見坊氏は『三省堂国語辞典』の編集主幹でした。代表は金田一京助になっていま すが、実際の作業は見坊氏が中心になって行われていたようです。また『新明解 国語辞典』は金田一京助編で、山田忠雄主幹になっていますが、第3版まで見坊 氏も名前が載っています。逆に『三省堂国語辞典』では第2版まで山田忠雄氏の 名があり、第3版からは消えています。  見坊氏は「世の中に行われていて、辞書にのっていいと思われるのに、まだの っていないことば」をさがして、「新聞・雑誌・単行本・放送・談話など、さま ざまな資料から、目的にかなうことばを、文脈つきで採集」しつづけたひとです。 流行語や世相語を取り上げる人は今でも居ますが、普通の言葉で字書に載ってい ない語を探す、という作業は見坊氏独特のものでした。採集法などを説明したり したものとして以下の著書が有ります。 『ことばの海をゆく』朝日選書74 朝日新聞社 1976.11.20 『辞書をつくる 現代の日本語』玉川選書38 玉川大学出版部 1976.11.20 『辞書と日本語』玉川選書61 玉川大学出版部 1977.11.20 『ことばの遊び学 ワード・ハンターが行く』 PHP研究所 1980.6.30 『ことばさまざまな出会い』 三省堂 1983.11.20 『日本語の用例採集法』 南雲堂 1990.3.20  ワードハンティングという語については、『ことばの海をゆく』p25にのって いますが、アメリカでの用語をとりいれたようです。「「ことば狩り」という訳 語も考えられる」としていますが、今、「言葉狩り」というと〈差別用語探し〉 の意味になっているようですね。  雑誌『言語生活』に「ことばのくずかご」というコラムを連載し、「人に知ら せて共におどろき、共に感心したいような、話題性のある用例」を紹介しておら れました。それを纏めたのが以下の本です。 『ことばのくずかご』ちくまぶっくす15 筑摩書房 1979.8.23 『〈'60年代〉ことばのくずかご』ちくまぶっくす48 筑摩書房 1983.11.20 『新ことばのくずかご'84-'86』 筑摩書房 1987.1.10 (稲垣吉彦・山崎誠共編) 『88年版ことばのくずかご』 筑摩書房 1988.9.10 (稲垣吉彦・山崎誠共編) 『89年版ことばのくずかご』 筑摩書房 1989.7.25 (稲垣吉彦・武藤康史共編)  見坊氏の本領とも言うべきものが以下の書ではないでしょうか。 『現代日本語用例全集ア−キ』 筑摩書房 1987.11.20 『現代日本語用例全集ク−シ』 筑摩書房 1988.4.30 『現代日本語用例全集ス−テ』 筑摩書房 1989.2.20 未完のまま、1992年10月21日におなくなりになりました。残念なことです。  書籍の発行日に11月20日が多いのにお気付きかも知れませんが、見坊氏の誕生 日が、1914年11月20日なのです。お生れは東京ですが、もともとは岩手県の人で、 岩手大学にも勤めておられたのですが、のち国立国語研究所(こっけん)に移ら れ、50代中盤にして辞書作り専念の為に退職されたようです。  なお、見坊氏の著書には総て語彙索引がついており、とても便利です。