第四章



1
 なぜなら、地上の謀略の王国は、大衆とゲリラ戦を闘う自由戦士によってとある国から放り出される日が来ることを予見した支配者になぞらえることができるからだ。その支配者は、その国で蓄え込んだ全ての富をどのようにして守るのか、またどうやって他の方法で原住民たちを支配するのかを決定しようと試みて、大きな困惑を覚えた。彼は自問した。「私がこれまで君臨してきたあの連中が、彼らから取り上げてきたプランテーションや工場から私を追い出そうとしているのを見て、何をすればいいのだろうか? 私はもはや畑を耕すことはできない。私はもはや自分の手で働くことはできない。しかも、この国からこん棒や銃で追い払われるのをじっと待っていたら、武装した車や爆弾の無敵の強さに関して彼らに言ってきた身の毛のよだつような話や、白人が黒人に支配されることはないといつも努めてきたことを、ずっと恥ずかしく思いながら生きなければならない。それに、ゲリラたちが勝利し、彼らがこの国の鍵を握ったら、私は二度とこれらのプランテーションや工場を取り戻すことはできない。お茶、氷、綿、コーヒー、宝石、ホテルに店、工場、全ての彼らの貴重な汗の産物、これらそしてもっともっと多くのものが私のもとから失われる。そうだ、どうすればいいかわかった。表口から私自身の国へ戻ったにしても、裏口からこの国へ入り、歓迎されて、昔植えたのよりもしっかり根を張る種を植えることはできる。」
 彼は忠実な奴隷と召使を呼び寄せ、知る限りの地上の謀略を教えた。特に、盗みと強盗にこれ以上なく甘い香りをふりまく方法、毒を砂糖でまぶした葉にくるむ方法、そして労働者や農民をいくらかの金と部族や宗教の違いを強く言って分断するさまざまな方法を教えた。教え終わり、彼は彼らに海を越え帰国するところだと伝えた。
 主人が去るところだと聞いて、奴隷たちも召使たちも着ている服を引きちぎり身体中に灰を塗って跪き叫んだ。「私たちがあなたの名前で大衆を迫害し多くの罪を犯してきたことを良く知っているのに、どうしてあなたは私たちを孤児のように置いてきぼりにして、行ってしまうことができるのですか? この土地を離れることはない、と誓ったのではなかったのですか? 今になってどうして、私たちを民族主義ゲリラのなすがままに残していくことができるのですか?」
 それで、彼らの主人は言った。「お前たちはそんなに忠誠心がないのか? 思い煩うな。なぜなら、お前たちは私が教えた神を信じ、神の意志の解説者である私を信じなければならないから。私はこの土地で望みを満たす方法をいろいろと持っている。もし、そうでなかったら、私はお前たちが愛国者たちに捕らえられる前に逃げるか自らを吊るすロープを捜すことができるように、そのことを言っただろう。しかし、今私がやりたいと願っていることはお前たちのために指導者の地位を用意することだ。そしてお前たちが私のテーブルからかき集めてきたパンくずに少しばかり付け足してやることだ。後で、私はたくさんのお金と銀行と一緒に戻ってくる。その時には、私がお前たちといてお前たちが私といれるようにそしていつもお互いを愛しあい、私は好みの料理で満腹しお前たちは貴重な残り物を集めて一緒に食事ができるように、お前たちに装甲車、銃、爆弾そして飛行機をもっとたくさん持ってくる。」
 時が過ぎ、支配者が帰国するために出発しようとする時、彼は再び全ての使用人を集め、彼らに地所の鍵を渡していった。「愛国者のゲリラもこの国の大衆も、お前たちが彼らとどうようの黒人なのでだまされ、そして勝利の歌を歌うだろう。『見よ、いま私たち黒人が私たちの国の鍵を手にしている。見よ、いま私たち黒人がハンドルを握っている。このためにこそ闘ってきた。さあ、武器を降ろして、私たち黒人が主人となったことを讃える歌を歌おう。』と」
 そして、彼は彼らに管理しさらには増やし倍にすべき財産と品物を渡した。ある使用人には50万シリングを、別の使用人には20万シリングを、さらに別の使用人には10万シリングをという風に、全ての使用人に、主人へどれだけ忠誠を尽くしたか、主人の信頼にどれだけこたえたか、主人の考えにどれだけ従ったかに応じて渡していった。それから主人は正面玄関を通って出発した。
 その後、50万シリングを受け取った使用人はすぐに旅立ち、田舎で農民たちから安く品物を手に入れ、それを町で働く人々へ高い値段で売った。そうやって50万シリングを稼いだ。20万シリングを受け取った使用人は同じように、ものを作っている人々から安く仕入れ、それを高く消費者に売って20万シリングを稼いだ。
 一方、10万シリングしか受け取らなかった使用人は、自分のことを利口者だと思い、自分と自国の大衆のそれまでの生活そして外国へ向かって旅立ったばかりの主人の生活を振り返った。そして自分に向かってこう言った。「あの主人はいつも自分一人が持ってきたちょっとばかりの金でこの国を発展させたと自慢しては、『金、金』と叫んでいた。じゃ、労働者の汗まみれにならなくとも、それとも農民や労働者の労働を安く買わなくとも、金が利益を生み出すかどうか見てやろうじゃないか。もし、金がそれだけで利益を生み出すとすれば、俺は金が国を発展させるということを全く疑わなくてもいいわけだ。」で、彼は10万シリングを缶に入れきちんと蓋をし、バナナの木のそばに穴を掘って缶を埋めた。
 そして、たくさんの日々が過ぎ去る前に、裏口から主人がその国へ帰ってきて、残して置いた財産を検分する日がやってきた。彼は召使いたちを呼びつけて、財産とそれぞれに与えた金を勘定した。
