暮らしと税金分科会
 
 
 
 
T はじめに
 現在の不況は、後世「小泉、竹中不況」あるいは、「構造改革不況」と呼ばれるかもしれません。
「構造改革なしに景気の回復はない」と小泉首相が言い続けている間に、不況が一層進行する皮
肉な結果となっています。最近では優先課題とした「不良債権の処理」が不況を深刻なものとする
指摘が相次いでいます。
 自衛隊の海外派遣問題で野党議員から追及された小泉首相は、「神学論争はやめよう」と声を荒
らげ「常識的な判断」を連発したそうですが、「聖域なき構造改革」も「常識」と化し、国・地方を通じて
多様な分野で行われようとしています。小泉首相を異常に美化した報道がなされる間に「構造改革」
は「常識」となってしまった感があります。
 そうした背景のもとで「構造改革」は基本的な中身が「骨太方針」とかいう妙なネーミングのもとで
一気に広まりました。
 骨太の7つの改革プログラムは以下の通りです。
1.民営化・規制改革プログラム〜民間が自由に経済活動を行える社会
2.チャレンジャー支援プログラム〜「頑張りがいのある社会システム」
3.保険機能強化プログラム〜 国民の「安心」と生活の「安定」
4.知的資産倍増プログラム〜「個人の選択の自由の下での人材育成」
5.生活維新プログラム〜「のびのびと働き、生活できる基盤整備」
6.地方自立・活性化プログラム〜地方ができることは地方に 
7.財政改革プログラム〜21世紀にふさわしい簡素で効率的な政府の実現
  文字面を見る限り、一見して「これはおかしい!」といえるものはないですが、中身をよく見てみ
ると、「新自由主義」で貫かれています。
 今年の「暮らしと税金」分科会は「小泉改革」がどう暮らしを直撃し、そのゆくえを探り、私たちが
共有すべき、打開の道を探りたいと思います。
 
U 暮らしの現状
 1 高い失業率
  ついに10月の完全失業率は過去最悪の5.4%となりました。特に、男性は0.4ポイント悪化の
5.8%に達し、これも過去最悪の数字です。就業者数は前年同月より103万人少ない6405万人で、
第1次石油危機後の74年に次ぐ過去2番目の大幅減少となっています。
 完全失業者数は352万人(前年同月比38万人増)と7カ月連続で前年を上回っています。さすが
に、坂口力厚労相も「雇用政策としての限界に近づきつつある。経済全体からの政策が望まれる」
と発言したそうです。
































 「朝日」(11/30夕刊)は「男性の失業率が急速に悪化したのは、就業者の大幅な減少が原因。
特に、正社員を中心とした常用雇用が67万人減った。また、完全失業者数も女性132万人に対し
て男性220万人。男性は増加幅が拡大しており、会社の倒産やリストラによる非自発的失業が3
カ月連続で前年より増えた。」と書いていました。
 小泉首相は「厳しさを増している。しかし、改革を進めなければ、ますます失業率は高まる」と
発言したそうです。
 

