貧困、ストリートチルドレンとエイズ
-アビジャンとアクラの事例-

モマール・クンバ ディオップ編


序文


 貧困問題の改善は、都市管理プログラムと技術協力公社GTZ(Deutsche Gesellschaft fur Technische Zusammenarbeit)プログラムの最重要課題となっている。これは、アフリカの都市部で貧困が増加しているという事実によるものである。

 複数の著者が、特定のグループが生活最低限の必需品を十分に得られず、基本的社会サービスへアクセスできないという社会的弱者の問題を強調している。中でも社会的に最も弱いグループは、女性、若者、障害者、高齢者、そして失業者である。これらの人々の中で、とりわけ社会から周縁化されているのが若者であり、直面する主要な危険の一つにHIV感染がある。その結果、社会に対して悪影響を与える危険をはらんでいる。

 一般に、都市の若者たちが被る悪影響が強まっているにもかかわらず、公的権力は都市の若者たちにほとんど目を向けていない。


都市の貧困

 この20年間、アフリカでは、人口が急激に増加した(平均して4.35%)。アフリカ大陸の都市部の人口は、1975年の21%から1995年には35%へ、そして2025年には54%に到達すると言われている。この人口増加と、ますます制限される都市サービスと社会基盤の水準の問題は、社会政策の方針が再検討される必要があることを明らかにしている。都市の急速な成長と入手可能な資源の希薄さがもとで、生活状況の悪化が引き起こされている。

 都市で暮らすにあたり、特定のサービスを受けるためにはお金を支払わなければならない。お金は生きていく術であり、水、住居、教育、健康等の基本的サービスへのアクセスを保証するものである。生活状況を改善するための収入を得るため、ストリートチルドレン、女性、失業者は、時に売春をせざるを得ない。そして、それによって、彼らは性感染症やエイズへの多大な危険にさらされるのである。特にストリートチルドレンは、性的暴力にさらされる危険もある。


エイズと地方行政

 1990年代初頭より、「ガバナンス」は国家から国際レベルまで今日的な問題とされており、住民と行政の歩み寄り、そして、地方当局と中央政権が社会的サービス費用をより妥当に分担するよう推進することが、課題となっている。これらの政策の実施により、貧しい人々の負担増加が度々指摘されている。

 都市の行政当局者たちにとって、このような状況での課題は、一方では貧困、社会的弱者、エイズと都市運営との関係を理解すること、他方では、問題解決のための積極的な行動に対するの障害を明確にすることである。エイズが都市から健康な労働力と若さを奪うことを考えると、中央政権と都市当局は適切な政策の立案をする上で重要な役割を担っている。

 エイズがアフリカの都市の人的資源にもたらすインパクト(衝撃・影響)は、経済開発を大きく妨げている。社会政策と人々の生活の現状との間には溝が存在しているのである。よって、都市社会への悪影響、特に貧困層への悪影響を軽減するために、政治家、首長、保健衛生の専門家の協力を推進しなければならない。都市行政が彼らに対するHIV感染の危険性の高まりに対処しなかったことが、若者たちの社会的権利の回復を犠牲にして抑圧的政策(その限界はすでに見えているが)やあらゆる種類の問題を大きくしているのである。

 このような受け入れがたい状況状況を改善するために、アフリカの市長、地方政府の当局者たち、『ガバナンス』の問題にかかわる機構が、市民社会と連携し、積極的に関与することをお互い約束する必要がある。そして、継続的な社会発展を促していかなければならない。こうした取り組みはまた、子供の権利条約に記されているように、若者の権利を保護するものでなければならない。


アビジャンとアクラのストリートチルドレン

 GTZ(技術公社)のエイズ対策地域プログラム(PRS)が都市管理プログラム(PGU)へ協力を要請した結果、1995年、PGUの本部でこの2つのプログラムの専門家の会合が開かれ、1996年2月にはコンサルタント一人と共に一連の作業部会が組織された。これらの会合によって、都市の貧困とエイズの関係をさらに研究するための協力を確立することができた。そこでPRSとGTZのPGUは、ストリートチルドレン、彼らの性行動、生活状況、そしてエイズに関する認識の度合いに関して、コートジボアールのアビジャンとガーナのアクラで調査を実施することにした。