 50万シリングを与えられた男がやってきて言った。「ご主人様、あなたは私に50万シリングを残して下さいました。そして私はそれを二倍にしました。」主人は全く驚いた。そして叫んだ。「100%の利益だって! 夢のような利益率だ。お前はよくやった。お前は優秀で忠実な召使いだ。お前は、ちょっとした財産を任せられるってことを証明した。私はお前をいくつもの企業の役員にしよう。ここへ来てお前の主人の幸福と財産を分かち合え。私はお前を私の銀行の現地法人の社長にしよう。そしていくつも会社の役員にしよう。お前もそれらの会社から少しばかり分け前を取るがいい。今日から私は、あまり姿を見せないようにしよう。お前がこの国で私の代わりをするがいい。」
 ついで、20万シリングを与えられた召使いがやって来て言った。「ご主人様。私には20万シリングを下さいました。見て下さい。あなたの資本は、さらに20万シリングを生み出しました。」主人はこう言った。「素晴らしい、ほんとに素晴らしい。すごい利益率だ。投資にはおあつらえ向きの国だ。お前はよくやった。お前は優秀で忠実な召使いだ。お前は、ちょっとした財産を任せられるってことを証明した。私はお前をいくつもの企業の役員にしよう。ここへ来てお前の主人の幸福と財産を分かち合え。私はお前を私の保険会社の現地部門の営業担当役員にしよう。そしていくつも私の会社の支店の役員と、他ののいろんな会社の役員にしよう。お前もそれらの会社から少しばかり分け前を取るがいい。今日から私は、顔を隠す。背後にいるようにしよう。お前が、ドアの前、窓のところに立ってお前の顔をいつも見せてるがいい。お前は私の投資のお前の国での番犬になれ。」
 そして、10万シリングを与えられた召使いが前へ歩み出て主人に言った。「白人の一人であるご主人様。私はあなたのトリックを見破りました。あなたの本当の名前も見つけました。帝国主義者。それがあなたの本当の名前です。そしてあなたは残虐な主人です。どうしてかって? なぜならあなたは自分では種をまかなかったところで刈り入れをします。あなたは自分では汗を流してもいないものを横取りします。あなたは自分では作り出す手助けを一切しなかったさまざまなものの分配者を任じてきました。なぜかって? あなたが資本を持っているだからだけなのです。だから、私はあなたのお金が、私や他の人たちの汗を肥やしにすることなく何物かを生み出すかどうか確かめるために、あなたのお金を地面に埋めてみました。見てご覧なさい。これがあなたの10万シリングです。あなたが残していったそのままです。私はあなたにこのお金を返します。よく数えて下さい、1ペンスたりともなくなっていません。注目すべきことは、私が自分の汗で食べるものを得、飲む水を得、そして眠る所を得てきたということです。は! 私や二度と生命のない資本の神の前には跪きません。もう奴隷ではないのです。私の目は今開いています。今日、私が、自ら汗したものを支配しようとする者たちを拒む人々と手をつないでいれば、私たちと私たちの国のために創り出すことにできる富に限りはないでしょう。」
 主人は目を厳しさでいっぱいにして彼を見た。心は苦々しさでいっぱいだった。そして口を開いた。「このどうしようもない不実な怠け者、謀反人たちの一党めが。金を銀行に預けるか、金で商売する人間たちの手に置いておくことができたろうが。そうすれば、私が帰ってきて、いくらかなりの稼ぎを得ることができたのに。お前には、お前が私の金を死体のように墓場へ埋めてしまったことを知って、私がどんなに傷ついたかわからないだろう。しかも、誰が私の名前の秘密を暴露したんだ。私が種を撒かなかったところから収穫し、汗を流したこともない物で利益をあげているから、私を拒めと誰がお前を唆したんだ。収穫すること管理することが厳しい仕事じゃないなどと誰がお前に言ったんだ。だいたい、お前たち黒人はそんな反抗的な考えを持てっこない。お前たち黒人はお前たちを主人にくくりつけているロープを切ろうなんてことを計画したり実行したりすることなどできやしない。お前はコミュニストに惑わされているんだ。お前はそんな危険思想を労働者と農民の党から得たに違いない。そうだろう、お前の心はコミュニストの考えに毒されている。コミュニズム。お前は、この国で私と私の手先たち、私の財産を守っているいる者たちのためにあった平和と安定にとって正真正銘の危険物になってしまった。こうなったからには、お前は火に焼かれて私の本当の名前を永遠に忘れてしまうしかない。さあ、こいつを逮捕しろ。こいつがこの危険思想を他の労働者や農民にまき散らして、組織された統一の力が私の爆弾や戦車全てよりも強いと教えないうちに。こいつの持ち物がほんの僅かでも取り上げて、お前たちで分けてしまえ。なぜなら、富める物はますます与えられ、貧しい人間からはどんな僅かな蓄えであっても奪い去られるものだからだ。それが私の命令全ての中で最も重要なものだ。お前たちは何を待っている? 行って警察と軍隊を連れてきて、大胆にも奴隷であることを拒否したこの野郎を逮捕しろ。こいつを監獄か永遠に続く暗闇の中へ投げ込んでしまえ、そしたらこいつの家族は涙と歯ぎしりにくれるしかないだろう。
 よし、よし! お前たちはよくやった。こんな反逆者全部におんなじ仕置きを与えろ。そうすりゃ、他の労働者は、怯えて賃上げしろとストライキを打ったり、奴隷のくびきを打ち砕くために武器を取ったりしないだろう。
