チェーンストア労組OB・現役懇親会の翌日、出身労組の仲間たち四人で7時半に宿を出て、現地周辺の観光に出かけた。行先は大井川鉄道とバスを乗り継いでの秘境・寸又峡である。東海道本線の掛川駅から上り二駅先の金谷駅まで行く。金谷駅から大井川に沿って大井川鉄道が千頭駅まで運行している。9時16分、旧国鉄の払い下げとおぼしき思い切り古びた車両が金谷駅を出発した。冬場で水量の少ない大井川を右に左に眺めながらの1時間15分の列車旅だった。各駅停車の古びた車内が子供の頃の郷愁を誘う。駅ですれ違う車両を見て驚いた。これまた古びた近鉄特急の車両ではないか。ローカル私鉄線の存亡をかけた涙ぐましい努力に頭が下がる。案内パンフレットにはこのほか京阪、南海の旧型車両も今尚現役で運行されていることが誇らしげに掲載されている。この健気さと図太さがあればこの路線は間違いなく存続するに違いない。  
 終点・千頭駅で接続の路線バスに乗り換える。発車してすぐの踏み切りで千頭からでているアプト式鉄道の電車が目の前を通過した。その後、渓谷を見下ろしながらカーブの多い狭い山道を中型バスは約40分走り続ける。途中、古いダムや発電所等のビュースポットでは一時停車してドライバー自らガイドに早変りする。ここでもサービス精神溢れた従業員たちのガンバリに感動する。
 寸又峡温泉に11時20分に到着。バス停すぐ傍の予約のホテル「翠紅苑」の玄関前の石畳を踏む。とりあえず温泉に浸かることにする。タオルを貰って奥まった浴場に案内される。真昼間の露天風呂の贅沢を噛みしめる。木漏れ日の斜線が湯けむりを縫っている。入浴を済ませ食堂に戻ると「日帰り入浴プラン」の松花堂弁当が用意されている。
 食後は「夢の吊り橋」をゴールとするウォーキングコースに出かける。出発してすぐのところに見ておきたいと思っていたスポットがあった。アノ「金嬉老事件」の篭城の舞台となった「ふじみや旅館」である。つい先日、テレビ朝日でこの事件のドキュメント番組を見てブログにコメントしたたばかりである。 
 「衝撃事件の40年の落差」http://ahidaka.asablo.jp/blog/2008/11/24/ 
 温泉旅館の並んだ通りを抜けると、車両通行禁止のプロムナードに入る。左右を山に囲まれた渓谷沿いの山道を大自然一杯の空気を味わいながら進む。トンネルを抜けるとまもなく吊り橋が見えてくる。鉄製の急な階段を降り、細い脇道を下っていく。人造湖の鮮やかなエメラルドグリーンの湖上に白い吊り橋がゆらゆらとゆれている。「11人以上の通行は危険です」という注意書きが怖さを煽っている。高所恐怖症で通行を嫌がる仲間の一人を間に挟むように拉致して先頭を歩く。かなり前を歩く若いバカップルが面白がって揺らしている。その度にくだんのオジさんの引きつった嬌声が上る。全長90mのスリルがようやく終点となる。少し待って再び折り返す。もと来た道を辿ってプロムナードを出た。その先の土産物屋で各自お土産を求め14時25分発のバスに乗車した。 
 千頭駅では最後の愉しみが待っていた。金谷駅までの約80分をSLで帰るのだ。駅のホームには既にSL「C10 8」が入線している。往路には見られなかった団体客を含めた多くの乗客たちがホームを埋めている。にわかカメラ小僧に変身したオジサンやオバサンたちが夢中で先頭車両のヘッドや運転室をカメラにおさめている。千頭駅を出発したSL車内には車掌服に身を包んだ年配のオバサンが乗車している。ハンドマイク片手に沿線ガイドをしてくれる。ガイドだけではない。小型ハーモニカで懐かしのメロディーを演奏したかと思えばSL音頭らしき唄も歌っている。大井川鉄道のなんとも多才な名物ガイドさんのようだ。
 金谷駅から掛川駅と乗り継いで新大阪駅には20時頃に到着した。秘境温泉とSLの旅が終着駅に着いた。