これは1997年1月に宝塚で開催された「全国税研集会」の税金入門講座で大辺が報告した内容です。
本文では「表○」とか「図○」の表示が使われていますが、ここでは省略しています。

月並みなことを書いているように見えますが、そうではないように書いている部分もあります。
ぜひ目を通してください。


目次

 T 税金について
  1 税金とは
   (1)税金の分類と種類
     a.国税と地方税  b.内国税と関税  c.直接税と間接税  d.普通税と目的税  e.独立税と付加税 
     f.申告納税方式とその他の方法による税 g.その他の分類  h.地方交付税など
   (2)国税庁の税金定義
     a.辞典の定義  b.国税庁の定義  c.税金は「会費」か
   (3)税金の役割
   (4)税金と憲法
     a.憲法と租税原則
      ○租税法律主義 ○応能負担原則 ○生活費非課税の原則 ○申告納税制度
   (5)サラリ−マンと源泉徴収
     a.給与の源泉徴収制度  b.年末調整制度  c.外国との比較 ・アメリカ・イギリス・フランス
     d.制度改革の方向
 2 税金の原則
   (1)税金の原則
 3 現在の税制の問題点
   (1)所得税
   (2)法人税
   (3)消費税 

U 税務行政について
  1 税務行政の仕組
  2 現在の税務行政の問題点 
   (1)大蔵官僚の支配下で歪む行政
     a.調査権の政治的、恣意的行使  b.秘密主義  c.複雑化、国際化に遅れ d.違法な労務管理
  



T 税金について

 いまほど税金に国民の関心があつまったことはないと思われます。消費税率のアップ、高級官僚の腐敗、税金に寄生してるかのような実態が表に出てきているからです。 ただ、関心が高まる一方では政治と行政に対する不信感から政治、行政、結果的には「税金」への無関心層も生まれていることも無視できないと思います。

1 税金とは

(1)税金の分類と種類

「税金」とは「租税として納める金銭」のことです。ですから「税金」と「租税」とはほとんど同じ意味ですが、学問的に扱かわれるときは「租税」というようです。ここでは適宜使い分けます。税金について強い関心をもっている人でも現行の税金の種類をすべて言える人は極めて少ないでしょう。 税金には次の分類方法があります。 

a.国税と地方税

 課税権の主体の違いによる分類で、地方税は市町村税と都道府県税に分けられます。 現行の税制では別表のように区分けされていますが、絶対的なものでなく、今でももっと地方自治体に税源を移せという声には強いものがあります。 

b.内国税と関税

 広い意味での国税を更に分けると、普通いう国税と外国から輸入される貨物に対して課税される関税があります。 

c.直接税と間接税

 直接税は税金を負担する者と納付する者が同一であると予定されている税金で、間接税は税金を負担する者と納付する者が異なることを予定されています。 間接税で、納付する者が値段に税金分を加えて次の流通段階の者に税負担を移すことを「転嫁」といいますが、すべての間接税で「転嫁」が起きるとは限りません。価格の上での競争があれば値段に乗せられなくなります。逆に直接税でも「転嫁」することはよくあります。法人税が企業にとっては「原価」を構成するものに勘定されいることは知られています。不動産業者は不動産取得税や登録免許税も通常価格に上乗せします。 税収における直接税と間接税の比率を「直間比率」といい、消費税の導入に際し政府は間接税の比率が低いことを理由にあげましたが、上に述べたような理由によりこの割合を問題にすること自体が不合理であるとされています。ただ、一部の学者やマスコミのなかでは直間比率の是正はまだ意味をもって語られています。 

d.普通税と目的税

 特定の経費に充てることを目的として課税される税金を目的税と言います。そうではなく一般財源となる税を普通税といい、こちらが原則です。 現行税制では目的税ではないが、特定の法律により特定の事業等の財源となり、実質的に目的税ともいえる税目が多いことも議論になっています。 道路特定財源がそれです。国税としての揮発油(ガソリン)税、石油ガス税、自動車重量税、地方税では軽油取引税と自動車取得税があります。さらに自治体には地方道路譲与税、石油ガス譲与税、自動車重量譲与税が交付されます。この財源が道路関係事業を長期にわたって公共事業のなかでシェアトップの位置に置いてきたのです。収入に対応する事業ということで拡大し続けてきているわけです。背景には密接な利害関係にある官僚・政治家・業界の「共闘」癒着があったことは否定できないでしょう。 