 2 社会的責任を放棄の大企業

 こうした、失業率増加の直接の原因の一つが大企業のリストラです。 10以降新聞各紙は人員
削減を扱い、
11月18日の「日経」は人員削減計画の一覧表の載せています。そこから人数が多いところを引
用すると、松下電器産業(02年3月:8000人)、日立製作所(02年3月:11,100)、東芝(04年3月
:17,000)、西日本旅客鉄道(06年3月:6,000)、富士通(02年3月:5,500)と続きます。
 政府としてこうした大企業の社会的責任放棄のリストラ計画をやめさせようとはせずに、逆に企
業が解雇をしやすくするための法律を作ろうとしている現実があります。
 最高裁の判例で確定している解雇規制の法理がありますが、それを覆すものです。
 企業側が提案し、坂口大臣が2003年中に国会に提出することを明らかにしています。小泉首相
は内閣発足直後から「解雇をしやすくすれば、企業はもっと人を雇うことができる」という論理で進
める方向にあります。
 こうしたわが国の労働、雇用事情について、世界的な批判も起きています。
 国連の経済、社会委員会が8月に警告文書を日本政府に勧告しています。そこでは、過度の長
時間労働を許していることやリストラに関して45歳以上の労働者が減給あるいは十分な補償もな
しに一時解雇され危険を背負っていることなどに対して懸念を表明しています。
 一方、EUでは昨年7月に欧州委員会として、政策文書を公表「企業の社会的責任の欧州枠組
みを促進する」として、株主だけでなく、労働者、取引業者、環境、地域住民などに対して、広く社
会的責任をもっていることが述べられており、解雇を規制する方向でEU全体が動こうとしているの
です。なお、これを実現するために、労働組合が戦闘的に闘ったことは確認しておかなければなり
ません。
 3 消費も一層低迷
 1977年から<消費者心理調査>を続けている(社)日本リサーチ総研という組織があります。そこ
が、11月13日に発表した10月調査の結果では、次のようになっています。
 *ホームページからの引用です(筆者要約)。
 ○10月の消費者心理は8月からさらに悪化し、77年4月の調査開始以来の最悪水準となっ  た。
 ○消費者心理の総合指標ともいうべき生活不安度指数は、前回8月は148と、6月(132)  から
16ポイント上昇(悪化)したが、10月は153となり、8月からさらに5ポイント上  昇(悪化)し、8月に
引き続き調査開始以来の最悪水準を更新した。
 ○米国での同時多発テロ事件と、その後のアフガン空爆や炭そ菌事件の発生により、社会不  
安が高まっていたことに加え、狂牛病問題、マイカルの経営破綻など、景気へのネガティ  ブ材料が
多くみられたことから、8月に大幅悪化した国内景気見通しがさらに一段と落ち  込んだ。また、雇用
と所得の実態が足元で悪化し続けていることなどを受け、失業見通し  と収入見通しはともに過去最
悪の水準を更新した。
 *生活不安度指数の計算方法
   ・「今後1年間暮らし向き」に対する回答である「悪くなる」「やや悪くなる」「やや良くなる」「良く    なる」につい
て構成比を求める。
   ・構成比について「悪くなる」2点、「やや悪くなる」1点、「やや良くなる」-1点、「良くなる」-2点    のウェイトをそ
れぞれ与え、合計点を求める。
   ・2の値に1を加え100倍する (合計点が0のとき100になるようにする)。
 「小泉改革」のもとで政治や予算は、企業利益のための基盤づくりを主要な課題とするようになって
います。国民がもっと自分自身の今の生活を振り返ってみると同時に、年金など社会保障の充実を
求めて声を出していく必要があります。
 国民は、不況の深刻化、社会保障の改悪などで一層お金を使えないようになってきています。
GDPの約6割を占める個人消費が低迷するなかでは根本的な景気回復はないのに、そこへてこ入

れすることはせず、企業活力にばかり目を向ける政策を採ることは、国民生活軽視であると同時に経
済政策自体としても問題があります。
 
V 財政と国民の意識
 1 財政と国民の意識
 昨年3月から4月にかけて国の財政制度審議会が「財政についての意識調査アンケート」を行い、1230
名から回答を得た結果を公表しています。*数値などは政府のホームページより引用
 
 Q1:国の予算(歳出)のうち、あなたの生活になくてはならない(役に立っている)    と思うものは?
   社会保障費−60%   文教・科学−18%  食料安定供給−18% 
   防衛関係費−5%    公共事業−4%    中小企業対策−4% 
   エネルギー対策−3%  経済協力−1%
 
 
 
 Q2:国の予算(歳出)のうち、あなたが生活する上であまり役に立っていないと思
    うものは?
   公共事業−43%   防衛関係費−24%   経済協力−13% 
   食料安定供給−8% 中小企業対策−6%   社会保障費−3% 
   文教・科学−2%  エネルギー対策−3% 
 
 
  Q3:Q1で選択した予算を、税金等の負担が増えても構わないから増やして欲しい
    と思いますか?
  増やさなくてよい 55%  増やして欲しい 45%
 
 
  Q4:Q2で選択した予算を、減らして欲しいと思いますか?
  減らして欲しい 92%  減らさなくてよい 8%
 
 
 Q6では「このような歳入の現状(税金では足りずに国債発行に頼っていること)について」聞いていますが、
「知っている」が96%で、「知らなかった」が4%となっています。<国債を発行しながら、生活にあんまり関係
公共事業にお金をつぎ込んで来た>と受け止められているわけです。これが、マスコミでなく、財政制度審議
会のアンケートであることを考えあわせると国民の多くが今の予算の使い方に疑問を持っていることは疑いな
いところだといえます。
 国と地方の債務がどのように推移してきたかを確認するために下のグラフを挙げて起きます                              
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 