 ところでお前たちだが、これから先私は公の場ではお前たちを奴隷とも召使いとも呼ばない。これでお前たちはほんとに私の友人だ。なぜかって? 私がお前たちの国の鍵を返したというのに、お前たちは私の言いつけを守りしかも、私が自分でお前たちの国の鍵を持っていたとき以上の目覚ましさで利益を産み出して私の財産を守ってきたからだ。だから、私はお前たちを召使いなどとはもう二度といわない。というもの、召使いは主人の目的とするものや考えを知りやしない。しかし、お前たちは私がこの国で何を企んでいるかを知っているし、私も教えるつもりだから、お前たちを友人と呼ぼう、さらには、私が得るものの一部をお前たちに与えよう。そうすれば、お前たちも気を強くして心から、どのくらいのことであれ真剣に『大衆』について語る連中の企てを打ち砕いていく気になるだろうからな。
 私とこの国における私の代理人たちに、平和と愛と団結を永久に! 何がそんなに問題かって? 君たちは二度噛み私は四度噛む。私たちは愚かな大衆を愚弄するんだ。着実な進歩あれ。利益の拡大あれ。外国人と国を忘れたエキスパートを讃えよ!」

2
 式典の主催者がたとえ話を終えた時、競技会のために洞窟に集まっていた全ての強盗と盗人は立ち上がって主人を讃え、雷のような拍手を送った。何人かは「靴が足にほんとにぴったりだから、靴下がいらない」と叫んだ。一方で、他の何人かは、お互いにシャツと袖口を引っ張りながらつぶやいた「聞いたかね? 持てる者はさらに与えられる……。式典の主催者は我々と外国人との間にある統一を言い当てたよ。彼らが肉を喰らい、我々が骨をきれいにする。骨を得た犬は何もない犬よりずっといい…でも、間違えちゃいけない、ちょびっとばかりでも肉の付いた骨でなきゃ。それがほんとのアフリカ社会主義だよ。アフリカの伝統に根ざした社会主義だよ。ニエレレややつの中国の友人たちのような、ねたみの社会主義、人が骨をつかむのを邪魔しようという社会主義とは違うんだ。我々は我が国に中国風のやり方を望んではいない。我々が欲しいのは、キリスト教なのだ……」
 式典の主催者は彼ら全員に着席し雑音も喝采も納めるよう頼んだ。彼の体はまるまるとしていた。彼の頬は丸く、二つのメロンのようで、彼の目は大きくて赤く、プラムのようだった。そして、彼の首は太く、バオバブの木の幹のようだった。彼の胴体は首より僅かばかり大きかった。彼の下の歯並びには二本の金歯があり、話をする時、彼が大きく口を開けると、この金歯が見えていた。彼は絹のスーツを着ており、このスーツは照明に輝き、光の密度や当たる角度に会わせて色を変えていた。彼は聴衆に競技会の細かい部分について説明した。
 「全ての競技者は壇上に上がり、最初どのようにして強盗や盗みをするようになったのか、どこで盗み強盗したのか、そして強盗と盗みをどのようにして完全なものにするのかについての意見を簡潔に述べてもらいます。しかし、もっと重要なことは、私たちと外国人たちとの間の協力関係をどのようにして創っていくのかを、明らかにしなくてはなりません。というのは、そのことを通して私たちは外国製品やもろもろの楽しみのある天国への上昇をスピードアップすることができからです。会場にいる皆さん、皆さんが審判です。発言者ごとに拍手して、報告された悪事にどれだけ触発されたかを明らかにして下さい。
 では、現代盗人と強盗組織のイルモログ支部の議長として、私は皆さんに次のように申し上げたい。今日の競技会は、私たちが人々の富を団結して仲良くかじり取るために牙と爪とを研ぐ砥石なのです。なぜなら、皆さんもご存じのように、入り口に砥石の置いてある里には切れないナイフはないからです。だから、負けた人も失望してはいけません。負けた人々もまた盗み強盗をし続けなくてはなりません。だから勝った人々から新しいトリックを学ばなくてはなりません。賢い人間は人々の行いからも教わるものなのです。豹だって牛飼いに教えられるまで、どうやって爪で人を殺すのかは知らないのです。
 最後に着席する前に、アメリカ合衆国のニューヨークに本部がある国際盗人と強盗組織(IOTR)から代表団があいさつのために見えていますので紹介します。ご承知のことと思いますが、この場におられるみなさんはすでにIOTRの本会員とみなされています。今回の代表訪問団そして持ってこられたギフトと王冠は、これからのさらに実り多い共同作業の時代の始まりを記念するものです。この方々から学ぶことのできる多くの技があります。外国人たちほどに私たちが知らないという事実を認識することを恐れてはなりません。また外国の知恵の泉を汲み取ることを恥じる必要はありません。さあ、神が私たちの行く末に祝福を与えてくださるよう願って、天に唾しましょう。」
 次いで、式典の主催者は盗人と強盗の外国からの代表団のリーダーを舞台のうえ呼び上げ、競技者たちの人波に挨拶するよう促した。代表団のリーダーが舞台への階段を上るにつれて拍手喝采は雷鳴よりも大きくなった。リーダーは空咳をして挨拶を始めた。
 「イギリス人たちが最初に『時は金なり』と言いました。私たちアメリカ人も同じく、時は金なり、と信じます。ですから、みなさんの時間を長々としゃべって無駄にする積もりはありません。 式典の主催者が語ったたとえは、なされるべき最も重要なポイントをすべて含んでいます。
 私たちは多くの国々からやって参りました。USA、イギリス、ドイツ、フランス、北欧諸国(スウェーデン、ノルウェー、デンマークですね)、イタリアそして日本といった、遠くの国からそしていろいろな国から参りました。ここで、このことの意味を考えてみましょう。違った国々、異なった言語、皮膚の色の違い、異なった宗教、しかし、盗みという一つの目的と信念を持った一つの団体。
