2006年1月例会

1月18日 江戸時代・・・日本人が最も輝いた時代
■大阪さくら会の2006年のスタートを飾る1月例会は、川島代表幹事による講演で幕を切った。氏のライフワークでもある「江戸時代の社会と文化研究」がテーマだった。
 午後7時前の例会会場「やなぎ本店3階」には、いつになく多くのメンバーが顔を揃えていた。今回の講演に対する期待の大きさの裏返しなのだろうか。
 講演に先立って配られた資料は、Å4版16ページに文字がぎっしり埋められた大作である。最終ページに記載された40冊もの参考文献が、テーマについての氏の熱意と造詣の深さをあらわしている。資料記載の以下の文章からその思いと熱意が伝わってくる。
 『今から27年前の昭和53年12月20日に、関西で歌舞伎を育てる会を結成し、事務局長を担当するとともに、今日まで世界に誇る伝統芸能である歌舞伎の継承・発展に取り組んできた。歌舞伎を知れば知るほど、歌舞伎など独特の文化を生み出した江戸時代の素晴らしさについて認識するようになった。歌舞伎は庶民が生み育ててきたが、時代を超えた普遍的な優れた価値を持っていなければ、400年以上も続くはずがない。まして世界無形文化遺産に認定され、世界各国から高い評価を受けることもない。歌舞伎へのボランティアと平行して、「江戸時代の再発見、再評価」をライフワークにしようとの思いで、あらゆるジャンルから資料をコツコツと集めて整理するとともに、いろいろなセミナーで歌舞伎や江戸時代の素晴らしさについて講演もしてきた。』
川島さんの講演は、「江戸時代」を素材とした単なる研究報告の域を超えた独自の世界を描いた物語でもあった。
 江戸時代の風土、精神、制度、慣行、暮らしぶりといった時代を構成する様々の要素を、今日の日本社会の病巣を念頭におきながら、その対比の中で描いてみせるその鮮やかな手法に、参加者の多くは、一気に引き込まれてしまったのではないか。以下はそのエッセンスである(カッコ内はこのホームページ執筆者のコメントであり、各項目に対比される今日の日本の状況について注釈してみた)。
一神教のキリスト教による植民地化に対抗した切支丹禁止令が、八百万(やおよろず)の神の多神教の日本の精神風土を守った。(今日のイスラム教、ユダヤ教、キリスト教といった一神教の世界の間での「文明の衝突」の悲劇を目の当たりにする時、このことの歴史的意義は極めて大きいといえる)
鎖国が、世界の争いから日本を守り、自給自足体制のもとでの独自の経済発展をもたらした。
(市場経済のグローバリズムのもたらす影の部分が懸念されだした)
参勤交代という独特の制度が、江戸に巨大消費市場を生み出すとともに道中
の地域経済を活性化し、武士の全国規模での交流を通じて情報のネットワークを形成した。
権力は江戸、商業・経済は大坂、伝統と名誉は京都と三極分散の時代
(東京一極集中)
半独立国家である約300の藩が立法、司法、行政を担当する9.5割自治の地方分権社会
(三割自治で地方をコントロールする中央集権社会)
50万の人口をわずか290人の江戸町奉行所役人で支えた江戸の町
(今日の東京都庁職員数20万人は人口比で江戸の10倍以上)
大量生産できないため、あらゆるものを再生し、再利用した完全リサイクル社会
(大量生産と大量消費のもとで垂れ流される大量廃棄物)
安定した物価のもとで旬、初物を大切にした食生活
(ハウスもの、養殖ものが全盛で旬が見えない食生活)
貧しくとも向う三軒両隣りで助け合う心豊かでのどかな長屋生活
(隣人との付合いの絶えた殺伐とした都市生活)
個別指導で個性尊重の寺子屋教育が、60%以上という当時の世界最高の就学率を生み出した。
(偏差値教育、受験戦争に追われる学歴偏重社会のひずみ)
50歳前後で家業を譲り、あらたな生きがいを楽しむ「ご隠居」たち
(濡れ落ち葉化し熟年離婚に怯える定年後の生活)
西欧の貴族文化に対し、俳句、川柳、狂歌、芝居、三味線、素人芸など庶民が咲かせた江戸文化
江戸時代に花咲いたロボットの原点であるカラクリ人形は、庶民のほとんどが読み書きそろばんができ、歌舞伎や文楽を楽しむという文化的蓄積を抜きには語れない。カラクリ人形に代表される物づくりの源流は、江戸にあった。
(日本の伝統文化の衰退とともに技術立国日本の物づくりの危機が懸念されている)
江戸の治世を支えた精神である武士道と武士の行動に、西欧からの高い評価がある。「武士は食わねど高楊枝」のやせ我慢とプライドが、庶民の信頼を確保し200年以上に渡る武士による治世を可能にした。
(金銭至上主義、実利主義と一線を画する武士道の倫理感が、幕末に列強に畏怖感を抱かせ植民地化をためらわせた。ライブドアの金銭至上主義、コンプライアンスなき経営の破綻は象徴的)
世界史上まれな200年も続いた平和のもとで独自の経済や文化が発展し、庶民がいきいきと輝く時代を築き上げた。
江戸時代は日本人が一番輝いた時代
(バブル崩壊後の無力感に打ちひしがれた今日の日本人の姿は目を覆うばかり)
川島さんの今回のスピーチ原稿は、昨年夏に「突発性難聴」という病に襲われて余儀なくされた半月間の入院生活を活用してまとめたものだとのことである。「逆境はそれを乗り越えるための気力を磨くチャンスなのだ(ベン・ホーガン)」を糧に書き上げられたこの労作の「まとめ」の中に、川島さんの思いのたけがこめられている。
 「提言」という形で披瀝された「まとめ」は、デザイン業務や労働運動や歌舞伎振興のボランティアや企業経営といった多様なサラリーマン生活を過ごしてきた川島さんが、今日の憂うべき日本の現状を前にして、その体験を通して吐かせた叫びにも似た心情であるかのようだ。
 @今こそ「和魂和才」の時代へ(明治以降の和魂洋才の果ての無魂無才の状況・・・「日本を知る」ことから再出発しよう)
 A温故創新へ(温故知新を一歩進め、「古きをたずね新しきを創る」をめざそう)
 B文化重視へ(経済優先で手にした豊かさと心の不安。日本の文化や伝統を軽視してきたツケ。四季が育み歴史に磨か    れた世界に通用する日本の数々の文化や芸術を見直そう。)
 C武士道の再認識へ(我が国固有の伝統精神のひとつである武士道を、混迷する時代を切り開く指針として再認識しよう)
 D複々線型の人生、定年のない名刺、ライフワークと人生へのこだわりを