 ストリートチルドレンが重要課題であることは、アフリカの都市でのその数の増加によって、説明することができる。彼らに関する研究論文は入手可能であるにも関わらず、性感染症やエイズと彼らの関係を知ろうとする努力はほとんどなされていない。よって、ストリートチルドレン、貧困、エイズに関する情報不足を補っていくために、この2つのプログラムが先行的な調査を行うことになったのである。

 課題は、路上での非常に不安定な生活状況や家族という枠の崩壊が、ストリートチルドレン(の世界)が特にエイズや性感染症と関係が深いのかどうかを明らかにすることである。

 この協力の目的は、社会的弱者、特にストリートチルドレンへのHIV感染のリスクを軽減するのに役立つ情報を、都市当局者、専門家、医療補助員、特にアフリカの知事たちに自由に使用してもらうことであり、その上、都市開発政策において、統合したアプローチを強化することも主要課題であった。

 そのような理由により、(ストリートチルドレンに重点を置いた)都市における貧困とエイズに関するアビジャンとアクラでの調査に資金が投じられることとなった。この二都市が選ばれたのは、ガーナとコートジボワールで異なると推定される政治運営と経済運営を考慮に入れようとしたためである。大筋では、これらの調査の結果は、1997年3月にアクラで開かれた「アフリカの都市環境における貧しい子供に関する国際分科会」での行動計画検討の際、議論を行なう土台となった。このワークショップの後に『ストリートチルドレンとエイズ』というテーマのワークショップがアクラで続けて開かれたのだが、そのワークショップには15人のアフリカの市長とその他の参加者が集った。その際にこの調査結果の網羅的な発表がなされ、それにより、それぞれ経験してきたことの情報交換や優先して行われるべき活動の概略を作ることが可能となった。この二つの調査の主な目的は以下の通りであった:

  • ストリートチルドレンとエイズの関係を証明すること
  • アビジャンとアクラのストリートチルドレンがどれほどエイズのリスクに曝されているかを分析すること
  • このリスクに曝された集団に対して市町村がとることができる活動を特定すること
  • このリスクに立ち向かうため、中央政府、地方自治体、NGO、その他の団体が実行している様々な対策を調査すること

 二都市におけるストリートチルドレンの現象は、特に性行為とエイズに対する認識に重点を置きながら詳細に分析された。二つの調査結果は、ストリートチルドレン、また路上に立つ若者が、その生活スタイルがゆえに、HIV感染に曝されていることを裏付けている。二都市の両方で、ストリートチルドレンの大半は性的に活発である。彼らはエイズとエイズに伴う危険に恐怖を感じているが、全員が避妊具を用いているわけではない。

 2カ国の政府はこの現象の重大さと規模の広がりに対する自覚はあるが、政策や公の率先した活動でストリートチルドレンの感染のリスクを減少させる事ができていない。ストリートチルドレンはアクラでは地方から出てきているのに対し、アビジャンでは都会の下層階級出身者が多い。

 アビジャン市ではエイズと闘っているNGOに対する支援委員会があるが、その活動はストリートチルドレンだけを対象にしたものではない。アクラ市では一般に若者を考慮した政策が取られているが、それもまた特にストリートチルドレンだけに関係するものではない。しかしながらアクラ市はある程度の範囲でNGOと協力してはいる。

 貧困は子供・若者が道端にいることの最大の原因である。この若者達の可動性は、彼らを対象とした行動を取ろうとするときに大きな障害となる。その一方で、彼らの学歴はとても低く、性的にも早熟である。コートジボワールでもガーナでも、公的機関はまだこの問題に対し長期的な解決法を見つけることができておらず、そのことが公衆衛生面で大きな不安材料となっている。

 調査の方法計画は、1)エイズと性病に関してストリートチルドレンが持っている認識を測定するためのアンケート、2)ストリートチルドレンを集め、彼らの関心を喚起し実行に移すためには何が条件か意見を聞くfocus group、3)ストリートチルドレンをエイズから守るため、政府機構に対して出されたストリートチルドレンとの対話の手引 の3点を中心に立てられた。

