■明日から四日間、東京を訪ねる。労働委員会の研修に参加するためだ。出張が決まって家内に話すと、一緒に行って息子夫婦を訪ねたいという話になった。
 転勤族である息子は二年前に四度目の転勤で東京勤務となった。今は夫婦で東京都心の両国でマンション住まいである。まだ一度も訪ねたことがない。家内は、息子夫婦宅を訪ねたり、初めての東京見物を楽しみにしていた。ところが、何かきっかけがない限りなかなかその気にならないものである。そういう意味では今回の亭主の東京出張は格好のきっかけだった。滞在を2日間延長した家内同伴の東京の旅が決まった。
■とはいえ彼女は見知らぬ旅先で独りで行動するなど及びもつかないタイプである。前半二日間の私の研修中の過ごし方が問題である。初日は都心在住の家内の同い年の従妹に案内してもらえることになった。二日目は息子の嫁が案内してくれるという。私の方は現役時代のある時期にいやというほど東京で仕事をしている。東京観光にさしたる期待はない。今回の東京の旅の主役はあくまで家内である。どこに行きたいのか探せるよう観光ガイドブックも買ってきた。息子夫婦宅の最寄り駅前のシティーホテルに三日間の予約を入れ、二日目夕方の東京スカイツリーの展望デッキの入場予約もした。
■そんなわけでしばらくブログ更新も中断する。リタイヤ夫婦の「花の都のお上りさん」をゆっくり楽しんでくることにしよう。
 
■東京の旅の朝である。息子夫婦へのお土産などを入れた大きなバッグを抱えて家を出た。どうみても田舎の老夫婦が子どもを訪ねて上京する昔馴染みのアノ絵柄である。バス、電車、新幹線を乗り継いで10時23分に東京についた。
■まずは渋谷在住の家内の幼なじみの従妹と合流せねばならない。約束の1時間前の到着だった。バックをハイテクを駆使した貸ロッカーに及び腰で預け、広い駅構内をぶらついた。幸いエスカレータ前でばったり従妹さんと遭遇。一緒の昼食は構内の充実した「駅弁屋・祭」で調達し、休憩所で食べることになった。豊富な品数から牛肉と牛たんの「ど真ん中百選」を選んだ。従妹同士の久々のおしゃべりに適当に付き合いながらの昼食だった。12時過ぎには家内を従妹さんに託して、ひとり研修会場の中野に向かった。
■今日明日の二日間は、全国の労働委員会委員の合同研修がある。1時15分前に中野駅前の中野サンプラザに着いた。5時までの研修初日を終えた後、家内たちの待つ東京駅に向かった。
■待ち合わせの場所で二人と合流し、田舎のおばさんを半日お守りしてもらった従妹さんにお礼を述べて別れた。再び連れ合いと二人で予約ホテルのある錦糸町駅に向かった。6時前に駅前の「ロッテシティーホテル錦糸町」に到着。指定された部屋は10階の南側で東京スカイツリーとは反対側だった。とはいえエレベーターホールの大きな窓からライトアップされた夕暮れのスカイツリーが間近に展望できた。できて間もないホテルの部屋も綺麗で設備の整った満足できるレベルだった。
■息子夫婦に連絡し、夕食を一緒に出掛けることにした。7時前にマイカーで迎えにきた息子夫婦と築地場外市場の「すしざんまい本店」に向かった。「すしざんまい」と言えば今年の初セリで大間マグロを1憶5千万円で競り落としたことで一躍有名になった店だ。鮭のハラス焼、ゲソ天。卵焼きなどをアテに生ビール二杯を独りで呑んだ。同伴者たちはそれぞれに握りの盛り合せやら手巻きやらで盛り上がっている。呑むほどに軽くなった口が隣席の息子との会話を滑らかにした。息子は40を過ぎていよいよサラリーマン人生の正念場を迎えたようだ。40年に及ぶビジネスライフに裏打ちされたオヤジの教訓めいたトークを意外と素直に聞いてくれている。
■夕食を終えて車でレインボーブリッジに向かった。ライトアップされたレインボーブリッジとスカイツリーの美しい夜景が一緒に望めた。これもこの近くに住んでマイカーで案内できる息子たちからのプレゼントと感謝した。9時半ごろにホテルに送ってもらった。エレベーターホールの窓越しにひときわ夜景の美しいスカイツリーを眺めて部屋に戻った。東京の永い初日が終わった。
 
■東京錦糸町駅前のホテルで目覚めたのはいつも通りの5時過ぎだった。洗顔を済ませ身支度をして、ホテル作成の周辺スポットのイラストマップを手に街歩きに出かけた。曇り空の中で天望デッキから上をすっぽり雲に覆われたスカイツリーの姿があった。
