ネットワークのバリアフリー
今月のはじめからNew York Timesが身体障害者とネットワークについて2週連続して報道しています。
発端は、11月4日に報道しているようにNational Federation of the BlindがAOLをthe Americans with Disabilities Act(ADA)に違反するとして裁判を起こしたことに始まります。 ADAは、雇用主、政府・州などの公的サービス、公的性格がある私企業の施設(Public Accommodations)などについて身障者のアクセシビリティーの向上を義務づけています。この訴訟の問題点の第1は、AOLのサービスは視覚障害者がコンピュータネットワークを使用するときに使用する音声変換ソフト("screen access programs")に対応していないためほとんどのメニューを視覚障害者が利用できないことです。さらに第2はAOLはマウスでクリックして操作するのみでキーボードからのコマンド操作ができないため、視覚障害者が操作できないことです。

NewYorkTimesは同じ日にBarriers Online for Those With Disabilities というコラムでその週に開催された"Expanding Cyberspace"というイベントの参加者が口を揃えてこの問題を指摘していること伝えています。その中で
Lawrence A. Scadden, a senior program director for the National Science Foundation and moderator of the panel, said he feared that unless the Internet becomes more accessible, disabled users will be left out of an emerging world of online commerce. "There is a huge population out there that wants to have access to those products, and it is inhumane to close them out," said Scadden, who is blind and has used the Internet for years as a rich source of information otherwise unavailable to him.
要するにインターネットが発展して健常者に使いやすくなることは同時に身障者を取り残していくおそれを含んでいるのです。インターネットはすでに一部のマニアの趣味の段階から脱して、公衆の情報メディアとして確立しており、ネットワークでなければ入手できない情報やサービスも増え続けています。このままでは身障者が情報的に取り残されるおそれがあります。特にAOLは米国内において圧倒的なシェアを誇っており、視覚障害者がその情報を得ることができないことを放置できない状況に至っているといえます。

このようなことが起こる原因について"Expanding Cyberspace"の中でいくつか指摘されています。webのデザイナーが視覚障害者を意識するとサイトの美的可能性を制限することになるというのですが、これは真実ではなくテキストを表示するオプションを設定すればよいことです。さらにアクセシビリティーを意識したweb作りを考える人が企業の中では趣味的な一部の人に限られていて、人事異動によって成否が分かれてしまうことも指摘されています。そしてもっと重要なことは官僚主義と無理解がこの問題を深刻にしているとしています。
For example, Burgstahler said, schools sometimes prefer to hire an aide to help a disabled student with writing, instead of buying products like voice-activated software that would let the student be more independent. This could simply be an issue of having budgeted money for the aide, but not for the special equipment.
学校では、学生をもっと自立させる音声出力のソフトウェアの代わりにしばしば障害者の学生の補助者を雇おうとする。これは単純に補助者の予算はあるけれどもソフトの予算がないという単純な問題だとしています。

従って一般論としてネットワークのバリアフリー化を目指すべきだといえるのですが、それだけでAOLはADAに違反していると単純に判断するわけにはいきません。AOLがADAの"public accommodation"に当たるかどうかを考える必要があります。New York Timesも12日にこの点を取り上げています。
そこでは
The question is an important one for the Internet industry, because if the answer is yes, then AOL -- and possibly other Internet service providers and Web sites -- would be subject to the strict rules of the ADA, which applies to places of public accommodation.
つまりAOLだけでなくほかのプロバイダーやwebサイトも同様にADAの厳格な規制を受けることになるため、インターネット産業に少なからぬ影響を与えることになるからです。これは非常にむずかしい問題です。インターネット上にはAOLのような巨大かつ影響力が大きく、しかも資本力もあるものがあると同時に、零細なものも少なくないため、一律に規制してよいかは少し考える必要があります。むろんバリアフリー化は好ましいことですが、法的強制力を持って実現すべき領域とそのwebの自主的な判断に任せてもよい領域があるのではないかということです。サイバースペース全体がバリアフリー化されて行くにつれてそのようなwebはいわば遅れているとして取り残されていくため、強制力を用いなくてもバリアフリーが普及していくという考え方もできます。