 この調査結果から、調査対象の集団は学校のレベルにおいても家庭のレベルにおいても、社会的な関係を築けてないことからリスクに曝されている事が判明した。その結果は様々で、彼らは貧困と周辺化の道をたどらざるをえないとても強い傾向がある。調査対象者のエイズに対する認識はとても乏しい。彼らの特徴としては、就学率は高いが多くの者の教育レベルは初等程度であり、その教育も修了したかしていないか、どのような環境で行なわれたのか分からないということが挙げられる。このことから、彼らのエイズに対する関心をフランス語によって高めるのは難しいであろう。彼らにとってより身近な口述・身ぶりによった注意喚起・動員方法を見つけねばならない。

 この調査によって、政府のエイズ政策はストリートチルドレンに限って言えば微弱なものである事が分かった。NGOの注意喚起の手段も型にはまったものである。彼らに対して、もっと的を絞ってより有効なメッセージが送られるよう見直すことが望ましい。

 ガーナにおける調査より、ストリートチルドレンの大部分は青少年であり、その中でも男子の方が女子よりも年齢が若干上である事が判明した。若者達は大体アクラへの移住者の第一世代であり、その出身は特に北部地域かアシャンティ地域である事が多い。彼らの教育レベルはとても低い。親との情愛的な関係は少なく、自分の悩みは親より友達に話す方を好む。

 貧困は若いガーナ人達を道端へと押し出す最大の要因である。彼らの多くは親が彼らを養えないために道端に出ざるをえないのであり、その内何人かは家庭内暴力から逃げてきている。入手できるデータは仲たがいした家庭や機能不全に陥った家族の存在を浮き彫りにしている。ストリートチルドレンの大部分は市場、駅や店の前といった野外で寝ている。そのことにより、彼らは制約された環境に身をおいている。不適切な食事の習慣が身についており、食物の質の悪さにより健康をおびやかされている。彼らは生き延びるため、ささいな家事などの仕事をしている。また他のものは、生きていく手段として、あるいは、こづかいを稼ぐ手段としてとして売春や麻薬取引に手を染めている。ストリートチルドレンの日常の活動は、彼らが「道端にいる若者」であるのか、「ストリートチルドレン」であるのかということ、そして従事している活動の種類によって決まっている。

 ストリートチルドレンの大部分は性的に活発である。初めての性的関係は平均で14~15歳に経験している。何人かは10歳になるより以前から性的関係の経験を持っている。彼らは、同性愛を含め、様々な性的嗜好のことをよく知っていし、実際に同性愛者もいる。これはグローバル社会で起こっていることの反映かもしれないが、通常の規範とは違う性的なアンダーカルチャーを作り出しているのかもしれない。若者達は性的な行動について無頓着であり、麻薬使用時はその傾向がいっそうひどくなる。ストリートチルドレンは、通常より多く行き当たりばったりな性的関係を持つことが多い。

 多くのストリートチルドレンはエイズの存在を知っている。しかし、エイズに対する意識はとても高いものの、エイズの感染経路についての知識は平均より低い。それでもエイズは性的関係により感染すると答えた者が圧倒的に多かったが、避妊具が身を守るのに役立つと知っている者のパーセンテージはとても低かった。

 アクラとアビジャンにて行なわれた調査の分析結果は、既にこの問題について行なわれた他の調査により示唆されていた二つの要因を浮き彫りにした。

 第一に、ストリートチルドレンの問題は明らかであり、各地域の下で支配的なマクロ経済的傾向、そしてその傾向による影響の一つである拡大する貧困を考慮にいれると、この問題は今後数十年間のうちに十中八九大きくなるであろう。第二に、彼らのエイズに対する知識の低さ、そして日常の生活態度という点から考えて、ストリートチルドレンは極めてエイズの危険にさらされており、同時にその感染拡大の源となっている。

 二つの調査の分析結果はまた、ストリートチルドレンの問題と彼らがさらされているエイズ感染の危険に効果的に取り組むためのアプローチのタイプ・適切な対策を指し示している。

 その一方で、示された結果は問題に取り組む手段の明らかな非能率を明かすものであった。また、より効果的な政策や介入を実行するために何が欠落しているのか、さらに詳しい調査が必要であることも確認させた。

2006年9月11日 訳文更新


原文