2 税金について
  全国税は「税制改革の提言」を発表していますので、一部を要約の上紹介します。

 (1)消費税について

 税制調査会「中期答申」では、消費税を基幹税と位置付け今後の増税が暗黙の了解事項としたい政府の
意図がみてとれる。一方竹中経済財政担当相はその著書で14%にアップすることを主張している。税率
のアップは逆進性が強まるだけでなく、不況で転嫁できずに滞納になっている現在、滞納増加を引き起こ
すことが十分予測される。結果的に消費税を中心とした税制は、ますます国民の間に不公平と混乱を増
幅させることになる。消費税は廃止し、当面、税率の引き上げは絶対行わないこと。直接税の補完税とし
て、課税範囲を整理して贅沢品、奢侈品など個別に課税すべきである。

(2)所得税について
 〔税率のフラット化について〕
 私たちは、所得課税のもっている累進構造を維持すべきだと考える。当面、所得税の最高税率を50%に
引き上げ、累進度を強化する。利子や配当などの資産性所得が分離課税になっており、高額所得者や大
金持ちを優遇している。資産性所得の総合課税を行い、直接税中心の税制にすべきであると考える
 〔課税最低限について〕
課税最低限については、憲法25条から「健康で文化的な生活」が維持できるための所得には税金を課
税しないという最低生活費の非課税の原則を貫くべきである。課税最低限は基礎控除、配偶者控除、扶
養控除の人的控除(各々現行38万円)で考えるべきで、大蔵省のように給与所得控除や社会保険料控
除などを含めて諸外国と比較すべきではない。当面、基礎控除100万円、配偶者、扶養控除をそれぞれ70
万円に引き上げる。この場合の課税最低限は、家族3人で基礎控除100万円+扶養控
除70万円×2=240
万円となる。(配偶者特別控除は、廃止をする。)
3 公共事業
(1)最近の動き
 公共事業が財政赤字の主な原因であるということは定着している見方です。それ故に小泉首相も「聖域なき構造
改革」を唱え、公共事業費も削減するポーズをとらなければなくなっています。しかし、実際はどうなのか?
 政府は2002年度予算に向けた文書のなかで対前年度比10%削減をうたっているのですが、
公共事業に必要な要素である、土地や建築資材などのコストも10%近く削減されており、結果的には量としては従
来とあまり変わらないと指摘されています。
 では、長期的にはどういう目標を持っているかというと、ここ2,3年は経費削減的なものにとどめ、その後金額的
な削減をしようと計画しています。こうした削減計画をもったのは政府として初めてであるといいます。
 政府の公共事業の目玉が「都市再生」だということは、かなり広まってきています。ここではその中身と問題点に
ついて検討します。
 2)都市再生というが
 税研集会で講演をされたこともある、中山徹氏は近著「公共事業改革の基本方向」のなかで次のように述べてい
ます。
 ○政府が都市再生の中身として挙げるのは@東京や大阪の国際競争力を高めること。A新た  な需要を生み
出すことB土地の流動化をはかることである。
 ○都市再生本部で決定された中身を見ると、従来と同じく需要や採算性を無視・軽視した大  型プロジェクト中
心である。内容は「大都市圏における空港の機能強化と空港アクセス利  便性向上」、「大都市における国際港
湾の機能強化」、「大都市圏における環状道路体系の  整備」「(都市の)虫食い土地の整形化による有効利用
」などである。
 ○結局、バブル経済の亡霊である大型公共事業を蘇らせることと、企業のリストラを支援の  ためのも事業と
なる。大手企業再生のためともいえる。
  (3)改善型の公共事業を
 中山氏は今後の公共事業のありかたとして、次のことを提案しています。
 ○公共事業の目的を変えるべきで、市街地の拡大を抑制し自然環境を残すこと。
 ○臨海部などに残されるであろう跡地には、公共施設の用地や住宅地として再活用すべきで  ある。
 ○企業の無計画な撤退に対しては、計画的な縮小をはかるべきである。
 ○既存市街地の改善をはかるべきである。
 ○下水、公園の整備などが重点とされるべきである。
 