 私たちは、私たちの投資を守る地元の番犬である私たちの友人たちであるあなた達のところへやってきました。ですから、この場にいて、私たちは非常になじんだところにいるような気分です。私たちは地元の盗人・強盗のみんさんに所属する多くの洞窟や隠れ家を訪ねました。そして、あなたがたがなしとげた仕事に大いに満足しています。あなたがたは近代的な盗み・強盗の技術をつい最近導入されたばかりというのに、はやばやとそのこつを見抜きマスターしているようですね。このままいけば、あなたがたは西側社会の仲間たちと同様の近代的盗み・強盗の本当のエキスパートになる、と私は思います。
 私たちは、七人の使徒を選び出したいと思います。彼らは私たちの代表者たちの代表になるでしょう。盗人たちに教える盗人、強盗たちに教える強盗、エキスパートに教えるエキスパートに。なぜなら、式典の主催者が私たちと同席した時に言っていたように、あなた方には『鉄そのものを貫き通す鉄の道具がある』という言い伝えがあるからです。七人の使徒になるとこんなメリットが伴います。まず一度冠を与えられたら、その人は、私たちの銀行、保険会社、すなわち全ての金融機関の現地支店へのドアが、かつては封じられていたドアが、一つならず開きます。近代の盗みについていくらかでも知る人は、今日これらの金融機関が工業やその他の商売全てを支配していることを知っています。これらの金融機関こそが、あれこれの工場の位置を指示し、また工場の拡張を命ずるのです。彼らは工場の持ち主や成長についても指示を下します。すなわち、ある工場を設置するのはカマウなのかオニャンゴなのかを決定し、またある工場が拡張されるのか閉鎖されるのかを決するのです。金融機関の大物たちが今日の世界の声を支配しています。おカネが世界を支配しているのです。これらの金融機関はまた、人があちこちからかき集めた財産を安心して預けることのできる唯一の金庫でもあります。七人の使徒にとっては、他の強盗や盗人、特に経験のない人々に、ひったくりかっぱらいの最良の方法を見せること、飲んで食べていびきをかく一番のやり方を示すこと、そして人々が匂いがしないという金持ちのおならを放ってみせること、が義務となります。
 これで席に着くのですが、最後にいくつかの金言を紹介します。
 ここには、強盗と盗みがアメリカそして西洋文明の礎石であることを知らない人はいないと思います。おカネこそが西側世界を活動させ続けている心臓なのです。あなたがたが私たちのように偉大な文明を築きたいのであれば、おカネの神様の前に跪かなくてはなりません。子どもたちや親たち、兄弟たち姉妹たちの顔など無視しなくてはなりません。おカネの輝く顔だけに目を向けるのです。そうすれば、決して悪いようにはなりません。一歩さがるよりは、むしろ仲間たちの血をすすり肉を喰らわなくてはなりません。
 なぜ、こういうことを言うのかともうしますと、私たち自身が経験しているからです。アメリカでも西ヨーロッパでもこんなふうにしてきたのです。アメリカインディアンが天与の富と彼らの財産を私たちから守ろうとした時、私たちは炎の剣と銃で彼らを一掃しました。それでも、彼らの一部だけは残し、後にはそれらを保留地(リザベーション)に閉じこめ、歴史を語る証拠として保存しています。アメリカインディアンのことが済まない中で、私たちはあなた達のアフリカへやって来て、数百万人の奴隷を運び去りました。あなたたちの流した血によって、私たちが今属しているヨーロッパもアメリカも繁栄してきたのです。今、あなたたちは私たちの友人ですから、こうした事実も隠す必要もありません。今日、私たちアメリカ、西ヨーロッパ、日本の強盗と盗人は、全てをつかみ取りながら全世界を闊歩することができます。もちろん、一部は友人たちのために残しておきますが。なぜ私たちはこんなことができるのでしょうか?
 それは、私たちの祖先たちが自分の国の労働者や農民の血、そして外の国々の労働者や農民の血の中を突き進むことを恐れなかったからです。今日、私たちは盗みと強盗の民主主義を信奉しています。労働者の血を飲み、肉を喰らう民主主義をです。あなたがたが、私たちと同じようになろうとするなら、同情心を木々にかけてほっておきなさい。そうすれば、労働者や農民を恐れることなどありません。しかし、式典の主催者がいみじくも言ったように、まず蜜を塗り込めた言葉と話で彼らの目をくらますことよう試みなくてはなりません。さて、式典の主催者が使ったイメージは何だったでしょうか? オーイエス、あなたたちは『砂糖で毒をくるむ』ことを学ばなくてはならないのです。しかし、さきほどのたとえ話の、自分が主人よりも利口だと思う召使いのようなどうしようもない連中は、鋲を打ったブーツで埃の中に踏みにじってやらなくてはなりません。
 結論を申しますと、あなたがたは盗みのウフル(自由)を創り出さなくてはなりません。そうしたら、私たちは手にすることのできる全ての武器を使ってそれを守り抜きます。私たちのメッセージは、あなたがたの前途に幸いあれ! です。」
 外国からの代表団のリーダーが席に着いた時、洞窟中に歓声と雷のような拍手が響きわたり、騒然とした雰囲気に包まれた。「この靴には靴下がいらない! 靴下がいらないんだ! この靴は足にぴったりだ! 足に合わせてあつらえてある! この外国人は、ほんとに靴の合わせ方を知っている!」
 観衆がしゃべり酒を飲んでいる間に、地獄の天使バンドが演奏を始めた。興奮して肩を叩き合っている連中がいた。愛人たちの唇や鼻や目にキスしている連中もいた。演奏されている曲は軽快なリズムを持っていなかった。むしろ詩編か聖歌のようだった。数分の内に、全員がバンドに向かい合い、まるで教会にいるかのように歌い始めた。

良き知らせ来たり
我らが国に!
