『遊星Xから来た男』
THE MAN FROM PLANET X


地球に迫る遊星の謎とスコットランドに不時着した宇宙人の陰謀を描くB級SF映画。今見るとどうということのない内容だが、地球に現れた宇宙人が警告のために地上の電気を止めてみせるロバート・ワイズ監督の『地球の静止する日』や、北極に落下した吸血宇宙生物が人間を襲うハワード・ホークス製作の『遊星よりの物体X』と同じ51年に製作されたというところが意味深。ただの二番煎じか、時代的に宇宙からの侵略を描くのがブームだったのか。監督は低予算映画で有名なチェコ出身のエドガー・ウルマー。

カリフォルニアで地球に近づく謎の遊星が観測され、新聞記者ジョン・ローレンス(ロバート・クラーク)は発見者のエリオット教授(レイモンド・ボンド)を訪ねてスコットランドの田舎にある観測所へ行く。そこには教授のほかに、その娘エニド(マーガレット・フィールド)と欲深なミアーズ博士(ウィリアム・シャラート)がいた。ある夜、近くの平原に宇宙船が不時着し、様子を見に行ったジョンらの前に宇宙人が現れる。逃げるジョンらの後を追って観測所に来た宇宙人に、彼らは何とかコミュニケーションを試みるがうまくいかず、彼らの目的は謎のままである。宇宙船の未知の機械を自分のものにしようと企むミアーズ博士は宇宙人を殺そうとするが、逆に宇宙人はエニドをさらっていく。やがて村人が行方不明になる事件が起こる。宇宙人と関係があるとみたジョンは村へ行くが、その間に教授と博士も宇宙人に捕まってしまう。恐ろしいことに宇宙人は捕まえた人間を無気力化し、自分たちの思い通りに操っていた。村の警察署長はスコットランドヤードに助けを求め、ポーター警部(デヴィッド・オーモント)らが駆けつける。警部は軍隊の出動を要請し、夜11時をもって宇宙船を攻撃することになる。捕まっている人々を逃すために宇宙船に近づいたジョンは、教授の口から宇宙人の恐るべき陰謀を聞く。遊星Xは冷却化で死にかけており、遊星が地球に最接近する深夜12時に、この偵察機の指示で地球への侵略を開始するのだという。ジョンの活躍で捕まっていた人が全員逃げると同時に、軍隊の砲撃が始まる。宇宙船の機械に目がくらんだ博士だけが途中で引き返し、砲撃に巻き込まれて死んでしまう。宇宙船は砲撃で破壊され、遊星Xは地球に最接近するが、何事もなくそのまま宇宙の彼方へと去っていくのだった。

宇宙人と言葉が通じないために身振り手振りや手話など様々な手段を使ってコミュニケーションを取ろうとするところが独創的。『未知との遭遇』の先駆けともいえる。宇宙人の格好は『オズの魔法使い』のブリキのような顔(あるいはウルトラマンのダダ星人)と、『トイ・ストーリー』のバズのようなレトロな宇宙服が特徴的。愛嬌があって恐くない。呼吸用のボンベを背負っていて肩の上のバルブで調整するが、自分でうまく操作できずに窒息しかけたところを地球人に助けてもらうなど、笑えるところもある。一方で怪光線を使って人間を無気力化して自在に操り、奴隷のように労働させたりもする。共産主義が伸張した時代背景のせいだろうか。とはいえ、56年のSF侵略映画『ボディ・スナッチャーの侵略』が赤狩を背景にしたような政治的メタファーは感じられない。全体に陰影の濃い画面で、フィルム・ノワールか怪奇映画を思わせる立体的な絵作り。主人公ジョンは英国における米人という異邦人の役回りで、地球に来た宇宙人と位置的には同じ関係にある。この対比も脚本上の意図だろう。ちなみに『遊星よりの物体X』(原題は"THE THING")の邦題は、このエドガー・ウルマー監督作品の原題をもとにつけられたのではないかと思われる。

51米/監督エドガー・ウルマー/脚本オーブリー・ウィズバーグ、ジャック・ポレクスフェン/撮影ジョン・L・ラッセル/音楽チャールズ・コッフ/出演ロバート・クラーク、マーガレット・フィールド、レイモンド・ボンド、ウィリアム・シャラート、デヴィッド・オーモント/70分/白黒


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2002年8月11日作成