、各種年金や医療制度に基づく給付のすべ
 てがふくまれている。国と地方が直接所管する社会保障関係費は32兆円(94年度)である。
○国民経済計算の公的固定資本形成には用地費が含まれていないので、自治省の資料にある
「行政投資額」でみるべきである。93年度で約51兆円。
○公共事業の財源調達には公債・借入金があるがこの利子支払額を含める必要がある。これは
 94年度で11兆円になる。
○こうして比較すると実質行政投資額61兆7千億円(93年度)に対し、社会保障給付額は57 
 兆3千億円となる
○実質国保全及び開発費は41兆1千億円であるが、対応する国と地方の社会保障費は31兆8
 千億円となる。

○公共事業費は財政支出の最大費目であり膨張率でも社会保障費に匹敵する。日本の社会
 保障が先進資本主義国のなかで立ち後れているので制度の成熟過程で増加率が高くなるの
  は当然。

○一般税財源からの支出でみても社会保障費関係には16兆3千億円、公共事業関係費へは23
 兆4千億円となる。

 また岩波氏は公共事業費に関連して次のことを問題点としてあげています。
○公共事業は国、地方自治体、公団、事業団によって実施される。財政的には国の一般会計、
 特別会計、地方の普通会計、財政投融資に基盤をおいている。会計間の重複などがあるので
 正確な数字の把握が困難である。しかも、重複を整理した収支資料は公表されていない。
○1960年代から社会資本の充実、特に産業間連社会資本の力を注いだ結果がこうした事態を招
 いている。公共事業は企業にとって市場の創出となり、建設、セメント、鉄鋼、機械、電力 などに
需要が拡がる。さらにこれらの企業の要請で再度膨らむという循環になっている。
○建設業界の総事業量は約80兆円であるが、うち37兆円が公共事業関連になっている。
 土木事業では民間事業が8兆円に対し公共事業は16兆円になる。
○予算化には政・官・財が癒着し生まれる利権によって支配されている。
 異常な膨張の要因としてアメリカの要求がある。90年度の総額430兆円の公共投資10カ年
 計画、95年度からの総額630兆円の公共事業10カ年計画などアメリカの要求をのんだ結果
 である。

4 社会保障の行方と財政

 (1)「改革」の方向

 政府は平成9年6月3日に「財政構造改革の推進について」を閣議決定しました。
このなかで社会保障分野に関しては次の決定(筆者要約)をしています。
 社会保障関係費は、高齢化等に伴う当然増が見込まれる経費であるが、集中改革期間中は、
当然増に相当する額を大幅に削減することとする。具体的には賃金、物価の上昇に伴う単価の
増等による影響分について制度改革等により吸収し、効率化を図ることとし、対前年度伸率を高
齢者数の増によるやむを得ない影響分(全体の2%程度)以下に抑制する。

 特に、10年度予算については、一般歳出を対9年度比マイナスとすることとしていることを踏まえ
、約 8,000億円超の当然増について 5,000億円を上回る削減を行うことにより、増加額を大幅に抑
制する。

 (2)医療について

 医療については同文書で次のようにいっています。(筆者要約)
 医療については、国民医療費の伸びを国民所得の伸びの範囲内とするとの基本方針を堅持し、
今後、医療提供体制及び医療保険制度の両面にわたる抜本的構造改革を総合的かつ段階的に
実施する。
 9年度の医療保険制度改革は、抜本的構造改革の第一歩として早急に実現する。集中改革期
間中は、特に以下の施策に取り組むこととし、出来る限り10年度から着手する。
 ・薬価差の解消を図る。
 ・診療報酬については、慢性疾患は定額払いとするなどその積極的な活用を図り、出来高払
  いと定額払いとの最善の組合せを確立する。
 ・世代間の負担の公平及び社会連帯相互扶助)の観点から老人保健制度の抜本的改革を行う。
 ・国民健康保険、政府管掌健康保険、組合健康保険等における保険集団の在り方を見直す。
 ・患者負担については、給付と負担の公平等の観点から高齢者等には一定の配慮を行いつつ、
  定率負担での統一を極力実現する。
 ・低所得者には一定の考慮を行いつつ、患者負担の在り方を見直す。
 ・国立病院・療養所の在り方については、廃止、民間への移譲を含め見直しを行う。

 昨年の9月の医療保険の主な改悪は次のとおりでした。
  ・健康保険加入者本人 外来・入院 1割→2割
  ・70歳以上の高齢者 月1020円の負担→通院一回あたり500円
  ・薬代内服薬1日あたり 2〜3種類 30円            、他

 この改悪により高齢者の通院は減り、それ以外でも窓口負担は2倍以上になったとわれています。
さらに改悪しょうという中身が上の内容です。
 また、今後の方向を決める「抜本改革」案が昨年8月に公表されました。次のようにより負担が増え
る方向で具体化されています。
 ・高齢者の窓口の自己負担を医療費の1割か2割とする。
 ・大病院では高齢者以外にも5割の負担を求める。
 ・病気や治療の内容によっては定額払いにする。他