良き知らせ来たり
救い主の知らせが!

3
 ワリインガはガツイリアの方を向き、聞いた。「あんなに高価なスーツを身に着けた人々が本当の盗人や強盗だなんてことがあり得るのかしら?」
 「僕は何が起こっているのかほんとに判らないのです」と、ガツイリアは答えた。
 「あいつらは盗人よ! 間違いなく盗人よ!」とワンガリが言った。
 「現代的な盗人だ」とムツリがつけ加えた。
 「あの外国人たちはすごく赤い肌をしてるわ」。ワリインガは、7人の外国の盗人たちが座っている方向に向きながら言った。
 「あいつらの親玉が言ったことを聞かなかったの?」ワンガリが聞いた。そしてつぶやいた。「あいつらがあいつらの国の子どもたちと私たちの血を飲んでいるからよ!」
 「あいつらがその血の中で湯浴みしているからなんだ」と、ムツリは言った。ワリインガ、ガツイリア、ムツリ、ワンガリそしてムワウラは洞窟の一番後ろの方のテーブルに着いていたので、ワリインガが外国人たちをよく見ようとする度に、首を伸ばさなくてはならなかった。
 外国人たちが陣取っているテーブルは洞窟の正面、舞台の一方に面していた。舞台の真っ正面には脚の長い小さなテーブルがあった。演者は順にそのテーブルの後ろに立った。舞台の右手奥に、地獄の天使バンドがいた。
 外国代表団のリーダーの着いた席は、他の席より少し高かった。彼の右手に3人、そして左手に3人がいた。ワリインガは、彼らをまじまじと見て、彼らの肌がほんとに赤くて、豚か、熱湯でやけどするか酸性クリームで自分を焼いたかした黒人のように見えた。彼らの腕や首の毛までもが、年とった豚の剛毛のようにぴんとまっすぐに立っていた。彼らの頭の髪の毛は茶色くモールスキンの色だった。その髪は長くて肩にかかっており、生まれて以来剃られたことも切られたこともないかのようだった。頭には王冠のような帽子をかぶっていた。王冠はそれぞれ七つの金属の角のようなもので飾られており、それらがあまりに明るく輝くので彼らはほとんど目がくらませていた。王冠はどれも似ていた、しかしリーダーのは他のより少し大きかった。角のてっぺんはねじれて、それぞれの代表がやってきた国のイニシャルになっていた。
 彼らが着ているスーツには違いがあった。リーダーが着ているスーツはドル札でできていて、イギリス人のはポンド札、ドイツ人のはマルク札、フランス人のはフラン札、イタリア人のはリラでスカンジナビア人のはクローネ、そして日本からの代表のは円でできていた。どのスーツもボーイスカウトがつけているようないくつかのバッジで飾られていた。バッジは金属製で、ネオンサインのように点滅して刻まれた文字を照らし出していた。バッジにはそれぞれ一つか二つ、次のようなことばが刻まれていた。世界銀行、世界商業銀行、世界収奪銀行、資金吸い上げ保険計画、資源収奪企業集団、海外輸出用安物製造業者、人間の皮膚取扱業者、高収益ローン、緊縛援助、殺人用武器、国内虚飾用および海外高収奪のための自動車組立計画、愚者を従属的奴隷にとどめておくために好適な商品群、快楽のための奴隷よ私と一緒に、そしてさらに同様のことばがあった。
 ガツイリア、ワリインガ、ムツリ、ワンガリそしてムワウラが座っているテーブルは、ムウィレリ・ワ・ムキラーイが座っているところから少し離れていたので、彼らには彼の頭のてっぺんしか見えなかった。前夜、イルモログへの途上で、彼ら全員が自分自身で競技会を見るために祭典に出席すると決めた。招待状がなければ洞窟への入場が許可されないので、ムウィレリ・ワ・ムキラーイが彼らに本物の招待状を与えた。実際に、彼らが日曜日の朝10時に集まった時、入口にはガードマンがいて招待状を見せるさせた後、入場させた。
 しかし、会場は洞窟というより邸宅で、それも最上の邸宅だった。
 床はいつもいつも磨かれているかのようにつるつるで、床を見おろすと自分の顔が写っているのが分かるくらいだった。天井はクリーム色に塗られて輝き、天井からはガラス製の果物の房のようなシャンデリアがさがっていた。それらのシャンデリアは虹の七色の紙の吹き流しで飾られていた。天井からももっとたくさんの吹き流しが下げられ、風船も吊るしてあった。風船もいろんな色のものがあった。緑、青、茶色、赤、白、黒、そして焦げ茶色。
 バーメイドたちがテーブルからテーブルへと、飲み物の注文を取りながら回っていた。彼女たちはみんな黒のジャンプスーツを着ていた。スーツはぴっちりにできていて、彼女たちのからだの線をくっきりさせていたので、遠目で見たら、彼女たちは裸でいるようだった。彼女たちのお尻にはうさぎのしっぽみたいな小さな丸い布きれがつけられていた。そして彼女たちの胸には二つのプラスティックの果物がピンで留められていた。また頭には英語で「アイラブユー」とかかれたヘヤーバンドをしていた。彼女たちは別世界から来た幻のように見えた。
 ワリインガはウイスキーソーダを飲んでいた。ガツイリア、ムツリとムワウラはビール(タスカー)を選んだ。そしてワンガリはソフトドリンクのファンタを頼んだ。ガツイリアとムツリが支払った。