e.独立税と付加税

  国または地方公共団体が他の租税と関係なく課税するのが独立税で、他の団体が課税した租税を基準として課税するのが付加税です。 昭和25年までは地方税の多くは国税の付加税として課税されていました。戦後は新憲法における自治権の強化の思想もあって付加税制度は禁止されました。しかし、事業税や住民税では付加税化が指摘されています。 

f.申告納税方式とその他の方法による税

 税務大学校発行の「税法入門」(以降、「税大入門」と表示)ではこの分類が挙げられています。納税者が課税標準や税額を申告することによって税額が決まる方式をとっているものを申告納税方式による税といい、課税主体の権限により賦課決定されるのも賦課課税方式よる税と言います。特別の課税手続きを要しないで法律上当然に納税義務が確定する税があります。源泉徴収の所得税、印紙税がこれに該当します。 

g.その他の分類

 これらの分類の他に、人税と物税、従量税と従価税、経常税と臨時税、収得税・財産税・消費税・流通税などの分類方法が採られます。 概ね用語自体を見れば推測がつきますが、流通税は理解しにくいかもしれません。税目としては、不動産取得税、登録免許税、印紙税などがこれにあたります。権利の取得・移転を始め取引に関する各種の事実ないし法的行為に着眼して課税されるものです。 

h.地方交付税など

 「税」という名前が付く用語で地方交付税があります。地方公共団体により住民の担税力が異なるので財政力の不均衡を調整する制度として設けられている制度のことです。基準財政収入が基準財政需要に充たない地方公共団体に対して、国が一般財源の財政援助資金として交付します。1954年に従来の地方財政平衡交付金から改称されました。 地方交付税の総額は、現在、所得税、法人税及び酒税の収入額の100分の32、消費税の収入額の100分の24(平成9年度より100分の29.5)並びにたばこ税の収入額の100分の25であり、これは国の一般会計から「交付税及び譲与税配付金特別会計」に繰り入れられ、この会計を通じて地方公共団体の財源不足の程度に応じて配分されます。 地方譲与税は国税として国が賦課徴収した税金を一定の割合で地方公共団体に譲与します。 消費譲与税(平成9年度から廃止)地方道路譲与税などがあります。

(2)国税庁の税金定義

a.辞典の定義

広辞苑では「租税−国家または地方公共団体が、その必要な経費を支弁するために、国民から強制的に徴収する収入。・・・」とあり、平凡社の「マイペデイア」では「税−国または地方公共団体が,一般的な経費にあてるため,課税権に基づいて,個別的に反対給付を与えないで(⇒目的税は例外),一般国民から強制的に徴収する金銭。金銭の代りに財貨が徴収されることもある。・・・」とあります。 

b.国税庁の定義

「税大入門」では財政学の通説として「国家及び地方公共団体が、その一般経費に充てる目的をもって、無償で一般国民から強制的に徴収する財である」という説明を紹介しています。(3頁)しかし、この「無償で強制的に徴収するもの」という箇所にこだわり、それは民主的な近代国家以前では実態を表していたが、現代の税は国民の同意を得て課税し、国民一般の利益のために使われるのであまりふさわしくないとし、この本の結論的な定義は「平和で豊かな生活を営んでいくためには、国や地方公共団体の活動は欠くことのできないものであり、その活動を支えるのが租税であって、言い換えると租税は、国民共通の費用であるということができる」(5頁)となっています。 ほとんどこれと同じ定義をしているのが、国税庁企画課長が編集している「私たちの税金」(7年度版)です。ここでは「税金は、民主主義国家の国民にとって、共同社会を維持するための、いわば会費であるということができるでしょう」(14頁)と説明されています。この「会費」は通俗的な用語でそれなりに説得力があるので現場ではよく使われます。それだけにその欺瞞性を指摘しておくのは有意義なことだと思い ます。 