■JR総武線の南側のスポットを巡った。最初に訪ねたのは本所七不思議のひとつ「おいてけ堀」。埋め立てられ錦糸堀公園となり今はわずかに河童の石像が立っているだけだった。続いてかっての幕府材木場跡地の「猿江恩寵公園」を散策。ここからひたすら西の両国方面に歩いて両国公園内の「勝海舟生誕の地」を確認し、すぐ西の「吉良上野介の屋敷跡(本所松坂町公園)」と巡った。約1時間をかけての街歩きで、さすがに歩き疲れたのでJR両国駅から電車に乗車して錦糸町駅に着いた。ホテル地下のセブンイレブンで調達したお握りで朝食を済ませた。
■今日のガイド役の息子の嫁と待ち合わせているという家内とホテルロビーで別れて二日目の研修会場に向かった。会場の労働委員会会館は都営地下鉄・御成門駅近くにある。ここで威力を発揮したのが乗車カードPiTaPaとスマホのアプリだった。今年3月から開始した乗車カードの全国相互利用サービスでPiTaPaで東京のどの交通機関も利用できたし、チャージも可能だった。スマホアプリの「乗換案内」や「地図マピオン」も目的地までの乗車経路や道順をすばやくガイドしてくれる。
■研修会場のすぐ向かいに増上寺があり、昼食休憩時に境内を散策した。本堂横の背後にスカイツリーができて影が薄くなった東京タワーの雄姿が見えた。3時に研修を終えて、家内と嫁の待つスカイツリーに向かった。スカイツリー4階のチケットカウンター前で二人と合流した。入場体験済の嫁と別れて家内と二人スカイツリーに入場した。
■高さ350mの展望デッキまで天望シャトル(エレベーター)でわずか50秒(時速36km)で到着する。エレベーターから吐き出された乗客たちはここで初めてビルが密集する広大で迫力のある大東京の街並みを眼下に見下ろす。360度のデッキ内の客数は思ったほど多くはない。開場後1年3カ月を経てようやく落ち着いてきたのだろう。デッキを一巡後、更に上の天望回廊で遊んだ。客数は更に少なくなり最高到達点450mの眺望を存分に味わった。曇り空とて富士山こそ望めなかったものの隅田川、浅草寺、国技館、東京ドーム、東京タワー等の上からの眺めはさすがに世界一の塔からのものだった。
■地下鉄で一駅の錦糸町駅経由でホテルに着いたのは6時半頃だった。ホテル1階のレストランで夕食をとり、10時前には早目の眠りに就いた。
 
■東京での三日目早朝の街歩きである。5時半頃から今度は総武線錦糸町駅北側を散策した。ホテル北側の錦糸公園から蔵前橋通りを東に向かい亀戸天神社に着いた。参道の太鼓橋から眺めた両脇の広大な藤棚が見事だった。本殿で参拝した後、来た道を西に戻り蔵前橋通り沿いの寺町に着いた。太田道灌ゆかりの法恩寺を中心に参道両脇に日蓮宗5カ寺が建ち並んでいる。ホテル横のロッテリアで調達したリブサンド&コーヒー朝食を済ませた。
■歩いて10分余りのマンションに住む息子夫婦を9時に訪ねる約束だった。途中、息子とLINEでやりとりしながら予定通り到着。真新しい新築の2DKの部屋だが都心部とあって以前よりかなり狭い。初めて訪ねた東京での息子夫婦宅のベランダ越しにスカイツリーが望めた。
■しばらく寛いだ後、息子夫婦招待の東京観光に出かけた。徒歩10分余りの国技館西の水上バス発着場に着いた。ここからお台場海浜公園を経由して浜離宮までの1時間余りの隅田川クルーズを体験した。スカイツリー、東京タワー、築地市場などを船上から眺めながら、永代橋、佃大橋、勝鬨橋などをくぐり、最後にレインボーブリッジをくぐってお台場に着いた。船内のガイドで「お台場」が幕末にペリー来航に備えて江戸湾防御のために建造された砲台場であることを初めて知った。船着場正面にはテレビで見慣れたフジテレビの本社屋があり、ここから水上バスはUターンして浜離宮に向かった。
■浜離宮で下船し、そのまま離宮庭園を散策した。将軍家鷹狩場を江戸初期に庭園として造成されたものだ。広大な風情のある庭園がビルの立ち並ぶ都心の一角に残されている。庭園に隣接する築地市場に向かった。二日前の夜に来た時とは打って変わった喧噪が町を支配していた。丸武の看板のある卵焼き店で立食い用の卵焼きを買って食べた。テリー伊藤の実家だと息子に教えられた店先には彼の兄貴の姿があった。関東風の甘い味付けだったがアツアツで結構口に合った。
■昼食は東京ならではの料理ということで月島のもんじゃ焼きにした。地下鉄月島駅から徒歩5分ほどの「もんじゃ・はざま」という店に入った。明太もちチーズもんじゃと海鮮入りもんじゃを各二つ注文した。素人ばかりである。店備え付けのもんじゃの焼き方を見ながら何とか出来上がった。焦げ目のついた具だくさんの柔らか生地を小さな小手でフウフウしながら味わった。
