創刊60周年記念「私の思い出のSFマガジン」

 大野万紀

 早川書房「SFマガジン」20年2月号掲載
 2020年2月1日発行


 子どものころから宇宙や未来が大好きで、手塚治虫のマンガでSFという言葉を知り、そしてその名を持つ雑誌に出会ったのが中学生のころ。大人向けとは思いつつ本屋で初めて買ったのが1967年4月号だった。買ったということが嬉しくて、内容はほとんど覚えていない。今調べるとバラード「無限都市」などが載っていた。

 小遣いは乏しかったが頑張って翌月の5月号も買った。これが大当たり。筒井康隆「ベトナム観光公社」やバラード「タイム・チャンネル」など、子ども向けではない、大人のSFを読んだ気分がした。そしてオールディスの「T」。あまり知られていないが宇宙探査機ものの傑作で、残念なことに短篇集未収録である。人間の出てこないこの作品にぼくはしびれた。ちょっと違うかも知れないが、今で言う”中二病”魂をかき立ててくれ、それからもう50年以上、SFマガジンはぼくの人生にずっと寄り添った存在となっている。

 何百冊もあるその中からこれはというのを選んでみようと思ったが、さすがにそれは無理。ファンダム紹介で安田均さんらと一緒の写真が載った号や、初めて翻訳が掲載された号、SFスキャナーを持ち回りで担当したり、SFエンサイクロペディアの翻訳連載を伊藤典夫さんや浅倉久志さんの指導を受けながらやっていたころなど、思い出深いものはたくさんあるが、そんな個人的な関わりよりも、やはりSFマガジンといえばそこに掲載される、とりわけ海外の中短篇が記憶に残っている。増ボリュームとなる毎年の2月号、秋のヒューゴー/ネビュラ特集号、そして様々なテーマ特集。そして伊藤さんや浅倉さんの海外SF事情の紹介記事。後に自分も参加することになる〈SFスキャナー〉は、個々の作品を越え、ある時はジャンルさえも越えたSFという存在のありさまをリアルタイムに見せてくれた。ここから育っていったというSFファンも数多いはずだ。
 ネットの時代になって、紙の雑誌の存在意義も過去と同じではないだろう。昔の号を参照したくて電書化されていればと思うことも多い。でも可能な限り、これからも共に歩んでいきたい。

 2019年12月


トップページへ戻る 文書館へ戻る