知人グループの一泊二日の親睦旅行に出かけた。行先の熊本は、高校の修学旅行以来の45年ぶりの訪問である。朝9時40分に伊丹空港に集合し、10時20分発のANA熊本行に搭乗する。添乗員から渡されたチェックイン済チケットには3Dバーコードが印字されている。搭乗手続きもいつの間にかバーコード読取り機による光学式処理になっている。
 1時間余りのフライトで熊本空港に降り立った。真夏に戻ったかのような日差しの中を歩いて観光バスに乗り込む。1時間ほどで熊本市内の昼食会場に到着。熊本城の長塀前の「郷土料理懐石・城見櫓」という店だった。大きなガラス窓の向うに長塀越しに天守閣を望める絶好のロケーションだ。馬刺しのお造りや辛子蓮根をはじめとした熊本の味に舌鼓みする。
 昼食後はすぐそばの熊本城見学だ。築城の名人と言われた加藤清正の手になる熊本城である。広大な城郭に天守閣、本丸御殿を中心に大小の櫓や城門を配した堂々たる縄張りである。たっぷり1時間半の見学を終えた。  
 次の目的地に向う。熊本市内にはレトロな路面電車が走っていた。ガイドさんによると九州で路面電車が走っているのは長崎と鹿児島の三都市だそうだ。幸い三都市全てを訪れたことになる。
 20分ほどの所に水前寺公園があった。駐車場には竹中直人、吉永小百合主演の映画「まぼろしの邪馬台国」のキャンペーンバスが駐車していた。正式には水前寺成趣園というこの日本庭園に入場した途端、正面に富士山に見立てたたといわれる有名な築山が目に入る。高校時代のアルバムでも馴染みの景色だ。東海道五十三次を模した回遊式の庭園をゆっくり40分ほどかけて散策する。ところが庭園周辺には、高層のマンションやビルが立ち並び景観を著しく損なっている。ローマなどヨーロッパ諸国の景観保存の努力に遥かに及ばない日本の現実があった。 
 
 本日の観光はここまでで、バスで1時間ほど東の阿蘇山禄の米塚温泉の宿泊地に向った。午後5時、ゴルフ場を併設した阿蘇リゾート・グランヴィリオホテルに着いた。部屋で着替えて早速大浴場に浸かる。ゴルフ場併設の風呂場のイメージだが黄土色のお湯はまさしく天然温泉だった。浴槽に浸かり目の前に広がる一面緑の風景を眺めた。ナントその風景は雄大なゴルフコースだった。ここに至って自分の誤解にようやく気づいたものだ。ここはゴルフ場を併設したホテルでなく、ホテルを併設したゴルフ場だったことに・・・。それでも遠くには阿蘇外輪山や、くじゅう連山の姿を案内板で教えられる。  午後7時、パーティー会場とおぼしき部屋で懇親会が始まる。このホテルの正体が分かったからには、料理は昼食のような郷土色豊かなメニューは望むべくもない。お決まりのパーティー料理で我慢するほかはない。夕食後、場所を二次会のカラオケ会場に移す。幹事役の案内で一度ホテル玄関を夜道に出る。すぐ近くの窓ガラスにカラオケと描いたポスターを貼った山小屋風の建物に入る。分かった!ここはスタートホール前の茶店なのだ。ポスターはせめてもの心ずくしと受け止めるべきか。1時間ばかり参加者の懐メロ中心の喉を聞かせてもらう。恥ずかしながら私も数年ぶりの「赤ちょうちん」ではしゃいだ。部屋に戻り就寝前のひと風呂を浴びベッドに着いた。
 目が覚めたのは7時15分だった。7時を越えて目覚めたのは何年ぶりだろうか。昨夜の心地よい酔いが快眠を招いたのだろう。開けたカーテンの向うはどんよりした曇り空だった。今日の大自然観光はあまり期待できそうもない。
 朝食会場に向う。和洋別々のビュッフェ形式だ。迷わず和食を選ぶ。ゴルフコースを望む窓際で好きなおかずを集めたプレートを平らげる。出発までの1時間を 昨日のブログ原稿をザウルスのワード入力でつぶす。
 二日目は観光組とゴルフ組にほぼ半数ずつに分かれた。9時出発の阿蘇山観光のバスに乗り込んだ。阿蘇山というのは俗称のようだ。正式には阿蘇五岳というらしい。根子岳、高岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳の5つの山の総称を阿蘇山と呼んでいる。その最高峰は高岳の1,592mで、「ひごのくに(肥後国)」の語呂合わせで覚えられるとガイドさんの案内がある。40分ほどで最初の目的地である草千里に着いた。バスを降りると広大な草原が広がっている。小雨模様の中をバス備え付けのビニール傘の一団が草原の一角の雨水が溜まった湖沼に向う。私はひとり外れて右手の丘陵から湖沼を望むことにした。丘陵の上から湖沼のほとりの仲間たちの話し声が、澄み切った大自然の空気を通して驚くほど身近に聞こえる。思わず声をかけ手を振った。自然が年齢を忘れさせ無邪気な童心を連れてくる。草原の道路脇に乗馬クラブがあった。10数頭の太目のがっしりした馬たちが繋がれている。
 バスは1時間ばかり北東に向って進む。県境を越え大分県に入ってまもなく昼食会場についた。三愛レストハウスと看板のあるいかにも観光施設とおぼしき建物だ。1階の土産物売場を抜けて2階の団体専用席に案内される。釜飯付きの郷土素材の松花堂弁当だった。この頃から雨脚が一段と激しくなる。レストハウス備付けのパンフレットを見るとここから車で15分ばかりの所に、今脚光を浴びているアノ「黒川温泉」がある。ヘ〜ッそんな近くにまで来たんだ。昼食後30分ほど先の「くじゅう花公園」に到着。小雨模様の公園の花巡り散策である。真っ赤なサルビア、三分咲きのコスモス、辛うじてそれとわかる紫のラネンダー等の花絵巻が次々に繰り広がる。一巡し入場ゲート近くに帰ると、バスガイドさんお勧めのジェラートショップが待ち受けていた。全員それぞれに好みのジェラートを求めてしばしの休憩。季節限定のマロン・ジェラートの甘味を抑えた爽やかテイストを愉しんだ。
ここからもと来た道を引き返しゴルフ組と合流するためホテルに向う。途中、阿蘇五岳を望める絶景のビューポイントである大観峰展望台に立ち寄った。雨も止んだ展望所からは眼下に外輪山が取り巻く阿蘇平野の見事な矩形に整備された広大な稲田が広がっている。息を呑むような美しさにしばし見とれてしまう。そこから5分ばかり歩いて展望台に向う。近づくにつれ一気に霧がかかってきた。あっという間だった。展望台では一切の遠望が霧に包まれ、「大観峰」の石碑をむなしく眺めるばかりだ。バスに戻ると同行者たちはとっくに展望台行を断念し、無謀なd仲間の身を案じていたという。
 ホテルには予定より1時間ほど早く到着した。プレイ直後のゴルフ組は、まだ入浴中の時間である。観光組はホテルラウンジで旅の余韻を話し合いながら寛いだ。予定の16時に全メンバーを乗せたバスが出発し、17時35分発のANA伊丹行きが熊本空港を離陸した。