判例はどうかというと
"It would be irrational to conclude that persons who enter an office to purchase services are protected by the ADA, but persons who purchase the same services over the telephone or by mail are not," wrote a three-judge panel in the case, Carparts v. Automotive Wholesaler's Association of New England. "Congress could not have intended such an absurd result."
"Carparts v. Automotive Wholesaler's Association of New England"事件ではオフィスにサービスを購入するためにはいるときはADAによって保護され、電話やメールの場合はそうでないという結論は不合理であるとしています。
Michael R. Masinter, a law professor who is an expert on the ADA and who teaches at Nova Southeastern University in Fort Lauderdale, Fla., said the Carparts ruling is the main reason that the National Federation of the Blind sued AOL in federal district court in Boston, which is bound by the First Circuit's decision in the case. "The wind is certainly not at [AOL's] back" in Boston, Masinter said.
つまりAOLにとって追い風は吹いていないというわけです。しかしこれが確定した判例というわけではなく2つの控訴審判決がCarparts事件の判決を批判しています。ADAはリアル世界に限るのかサイバースペースにも及ぶかについて確定した判断がないのが現状です

ここで視覚障害者の代理人であるProfessor Masinterが注目すべき発言をしています。少し長いのですが引用します。
Professor Masinter, who has represented disabled individuals in lawsuits, said in an interview that he believes AOL is not a place of public accommodation, notwithstanding the Carparts ruling.
"To operate a place of public accommodation, you have to operate a physical location in which some percentage of your clientele comes in to do business with you," he said. "The examples that appear in the law -- everything from an inn to a barber shop -- all have a physical location," he said.
「AOLはpublic accommodationには当たらないが、Carparts事件の判例には拘束される」「public accommodationに当たるとするためには何パーセントかの顧客がリアルの世界の店にやってくることが必要だ」というのはわかりにくい説明です。
The stakes in the lawsuit are high because if the courts agree with the viewpoint of the federation, then everyone who offers goods or services or ideas in cyberspace "potentially becomes a defendant" in an ADA lawsuit, Masinter said.
しかしそのねらいは「もし、裁判所が連邦の視点に同意したならばサイバースペースで商品やサービス・アイデアを提供するすべての人が潜在的にADA裁判の被告になってしまう」というところにあるのでしょう。
"I think it would be kind of a mess," he said. He added, however, that although he believes the ADA does not require AOL to make its services fully accessible to blind people, they should do so because "it's the right thing to do." 「問題はごった煮状態にあって、ADAはAOLが完全にアクセシブルになることまでは要求していないけれども、そうすべきでは、なぜならそれが正しいことだから」というのはAOLやインターネット上のすべてのwebにADAの強制を適用すべきではないが、適用がなくてもバリアフリーになることが望ましいという考え方を示しているといえます。
しかし、法律家の中にはこのような細かな衡量をせずにADAの適用があると考えている人も多いのです。

以上の経過はわが国のインターネットにどのような影響を与えるかを考える必要があります。Professor Masinterのような調和的な意見はADAが、法的強制をしているからであり、それがないわが国では、同様に論ずることはできないでしょう。むしろ法的強制はないにしてもバリアフリー自体は障害者を情報化社会の中で置き去りにしないために必要なことであり、webデザイナーなどインターネットにかかわるものは特に心がけるべきことです。

米国では政府・州など電子情報についてはバリアフリーをthe federal Rehabilitation Act で特に法制化しています。その関連でアクロバットのPDF形式のファイルが音声出力ソフトで読めないことが指摘されています。わが国の政府関連のwebでもしばしば使われており、日本語の音声出力ソフトでこれを読むことができないとしたら、アクロバットか出力ソフトのどちらかで対応するか、あるいはそれまではテキストファイル、HTMLなどを併用することが必要になる。

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