この文章は税研集会(1996年1月開催)の「暮らしと税金」分科会の報告として大
辺が書いたものの抜粋です。
原文にはいろんな図表が含まれていましたが、ここでは都合により省略しています。


文書内リンク  社会保障の財源  政治家や官僚の脱税  寄付金控除利用の不正還付  国会議員、政党、官僚の税金モラル

          政党助成金   情報独占と情報操作 、各種審議会の在り方


1 はじめに

 暮らしと税金の関わりを考えるとき、暮らしに大きな影響を与える政治を行い行
政を運営してきた人々の思想と行動を探ることは興味本位からではなく、彼等が私
たち勤労国民へ「高負担」を求める資格があるのかを問いたいからです。

(1)国会議員、政党、官僚の税金モラル

a.中島事件

 まず記憶に新しいのが、中島義雄・前財政研究所長(元主計局次長)に絡む疑惑
です。いろんな疑惑が挙げられましたが、大蔵省の正式発表では次のとおり(一部
省略)でした。
 ・知人からの現金贈与と低利融資
  知人ら約10人から約10年間で総額5千万〜6千万円の贈与を受け、別の1
人から6〜7年間で同1億円の低利融資を受けた。

・自宅建築資金疑惑

  土地、家屋の購入費や建築資金総額約1億2300万円のうち、4400万円
について兄弟、妻の実家からの贈与で賄った。

  一般職員がこれと同じようなことをすればまちがいなく、懲戒免職だったので
しょうが、大蔵省は「信用失墜行為であり、在職中で あれば懲戒対象になるが、
過去の例から見て懲戒免職までには至らない。本人は既に退職しており追加処分は
ない。退職金は  まだ払っていないが、禁固以上の刑に該当するという新事実が
出れば支払われない」と極めて緩やかな処理としています。

 中島氏が長年在籍した主計局は、国の予算の配分先を決定する権限があり、各省
庁や自治体、政治家、業界団体、国民の暮らしと直接結びつく仕事をしています。
中島氏の倫理感、職務意識を聞いてみたいものです。特に、大蔵官僚の脱税という
ことではもっと厳しく責任を追及されるべきです。中島氏は関東信越国税局三条税
務署署長(新潟県)や国税庁査察課課長補佐を経験していますが、脱税について
「相手先が納税を終えた所得から贈与を受ければ申告の必要はないと思っていた」
と釈明したそうです。厳しい処分をすることなしには、国民に対する責任を自覚し
たことにならないし、他の高級官僚への警告ともなりません。

.政党助成金

 次に政治家、特に共産党など一部を除く政党の税金に対する考え方がよく表れて
いるのが政党助成法に対する態度です。今年1月1日に施行された政党助成法は国
民一人当たり250円、総額309億円を分けあおうというものです。

最近では政党助成法の「三分の二」条項の撤廃を急ごうとしていることも納税者の
視点からすると許せないことです。

 国民一人一人にしてみれば支持もしていない政党に金が流れることになります。
具体的にみてみると、自民党は7月の参議院選挙では得票は1109万ですが、受
け取る交付額は5343万票分の133億5874万円にもなります。政党助成法
は一方で「適切に使用しなければならない」とも定めていますが、保守政党をはじ
めとした政治家の会合が庶民は一生のうちでも一度も利用しないような高級ホテル
や料亭で開かれるとはよく聞く話ですが、こうした費用もこれからは税金で賄われ
ることになります。
 交付金を前年の実質収入の三分の二を上限にしているこの条項を外して、常に満
額をもらえるようにしようという目的があります。