 それは確かに祭典だった。その日なすべきことは、はちきれんばかりに飲み、札束を気前良くそこいらじゅうにまき散らすことだった。それがその日の競技者の多くを喜ばせる仕掛けだった。というのは、誰しもがこの時ばかりは持てる富を見せびらかす機会を得たからだ。順番が来ると、ゲストの多くは、ウイスキーやウォッカ、ブランデー、ジンの大瓶やビール丸ごと1ケースといった飲み物がどの人にも回るよう、惜しみもなく注文した。そういう連中は、同じテーブルについている人が強い酒を一口とか、ビールを1本だけ頼むのを聞いたとしたら、怒りで唇をかみしめていただろう。ビールを1本だけとか、ほんの一口の酒を頼むというのは、広く認められていたように、貧乏人の酒の飲み方だった。
 彼らの多くは、真珠やルビーのネックレスをつけたり銀や金の指輪をつけたりして、高価な宝石を身にまとった何人もの若い女たち、シュガーガールをはべらせてた。洞窟にいる女たちはファッションパレードか宝石の展示会のために着飾っているかのようだった。この女たちのために、男たちはシャンパン以外には注文しなかった。そして自慢して言った。「シャンパンをルイル川のように泡立たせ流そう。全部飲めなかったら、その中で湯浴みすればいい。
 「いつ始まるのかしら?」ワリインガはガツイリアに聞いた。
 「準備してますよ」。ガツイリアは答えた。
 ワンガリはたくさんのことに思いをめぐらせていた。『私はすごくラッキーだ。昨日、警察に、世の中の役に立つために全ての盗人や強盗のうそつきどもを探し出す、と言ったばかりだったのに、まるでこの祭典があることを知っていたみたいだね、私は。ついてるよ、たった24時間でこのうそつきどもを見つけるなんて。こいつら、この洞窟に外国からのお仲間と一緒に集まっている連中が悪党でないなんてことはないよ。こいつら全員が警察に逮捕され監獄に送り込まれたら、イルモログでは盗みも強盗の無くなってしまい、世界中から人喰いどもがいなくなってしまうよ。こいつらが何を言うのかを聞いて、こいつらの計画が分かったら、ガコノ警部と警察隊を呼びに行くだけの証拠をつかめるよ。ムツリはなにごとも見逃したくないみたいに、全てを見てるし一言一言を聞いてる。もしかして、私の証拠集めを手伝ってくれるのかしら?』
 彼女はムツリに手伝ってくれるよう頼むことを考え、しばらく中断した。彼女の心臓は、前夜ムワウラのマタツの中で彼女が歌った歌のリズムを刻み始めた。

おいで、みんな
素晴らしい光景だ
私たちは悪魔を追い払っている
手先どもも一緒だ
おいで、みんな

バンドがコンゴの曲を演奏し始めた。

Babanda nanga bakimi na mobali
Mobali oyo boto ya matema
Nakei koluka mobali nangae....

 ある考えが突然ムツリを捉えた。彼はムワウラの方を向きつぶやき声で聞いた。「ムワウラ、あんたと悪魔の天使と自分たちのことを呼ぶ殺し屋どもとはどういう関係なんだ?」
 ムワウラは真っ赤に焼けた針を突き刺されたみたいにしゃべり始めた。「どうして知ってるんだ?どうして?」彼は恐怖を目一杯に浮かべて、聞いた。
 しかしその瞬間、バンドが急に演奏をやめた。全ての音が止まった。洞窟は全く沈黙した。全員が目を舞台に向けた。
 競技会がまさに始まるところだった。

4
 最初の競技者が歩み出て舞台に飛び乗った。他の全ての盗人たちは狼狽して互いに見合った。
 この競技者の着ているスーツはよれよれくたくただった。そもそもプレスをかけられたこと自体がないような代物だった。この競技者は背が高くひょろひょろしていた。だが、彼の目は大きかった。まるで、背が高くて細いユーカリの木からぶら下がっている二つの電球のようだった。彼の腕は長く、競技者はその長い腕をポケットに入れておこうか、それとも指示を待つ直立した兵士のようにすっと伸ばしておこうか、はたまた論争を挑むように組んでおこうか決めかねて、あちらこちらへと振り回していた。この競技者はこれらの動作全てを順に試みた。頭を掻き、指を鳴らし、最後に腕を胸の前で組み、話しを始める前に舞台に立った恐れを拭い去るかのように少し笑って見せた。
 「私の名は、ンダーヤ・ワ・カフリアといいます。私が落ち着きがなくビクビクしているように見えるのは、これだけ多くの皆さんの前に立つことに慣れていないからだけです。しかし、この手は…」と言いながら、彼は手を広げて観衆に手のひらと指とを見せた。「ごらんになっているこの手は、他人のポケットに入り込むのに慣れています。この長い指が誰かのポケットに入り込んでも、誰も気が付かないことを保証します。この辺り一帯には、私にどうやって市場やバスの中でご婦人方の財布を抜き取ったり、村で人の家の鶏をかすめ取ったりするのかを教えることができる、私より優れた泥棒が一人たりともいるとは思えません。
 しかし、天にまします神には明らかなように、真実の誓いにかけて申しますが、私が盗むのは、ひもじいからです、着るものが必要だからです。なぜなら私には職がなく、この小さな頭を夜休めるところがどこにもないからです。
 それでも、私が盗みの才能を持っていることを証明するために、どうやって村々で鶏を盗むのかを実演させて下さい…」。ンダーヤ・ワ・カフリアは不安感を拭い去ったようだった。そして彼は、どうやって穀物の粒に穴を開け、それをナイロンの糸で寄せ集め、その糸の一方を手に持ち「クルクルクル…クルクルクル…クルクルクル…」と声をかけながら、鶏たちの中に穀物を投げ込むのかについて語っていた。時折、舞台の上で身をかがめ、目の前に本当に鶏たちがいるかのように腕をこちらあちらと動かしながら、「クルクルクル…クルクルクル…」と声を上げていた。しかし、彼の話が終わらないうちから、ゲストの中の数人は不満の声を上げ、他の何人かは舞台の上で繰り広げられているンダーヤの実演への嫌悪感をつぶやき、また何人かは、怒りながら足踏みをして、「何でこんなしようもない泥棒の惨めったらしい話しが、ここで許されるんだ」と叫んでいた。
