| 昨年から今年にかけて米国の大手インターネット広告会社であるダブルクリック社がプライバシーとの関係で大きな話題になっていましたが、Kevin O'Connor, CEO of Doubleclickは "It is clear from these discussions that I made a mistake by planning to merge names with anonymous user activity across Web sites in the absence of government and industry privacy standards." と述べています。これまでの個人情報をめぐる議論について、ほぼ全面的に同社への批判を受け入れ、同社の個人情報の取り扱いに関するこれまでの計画を撤回したものです。 問題は昨年のthe Abacus Direct Corporationの合併から始まりました。ダブルクリックがインターネット上でcookieを使って収集する個人情報は匿名のものが多いのですが、Abacus社のデータと統合するとリアル社会での氏名や住所が明らかになってしまうため、個人情報保護の観点から批判が生じ、さらにダブルクリック社自体のcookieによる情報収集に対しても批判の矛先が向けられていました。 詳しく説明すると (1)ユーザがそのサイトを最初に訪れたときcookieはユーザのパソコンにユニークなIDを送り込んできますが、この時点で氏名・メールアドレス・電話番号などの個人情報を収集するときとそうでないときとあります。しかし、いずれもユーザのサイト内の行動履歴(これも個人情報なのですが)はIDと共に収集され、氏名などの個人情報を提供したユーザの情報はそれと結合されてデータベース化されます。 (2)最初に個人情報を提供しなかったユーザものちに何かの機会に提供するとその時点でそれまでの行動履歴がcookieのIDによって個人情報と結合され、データベース化されます。 (3)さらにそののちにアクセスしたときの履歴もcookieによって個人情報と結合、データベース化されます。 同社のprivacy policyでは、承諾なしの情報収集はしないと云いながら、 Name and address information volunteered by a user on an Abacus Alliance Web site is associated by Abacus through the use of a match code and the DoubleClick cookie with other information about that individual. Information in the Abacus Online database includes the user's name, address, retail, catalog and online purchase history, and demographic data. と自主的に提供された住所氏名はダブルクリック社のcookieによる情報などその他の情報と統合されるとしています。 また、 If you have chosen on any of the Web sites with which Abacus does business to receive ads tailored to you personally as part of Abacus Online's services, the cookie will allow DoubleClick and Abacus Online to recognize you online in order to deliver you a relevant message. However, if you have not chosen to receive personally-targeted ads, then the DoubleClick cookie will not be associated with any personal information about you, and DoubleClick (including Abacus) will not be able to identify you personally online. つまり、ダブルクリック社がユーザごとに編集したメールを受け取ることを承諾したユーザの個人情報は統合されることになっています。 プライバシーとの関連で個人情報保護が強調されているのは、この情報の統合に問題があるからです。コンピュータとネットワークを利用して、社会のあちこちに散在する個人情報を統合すると、本人が知らないあいだにデータベース上に本人像が造られてしまいます。それは単にSPAMが来るなどの弊害に止まりません。個人は、まったく知らないコンピュータがプライバシーのすべてを把握しているのではないかという不安に襲われます。これはあたかも私生活がのぞかれるのと同様の不安感であって、個人の人格を傷つけることになります。 ダブルクリック社のデータの統合はこれをインターネット上で現実化するため大きな批判を浴びることになりました。 まず、訴訟が提起されました。さらにFTCも調査に乗り出しました。もっともこれはダブルクリック社だけてはなく、 During the past few weeks, popular e-commerce sites such as eBay, eToys and Amazon.com have been the subject of inquiries. とされていますが、やはり中心は同社でしょう。 さらに進んでミシガン州政府は同州の消費者保護法違反で告発する事態に発展しています。 Michigan Attorney General Jennifer Granholm accuses New York-based DoubleClick of violating Michigan's Consumer Protection Act, an offense punishable by a fine of $25,000. これらに対してダブルクリック社はOPT-OUTを設定して、簡単にcookieを無効化できるようにしたり、 an educational campaign to help Web surfers protect their privacy. としてユーザ教育をはじめるなどの措置を取っていました。 しかし、altavistaなど有力な取引がダブルクリック社とのあいだに距離をおくようになりました。また、株価もAbacusを合併した当時158ドルしていたものが、80ドルまで低下するなど、外部の批判に対抗できないと判断したのでしょう。今回のほとんど全面降伏の結論になったようです。 この中で注目すべきはダブルクリック社は "in the absence of government and industry privacy standards." と言い、また、 "We commit today, that until there is agreement between government and industry on privacy standards, we will not link personally identifiable information to anonymous user activity across Web sites." としている点です。つまり政府や産業界の個人情報保護の基準がないままに進めたことがまずいとしています。 これを言い訳に過ぎないと取ることもできますが、個人情報保護とコンピュータの発展のバランスを如何に取るかという問題の指摘と考えることもできます。cookieはたしかにプライバシーに対して大きな脅威になりうる技術ですが、だからといって全否定して良いかは冷静に考える必要があります。産業界だけでなく消費者にとっても便利な側面があるのも事実だからです。 さらにこのことが他のインターネットビジネスに与える影響も考える必要があります。FTCはダブルクリック社だけでなく eBay, eToys and Amazon.com をも調査対象としています。またダブルクリック社と同様あるいはそれ以上にcookieを活用して個人情報を収集しているサイトがあると考えられます。今回のダブルクリック社の決定がこれにどのような影響を及ぼすか注目されるところです。もちろん、わが国のサイトも同様であり、真剣にcookieと個人情報保護の関係を検討すべき時期に来ていると云うことでができます。 |