久々の講演会だった。「国際エコノミスト」の肩書きを持った長谷川慶太郎という著名人の講演である。
質疑応答を含め約90分がアッという間に過ぎた。聴衆を引付けて一気に語り終えたその独自の切り口はさすがというほかはない。
デフレ時代は、「売り手に地獄、買い手に天国」の時代。
「売り手に地獄」は、労働力も例外でない。賃下げ時代になる。
リストラは価格競争に追いつかない。

こうした数々の名セリフは「目から鱗」のインパクトであった。思わず講演要旨をアップしてしまった。
尚、大意は間違いではないにしても、小見出しや細部の言い回し等は、筆者の責任で著述した。
1998.10.09

イズミヤ総研講演会 長谷川慶太郎「明日の30年」講演要旨
戦争とインフレの20世紀から平和とデフレの21世紀へ
21世紀はどんな時代か
・戦争のない時代。従って変化の乏しい退屈な時代。
・戦争のない時代にはカリスマ的リーダーは登場しない。
・人格的に欠陥のあるクリントン大統領や平凡な小渕首相が大国のリーダーが務まる時代。
・ドイツ統一の偉業を成し遂げた在任16年のコール首相が、国民に飽きられたということだけで退任させられた。
・21世紀は政治家の使い捨ての時代でもある。
戦争のないデフレの時代
・経済は凄まじい勢いで「右肩下がり」の価格下落のデフレの時代に向っている。
・世界経済全体がデフレの方向に舵を切った。政治の力で押し止めることはできない。
・戦争のない時代は、デフレ経済が当然。
・もはやいかなる勢力も戦争の方向に誘導することはできない。
・戦争は20世紀の歴史の産物。今となっては愚かな選択肢であったことが証明されている。
・戦争は、既に禁じ手になっている。
「デフレ=不況」ではない
・1873年から1896年迄のヨーロッパの輝ける24年間。
・毎年2%ずつ物価が下落し続けたがこの時期は人類が最も経済が活発化した時代でもある。
・映画、写真の本格的活用等の様々の科学技術が開花した時代。
・物価下落で実質賃金が向上し庶民の生活は豊かになった。
・「明日からの30年」も「右肩下がり」の時代だが豊かな暮らしも可能な時代。
「右肩下がりの時代」
・「売り手に地獄、買い手に天国」の時代。
・売り手は買い手の気持を全力で掴まなければならない。
・経済、サービス、労働市場等の徹底した国際化が進む。
・労働力不足が深刻化することはない。少子化の労働市場への影響も少ない。
・世界から国境を越えて労働力が流入する。
・中国からの不法滞在者が3K労働を担っている。近い将来、彼らも日本国籍を取得する日がやってくる。
・国内求人窓口のハローワークが周辺国労働者の求職窓口になる。
・所得税制の累進性が金融ビッグバンを阻害している。優秀な国際金融マンにとって日本は魅力ある労働市場でない。
・あらゆる分野での徹底した国際化が進む。中途半端な国際化は意味がない。
・これからの30年は、徹底した自由化(@国有事業の民営化A保護政策の廃止B経済規制の廃止)以外にない。
・「売り手に地獄」は、労働力も例外でない。賃下げ時代になる。
・賃金は生産性に対応して実績主義となる。横並び主義はなくなる。
価格競争と情報化
・新たな価値をもった製品、サービスの導入競争が始まる。
・売り手は販売の末端から経営の中枢に至るまで全ての情報の管理と共有化が求められる。
・公共料金も廃止される。電力料金も需給バランスで決まる。
・季節、時間帯ごとに電力料金が異なり、主婦は節電のための情報収集が欠かせない。
・そのためにもパソコン端末の操作は必須条件となる。
・こうした流れは世界の大勢であり避けられない客観情勢である。
・唯一、その対処の方法に関する選択肢があるだけである。
価格競争と日本の製造業
・特徴のない消費財は価格競争に巻込まれる他ない。
・価格競争に巻込まれた企業はリストラによってしか競争力を維持できないが、リストラは価格競争に追いつかない。
・東アジアの経済危機は、中国との価格競争に敗れたことによる。
・日本の製造業は、資本財、製造財中心であり消費財でない。
・そのため顧客は、品質中心の法人であり価格中心の個人でないことが強みになっている。
・「@品質、性能A信頼性B納期C高価格」が、日本の製品の特徴。
新しさ、面白さへの挑戦
・今日の金融危機は、護送船団方式に守られた競争禁止の業界風土が招いた。
・金融技術の開発で欧米に大きく遅れをとった。
・流通業も同じ。買い手の気持を掴める技術のための研究開発が必要。
・研究開発費をコストと認識して企業会計に折込むこと。
・味の素でも3000を越える試作品の中で年に1つのヒットがあれば良いということ。
・それくらいの意気込みで全力をあげて研究開発に取組んでいる。
・研究開発は難行苦行と考えたら失敗する。面白いと考えられる人だけが成功する。
・新しいことに興味を持つこと。好奇心旺盛なこと。これがこれからの企業経営に必須条件。できない人は即刻引退を。

質疑応答
質問@ 「中国の経済状況は?」
・東アジアの経済危機の影響が浸透しはじめた。
・今週、広東省の省政府100%出資の投資信託コンス(GITCギティック)が倒産した。
・香港への不動産投資の失敗。欧米の出資者の質問に省政府役人は一切答えられなかった。
・多くの中国人が金の延棒を買い漁っている。国有企業の経営者を始めとして誰も「人民元」の将来を信用していない。
・経済危機の前夜と言ってよい。
質問A北朝鮮の戦争開始の可能性は?
・先頃、憲法改正が行われた。中央常務委員会主席を設け外務大臣クラスを首相にした。
・一方で中央軍事委員会主席を設け金正日が就任。全権を握る軍事独裁国家になった。
・経済危機は深刻。燃料準備は底をつき、空軍パイロットの年間飛行時間は僅か4時間でペーパードライバー並。
・三百数十人規模の片道切符の特攻隊が編成されたという情報もある。
・国境線沿いに中国軍が大規模に展開し北朝鮮軍を牽制。
・食糧危機の深刻化は想像以上で、いずれ金正日は亡命する。その時、国家が消滅する。
・そのためミサイルのイランへの売却代金等、50億円相当をスイスフランで隠している。
質問B韓国経済の状況は?
・縮小均衡に向っている。輸出拡大、輸入縮小で外貨準備高は430億ドルまで戻したが。
・反面、原料輸入の縮小で石油・鉱石が逼迫し、今後の経済に重大な影響となる。
・今回の金大中の来日目的は、30億ドルの輸銀返済金の確保だ。
・500億ドルのIMF支援の内、既に日本は100億ドルもの莫大な資金を出した。米国の倍、ヨーロッパの3倍だ。
・邦銀を中心とした260億ドルの短期借款の繰延ができるかどうかもかかっている。
・金大中は、東アジアで最も頭の回転の早い、判断力、決断力に富んだ指導者。
・その彼が、韓国経済の回復は早くて2000年末と言っている。
・北朝鮮崩壊による2000万人もの亡命受入という事態まで読んだ対応が迫られている。
以上

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