 式典の主催者は舞台に跳び上がり、静粛を呼びかけた。彼は観衆に言った。これは正真正銘の盗人と強盗、すなわち国際的基準に達した盗人と強盗のための競技会である。村の小屋のカギを壊す人々や貧しい市場の女性たちの財布を抜き取る人々の話は、本物の盗みと強盗のエキスパートたちの目から見れば恥ずかしい限りであり、しかも国際的な盗人と強盗たちの前で語られるなんて恥の極みだ。外国人たちは、ひもじいから、着るものが必要だから、職がないからと言って盗みをするような人間たちに会うためにはるばるやってきたのではない。そんなちゃちな盗みや強盗は犯罪だ。そして最後に腹を叩きながら、「ここ、洞窟の中では、腹一杯だからこそ盗む人々だけにしか興味はないのだ」と断言した。
 ンダーヤ・ワ・カフリアは恥ずかしさも恐れも全て忘れてしまった。彼は式典の主催者に向かって弁舌をふるい始めた。「盗人は盗人だ。何かしら特別な権利を持っている盗人なんていない。盗人は盗人でしかない。動機なんてたいしたことじゃない。おれたちはみんな、この競技に自由に参加できるはずだ。強盗は強盗でしかない……」
 洞窟のあちこちから、盗人と強盗たちが声をそろえて意義を唱えた、一部の者たちは怒って叫んでいた。「あいつに言ってやれ。事をわきまえている人間たちのための舞台から安っぽい姿を消してしまえって。ンダーヤ・ワ・カフリア、我々はお前のよれよれのスーツなんて見たくない。外へ出て風の中で震えていやがれ!あいつを放り出せ!ンジェルカで鶏を盗む特技をふるってればいいんだ、あいつは!主催者は、役割を果たせ。お前ができないって言うんだったら、すぐに代わりを見つけてこの場を仕切ってやるぞ。」
 式典の主催者はドアの所にいる警備員を呼び寄せた。彼らは棍棒を振り回しながら走り寄り、ンダーヤ・ワ・カフリアが大声で差別に抗議するのを無視して、彼をドアの所へ追い詰めた。会場の盗人と強盗たちは歓声を上げ、うれしそうに口笛を吹いた。式典の主催者は、ジェスチャーで静粛を促し、次のように言った。
 「これは国際的な盗人と強盗の競技会です、すなわち、国際的な水準に達した盗人と強盗の競技会です。従って、初心者やアマチュアがやってきて私たちの時間を無駄にすることを望んではいません。時は金なり、そして全ての時は盗み時なのです。
 従って、ここでこれからの競技の進め方についてルールを確認しておきたいと思います。私たちが今日ここに集まったのは、あなたがたが思うほど簡単な理由があってのことではないのです。また、笑い事でもないのです。まず言っておきますが、たかだか数百(シリング)やせいぜい数千しか盗まないような人はこの舞台に上がってはいけません。なぜなら、そんな人は私たちに無駄な辛抱を強いるからです。」
 この発言に対し、大きな賛同の声があがった。
 「今のが第一のルールです。あなた方が明らかにすぐにそして心を込めて賛同の声をあげたということで、このルールは全体で承認された、と言っていいでしょう。この場で、私たちは少なくとも一度は数百万を数えポケットにした盗人と強盗だけを迎えて話しを聞きたいと思います。
 第二のルールは、でっぷりと太った腹と垂れ下がるようなほっぺたをしていない人は、ここへ上がって私たちの時間を無駄にしてはいけない、というものです。腹やほっぺたの大きさでは、その人の富を計ることはできないと考えてる方はいらっしゃいますか?」
 太鼓腹を自慢している盗人たちは、大きな賛同の声を上げた。やせている参加者たちは不満の叫び声を上げた。洞窟の中の人込みは二つに分かれて、太った参加者たちとやせた参加者たちとの間で白熱の議論が始まった。
 特に細い一人の男は、第二のルールに全面的に不同意であることを示すために飛び上がった。この男はあまりに怒っていたので、喉仏を激しく上下させながらまくしたてていた。この男は主張した。たいていの盗人と強盗が稼いだ富のおかげででっぷりした腹と垂れ下がるようなほっぺたを持っているというのは本当だが、一方で、稼いだ富の大きさがもたらす様々な問題を考えているために、腹も膨れずほほもそげている盗人や強盗もいるんだ、と。「稼ぎが多けれりゃ問題も多いんだ!」と言い、つけ加えた。「だからといって、そいつが盗みと強盗のエキスパートじゃないなんて事にはならないぞ。やせているといって差別されるべきじゃない。この競技会に参加するために、太った腹を接ぎ木したり、妊娠してる女房からはらんだ腹を借りてくるなんて事はできないぞ。やせているってことは、不運にさいなまれて身を削っているというのとは違うんだ。膨らんだ腹のサイズで英雄を判断するなんて事はできないんだ。」この男は言い終えて席に着いた。やせている参加者の一団からは大きな拍手が起きた。太っている参加者たちは大きなブーイングを浴びせた。