フランスは八九年の導入からわずか四年で、交付金が五倍に急増し、イタリアで
も、欧州議会などに交付先を拡大しながら、額も引き上げるお手盛りを続けました
(*イタリアでは一昨年、国民投票で政党助成が廃止された。)こうした事態を招
くのが目に浮かぶようです。政党が税金についてどう考えているかはいろんな局面
で表われますが、特に税金から直接自らへ交付される助成金では明らかになるはず
です。

c.寄付金控除利用の不正還付

 政治家、政党と税金の関係でこれほどひどい話は無いと思わせるのが1993年に
相次いで発覚した寄付金控除を利用した不正還付事件です。

以下新聞から部分引用をすると

●東京国税局は十五日、神奈川三区選出の甘利明衆院議員(自民)の政治団体を舞
台にした所得税不正還付事件で政治資金規正法違反容疑などで逮捕された「茅ケ崎
甘利明の会」代表、A氏▽「甘利明を育てる会」代表、B氏の両容疑者を所得税法違
反(脱税)の疑いで横浜地検に告発した。−−計二十二人が総額一億五千万円の寄付
をしたようにみせかけ、一九八九年から九一年の三年分の所得税の還付金として総額
六千八百万円を受け取り、脱税した。93/11/15
『毎日』
 *一部引用記事の訂正あり(H14.4.26:HP作成者)

● 新生党の大谷忠雄代議士(愛知六区)支援を目的にした政治団体「東海政経研
究会」(名古屋市中区)が、名古屋青年会議所(名古屋JC)の特別会員(OB)
らに対し、大幅に水増しした政治献金の領収書を出し、OBらはそれをもとに不正
な所得税還付を受けていたことが十三日、朝日新聞社の調べでわかった。93/11/14
『朝日』

●衆院愛知五区選出で、日本新党の近藤豊代議士(59)の政治団体が、献金した
支持者に水増し領収書を発行し、支持者が所得税の不正還付を受けていた疑いがあ
ると告発されていた問題で、名古屋地検と愛知県警捜査二課、名古屋国税局は三十
日午前、豊橋市の近藤代議士の事務所や元秘書(58)の自宅など数カ所を捜索、
強制捜査に乗り出した。

●<社説>カラ献金の拡散を許すな   

 カラ献金という名の脱税が横行している。国会議員や県議の政治資金団体を舞台
にした悪質な税金泥棒であるだけに、憤りを覚える。
  なぜ、こんな不正がまかり通るかというと、第一は、税務当局が議員センセイ
に甘いからである。よほどのことがない限り、見て見ぬふりをする。
 選良を信頼できないというのは悲しいことである。しかし、それが現実である。
必要な改革には目をつむり、おいしいところだけを食い逃げしようとする議員心理
を憎む。93/12/7『毎日』
  「政治家に古典道徳の正直や清潔などという徳目を求めるのは、八百屋で魚を
くれというのに等しい」と秦野章氏が法相時代に発言したらしいが、これを否定で
きないのが悲しい現実です。
  こうした事件が起きたときの政党としてのけじめのつけかたにも注目せざるを
えません。その政党が国民に責任を感じるなら議員や下部組織を厳しく追及し、除
名などの処分をすべきなのですが、厳正な調査や処分をしたという話は聞きませ
ん。

d.政治家・官僚の脱税事件

 朝日新聞社の発行する『AERA』の44号(1992.11.3号)に「永田町は『ノ−税
天国』政治家と国税当局の攻防15年」という記事が載りました。内容は政治家が
「政治資金」という隠れ蓑を着て課税を逃れて来たことを告発するものとなってい
ます。この記事のすごいところはその時点で把握された「衆参の国会議員で申告漏
れや、隠し所得があった者」を金額入りで写真や経歴とともに明らかにしている点
です。
 消費税を導入した竹下登氏、大蔵事務次官出身の相沢英之氏(この人の申告漏れ
に対する言い訳は「主計畑で予算づくりをやっていたから税金には詳しくない」と
いうものだったということです。)とともに山口敏夫氏もちゃんと登場していま
す。
  記事にもありますが政治家の税務調査の実施率は2%であるといいます。そう
した低率でかつ表面化したものだけでこれですから実態が推測できます。
  こうした政治家や政党が国民、なかでも生活費を切り詰めている人に「税金は
社会の会費」と説くことはできないはずですし、また自らの責任を感じているとは
言えないでしょう。さらに庶民の福祉に資するような政策を遂行しようとしている
とは想像できません。