 (3)年金について

  @ 改悪の方向 

 年金については次のようにいっています。(筆者要約)
 11年度の財政再計算において、世代間の公平、高齢者雇用の在り方といった観点を含め、給付
と負担の適正化等制度の抜本的改革を行う。
 ・高所得者に対する給付、施設入所者に対する給付の在り方、スライド方式の変更、在職老
  齢年金の在り方等を各々検討するとともに、支給開始年齢、給付水準の見直し等の課題に 
 取り組む。
 ・現行の段階的な保険料率を見直し、世代間の負担水準の公平化を行うとともに、世代内の 
 負担の公平化の観点から総報酬制を導入し、この制度にふさわしい料率に改める。
 ・基礎年金国庫負担率の引上げについては、6年改正の附帯決議等において所要財源を確保
  しつつ検討することとされているが、現下の厳しい財政事情に鑑み、財政再建目標達成後、
  改めて検討を行うこととする。
 いかにして国庫負担を少なくするかがここに示されています。99年の通常国会でこれらの内容
を含んだ改定案が出されるはずです。

 各種文書を併せてみると、支給開始年齢を67歳にするとか、65歳への引き延ばしスケジュール
を5年間短縮する(前倒し実施)とかいう案も出ていると言います。「70歳からの支給」も一部では
出ています。
 また、現在実施されている物価スライド(毎年)と賃金スライド(5年に1回)の組み合わせ方式か
ら賃金スライド部分を廃止するという改悪も考えられています。賃金スライドによる改善は物価スラ
イドの2倍というのが普通です。

  A日本の年金の問題点

 日本の年金の将来像がはっきりしないことが、若い世代へ将来の不安を与え、国への信頼を無
くさせ、政治への不信にもつながっています。
 普通、日本の年金制度の基本的問題点として次の三つがあげられます。

 1 受給額が低い
 2 年金制度の空洞化(掛け金を払えない、払わない人が増加)
 3 大幅な掛け金の増加が続く

 特に受給額が低い基礎年金(国民年金)の問題点について村上清氏は次の点を指摘しています。
 1 未適用、滞納、免除で保険料を納めていない人が多い。沖縄では6割近くが保険料を納
  めていない
 2 低所得のばあい免除規定があるが、支給額は三分の一になる
 3 サラリーマンの主婦など(3号)が届け出を忘れると無年金になる。届け出漏れは
   100万人といわれる
 4 管理経費の率が高い
 5 保険料が定額で負担能力に応じていない
 6 保険料の拠出の「強制」が崩壊している

  B日本の年金は高くない

 政府はいろんなところで日本の年金が欧米並になったといっていますが実態はそうではありません。
山家氏は前掲書のなかで次の指摘をしています。

 「国際的に遜色がないと言われるがそうではない。財政構造改革白書では厚生年金の平均給付額を平均賃金 と比較しているが、
年金加入者の4割を占める国民年金だけの加入者への支給額は月に約6万5千円しかな い。これは厚生年金の半分以下である
 厚生年金でも賃金が低かった人へは月に10万円くらいである。い ずれもこれで生活できる水準ではない。年金を含む社会保障
の制度は年金が支給額が少ない人でも安心して 生活ができるものでなければならない。」



 (4)介護保険など

 「財政構造改革の推進について」では次の点にも触れています。  

 ○一定の収入以上の高齢者等に対する年金、医療給付の見直しを保険原理に反しない範囲で 
  行う。
 ○福祉については、介護保険法案の成立を図るとともに、サービスの質を確保しつつ、各種
  規制等の緩和、サービス内容等の情報公開及び福祉サービスへの民間事業者の導入を推進 
  する。併せて、施設整備費、運営費補助の在り方について見直しを行う。
 ○雇用保険制度については、他の施策との整合性等を踏まえ、高年齢求職者給付について廃 
  止を含め抜本的に見直すとともに、自己責任原則の観点から失業給付に係る国庫負担の在
  り方を見直す。これらの見直しを内容とする制度改正を10年に行う。


 日本の社会保障の発展は60年代から70年代にかけて革新自治体を作った事に示される地域からの
運動による成果だといえます。老人医療の無料化は44都道府県で実施され、73年からは国家的な制
度として老人医療の無料化制度を創設させるまでになりました。年金についても、73年の年金統一ス
トライキなどの闘いのなかで前進させて来ています。年金額の2〜3倍の引き上げ、物価スライド制の
導入も成果です。
 これに対抗したのが、臨調「行革」です。老人医療の無料が82年に廃止され、老人保健法がつくられ
ました。橋本「6大改革」の一つである「社会保障改革」がその総仕上げともいえます。
 再度、地域からの運動で改悪の動きを押し返さなければなりません。


 (5)国民負担率について

 ここ数年、政府・大蔵省が財政問題を説明する際には「国民負担率」という言葉が必ずといっていい
ほど使われます。

「財政構造改革白書」では次のように触れています。(一部省略)
 「歳出と裏腹の関係にある歳入・負担の問題を考える必要があります。国民が政府の行政サービスに対して どれだけの費
用負担を行っているかを示す指標として、国民負担率があります。これは、租税負担額及び社 会保障負担額(年金や医療保
険に係る支払い保険料)の国民所得に対する比率により示されます。」

