4日間の信州ツアーに出かけた。夫婦で予約していた5月中旬の利尻・礼文島ツアーが地域のボランティア組織の事情で行けなくなった。急遽、娘が代わって家内と出かけた。そのリベンジ気分が抜けきらない6月末に新聞広告で魅力的なツアー案内を目にした。
 「大人の避暑の過ごし方4日間」をキャッチコピーに上高地、霧ヶ峰、軽井沢、谷川岳、奥只見などの信州のリゾート地を巡る旅だ。高原リゾートホテルでの宿泊や郷土色豊かな料理など随所にこだわりのあるちょっぴりリッチなツアーである。名古屋までの往復新幹線でのグリーン車利用、JR飯山線のローカル列車の乗車、谷川岳ロープウェー、奥只見遊覧船などの乗り物の楽しみも多い。家内と日程だけを調整し、即座にネット予約した。費用負担は太っ腹亭主のポケットマネーとあって家内はすこぶる機嫌が良い。
 信州ツアー初日を迎え、新大阪にツアーメンバーが集合した。人気ツアーらしく45名定員いっぱいの満席である。殆んどがリタイア夫婦だ。名古屋までの1時間をグリーン車でちょっぴりリッチに過ごす。名古屋からはバスで2回のトイレ休憩を挟んで一路上高地をめざす。昼食は平湯のレストハウスで積み込まれたハイキング弁当を車中で食べた。上高地の大正池の湖畔に着いたのは1時過ぎだった。
 ここから河童橋まで1時間半程のハイキングだ。雄大な自然に包まれた心洗われる散策だった。梓川の清流に沿って林間を縫うような遊歩道を歩く。日本アルプスの山並み、驚くばかりの透明度の清流、むせかえるような森林浴・・・。確かに大人の避暑地の趣きだ。メイン・スポットの河童橋は観光客でいっぱいだ。それもそのはず奥穂高や明神岳などの穂高連峰の絶好のビューポイントだった。
 上高地を3時過ぎに出発しホテルに着いたのは6時20分頃だった。白馬乗鞍高原にある白馬アルプスホテルでスキー場併設の宿泊施設だった。部屋の窓越しにゲレンデが見える。それだけに設備レベルは快適とは言い難く、夕食の洋食のコース料里もイマイチだった。初日のホテルに不満を残しながら10時半頃眠りに着いた。
 白馬乗鞍高原の朝を5時過ぎに目覚めた。ホテル周りを散策し朝風呂を愉しんで部屋に戻った。窓から大きくてカラフルな気球が見えた。夏休みの子供向け体験ツアーのイベントのようだ。8時にホテルを出発し、今日の最初の目的地である軽井沢に向かう。高原麓のこの地方独特の造りの古民家に夢中デジカメを向けた。
 3時間ほどで日本を代表する避暑地である軽井沢に着いた。旧軽井沢銀座通りを1時間ほど散策した。今年の猛暑にさすがの軽井沢も避暑地の面目を失っている。それでも通りはあふれんばかりの観光客で埋まっている。バス車中のガイドさんからの情報を頼りに観光スポットを巡る。名物モカソフトを舐め、ジョンレノンが愛したベーカリーをのぞき、ジャムのお土産を買い、小さな教会を訪ねた。
昼食は佐久IC傍のおぎのやの名物“峠の釜飯御膳"だった。独特の味付けの具沢山釜飯に舌ずつみする。旅先のビールは今や家内の公認である。スーパードライの中瓶を昼間から呑めるのも旅の醍醐味だ。
上信越自動車道から関越自動車道を経由して水上ICを降りた。谷川岳ロープウェイに着いたのは3時半過ぎだった。15分間のロープウェイ乗車後、更にリフトに5分間乗車し標高1500mの天神峠に着いた。登るほどに気温が低くなり絶好の避暑気分を味わえる。二人乗りリフトで久々のペアマッチを何年ぶりかで味わうことになる。天神峠は360度の展望だ。晴れた日には富士山まで望めるというが雲に覆われた今日の天気では望むべくもない。
二日目の宿泊地である新潟県の越後湯沢温泉のNASPAニューオータニに6時前に着いた。スキー場の広大なゲレンデを背景に巨大な建物群が聳えている。案内された部屋も応接セットを備えた広々としたスペースだ。夕食の和風会席料里も9品目のお品書きの本格的なものだった。何よりも魚沼に隣接する立地である。本場のコシヒカリのとびきり美味しいご飯を味わえた。32型液晶テレビのおやすみタイマーでいつのまにか眠っていた。
 ハイグレードホテルの夜明けを迎えた。いつも通り朝食前のホテル周りの気持ちの良い散策を済ませた。バイキングの和洋とりどりの取り過ぎ気味の惣菜を味わう。やっぱりご飯が美味しい。
 8時に今日の唯一の目的地の奥只見湖に向けて出発した。目的地手前20分程は殆んどがトンネルの全長22kmのシルバーラインだ。豪雪地帯のダム開発にかける想いが伝わる。銀山平船着場からの約40分の遊覧船による湖上巡りである。奥只見湖は只見川など四方から流れ込む水流を奥只見ダムが堰き止めてできた湖だ。秘境の趣きを漂わせた風景が移ろって行く。奥只見ダム横の展望台船着場で下船した。巨大なダムのコンクリートの壁を横に見ながらバスの待つ駐車場まで降りる。ダムの真ん中が新潟県と福島県の県境だという。いつのまにか東北地方の入口まで来ていたことに驚く。そういえば国立公園の尾瀬はここからわずか20分ほど南の至近距離にある。