 中山氏はこれらをまとめて「従来型を開発型公共事業と呼べるのに対し、提案された内容は改善型公共事業とも
呼べると述べています。
 
4 社会保障
 最近よく耳にする言葉は「セーフティネット」です。論者によってかなり違いがあります。 しかし、政府側の文書
に登場するときは、憲法に基づく「権利としての社会保障」よりはるかに低い水準での制度化が前提となっている
ようです。 私たちはあくまで、権利としての社会保障を主張すべきです。
 
















この点でも、最近は粗雑な「常識」が幅をきかせ、福祉が抑制される話ばかりの状況とな
っています。
1)医療保険の改悪
 厚生労働省は9月25日2002年度の医療制度改革試案を政府、与党の社会保障改革協議会に提出しました。
その内容は
 @組合健保や政府管掌健康保  険(政管健保)など被用者保険は、
  本人負担を現行の2割から3割に引き上げる。
 A2003年度から保険料算定を年収ベースの総報酬制に改める 
 B1割負担の老人保健制度の対象を原則70歳以上から2006年度までの5年間で75歳以   上に引き上げる。
 C老人医療費に「伸び率管理制度」を導入、目標超過分は診療報酬を減額する。
などでした。
 財務省は、この案よりも厳しい「改定案」を提出してもっと医療費削り込みを大きくする姿勢を示しました。結局
11月末に政府・与党間で決定をみた「医療制度改革大綱」次の内容でした。
 ・サラリーマン本人の患者負担については、当初実施予定の02年度を遅らせて、現行の2  割から3割に引
き上げる。しかし、政府は03年度からの実施をめざす。
 ・政府管掌健康保険の保険料引き上げも03年度からとなる。02年度の診療報酬改定につい  ては引き下
げを明記。
 ・高齢者医療制度について現行の70歳から段階的に75歳に引き上げることとしている。た  だ同制度の対
象から外れる70〜74歳の患者負担は現行通り1割とする。
 ・老人医療費抑制のための「伸び率管理制度」は見送り、強制力のない努力目標となる 「指  針」を定め
ることにした。
 
 政府は大綱に沿って医療制度改革の政府案をまとめ、来年1月に召集される通常国会での成立をめざすこ
とになります。これが実施されると、70歳以上の高齢者の場合、1割の医療費の自己負担は、据え置かれる
ことになりますが、外来の月3千円か5千円の上限や、1回800円で月5回目以降は無料だった診療所の定
額制は廃止されることになり、何度も通院する人は負担増になります。
 70歳以上でも、一定以上の収入がある人は2割負担になる見通しで、倍に値上げされることになります。
サラリーマンは、これまで2割だった本人の入院・外来、家族の入院が3割になります。
 長期入院などで一定限度額を超えた場合はこれまで同様に払い戻しを受けられるが、この上限額も引き
上げられます。厚生労働省案によると、月収56万円未満の人は月7万2千円程度(現在は6万3600円)、56
万円以上の人は14万円程度(同12万1800円)になるそうです。
 毎月支払う健康保険料も人によっては増えることになります。月収基準が、ボーナスも含めた年収基準に
変わるからです。今回、現在約5千ある保険者の一元化について、「具体的な始し、一定期間内に論を得る」
と明記していることも注目しておきべきです。
2)介護保険   
 2000年4月からはじまった介護保険はいろんな問題点を抱えています。
特別養護老人ホームの待機者が急増していること。その原因ともなっているのが在宅看護の用料の高さです。
低所得者は介護を受けることができなくる場も多いといいます。自治体の一部では保険料、利用料の減免制度
が広がってきつつありますが、それを国として制度化することが求められているともいえます。
 その他の面でも多くの問題点を抱えたまま推移しています。
(3)年金 
 竹中経済財政担当相の著作には「本来年金や介護費用というものは自分の責任で保険をかけておくべきも
のです。年をとったら、当然年金はもらえるものだ、それは人間の当然の権利だというような主張もありますが
、そうではないでしょう。」と書かれています。
 財政構造改革部会中間報告では、給付のありかたの見直しを含め給付水準の抑制を中心にとなっています
。今の水準がヨーロッパ並になったのでこれ以上の改善は不要であるとの立場のようです。
 掛け金に関しては引き上げが現在は凍結されているが、骨太方針では早期に凍結を解除するとなっています。
解除されると、厚生年金が現在17.35%となっている(労使折半)のが5年ごとに2.5%ずつあがっていきます。
国民年金は月13,300円ですが、毎年800円ずつ(99年度価格)引き上げになります。
 保険料が高すぎるので、払えない人が続出する国民年金ですが、国庫負担の割合を基礎年金については
3分の1が国庫負担で、これを消費税率のアップと同時に2分の1に引き上げようという強い意見があります。
消費税率アップとのセット論です。
 