c.税金は「会費」か

 ここで税金=会費説の問題点を挙げてみます。 
・会は構成員の均質が前提であるが、国は多種多様な構成員がいる。同列に扱うのは問題がある。 ・会は入会退会が原則として自由。 
・会は会員相互は原則として実質的に平等の関係があるが、国では形式的にあるだけである。 
・会員相互の利害関係は生じにくい。 
・会の役員の選挙は通常特定の集団・グループに有利ではない。 
・会の目的は特定できるが、国のそれは全般的・総合的である。 
・会は構成員の資格のない(国では主権者である国民)者の権限行使は排除される。 
・会の運営に関する事項は広く公開される。
 ここ数年、税金の番人であり、使途を決める実質的権限を持っている保守政治家と「高級」官僚の相次ぐ腐敗事件が表沙汰になっています。官僚と族議員と財界の癒着構造のもとで続けられているワンパターンの公共投資などの事実を見てもこれらの著者は今の税金を「共通の費用」つまり「会費」と言うのでしょうか。集められた税金が多くの国民の生活に役立っていることは確かですが、税金のすべてがそういうふうに使われていると断言できる人はいないでしょう。 ほとんどの国民にとっては「反対給付なしで強制的に徴収される」という定義の方がより実感に近いでしょう。 

(3)税金の役割

 税金の目的・機能は第一に資金の調達です。 第二に所得の再分配です。富裕な者からより多くの税を徴収し社会保障給付に充てるといった働きのことです。再分配の程度、方法については時代により変遷することもあり、立場によって求める水準が違ってきます。 第三に景気調整の機能が挙げられます。 ただ、最近では財政を動員して景気調整をすることの可否、有効性が問われることが多くなっています。

(4)税金と憲法

 次に、財政と税金に関して憲法はどう規定し、そこからどういう原則が導かれるかを考えます。 憲法で税金に関係する条項は次の2つです。
 ・憲法第30条〔納税の義務〕
  国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
 ・第84条〔課税の要件〕
  あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを
 必要 とする。
  税という字は出てきませんが次の条文も原理、原則を考えるときは重要です。
 ・第11条〔基本的人権の享有と本質〕
  国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、  侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
 ・第13条〔個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重〕
  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、  公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
 ・第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、  経済的又は社会的関係において、差別されない。
 ・第25条〔生存権、国の生存権保障義務〕
  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 国は、すべての生活部面   について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努  めなければならない。

@憲法と租税原則

 ○租税法律主義
  誰がどんな税金をどういう計算でいくらの税額を納付するかが法律で定められていなけれ ならない ということです。「通達課税」などが問題になります。また、立法と執行における 恣意を排除することも 意味します。
 ○応能負担原則 
 税金を能力に応じて負担する原則です。財政学でいう垂直的公平原則と同じことを意味し ます。最 近は水平的公平(同じ所得があり同じ消費をする人は同じ負担をという考え方)が 強調されますが、これは垂直的公平が実現された上ではじめて適用されるべきだといわれて います。所得といっても利子・配当所得と給与所得は性質が違い、税金を負担できる力(担 税力)が異なります。 
 ○生活費非課税の原則 
 最低生活費には課税しないという原則で、ここでいう生活費の水準は、健康にして文化的なものでなければなりません。
 ○申告納税制度  国民主権の原理の税法における適用としてこの制度があります。国税には原則としてこの 制度が採用されていますが、地方税ではごく一部しか採用されていません。特にサラリーマ ンにはこの制度を利用する余地が基本的にはありません。納税者意識の形成という観点から も制度の改善が必要です。

(5)サラリ−マンと源泉徴収

  源泉徴収制度は給与などの支払者が給与などを支払う時点で税金を天引きし(本来の負担者に替わって納付する制度です。対象となる所得は、利子・配当・給与・退職所得・雑所得(報酬・料金等)ならびに事業・一時所得です。 

