ドメインネームと商標権
1 ドメインネームと商標の抵触  ドメインネームは、基本的には、各コンピュータに割り当てられたインターネット上のいわば「住所」の機能を営むものです。他方、商標は自他商品あるいは役務識別のための標識です。商標には、出所表示機能を中心に、品質保証機能、広告機能があります。ドメインネームと商標とは、機能的には全く異なるものです。
 ところが、ドメインネームは、インターネット上で、情報のありかとユーザーとを結びつける役割を果たし、また、ドメインネーム自体単なる数字の羅列ではなく意味のある言葉が選択できますので、出所表示的な機能をも営んでいると考えられています。また、副次的に、情報の質に対する顧客の信用に結びつくものでもあるので、品質保証的機能、広告的機能をも有すると考えられています。
 ドメインネームがこのような商標類似の機能を営む結果、両者の抵触という問題が発生するのですが、双方の登録はそれぞれ別個の機関で営まれているため、両者の抵触の問題は、紛争となってはじめて表面化するケースが多いように思います。以下の事件はその1例です。

2 フランスにおけるアリス事件の概要
 1957年に設立された広告会社のALICE(以下、第一会社)は、1975年、商品及び役務の区分を35類の広告会社としてのすべての役務と指定して、ALICEの商標登録をしました。ところが、第一会社は、ALICE D'ISOFT(以下、第二会社)が、インターネット上で<http://www.alice.fr>のドメインネームを使用していることを発見しました。なお、第二会社は、ALICE D'ISOFTで商標登録をし、ソフトウエア会社を営んでいます。第一会社は、第二会社のaliceの使用は商標権侵害に該当すると考え、<http://www.alice.fr>のドメインネームの使用を停止するよう求め、レフェレ(急速審理と訳されています)を申し立てたものです。

3 大審裁判所(原審)の判断と理由
 原審では、第一会社の申し立てを認め、
1.第二会社には第二会社の名称でのドメインネームを、第一会社には第一会社の名称でのドメインネームを認め、
2.登録機間(NIC France)に<http://www.alice.fr>のドメインネームを抹消させること
を認めました(1998年3月12日)。
 原審は、ドメインネームが商標が抵触するという効果をもたらすことを全面的に認め、商標権をドメインネームの登録原則に優先させたものといえます。
即ち、ドメインネームの枢要部は、http://wwwの部分、frなどのトップレベルドメイン部分を除いた部分であるとし、第二会社によるaliceの名称部分は、第一会社の名称と同一であると判断、原審では、当該商標とドメインネームの同一性ないし類似性をまず、肯定しています。
 その上で、ドメインネームの登録が権利を創設するものではないといっても、ドメインネームを登録することは、ネット上でフランスにおけるあらゆる企業のあらゆる活動を不可能にする効果をもたらすものと認定しています。即ち、ドメインネームが権利を創設するものではないとしながら、新たな権利を創設すると類似の効果をもたらすと考えています。
 その結果、商標権者たる第一会社は、ネット上でその名称を使用することができず、インターネット上では、顧客にその会社を見いだしがたいという不都合を与え、結局、かつてから商標権を取得していた第一会社は、インターネットにその名称でアクセスできなくなってしまい、関連性のない名称を選択せざるを得なくなるという不利益を問題視しています。
4 控訴院の判断と理由
 これに対し、第二会社は控訴院に不服を申し立て、控訴院では、大審裁判所の判断を破棄、第一会社の請求には理由がないと判断しました(1998年12月4日)。
 その理由は、以下の二点にあります。
 第一点。控訴院は、第一会社によってALICEの名称が先使用されていたとしても、第二会社による同一名称の使用は直ちに権利侵害にあたらないとし、その理由として、二つの会社の活動が全く異なったものであり、誤認混同を生じさせるものではないという点を指摘しています。
 第二点。ドメインネームの登録については、従前に登録された同一のドメインネームがない限り登録が認められるという原則があります。控訴院は、この原則を尊重したものと思われますが、最初に申請した第二会社のドメインネーム割り当ては、不正な権利の設定とはいえないと判断しています。