W どういう道があるのか?

 1 小泉首相の人気の原因は

 財政制度審議会のアンケートに示されるように、多くの国民は私たちと基本的に同意見です。ただし、誘導
的な質問では政府の思惑通りの意思を示しもします。アンケートのQ15では「社会保障の給付と負担の現
在の規模と今後の伸びについて、どのように思いますか?」と聞かれると、「規模・伸びが大きすぎる」−70%。
「適当な規模である」−23%と答え、社会保障削減に賛意を示します。
 そうした面が、小泉首相の異常人気の背景にあるように思えます。さらに、不況が進なかでも、依然とし
て高い支持率を維持している下では暮らしを守り、真に国民のための財政にしようとする運動も方向や戦
略については充分考える必要があります。
 高支持率の理由について、渡辺治氏は「『構造改革』で日本は幸せになるのか?」で次のように説明し
ています。
 ○高支持率の背景には21世紀の展望する道は二つしか示されていない。一つは、自民党あ  るいは
自公保政権の行ってきた旧来型の政治、公共投資と利益誘導政治、派閥政治の道。
  他の一つは、「構造改革」を断行する道。
 ○2000年6月の総選挙では旧来型の政治が批判される結果になり、その後の森内閣が「構  造改革
には手をつけない」「リーダーシップに欠ける、官僚のいうまま」などとマスコミ  が宣伝し、旧来型への
批判を強める意識を強めた。
 ○そこへ登場したのが、強いリーダーシップのもとで、「構造改革」断行する姿勢を見せた  小泉首相
が当然のごとく人気を集めた。
 ○不況を克服し、日本社会の将来をいかに作るるかをめぐっては「第三の道」があるにもか  かわらず
、それを主張する勢力が小さいままであったので、国民の支持が得られなかった。
 
