【米国時代のフリッツ・ラング】

『無頼の谷』
RANCHO NOTORIOUS


ラングの原案を元にしたオリジナル脚本を映画化した作品。

1870年代のワイオミング。ヴァーン・ハスケル(アーサー・ケネディ)は商店で売り子をするベス(グロリア・ヘンリー)と結婚する予定だったが、商店に押し入った強盗に彼女を殺されてしまう。復讐を誓うヴァーンは、州境を越えて二人組の犯人を追う。途中、二人組は仲間割れし、ベスを殺した男は相棒を撃って、一人で逃げる。ヴァーンは撃たれた男を見つけるが、犯人の行き先を問われた男は「チャカラック」とだけ答えて、息絶える。「チャカラック」とは、ルーレットを壁にかけたギャンブルゲームのことだが、ヴァーンはチャカラックを場所の名前とみて、捜索を続ける。ある町で散髪中にチャカラックのことを店主に聞いたヴァーンは、隣の無法者風の客から「その言葉を口にするのは、オルター・キーンは喜ばない」と言われて、襲われる。格闘の末にヴァーンは男を殺す。ヴァーンは逮捕されるが、死んだ男がお尋ね者だったことが分かり、釈放される。そして、オルター・キーン(マレーネ・ディートリッヒ)は元酒場のホステスで、チャカラックが縁で知り合った無法者のフレンチー・フェアモント(メル・ファーラー)と仲がいいと聞く。だがフレンチーは人を撃ったために捕まり、死刑になるのを待つばかりだった。ヴァーンはわざと捕まり、フレンチーと同じ牢に入る。そして夜になって脱獄し、フレンチーと一緒に逃げる。フレンチーはヴァーンをチャカラックと呼ばれる山奥の隠れ家へ連れていく。チャカラックは悪事を働いた悪党の隠れ家で、女主人のオルターは悪党達から犯罪の10%の分け前を懐にしていた。ヴァーンは、オルターがベスのブローチを着けているのを見て、ブローチを盗んだ犯人を知るために彼女を愛している振りをする。それを知ったフレンチーは、ヴァーンとの間に気まずい空気ができる。一方、ベスを殺した犯人キンチは、ヴァーンが仇を討つために自分を探していることを知る。一同は銀行強盗をするが、どさくさにまぎれてキンチはヴァーンを撃とうとする。弾ははずれるが、一瞬の隙に銀行側の反撃を受ける。フレンチーも撃たれて傷を負い、一味はちりじりに逃げる。その夜、オルターの分け前をチャカラックに持参したヴァーンは、オルターからついにブローチの送り主がキンチと聞き出す。心がヴァーンに傾きつつあったオルターは、ヴァーンから犯罪者の片棒とののしられてショックを受ける。ヴァーンは酒場でキンチを追い詰め、挑発して決闘しようとするが、ヴァーンの銃の腕前を恐れるキンチは戦おうとしない。キンチはかけつけた保安官に逮捕されるが、仲間によって保安官事務所から救出される。オルターが仲間を売ったと誤解した一行はチャカラックを襲撃し、傷ついたフレンチーとオルターは追い詰められる。そこへヴァーンが現れ、狭い室内で壮絶な撃合いになる。キンチはフレンチーに撃たれるが、フレンチーを守ろうとして、オルターも胸を撃たれる。降参した一味は銃を取り上げられてチャカラックを追い出されるが、ヴァーンとフレンチーが部屋に戻ると、オルターも息絶えていた。ともに愛する女を失った二人の男は、馬を並べて、荒野の彼方へと去っていく。

愛する者を殺された男が復讐を求めて敵を追うというモチーフは、後の『ビッグヒート』でもテーマとして扱われている。嘘や裏切り、暴力といったラング映画のおなじみの暗い主題が扱われているが、犯人を追求するプロットがよく練られた脚本や、着飾ったディートリッヒのテクニカラー撮影がよくできているため、暗くならず、サスペンスをもりさげずに、ストーリーを語っている。

映画製作中のタイトルは『チャカラック(Chuck-A-Luck)』だったが、会社の責任者だったハワード・ヒューズが「ヨーロッパの観客には分かりにくい」として、『Rancho Notorious』に変更した。これを聞いたラングは、「そっちだって分かりにくいのに」とぼやいたと言う。

西部劇として初めて主題歌を使用し、それだけでなく、主題歌や挿入歌でストーリーの展開を説明するという、ギリシャ悲劇のような手法を使用した。

52米/監督フリッツ・ラング/脚本ダニエル・タラダシュ/音楽エミール・ニューマン/撮影ハル・モーア/出演マレーネ・ディートリッヒ、アーサー・ケネディ、メル・ファーラー、グロリア・ヘンリー、ウィリアム・フローリー/94分/カラー


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2002年8月6日作成