【米国時代のフリッツ・ラング】

『真人間』
YOU AND ME


フリッツ・ラング唯一のロマンチック・コメディで、自ら製作も行った作品。『三文オペラ』で有名な作曲家クルト・ワイルが音楽を担当し、冒頭の『You can't get something for nothing』や『Stick to the mob』などで独自の犯罪ものの世界を広げた。

ヘレン(シルヴィア・シドニー)とジョー(ジョージ・ラフト)は、デパートの売り子を務めている。実はこのデパート、経営者モリス氏(ハリー・ケリー)の方針で、仮釈放などで出所した前科者を多く雇っている。もちろん、通常は本人とモリス氏以外はこのことを知らない。ヘレンもジョーも刑務所に入所した経験があるが、今では更正して真人間になっている。愛し合う2人の恋愛はデパートの中では秘密だが、たまに売り場で出会った時にはそっと手を触れ合って相手の気持ちを確かめ合う。だが、ジョーは過去を清算して新たな人生を歩むために、前科の記録のないカリフォルニアへ移ろうとする。ジョーの過去を知るヘレンは、表向きは反対しないものの、本心はジョーとは別れたくない。2人は最後の思い出にダンスホールへ行った後、長距離の深夜バスの停車場へ行く。バスに乗って出発するジョーに、思い切ってヘレンはプロポーズする。ヘレンのような娘が自分のような前科者と結婚するはずないと思っていたジョーは、喜んでカリフォルニア行きを中止し、その夜のうちに2人は結婚する。2人は当面はヘレンのアパートに住むことにし、はじめ怪しんだ下宿の老夫婦も快くジョーを迎える。だが、ヘレンは自分が前科者であることをジョーに話せないでいた。その上、仮釈放期間が終わったジョーと違って、ヘレンはまだ仮釈放期間中で、定期的に更正員の訪問を受けなければならないほか、市民権が制限されるために結婚も禁止されていた。そうとも知らないジョーは、ハネムーンの代わりに2人でレストランのはしごするなど、新婚気分を味わっていた。ヘレンは2人の結婚を秘密にするようにジョーに約束させるが、ヘレンの態度はジョーの疑惑を招く。一方、ジョーの元にかつての悪党仲間ミッキー(バートン・マクレーン)が現れてデパート強盗の話を持ち掛けるが、ジョーににべもなく断られる。クリスマスの夜、かつての刑務所仲間が酒場に集まって旧知を暖め、刑務所の思い出話をしながら、楽しく歌を歌う。だがジョーは、ミッキーからヘレンが前科者である事実を告げられ、ショックを受ける。家に帰ってそれが事実と確かめると、ジョーは家を出ていき、ミッキーの計画に参加することにする。ジョーの友人ギムシーの連絡で計画を知ったヘレンは、モリス氏にこのことを打ち明ける。一方、強盗の首謀者ミッキーはいざという時のために弁護士を雇うが、弁護士は一帯を縄張りとするギャングにミッキーの計画を伝える。何も知らないジョーたちは深夜のデパートに侵入するが、モリス氏とヘレン、それに警備員らが待ち構えていた。だがモリス氏は一同の銃を取り上げると説教をし、明日定時までに出勤するよう言い残してデパートを去る。きつねにつままれた一同にヘレンは、強盗がいかに割の合わない商売であるかを、収入と支出を黒板に書き出して証明してみせる。一同は納得して感嘆の声をあげるが、ジョーは冷たい視線を投げかけるのみだった。一方、外で一同を待っていたミッキーは、ギャングに連れ去られ、殺されてしまう。夜のデパートに一人残ったジョーはやがて反省し、ヘレンへのプレゼントを自分の金で買う。だが家に帰るとヘレンの姿はなかった。ジョーは仲間と力を合わせてヘレンを探し、やがて彼女が出産のために入院していると知る。病院に行ったジョーはヘレンと正式に結婚し、やがて2人に元気な赤ん坊が産まれる。

なお蓮實重彦氏と山田宏一氏の映画対談『傷だらけの映画史』で、バートン・マクレーンがシルヴィア・シドニーに助言する更正員を演じたと書かれているが、実際にはジョージ・ラフトにデパート強盗を勧めるかつての犯罪者仲間ミッキーを演じている。更正員は別の俳優が演じているが、シルヴィア・シドニーを監視する人物で、書かれているように犯罪をやめさせるような行動はない。

38米/監督フリッツ・ラング/脚本ヴァージニア・ヴァン・アップ/撮影チャールズ・ラングJr/音楽クルト・ワイル/出演シルヴィア・シドニー、ジョージ・ラフト、ロバート・カミングス、バートン・マクレーン、ハリー・ケリー/90分/白黒


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2002年8月6日作成