 来た道を折り返して湯沢町まで戻る。途中、豪雪地帯特有の背の高い独特の民家を興味深く眺めた。「レストハウス越後」というところで昼食を取る。建物前の人工の小川にたくさんの錦鯉が放流されている。近くの錦鯉の産地・山古志村のものだった。昼食は海鮮丼をメインとした"コシヒカリの舟盛り御膳"ということだ。品数多くボリューム満点ながら、ドライブイン料理の典型で作り置きの乾燥感はいかんともしがたい。
 次はJR飯山線のローカル線体験乗車だ。津南駅を14時2分発の一両編成電車に観光バス二台の90名の乗客が乗り込む。突然のラッシュアワーの出現に地元乗客の戸惑いが窺える。わずか15分の乗車時間の殆どが景色を楽しめないトンネル区間である。ツアーこの企画自体が意図不明と思わずにはおれない。森宮野原駅で下車し、待ち構えたバスに乗り込みホテルに向う。
 長野県の斑尾温泉にある東急リゾートホテル・タングラムに4時前というの早目の到着だった。スキー、ゴルフ、テニス、室内温水プールなどを備えた巨大な一大リゾート施設の併設ホテルである。案内された部屋も40uの広さのデラックス仕様だ。6時半の夕食まで広大な施設内やホテル周辺を散策して過ごした。地元食材をふんだんに使った夕食は和洋取り混ぜたバイキングだった。自分好みの食材を次々とプレートにチョイスする。一品一品はどれもできたての美味しいものだが、如何せん素人の盛り付けである。色取りや姿はいかにも寄せ集めの観が拭えない。夕食後、大浴場でゆったり身体を休ませ長旅の疲れを癒した。不慣れなiPhoneでのブログ入力と格闘し11時前に広いベッドに横たわった。
 
 5時にセットしたモーニングコールが鳴り響いた。いつもより30分早い7時半のバス出発で全てが慌ただしい。大浴場の朝風呂を済ませ、6時半には広大なレストラン会場で朝食をとる。和洋折衷の選び抜かれた食材のバイキング料理は、Aランクホテルの朝食ならではのものだ。
 バスの車窓から眺める風景の中に赤いトタン屋根に覆われた茅葺家屋が点在する。昨日の独特の風情の家屋との違いが新潟県から長野県に移動したことを教えてくれる。9時前に善光寺に着いた。宿坊の案内係の流暢な解説を聴きながら境内から本堂を巡る。本堂仏壇前に正座し解説を兼ねたような法話を聴いた後、供養を勧める封筒が配られた。住所、氏名を記入し希望する祈願内容をマークして3千円の奉納金を添えて依頼するという寸法だ。参拝を終えバスが出発するとまもなく添乗員さんから供養をお願いした全員にお札、お守り、證状(氏名記載の領収書)の入った封筒が返された。なんとも手際のよい仕組みが出来上がっている。
 善光寺からバスで1時間半ほどの中央自動車道諏訪IC近くで昼食となった。野沢菜センター諏訪店の「ゆずそば冷しゃぶ御膳」だったが、ネーミング通りの内容で取り立ててコメントすることはない。相次ぐ団体客の来店で飲み物オーダーの機会がなくビールを飲み損なったことが個人的な恨みごといえる。
 1時頃に最後の目的地である車山高原に着いた。名前も知らなかった観光スポットだが、これが意外と大満足。八ヶ岳中信高原国定公園の中の標高1925mの車山を中止としたなだらかな高原である。隣接して某電気メーカーのエアコンのネーミングとなった霧ヶ峰がある。冬場のスキーリフトを兼ねた2基のリフトを乗り継ぎ車山山頂に着いた。2千mの頂きにしては広々とした山頂である。360度の展望の先に八ヶ岳連峰、南アルプス、中央アルプス、北アルプスが望める。気候が良ければ富士山まで見通せるようだが、今回は無理。とりわけ眼下に白樺湖を望めるリフト側の展望の美しさに息を呑んだ。爽やかな風を受けながら往復したリフトの快適さも特筆すべきだろう。
 全ての観光を終えて、5時半頃に名古屋駅に着いた。6時25分の集合までフリータイムとなる。駅地下街を散策し、家内の要望の強かったひつまぶしの専門店で夕食をとった。香ばしい焼き立ての鰻を混ぜたご飯を、そのまま、葱と薬味を加えて、だしをかけたお茶漬けでと三通りの味わいで賞味した。一人2,550円の旅の締めくくりのちょっぴり贅沢な夕食だった。新幹線車中のグリーン席でプレミアムビールを片手に最後の憩いのひと時を過ごし、9時に自宅に戻った。
 昨日、三泊四日の信州リゾートツアーから帰った。久々に夫婦で参加したツアーだった。バス1台分満席の45名の同行者のほとんどが私たち同様のリタイヤ組の年配のご夫婦だ。
 バス車中や食事中はツアー仲間のご夫婦との交流の機会でもある。その顔ぶれはその都度入れ替わり、様々の夫婦の形を目撃することになる。時に夫婦の力関係が見え隠れして面白い。それでも共通して感じられるのは永年に渡って積み上げられ、それなりに安定し落ち着いた関係だ。もっともそうした関係が維持されている夫婦だからこそ、こうしたツアーに参加できるともいえる。その意味では夫婦旅は永年に渡るお互いの破綻回避の努力に対する報酬なのかもしれない。
 とはいえ、そもそも旅とは「非日常の時間と空間」を愉しむことにある筈だ。その非日常の時間と空間に、日常そのものである配偶者が四六時中同伴しているのが夫婦旅である。旅の愉しさも半減するのではないかという気がしないでもないが、そこは齢を重ねた世代である。非日常の緊張感の中の安定感や安らぎに憩う気分がないではない。「青年は荒野をめざす」かもしれないが、「老夫婦は草原に憩う」のがせいぜいなのだろう。