5 私見
 控訴院の判断は、商標法をストレートに適用したといえるでしょう。即ち、名前が似ていても活動範囲が全く違えば誤認混同のおそれがないので、商標権侵害にはならない、という理論です。
 私見としては、控訴院の判断を妥当と考えています。
 まず、前提として、ドメインネームは各コンピュータに与えられたインターネット上の「住所」であり、商標は商品あるいは役務に付された標章である、という点で両者の性質は全く異なっています。
 ドメインネームは、商標類似の機能を営むと指摘されていますが、果たしてそのような機能がドメインネーム自体に備わっているといえるのでしょうか。出所機能、品質保証機能、広告機能を果たしているのは、www上で展開されるホームページ上の情報であり、ドメインネーム自体には商品やサービスの出所を表示したり、その品質を保証したり、広告したりといった機能はないのではないでしょうか。ドメインネーム自体が商品やサービスの信用と直接結びついているとはいえないと思います。また、ユーザーが目当てのホームページにアクセスしたり、ネット上で情報を探したりする場合、直接ドメインネームを打ち込むことはしないで、検索エンジンなどでキーワードを打ち込み、情報の所在を探すのが普通です。よほどの有名な会社名などの場合は、直接ドメインをうちこんでホームページを探すということもありえますが、普通は行わないでしょう。
 さらに進んで、ドメインネームが商標と抵触する場合を検討してみます。
 商標権侵害となるのは、他人が指定商品(役務)につき他人の登録商標と同一もしくは類似の商標を用いる場合です。「類似」であるかどうかは、混同のおそれがあるか否かで判断されます。
 当該ドメインネームで活動している者と、当該商標で活動している者の活動範囲が異なる場合、本件のアリス事件がそうですが、両者の商品あるいはサービスの出所に混同を生じるというおそれはないのです。しかも、どのようなドメインネームを登録するかは、ドメインネーム申請者の自由であり、申請したドメインネームが登録されているドメインネームと同一でないならば申請が通り、同一ならば他のドメインネームを取得すればよいのです。いわゆる早い者勝ちなのですが、自由競争の世界ではそれで妥当なのではないかと思います。
 問題は、ドメインネームで活動している者と、当該商標で活動している者の活動範囲が同一の場合です。この場合も、通常のドメイン取得に関しては競争原理に従って解決すればよいのではないかと考えます。
「通常の」と限定したのは、異常なケースが考えられるからです。異常なケースとしては、不正な目的であえて他人の商標と同一の商標を取得するケース、他人に売却する目的でドメインネームを取得するケース、が考えられます。
 前者のケースは、我が国では不正競争防止法2条1項1号、2号、あるいは不法行為で解決できると考えます。ただし、事後的紛争はできる限り回避するのが望ましいのであり、例えば「tm」など商標固有のドメインを認めるというWIPOの提案、商標の有無、商標権者を確認できるような商標データベースを作成するというWIPOの提案は紛争防止に有意義です。
 後者のケースについては、競争原理で解決してもさほど不利益ではないと考えています。要は別の名前で自由に申請すればよいのですから。我が国では、ドメインネームの譲渡は禁止され、一法人一ドメインの原則で登録業務が営まれていますから、深刻な問題は起きていません。登録にあたって、ドメインネームを譲渡禁止とすればこのような問題は起こらなくなります。
 ところで、アリス事件に話を戻すと、原審が指摘するように、商標権者が商標名でのドメインネームを取得できないという不都合が生じる場合があるのは事実です。しかし、商標権に基づき差し止めまで認める法的根拠は、控訴審で覆されたとおり、無いと思います。なお、この点、ドメイン取得の原則は契約上の原則に過ぎないのであり、原審は契約と国内法である商標法との法律的な力関係から商標法の適用を優先したとの説明をしている解説もありました。しかし、そうすると常に商標が保護される結果になり、妥当でないと思います。

  1999年2月9日    井奈波 朋子    


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