a.給与の源泉徴収制度 

  サラリーマンの給与の源泉徴収制度は1940年、戦費調達のための手段として設けられました。 当時の大蔵省主税局の担当者が書いた解説書の序文(一部)が昨年発行された「源泉徴収と年末調整」(齋藤貴男著・中公新書)で紹介されていました。
   所謂準戦時体制から戦時体制ヘ、更に東亜新秩序の建設を目指す国防国家体制の完成ヘー
   −皇国日本の目覚ましい飛躍は大きな足跡を印して建設の彼岸へ到達せんとしてゐる。(中略)
  滋に於てか源泉課税が国民大衆の前に大きくクロ−ズアップされて来たのは無理からぬ話である。
  源泉課税−−其の言葉は国民に如何なる共感を与へたであらうか。(中略)
  勤労所得は収入の基礎が最も薄弱である。担税力の最も弱いものであるとして課税上特別
  に考慮され、比較的好遇されて来たが、戦時財政の重圧化の波は之等の階級にまでひたひ
  たと押し寄せて来た。然し我々は之を強制された頁納とは考へたくない。租税を通じて万民輔
  翼の実践ヘ−租税を通じて至純な奉公の悦びを体得したいのである。

 この制度は所得の把握が正確、徴税の確保が容易、徴税の費用が安い、納税者の「税痛」感が軽いことなど、徴税側のメリットが特徴です。なお、創設時から1950年まで徴収義務者に一人当たり50銭の交付金を支払う規定がありましたが、実際に請求する人は少なかったといわれています。 

b.年末調整制度

 年末調整はわが国独自といってもよい制度で1947年にできました。源泉徴収をされた給与所得のみの所得者の過不足税額精算を、源泉徴収義務者に代行させる制度です。多数の給与所得者の納税額の精算に要する手間を省くため、徴税上の便宜から設けられました。占領軍もこれには反対したそうです。なお、1940年からこの制度ができるまではサラリーマンには精算の仕組みが適用されていませんでした。 この制度があるためサラリーマンは原則として税法上納税者としての立場を認められていません。これが税金と税務行政への無関心、結果的には政治・行政への無関心ともつながっていると言えるのではないでしょうか。

c.外国との比較

 諸外国ではどうなっているでしょう。 前掲の「源泉徴収と年末調整」から引用します。

 ・アメリカ

  自然人たる納税義務者は、暦年基準(1月1日、12月31日)によりその所得を申告し、  納税する。申告・納税期限は、毎年4月15日である。 給与所得等は、源泉徴収の対象となっているが、わが国のように雇用主による「年末調整」  は行われない。そのため原則としてすべての納税義務者は、確定申告書を提出しなければ  ならないが、総所得が一定額以下(夫婦共同申 告の場合い、1万6000ドル−1992年)ならば、申告しなくてもよい。

 ・イギリス

  イギリスの所得税制度は賦課課税制度をとっているが、当局が税額を算出するために納税者は申告する必要がある。(中略)給与所得に係る税額はイギリス独特の源泉徴収制度PAYE(−略−)により徴収が行われる。PAYEにおいては、給与の支払いを行う雇用者が源泉徴収義務者になり、給与の  支払時に所得税額を源泉徴収し、源泉徴収義務者は四半期ごとに内国歳入庁にその税額を納付する。源泉徴収の際の人的控除等の調整は日本では年末調整という方法で行われるが、イギリスのPAYEでは各支払時にそれまでの支払額の累積額に村して調整が行われる。したがって、年末調整はなく、大部分の給与所得者は課税年度終了後の申告を行う必要もない。

 ・フランス

  納税義務者は毎年2月28日までに、所得総額や家族状況等の詳細を記した申告書を税務署に提出しなければならない。納付は通常年2回(2月15日までと5月15日まで) 

d.制度改革の方向

 北野弘久氏は次のことを提案しています。
 ・給与所得控除を法定概算経費控除、勤労控除、把握控除、利子控除に分解して独立控除とする。
 ・給与所得者の勤務費用は実態調査により法定概算経費控除に反映させる。
 ・実額経費控除額が法定概算経費控除額を上回ったばあいは選択により超過額を控除できるようにする。
 ・年末調整を選択制とし、納税申告権を給与所得者にも保障する。
 ・給与所得者の法的地位を明確にする。 北野氏は同時に事業税制についても、事業主報酬・家族労賃等を給与所得として事業  所得から分離すること、企業所得分(事業所得から給与・労賃とされるものを除いた部分)については標準率によることができる   ことなどを提案しています。(「直接税と間接税」岩波ブックレットNO.105より要約)

2 税金の原則 

(1)税金の原則

 各種のテキストで引かれるのはアダム・スミス、ワグナー、マスグレイブの掲げた原則です。なかでも最近ではマスグレイブの原則が引かれ、そのなかの中立性の原則が重視される傾向にあります。