(2)高級官僚は真に公務員たりえているか

 公務員は「全体の奉仕者」と言われます。地位の高い人ほどこの自覚があってし
かるべきですが、どうでしょうか。

 a.情報独占と情報操作 、各種審議会の在り方

  官僚が行政を支配している例として審議会メンバーの構成や運営がよく問題になり
ます。これについて、面白い話があります。他から見れば大蔵省の御用審議会と見
られている税調の加藤寛会長が与党行政改革プロジェクトチーム公聴会に呼ばれた
際に審議会批判をしたと言うのです。
 (以下引用)
  加藤会長はまず、審議会の運用について、官僚の言いなりになっている「官僚
主導型」や省庁の政策にお墨付きを与えるだけの「諮問是認型」が多いと批判。特
に、官僚OBが審議会の会長になっているケースを挙げ「下世話の話だが、勲章の
肥やしにしようとの考えもあるようだ」と、強く非難した。また大蔵省が事務局を
務める財政審について「開いても全然意見が出ない。主計局の言いなりだ」と指摘
した上で「まず縦割り行政を打破するために、歳入を決める税調と歳出を決める財
政審の合同会議をつくるなど、大規模な制度改革を答申できる臨時行政改革推進審
議会(臨調)型審議会をどんどんつくるべきだ」と提言した。
  加藤会長の舌鋒(ぜっぽう)は消費税問題にも及び「消費税を二〇%にして、
その代わり所得税と法人税をゼロにすることもできる。消費税は不公平だという
が、低所得の人から消費税を取らない方法を考えれば公平だ」と怪気炎。(一部省
略)*共同通信 95/8/24

b.世論誘導

 官僚組織が一定の世論を誘導するために不正確な情報を公開するというのもよく
あることです。
  大蔵官僚の世論誘導の例として所得税の課税最低限のことを見ていきます。平
成7年分で標準世帯(夫婦と子ども2人の給与所得者で、子ども2人のうち1人が
16才〜22才までの場合)で353万円となっています。マスコミや学者、政府
が課税最低限のことを議論するときに殆どの場合あげる数字がこれです。
  「私たちの税制」(大蔵省発行・1995年7月発行)で国際比較をしていま
すが、これについて私たちは(イ)邦貨換算を日本の金額が高くなる為替レートを
使用している*平成7年分では1ドルを99円としている。(ロ)社会保険料控除
も含めている。社会保険の負担が増加すればするほど課税最低限が高く表示される
(ハ)配偶者の所得が殆どないケースを想定して配偶者特別控除を含めている(
二)給与所得控除も含めているなどの問題点をあげてきました。
  実態論として見た場合には次のような矛盾もあります。
 国税庁企画課が毎年発表している「民間給与の実態」の企業規模別及び年齢階層
別の給与所得者数・給与額表/その3平均給与によると、年齢が20〜24才で男
の平均給与は3037千円、25〜29才で4015千円となります。特定扶養控
除対象者の年齢などを考えると大蔵官僚のいう「標準家族」が本当の意味での「標
準」ではないことがはっきりしています。

