Amazon.comの新サービスとプライバシー
Amazon.comが最近はじめた"Purchase Circle"というサービスがプライバシーとの関係でUSA TODAYで話題になっています。このサービスは
"Amazon.com's shoppers now have a way to find the Internet retailer's most popular books, videos and music in 3,000 different cities, universities and workplaces. "
で要するにユーザは各市、大学、企業の中でのベストセラーを知ることができるものです。例えば「ヒューレットパッカード社」の社員のあいだではどのような本が良く読まれているかというような情報が提供されます。

これについて
"Analysts say there are no privacy concerns with the new Purchase Circle service since the company does not release the preferences of any individuals and only creates a Purchase Circle after hundreds of items are bought in a particular area." という意見もあります。つまり特定の地域で何百もの品目が買われたあとで"Purchase Circle"が作られるのであり、特定の個人の好みを公開するものではないからプライバシー侵害のおそれはないというのです。またAmazon社のスポークスマンの Paul Capelliも次のように云っています。
"The circles are a "fun way for people to find out what others are buying yet that still maintains individual confidentiality," Amazon spokesman Paul Capelli says.
他の人が何を買ったかを見つける面白い方法であって、個人の秘密は維持されているというわけです。

 これに対しては、プライバシー保護の立場から異論が述べられています。
"People don't like the idea that their purchases are being turned into profiles, and they certainly don't like the idea that that information is turned over to third parties, even if it's not personally identifiable," says David Sobel of the Electronic Privacy Information Center.
しかし、この批判は必ずしも当を得たものではありません。"Purchase Circle"は、特定の個人がどの本を購入したかの情報を提供するものではなく、それを元に地域・大学・企業の中でどのような本が読まれているかを示すに過ぎないからです。この批判は、マーケティング手法として Amazon.com が顧客の購入情報を集積していることの危険性を述べたにすぎず、その危険性が具体化するわけではないからです。

むしろ、USA TODAYが云っているように企業内の反発のほうが強いのでしょう。
"The books could reveal information that gives competitors a window into corporate strategies."
どのような本を読んでいるかはたしかにプライバシーと密接に関連しており、わが国でも図書館で誰がどの本を読んだかが分かる貸し出しカードの情報の扱いに関して議論になったことがあります。その履歴をたどることでその人の内心の傾向が読みとられる可能性があるからです。企業の場合には人的な内心の問題ではありません。しかし、社員の多くがどのような本を購入しているかが分かると、企業戦略として何がその企業内で関心を集めているかを判断することができます。競争社会の中で企業の戦略がこのような形で外部に漏れることは困るわけです。

それでは、これをプライバシー侵害として構成することができるでしょうか? いわゆる個人情報は個人を特定できる情報ですから、個人情報の侵害というのは無理があります。ネットワーク上で収集・集積された情報をコンピュータで分析処理すると個々の情報では得られなかったものが見えてくるという点では個人のプライバシー情報の集積と似ています。しかし、そもそも、企業の戦略情報の管理の視点で考えるべきで、プライバシーとはやや離れた問題とも考えられます。

それで全く保護の外に置いて良いのか? コンピュータの能力を無制限なまま放置しているといずれは、どの企業も深刻な情報合戦に巻き込まれヘトヘトに疲弊してしまうことも考えられます。"Purchase Circle"を避けるために社員はAmazon.comを使ってはいけないというのでは、現実的ではないでしょうが、本気でそれをやるためには、そのような危険のない図書購入ルートを企業自らが開拓しなければなりません。単に図書だけの問題ではなく、企業の部品の仕入れルートなどでも同様の問題が生ずるでしょう。それでは便利なはずのコンピュータネットワークがその意義を失う可能性があります。その意味では過度にコンピュータを使用することの社会的に是非が議論される時代が来るかもしれません。

しかし、現状では自由競争原理で考えれば足りることです。つまり、"Purchase Circle"が企業の戦略情報上問題があると考える企業はAmazon.comを使用しなければ良いし、現にそのようなことをしない書籍販売のバーチャルショップもあるわけです。元々、個人情報やプライバシーとはやや離れた問題であり、それを強引に同じテーブルに乗せることはかえって混乱の元になるだろうと思います。プライバシー概念は抽象的でわかりにくいためともすると異質なものが混入して混乱を生ずることが少なくありません。その面からの注意が必要だと思います。

参考

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