3 現在の税制の問題点

 問題点の詳細は他の分科会の報告などを参考にしてほしいのですが、主要な問題点を税目別に挙げます。

(1)所得税

 ・低い課税最低限。基礎控除は38万円。
 ・利子や配当、譲渡所得が分離課税で総合課税になっていない。
 ・あいまいな給与所得控除 ・緩和される累進課税

(2)法人税

 ・引当金、準備金などで課税ベースが狭くなっている。

(3)消費税

 ・低い所得の人ほど高い率で負担する逆進性
 ・物価上昇を招く ・中小企業へ利益圧迫と記帳負担の増加
 ・導入と税率アップともに国民の多数が支持していない

U 税務行政について

 1 税務行政の仕組 

  税務行政の機構は図1のとおりです。 実際の税務署、国税局の業務のなかで重要なのは広い意味での税務調査です。 このことを「税大入門」は「調査は、各税を通じて、各種の事務のなかで最も主要なものである。調査は、納税者の申告の誤りを是正するため厳正に行わなければならないが、その反面、調査を通じて納税者がその後は正しい申告をするように指導することも必要である。」(125頁)と書き、さらに「税法では、税務職員が調査をするに当たって、納税者等に対して質問や検査をすることができる旨を定めている。税務職員がこのように質問検査をすることができる権限を質問検査権という。職員が質問検査権を行使する場合には、必ず「検査章」を携行することとしている。税務職員の質問検査権は、納税義務の適正を実現という行政上の目的を実現するために税務職員対し認められたものであり、質問・検査の相手方が質問に答えなかったり、偽りの答弁をしたり、あるいは検査の拒否、妨害をした場合には、罰則がある。」と付け加えています。
 近年、税の滞納の増加が注目されていますが、これに対応する管理・徴収の業務も重要です。ただ、法律論、財政論で広く論じられることが少ないこともあり納税者、国民、研究者の関心は一部にしか及んでいないというのが実状ではないでしょうか。

 2 現在の税務行政の問題点


  現在の税務行政機構が持つ問題点をあげておきます。

(1)大蔵官僚の支配下で歪む行政

 国全体の支配構造のなかでの大蔵官僚の位置を反映して国民のための行政、言い換えるならば本来の税務行政としてあるべき姿から遠いものになっています。 

a.調査権の政治的、恣意的行使

 大企業や一部特権団体個人には緩く、反対に政府に批判的な団体や、個人には純粋の税務行政の要請としてではなく、政治的思惑をもって調査権を行使する傾向が強くなっています。 一方で、税金を還付する業務へ力を注ぐことは少なくできるだけ負担を少なくする傾向にあります。 高級官僚、保守政治家の意識の反映だと思われますが、納税者・国民の権利識を行政の「障害」と認識しているようです。 

b.秘密主義

 税務行政の詳細についての情報公開はほとんどありません。税務調査の結果も一般には「脱税白書」としてセンセ−ショナルに扱われるような素材の提供はしますが、関心のある納税者や国民、研究者が分析できるような素材は公開しません。 一方では租税教育に異常と言っても良いくらい力を入れて各階層向けのパンフレットを作成し、税金=会費説を広めようとやっきになっています。 また、実質的に納税者番号制度が導入される危険性が高いKSK(国税総合管理システム)についても国民に向けて情報の公開はされてません。 

c.複雑化、国際化に遅れ

 経済の複雑化、国際化に対応できていません。問題意識は持っているようですが、企業の海外進出や事業展開から大きく遅れています。また、住専問題でも結果的には国税局の査察部が動員されましたが、ある意味では着手が遅れたとも言えます。脱税の摘発に活躍する査察も中小企業ばかりが対象になり、上場企業などは対象になりません。 

d.違法な労務管理

 国税労働者の運動を封じ込めるための違法な労務政策も続いています。これまで述べたような歪んだ税制・税務行政を維持するには権利を主張し、国民ための行政を指向する全国税の運動は障害になるのでしょう。

 今回の報告は税金入門と税務行政入門を目指しましたが、極めて初歩的なところにしか触れられていません。この分科会に参加された方が今後研究し、運動するなかで少しでも参考になれば幸いです。