 年金の給付額の国際比較でも同じ様な誘導、結果的には国民を騙すような数字が
大蔵官僚と厚生官僚によって示され続けています。

 図2が上と同じく「わたしたちの税制」のなかで「年金の給付は国際的にみても
高いレベル」として掲げられているものです。
 あの中島義雄氏も主計官時代に書いた「あなたの長寿社会読本」のなかで「実績
の平均値において、欧米諸国に比し全く遜色のない水準に達しているばかりか、男
子が新たに受ける年金の標準額であるモデル年金額をみれば、相当上回る水準とな
っています」と評価していますが、実際はどうでしょう。
  川上則道氏は「高齢化社会はこうすれば支えられる」(あけび書房)のなかで
次の問題点を挙げています。
 (イ)とりあげるのが厚生年金に限られ、それも受給者の上位20%の水準に位
置するモデルをとりあげる。実際の年金の受給者の    60%弱は平均月額3
万円弱の国民年金を受給している
 (ロ)為替レート換算で比較をするが、年金は生活費として使われるので消費購
買力平価で換算するのが適切である。この他に外    国の制度、特にスウェー
デンの年金額は不正確な表現となっていると思われます。検討の余地はあります
が、図 ではスウェ    ーデンの年金額は「平成7年度版厚生白書」によると
基礎年金が93,980円で付加年金の平均額が97,029円となってい   
 ます。にもかかわらず図 では13万1千円にになっています。基本的に2階だ
てという点では日本の厚生年金と同じですから    、191,009円となら
なければならないはずです。*両資料の年度は同じ年度となっています。

 なお、川口弘氏が「高齢化社会は本当に危機か」で厚生官僚がやはりスウェーデ
ンの年金の額のことで10年間まちがい(故意?)を続けたことを指摘しているこ
とも付け加えておきます。大蔵官僚はじめ、高級官僚が批判される問題に「天下
り」があります。紙幅の都合で触れませんが、批判されるような状況は続いていま
す。

c.政治家、官僚の本音

 日本国民が主権者として、あるいは納税者として官僚や保守政治家をどうトータル
に把握するかは非常に重大な問題だと思います。 ともすると、エリート美化論が
はびこるなかでは「優秀な頭脳を持ち、国家に貢献しているのだから」という一般
的な声に影響されがちになりますが、素顔というか本音というかとにかく実態を知
ることが現代においてはその人の社会観をも大きく左右すると言っても過言ではな
いでしょう。
  「日本のエリート」(大月書店発行)で北川隆吉氏と貝沼洵氏は歴史を遡りな
がら「パワーエリートたちを結束させたギリギリの共通項は、思想でも『神』でも
なく、文化出もない。極端にいえば、『国益』の名のもとに、じつは自分たちの私
利私益、つまり、地位、特権、富などの利益を守るということにつきる。このかぎ
りで、パワーエリート集団は、新奇なものを追いもとめ、社会革新をすすめるし、
たがいの不一致を無限包摂的に許容しあうわけである」と彼らの言動を分析してい
ます。本質を突いた言葉として紹介しておきたいと思います。

(3)税金は100%国民のために

 大蔵省は前出の「わたしたちの税制」のなかで「国民一人一人が『社会の会費』で
ある税金の役割…」(24頁)と説明しています。いわゆる税金=会費説です。こ
うした説明は俗的には非常に説得力を持っているので実務のなかでもいたる場面で
使われています。税金が会費と異なるということをわたしたちの立場から展開する
ことは比較的容易ですが、ここではあえて「会費」説に同調してみたいと思いま
す。ただし、大蔵省の言う意味あいではなく、「税金が会費と言うならば、会費を
100%会員のために使いなさい、そして会の方針決定にたずさわったり、会の運
営に従事するものはひたすら会員のために尽くしなさい」という意味あいでです。




◎ 暮らしと税金・社会保障負担

 「暮らし」にはいろんな意味が含まれます。語源的には「日が暮れる」から「一
日を過ごす」という意味を経て室町時代のころから「生計」のことを意味するよう
になったということです。ここで主に考察の対象とする「家計」は暮らしの一側面
ですが、辞典的定義をすれば、「暮らしを維持するための収支とその運営」のこと
を言います。

(1)暮らしと政府・自治体

 税金や社会保障負担以外に「家計」と政府・自治体を結びつけるものに「公共料
金」があります。「公共料金」にはa.行政サービスの対価(郵便料金、国立大学
の授業料など)b.政策として政府が決定する価格(米価など)c.独占や参入規
制を設けるかわりに政府の認可等を要する価格(電気料金、電話料金、鉄道運賃な
ど)があります。公共料金は消費者物価のウェートの約2割を占めます。「知恵
蔵」(朝日新聞社)今、低金利政策の下で利子収入の減少が特に高齢者世帯の収入
に大きな影響を与えていますが、ここにも政府と「暮らし」の関わりが表れていま
す。このように、「暮らし」を語るときに政府・自治体との関係は無視できないの
が現代の「暮らし」です。