 「我が国が本格的な高齢化社会になっても活力ある社会であり続けるためには、国民負担率を適正な水準に とどめることが
必要です。臨時行政改革推進協議会の最終答申(平成5年10月)は、高齢化のピーク時(2 020〔平成32〕年)において50%
以下、21世紀初頭の時点においては40%台半ばをめどにその上 昇を抑制するべきとの考え方を示しています。」

 「現在の我が国の国民負担率は国際的に見ても低い水準にありますが、我が国は21世紀には諸外国に例を 見ないスピード
で急速に高齢化が進むと見込まれ・これに伴い、今後の国民負担率の上昇は避けがたいもの と見込まれます」


 要するに@「国民負担率」を抑えないと我が国の活力が無くなる A2000年頃でも45%くらいで抑
えたい B高齢化のピーク時でも50%以下が望ましい というのです。
政府にとって「国民負担率」は財政規模を小さくする、つまり収入を抑える必要があるので支出も我慢
してくださいというときの口実として使っているのです。
 しかし、「国民負担率」というとすべて一人々の「国民」の負担のことだと思いがちですが、ここには税
金や社会保険料の負担者である企業の負担も含まれます。それゆえに経団連等財界団体も「国民負
担率」を抑えることを主張しています。
 さらに、個人の生活レベルでいえば、医療にしても年金にしても私的費用負担はここには含まれませ
ん。「国民負担率」を抑えるということは「国民の負担」を抑えるということと異なります。医療を例にとれ
ば、健康保険料が下がっても診療の際の自己負担が増えれば全体としての医療費負担は減りません。
 前に紹介した山家氏は「国民負担率を低く抑えても社会保障と関係ないところでの『私的負担』が増
だけで働く世代の負担は変わらない。したがって働く世代の負担が重くなることを危機と呼ぶならば、そ
れは財政の危機でなく日本社会の危機である。言い方を換えると財政や年金制度などを変えることによ
って、財政危機は救えたとしても、それで日本社会の危機は救えない」と指摘しています。

5 国民のための財政に
 (1)政・官・財の癒着をなくす 

 岩波一寛氏は財政改革、特に公共事業中心の財政を改めるには次のことが必要だと指摘しています。
○国民生活関連の社会資本の整備は重要でこれらの充実のために地方自治体に政策決定と財源を確
 保すること。住民自治とそれによる地方財政改革が重要である。
○癒着の舞台であり結果でもある大型開発プロジェクト中心政策を見直すこと。
 言い換えれば「『土建国家』から『福祉国家』への転換」が必要だといえます。
 仕組みの上では「天下りの禁止」や「企業献金の禁止」が是非とも必要です。

 

 (2)責任を明らかに

 癒着構造をなくすと同時に過去の出来事も含めていろなな政策決定と実行段階における責任を
 明らかにさせるような仕組みを作ることが必要です。
 バブル経済の崩壊が財政「危機」の原因の一つであるのですが、このバブル経済をまねき、崩壊さ
せた経緯とそれぞれの段階における責任も問われずにきています。
 また諸施策の「見直し」、つまり事後的に評価することと是正の仕組みも必要です。もっとも現行の
制度でも政治家と高級官僚にその気があれば実現するでしょう。

 (3)情報公開

 地方自治体レベルでは「情報公開」が部分的ですが進んで来ました。国レベルでは「情報公開法」
は未制定です。政治や行政に関心ある人々や報道機関がいつでも必要な情報を入手できるような
制度ができれば政治と行政が国民本位に近づくでしょう。

 (4)公務員労働組合の可能性と責任
 宮本憲一氏は公務員労働組合の行政研究活動を評価して次のように書かれています。
 「国家の民主的な改革の過程は、各国によってちがいがあろうが、共通していえることは、国家機関内部の公務労働者の内
部改革運動と住民の参加が重要になることだろう。この点ではわが国の場合、日教組の教研活動、自治労の自治研活動ある
いは全国税の税研活動など世界的に注目すべき公務労働運動がある。」「これらの運動は、必ずしも、当初の目標どおりに、
国民のために行政を改革する上で決定的な力を発揮しているとはいえないが、『政府の失敗』を真に克服しうる重要な芽をもっ
ている。」「公務労働者の行政内部の改革運動は、それだけでは国家の改革へとつながらない。住民運動による自治体改革、
あるいは司法の民主化の運動が重要である。」


 公務員が憲法に書かれている「全体の奉仕者」という立場を貫き、行財政の現場におり各種情報を
手にし、目にするという立場を生かすならいろんな場面でもてる力を発揮できるはすです。

■参考文献
知恵蔵1998年版/朝日新聞社
偽りの危機 本物の危機/山家悠紀夫/東洋経済
年金制度の危機/村上清/東洋経済
「切れる」政府をどうつくるか/高橋伸彰/「論争1997/11」
財政危機からどう脱出するか/橋本正二郎・垣内亮/新日本出版社
財政破綻と公共事業/岩波一寛/「経済」97年3月
学習の友1997年11月号
家計簿から見た私たちの暮らし/日本生活協同組合連合会/1997年6月発行