■月島駅から予約しているお土産用のお菓子を取りに行くという息子夫婦と別れた。家内と二人で向かったのは上野である。アメ横の通りを見て歩いた後、上野動物園に向かった。西郷さんの銅像前でお決まりの写真を撮って、動物園に入場した。お目当ては二人ともまだ見たことのないパンダである。入口すぐのパンダ舎前の短い行列に並んだ。すぐに一頭のパンダの愛らしい姿がガラス越しに見えた。もう一頭の大型パンダは奥の方で愛想なくごろ寝している。すぐ近くのトラの檻では突然近づいたトラの迫力ある顔をガラス越しに切り取った。その他、ゴリラや像をチラ見してアイスクリームを舐めながら休憩した。
■息子夫婦との合流までまだ時間があったので浅草寺を訪ねた。観光客で混雑する中を雷門、仲見世、宝蔵門を抜けて五重塔や本堂に参拝した。本堂裏手の銭塚地蔵にも足を伸ばした。居合わせた坊守さんに西宮市山口町から来たことを告げて雑談した。山口の銭塚地蔵尊の分身勧請の地蔵尊であり、山口からも毎年何人かの参拝があるようだ。
■JR秋葉原駅で息子夫婦と4時に合流し、コリアンタウンのある新大久保駅に向かった。駅前通りの韓国風の街並みを散策した後、韓国家庭料理の「梁(ヤン)の店」に入った。注文前に5品のお通しが出て直後の生ビールを美味しく呑めたことが何よりも満足だった。サムギョプサル(豚バラ肉鉄板焼き)、ジャガイモのチジミ、冷麺、韓国海苔巻きなどのいかにも本場風の料理を味わった。玄関外壁や店内壁の至るところに花の都の繁盛店を誇示するかのように来店した芸能人のサイン色紙がビッシリ掲示されている。
■両国駅で下車した息子夫婦と別れて錦糸町のホテルに着いたのは7時過ぎだった。歩数計は3.8万歩という記録的な数字を刻んでいた。息子夫婦の長くて充実したもてなしの1日が終わった。
 
■昨夜頼んでいたロッテリアのモーニング・デリバリーが7時過ぎに届けられた。ソーセージ&エッグバーガー、フライドポテトにコーヒーがついて500円だった。ホテル系列店ならではのサービスだろうか。
■9時過ぎにはホテルまで迎えに来てくれた息子のマイカーで両国駅前の江戸東京博物館に向かった。江戸時代の風物展示では定評のある博物館で江戸好きには必見のスポットだ。チケット売り場のある3階の広大な空間の上に巨大な台形の建物が乗っかっている。エレベーターで6階常設展示室にある入場口に向かった。
■開館直後の館内に足を踏み入れた。目の前に原寸大に復元された日本橋が江戸ゾーンに向かって架かっている。中々凝った趣向である。江戸ゾーンの見どころは何といっても武家屋敷や江戸庶民の街並みを忠実に再現した巨大なジオラマである。模型の街の至るところに当時の人々を模した人形がひしめくように配されている。愛読する時代小説のシーンを彷彿とさせるビジュアルな作品だった。周囲の壁際には江戸幕府の歴代将軍、大名の分類、旗本・御家人の暮らし、庶民の暮らしなどの江戸に関わる様々な資料や図表、現物などが展示されている。
■5階常設展示室では、吹き抜けを挟んで江戸ゾーンと東京ゾーンに分かれている。江戸ゾーンでは、芝居小屋・中村座、棟割長屋、両国橋西詰、三井越後屋江戸本店、錦絵問屋、千石船などの実物大模型や縮尺模型が次々と登場する。武士や庶民の暮らしぶりの展示、浮世絵の作成過程、四谷怪談からくり模型なども楽しめる。東京ゾーンは文明開化以降の東京の象徴的な建物の復元が中心である。鹿鳴館、朝野新聞社、ニコライ堂、電気館、凌雲閣、銀座煉瓦街、ヤミ市などの復元模型が展開する。あっという間に1時間半が過ぎて出口に近づいた頃、息子からLINEのショートメールが入った。
■朝マイカーを降りたところに息子夫婦が待っていた。その足で東京駅に向かった。八重洲口で、お土産を調達するという女性陣が下車した。息子と二人丸の内口へ向かった。新装成った東京駅の外観を初めて目にした。現役時代に見慣れた旧東京駅のどっしりした風格は幾分失われた感があるが、それでも昔の風情を十分湛えた郷愁を誘う雄姿だった。もう一か所見ておきたい建物があった。十津川警部シリーズや相棒シリーズなどの大好きなサスペンスドラマに必ず登場する警視庁ビルである。皇居南端の桜田門前で停車したマイカーを下車し、アノ独特の先細りの形状のビルにカメラを構えた。
■八重洲口に戻り、お土産袋を抱えた女性陣たちと合流した。息子夫婦から昨日予約していた銘菓のお土産を手渡された。四日間の滞在中、すっかり世話になった息子たちと別れて駅構内に向かった。大丸の地下食料品街で昼食用のお弁当を物色した。チョイスした「やわらか煮牛たん重」にホームで駆け込み購入したビールのロング缶が発車直後ののぞみ車内での最後の悦楽だった。7時過ぎには我が家に辿り着き、四日間の思い出深い楽しかった東京の旅を終えた。