 

(2)暮らしと税金・社会保障負担

 ここでは、家計と税金支出について見ていきます。いろんな家計調査が税金と社会
保障負担を並行してとりあげているので同時に検討します 全国税が税研集会で毎
年発表してきた「暮らしの中の税金チェック表(1994年)」によると31歳・片働
きのばあい直接税・間接税(消費税含む)で収入の7.6%、社会保障負担率は
8.3%でした。租税と社会保障負担を合計するとその負担率は15.94%でし
た。1993年では30歳・片働きで年収505万円の場合16.7%でした。1
993年分でチェック表の提出のあった9人の租税・社会保障負担率は単純平均で
20.0%となっています。全国税の「チェック表」では消費税の負担額が推計に
よるものといえ明示されているのが特徴となっています。
  日本生活協同組合連合会の「家計簿からみた私たちのくらし」は1957年以
来継続されている生計費調査で、1978年からは全国で統一した家計簿により5
00人の参加により再スタ−トしています。1994年の調査では各月のサンプル
数が平均1801という本格的なものとなっています。この調査による租税・社会
保障負担の1988年〜1994年の平均負担額の推移を表しているのが表 で
す。これによると、1994年の租税・社会保障負担の対実収入比は15.6%に
なります。1988年からの推移は88年−15.9%、89年−15.4%、90年−1
5.7%、91年−16.0%、92年−16.3%、93年−16.5%と毎年16%を前
後しています。*各世帯から提出される様式からみると消費税は上の租税のなかに
は含まれていないように思われます。総務庁の家計調査での平均値は非消費支出
(勤労所得税・他の税・社会保障費・他の非消費支出からなる)の対実収入比は1
5.2%となっています。生協連の調査で1994年が実収入が減少したのに社会
保険料が増えていることを示し、その原因が20歳以上の学生の年金加入義務付け
による負担増にあることを指摘しています。お なじ箇所で20歳以上の学生で自分
で国民年金を支払っているのは全体の5.6%となっていることを大学生協連の調
査から引用しています。租税負担の調査で課題となるのは消費税のより正確な額の
算出にあると思われます。

(3)現代の家計の特徴

 「現代生活論」(松村他著/有斐閣)は家計を含む暮らし=生活を学問的に分析
した本ですが、そのなかに現代の家計の特徴が指摘されていますので紹介しておき
ます。
  a.家計支出が社会的に強制され、社会的に固定化された部分と個々の家計の
自由裁量にまかされる部分とに分かれている   b.きわめて長期の構造をもつ
ようになっている。過去の消費の支払いをしたり、将来の生活のための貯金、保険
の掛け金などが  大きな比重を占める。家計規模の大きさは消費生活の豊かさを
示すというよりは過去のツケ、将来のための控除としての意味が  大きい。
  c.消費構造というよりも金融構造としての特徴を強めている。自動振込、貯
蓄、社会保障支払の増加している。

 (a〜cは原文を要約したものです)
 税金や社会保障負担を暮らし・家計全体のなかで位置付けることは科学的考察に
とって有意義だと思われます。


◎社会保障の財源のありかた

 社会保障財源について政府・厚生省は社会保険料を中心することでほぼ一貫してい
ます。これまで見てきた、年金、医療、介護ともにそれが強調されます。ここでは
そうした考え方とその問題点の検討をします。

