【米国時代のフリッツ・ラング】

『口紅殺人事件』
WHILE THE CITY SLEEPS


「ニューヨーク、今夜」の字幕が出る。アパートに住む若い独身女性が殺される。犯人はドラッグストアの配達人の若い男(ジョン・バリモアJr)で、ドアを開けた際にオートロックがかからなくなるように鍵のボタンを押して、被害者がドアを閉めて油断しているところに押し入るのだった。犯行現場の壁には口紅で「母親に聞け」とのメッセージが書かれていた。新聞やテレビ放送などを扱うカイン通信社では、おりしも急死した老社長に代わって社長になった息子ウォルター(ヴィンセント・プライス)が、重役の中から事件の報道で功績のあったものを専務に抜擢すると表明した。写真担当のクリツナー、通信部のラヴィング(ジョージ・サンダース)、新聞編集長のグリフィス(トーマス・ミッチェル)が、この椅子をめぐって火花を散らす。クリツナーは社長夫人ドロシーと不倫の関係にあった。誠実なグリフィスと仲の良いニュースキャスターのエドワード・モブレイ(ダナ・アンドリュース)は、独自に調査を行う。恋人でラヴィングの秘書を務めるナンシー(サリー・フォレスト)のアパートを訪れた際に鍵のトリックの手掛かりをつかむが、犯人に結びつく手掛かりはない。そんな折、またも同一犯と思われる殺人事件が起こる。モブレイは集めた情報をもとに、テレビの放送で犯人像を推理してみせ、犯人を挑発する発言をする。さらに新聞にナンシーとの婚約記事を流し、ナンシーをおとりにしようとする。愛するモブレイのためにナンシーはあえて危険な役を引き受け、彼女には密かに警察の警護がつく。モブレイの活躍を快く思わないラヴィングは、自分の愛人である婦人記者ミルドレッド(アイダ・ルピノ)にモブレイを誘惑させる。怒ったナンシーはモブレイと仲違いする。やがて犯人がナンシーのアパートに現れ、モブレイを装ってドアを開けさせようとするが、怒りのとけないナンシーはドアを開けない。意外な誤算に逆上した犯人は、同じアパートに戻ってきたドロシーの部屋に押し入り、彼女を絞め殺そうとする。だが抵抗されて失敗し、街の中を逃げる。駆けつけたモブレイは犯人を地下鉄の線路に追跡して格闘する。マンホールから地上へ逃げようとした犯人は、待ち構えていた警察に逮捕される。モブレイは事件解決や犯人の供述の特ダネを通信部には流さず、ニュースは新聞のトップ記事を飾る。だが出世争いに嫌気がさしたモブレイはすべてが終わると職を辞して、ナンシーと新婚旅行に出かけるのだった。

通信社内部での栄達争いに焦点が置かれ、サスペンスの要素が少ないのが不満だが、異常性格の犯人の描写はやはりラングならでは。義母が本当に養子に欲しかったのは女の子であることを知った犯人が、女性への憎しみをあらわにしながら犯行に及ぶ場面の犯人の憎悪に満ちた表情は、後の『ダーティー・ハリー』のスコルピオの表情とも重なる。また犯人が殺人現場に口紅でメッセージを残すというのは、シカゴで実際に起こった事件に基づいている。

56米/監督フリッツ・ラング/脚本ケイシー・ロビンソン/撮影アーネスト・ラズロ/出演ダナ・アンドリューズ、アイダ・ルピノ、ロンダ・フレミング、ジョージ・サンダース、ヴィンセント・プライス/100分/白黒


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2002年8月6日作成