1時間近くに渡った講演は、川島さんのキャリアとキャラクターを遺憾なく発揮したものだった。誠実で真摯な人柄を反映したその話し振りの中に、時として思いを込めた激しさが伝わってくる。
 今回の例会に先立って開催した幹事会では、「異人種交流会でもある大坂さくら会の今年の例会は、外部講師だけでなく、会員自身によるスピーチを積極的にお願いしよう」と確認した。その皮切りの1月例会だった。川島さんの代表幹事の面目躍如たる異人種振りというほかはない。 
スピーチが終ったところで、例によって「本日のお品書き」の紹介である。他店に転勤になったと聞いていたお馴染の由良店長がなぜか登場。「出戻りで再びやなぎ本店で頑張ってます」との口上で以下のお料理紹介。本日の銘酒は、土佐の幻の地酒「司牡丹」である(撮影忘れで画像紹介なし)。「生そばの唐揚げ」「お刺身盛合わせ」は定番メニュー。焼き物は「ブリの幽庵焼き」と「鴨肉と白ネギの炙り焼」。「紅白なます」の酢の物と「胡麻豆腐ワサビタレ」と続き、「いも饅頭野菜あんかけ」が追い討ちをかける。「春の漬物盛り」を肴に、これまた定番の「大皿仕上げそば」で仕上げとなる。デザートの「和菓子」でダメ押し。
■しばらくの懇親の後、初参加ではなかったが、木下さんと野木さんの紹介あいさつがあり、更に初参加者の紹介があった。前田さんと大久保さんの女性お二人だった。
■今回の参加者は、川島、井上、岸、岡、日高、竹内(佳)、森、生原、川原、川村、盛田、福井、段、北村、谷山、上林、三浦、竹内(賢)、筧田、浦濱、中野、那須、岡山、家入、野木、木下、前田、大久保の各氏で、28名という過去最高の参加者だった。

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