 a.「21世紀ビジョン」では

 今後の社会保障財源について厚生省が考えている方向は「21世紀ビジョン−少
子・高齢化社会に向けて−」(1994年3月28日)で表明されています。
 一部を要約して紹介します。
 「社会保障の財源構造の在り方については,@租税負担と社会保険料負担の関係
については,制度に対する貢献が給付に反映されるという点で,受益と負担の関係
が最も明確である社会保険料負担中心の枠組みは,…今後とも基本的に維持する必
要がある。A租税財源についても,…直接税のウェイトが高いことから税収が不安
定なものとなるおそれがあるとともに,…負担の増加によって現役勤労世代,特に
サラリーマン層の負担が過重なものとなるおそれがある。…社会保障の租税財源の
安定的確保を図っていくためには,世代間の負担の公平やサラリーマン層の負担増
の緩和など国民的公平性が確保されるような財源構造の実現を図っていく必要があ
る。
  …なお,こうした税負担の在り方に関連して,福祉財源として目的税を導入す
ることについては,…福祉財源の確保という観点からみて,一定の財源が確実に確
保されるというメリットがある反面,社会保障給付費は,今後急速な伸びが見込ま
れることから,社会保障給付費の伸びに対応した税負担の増加を図っていく必要が
あること,税収が落ち込んだり,社会保障給付費が税収を上回る伸びとなった場合
には,社会保障の給付やサービスが制約されるおそれがあること,などの問題があ
り,慎重な対応が必要である。」 要するに、社会保障の財源は社会保険料中心で
いく、租税財源としては安定的な消費税がより適当、目的税については慎重な対応
をするといいたいようです。 

 b.社会保険料主義の問題点

 まず社会保険中心主義は次の短所があります。
(イ)保険料負担が逆進性をもっています。これは保険料が対収入比で頭打ちのこ
とが多く、所得の再分配という点からみて問題です。(ロ)保険料負担のできない
層が保険制度から排除されやすくなる。現在の国民年金、国民健康保険で起きてい
る問題です。 (ハ)給付の水準が拠出の範囲に限定される傾向があります。保険
の枠内での収支バランスをとろうとするとそうなるのは当然です。 里見賢治氏は
「社会保険方式には固有のディレンマがある」と指摘しています。その意味は「給
付水準を改善しようとすると保険料を引上げることになるが、保険料を上げると負
担能力のない階層は脱落する」「低所得階層の脱落を回避しようとすれば給付水準
は不充分なものとなる」というものです。

 c.租税中心主義の長所

 社会保険中心主義に対抗するのは租税中心主義です。この方式の長所は次の点に
あります。
 (イ)負担の逆進性を回避できることです。累進課税をすることによって再分配
機能は働きます。
 (ロ)社会保障制度がもつべき普遍性ともっとも適合的です。「拠出なき受益」
も原則として排除されません。
 (ハ)給付水準の改善が柔軟にできます。社会保険方式は原則として拠出と給付
が連動するのが特徴ですが租税が財源ですと連   動の必要性はなくなります。

 租税を中心として社会保障の財源とするのが好ましいといっても税であるなら何
でも良いということではありません。垂直的公平を保ち、直接税で累進構造をもつ
ことが必要です。

 

d.目的税化の問題点

 「21世紀ビジョン」も慎重に対応するという目的税化は、社会保障財源が充分保
障されることに直接結びつかず、逆に福祉予算の制約条件となること考えられま
す。また社会保障費用の増大とともに消費税の増税へ道を開くことになりかねませ
ん。


参考文献等

■福祉財政論/右田・里見・平野・山本著 /ミネルヴァ書房/
■高齢化社会はこうすれば支えられる/川上則道/あけび書房 
■日本のエリ−ト/北川・貝沼著/大月書店
■知恵蔵1996年版/朝日新聞社
■現代生活論/松村・岩田・宮本著/有斐閣
■労働運動臨時増刊デ−タで読む日本の労 働・経済/新日本出版社
■税務統計から見た民間給与の実態/国税 庁企画課/
■家計簿からみた私たちのくらし1995/日本生活協同組合連合会
■小冊子わたしたちに税制/大蔵省/1995年7月発行
 

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