 つかみ合い、殴り合いが始まろうとしたちょうどその時、太ったのが一人、大声で言った。今しゃべった奴はンダーヤ・ワ・カフリアくらいひょろっとしてるぞ。侮辱された男は立ち上がって厳しく追及した。「俺のことをンダーヤ・ワ・カフリアと呼ぶ奴は誰だ?恥知らずと言った奴は誰だ?俺を何百か何千かしか動かせないこそ泥と比べて侮辱した奴は誰だ?出てこい?出てきてこぶしでやり合え。そしたら俺が何百万も盗むって事を教えてやるぞ。」
 そこへ一人の男が立ち上がった。この男は太ってもやせてもいなかった。彼は次のように言って騒ぎを静めた。「問題はやせているのか太っているのかでも、白いのか黒いのかでも、背が高いのか低いのかでもない。猟をすると言うのに、鳥が小さすぎて獲物にならないなんて事はない。自分はふさわしい思う者は出てきてほかの連中と競うことが許されるべきだ。人の財産を喰い取ろうとする者は、戦場で出会って、どっちが腕があるのかの疑問に答えればいい。外国からのゲストたちを見るがいい。太っているのもいればやせているのもいる。赤い髪をしているのもいれば、そうでないのもいる。一人はアジアの日本からやってきているし、ほかはヨーロッパから来ていて、リーダーはアメリカ合衆国から来ている。彼らを一つのエイジグループ、一つの血統、同じクラン、同じへその緒、同じ種族に結び付けているのは、やせているか太っているかでも言語でもない。そうだろ、彼らを同じクランのメンバーとして一緒に結び付けているのは、盗みだ。そして盗みこそが、植物が野原に根を張りめぐらすように彼らの触手が地球全体を覆っていくのを可能にしている。そしてこの地域で彼らの番犬をしている我々も、同じへその緒、一つのエイジグループ、一つの血統、同じクラン、同じ種族に結び付いているのだ。今日ここに集まっている者たちは、ルオ族だろうが、カレンジン族、カンバ族、スワヒリ使い、マサイ族、キクユ族、あるいはバルハ族だろうが、みんな盗みと強盗をやっている兄弟なんだ、しかもここにいる外国のエキスパートたちとそれぞれに持っている関係を通してもつながっているんだ。主催者、そして列席しているみなさん! 我々はみんな同じ組織に属している。いつも団結していようじゃないか。我々が盗む者たちの中にだけ、やつらが我々に対応する強力な統一的な組織を作ったりしないように、部族だとか宗教だとかで分断を創り出さなくちゃならない。みなさん、激しすぎる炎は、肉の脂までも燃えさせて、肉を損なってしまうかもしれないぞ。」
 彼が話すのをやめると、洞窟の壁や天井まで揺れて崩れさせそうな拍手が起こった。「そうだ! そうだ! ダニエル(公正な名裁判官, 賢明で公正な人物)がやってきて審判を下したぞ!」。ある参加者たちは、彼のことばに喜んで、そう叫んだ。
 短い討議の後で、背丈や体重、宗教、部族そして肌の色は、競技に参加するのに問題にならないことが確認された。そして誰しもが、盗みと強盗における狡猾さと腕を競うことが許可されるべきだと確認された。しかし、アマチュアと初心者を排除するために、次のルールが確認された。

ルール1 全ての競技者は名乗らなくてはならない。
ルール2 全ての競技者はアドレスを明らかにしなくてはならない。
ルール3 全ての競技者は妻や愛人など持っている女の数を明らかにしなくてはならない。
ルール4 全ての競技者は自分で運転している車だけでなく妻やガールフレンドたちに運転させている車について報告しなくてはならない。
ルール5 全ての競技者は盗みと強盗のキャリアを簡潔に報告しなくてはならない。
ルール6 全ての競技者は盗みと強盗を我が国で増やすための方策を提案しなくてはならない。
ルール7 全ての競技者は外国人たちとの連携を強化する方策を提案しなくてはならない。

主催者がこれらのルールを読み終えて席に着いた時、さらに大きな拍手が起きた。
 「俺は競技に参加したいな」。ムワウラがムツリに言った。
 「あんたは盗人なのか?」ムツリはムワウラに聞いた。「俺の稼ぎがどこから来てると思ってるんだ?」ムワウラは言い返した。そして彼は、言ったことがただの冗談だったかのように笑い出した。しかし、突然彼はムツリが前に悪魔の天使について質問をしたことを思い出した。笑いが止まってしまった。彼はワンガリの方を向き、自問した。この女もムツリが俺について何を知っているのかを知っているのだろうか?
 ワンガリは、勇気とひどい不快感の板挟みにあってじっと座っていた。彼女は、立ち上がって、洞窟全体を告発し攻撃して黙らせたかった。しかし、イルモログ警察に行く前に、できるだけ多くの証拠を集めるために、この祭典をじっと耐えていることが今必要なのだと言うことを心に刻んでいた。2分間ほど、彼女は耳をふさいで、盗人と強盗たちが式典の主催者たちを盛大な拍手で迎えながらあげる歓声を避けていた。
 その時全く突然に、ワンガリは前夜イルモログに向かうために乗ったムワウラのマタツの中へ移ったかのように感じた。彼女はムウィレリ・ワ・ムキラーイが彼らを眠りに誘うような声で話をしていた。遠くの国へ行こうとしている男が召使いたちを呼び集めそれぞれに5タラント、2タラント、1タラントを分け与え、その後、5タラントを受け取った召使いは同額を稼ぎ出し、2タラントを受け取った召使いもまた2タラントを得た。しかし1タラントを受け取った召使いは、主人の金を地中に埋めた。長らくの後に主人が戻ってきて、召使いたちを呼び集め預けた金を…

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