2 「第三の道」もある
 上で触れた<第三の道>について渡辺氏は次のように書いています。
   構造改革をストップし、都市の弱小産業や農業、国民経済を本気で再建する、そして老人などの弱者や地
  場産業の労働者たちが安心して生活できる国家、社会を作る道です。この道は大企業のグローバル経済に 
 反対して、資本の海外進出によって国民経済を破壊されている途上国とも連帯するインターナショナルな視点 
 に立って、各国国民経済のそれぞれを保存しながら新しい社会を作っていく福祉経済の道、「新しい福祉国家 
 の道」とでも呼べる道です。こうした、第三の道が国民の目に見えてさえいれば国民は小泉政権ができたと 
  きにもっと冷静な判断ができたと思います。
 (1)どう対抗するか
  渡辺氏は「小泉改革」に対してどう立ち向かうについては次のことを指摘しています。
 ○「構造改革」に対抗するオルタナティブ(代替となる)な社会構想を運動のなかで構築・  
対置していく。
 ○新たな構想とは「新しい福祉国家」建設の道である。
   *渡辺氏は古典的福祉国家は大企業に主導された高度成長とアメリカの軍事力によりささえられたと 
   説明しています。
 ○多国籍企業規制による平和国家の建設を
  世界の平和、途上国の貧困を無くす、差別と格差も無くす、こうした国際的な責任を果た
  すためにも新しい福祉国家が日本の多国籍企業を規制しなければならない。
 ○国民経済の再建をする。
 ○差別を無くして平等な社会を作る 
 前掲の著作の最後の部分に、渡辺氏が「いかに『第三の道』を作るか?」について、興味を
引く提案をしていますので紹介します。
 まず、政治の転換が必要であるとして、「小泉改革」は「新自由主義改革」といえるが、その
改革では利益を受ける側の国民は多く見ても2000万人で約1億人は被害を受けると分析、。
国会の議席構成はこうした対立を表現する構成となっていないと指摘しながら、そのゆがみ
をただしていく展望はあると述べています。
 政治を変えたとしても、日本一国で福祉国家をめざすことは無理で、多国籍企業の大きな抵
抗が想定されるので、他の先進国のいくつかと同時に規制を行うことが必要であるとも指摘し
ています。そしてその端緒となりうる例として、WTOをめぐる運動に多くの労働者が結集した
ことなどを挙げています。
 何から着手するべきかについて、渡辺氏は地方自治体レベルの運動だと述べています。
根拠としては、地方には新自由主義改革や産業空洞化による被害がまったなしに現れて
いること。さらに、地方自治体の首長選挙では長野、栃木なでの非自民系の知事が誕生し
ていることを例に挙げ、一定の限界を持ちながらも、福祉自治体連合の可能性もあるとして
います。
 2)「第三の道」スウエーデン
 スウエーデンを「第三の道」を歩んで来た国として挙げる人もいるようです。解雇規制などでEUの
政策が次第に注目されつつあります。EUは地方自治・分権の面でもEU自治憲章をもっていますが、
これもスウエーデンの自治形態をモデルとしています。
最近出版された「世界の福祉」(早稲田大学出版部)によると、 <スウエーデンモデル>との特徴
をルイン(政治学者)は次のようにまとめているそうです。
 ○包括的な福祉システムの構築。
全市民対象の安全ネットワークの目標とした福祉政策など。
 ○労働市場が平和的・協調的であること。
  44年間の政権を担当した社民党政権は完全雇用を重要な目標としてきたことなど。
 ○合意形成を優先させる政治課題解決技法の定着。
  見える政治、開かれた政治、分かりやすい行政を具体化など。デモクラシーの実験室とい
  われる各種の制度。
 また、同書では、次の説明もあります。
  (スウエーデンの福祉経済システムは)生産過程は競争原理を基礎にした資本主義的色彩が濃密で、分 
  配過程は徹底的な所得再配分を基礎にした社会主義的性格が強い。また、純・資本主義でもなく純・ 
  社会主義でもないという意味でも、使われる。

    人生のさまざまな段階、状況のなかで市民が必要とするとき、必要な援助を社会の集合的努力で  
  提供することが、スウエーデン型福祉社会の理念であるとすれば、その主導楓値は何か。〈スウユーデ 
  ン・モデル〉で強調される価値は、@自由、A平等、B機会均等、C平和、D安全、E安心感、F連  
 帯感・協同、G公正である。(一部省略)
 しかし、「第三の道」の内容は、他国の成功モデルを参考にしながらも、自国の国民が研
究と学習に取り組んで、運動するなかで練り上げていくものなのでしょう。ここ数回の<暮ら
しと税金>分科会での討議はその過程でもあったのではないでしょうか。
3)視野は広く、行動は身近で
  国際会議などで、「世界の金持ち上位358名の富の合計は下位から25億人の富に等し
い」とよく言われるようですが、これがグローバリズムの効果なのでしょうか?。また、アメリ
カの同時テロ事件の背景として、地球上での格差が注目されました。
 一方、国内でも「ルール無き資本主義」、「破滅型財政政策」といわなれながらも、責任あ
る立場にある人達は根本的な反省をすることなく政治を担当し、財政のあり方を変えようとし
ていません。逆に、日本の福祉はヨーロッパ並になったといい、国民生活の基盤となる部分
の削減を行おうとしています。
 地球的規模での環境問題、貧困問題は今日本が抱えているいろんな問題と根っこで繋が
っています。地球的規模で考えながら、予算と税金のことを考える、そして、身近な地域や職
場に目をやり、可能なことから着手する。このことの持続なしには、現状の打開はありえな
いと思います。
 
〔参考文献〕
 ・「『構造改革』で日本は幸せになるのか?」渡辺治・萌文社
 ・「世界の福祉−その理念と具体化」久塚純一・岡沢憲芙編・早稲田大学出版部
 ・「春闘データ白書2002年版」新日本出版社