ゴッドファーザー』 カットされた復讐シーン
裏切者は2度死ぬ

(1)『ゴッドファーザー』
 『ゴッドファーザー』には撮影後に編集の段階でカットされたシーン多いが、マイケルがアポロニアのかたきをとる場面もそのひとつである。アポロニアはマイケルがシチリア島で結婚した最初の妻で、マイケルの2人のボディガードの1人ファブリツィオが彼を狙って車に仕掛けた爆弾により殺された。原作ではその後ニューヨークに逃げてピザ屋を開いたファブリツィオは、5大ファミリーのボス暗殺後、マイケルが送った殺し屋によって殺される。映画でもファブリツィオは同様に殺される予定だったが、よりドラマチックにするため、殺しはマイケル自身の手で行われることになっていた。1971年3月29日付の脚本では、その場面は裏切者の義弟カルロの殺害と、夫の死に狂乱するコニーの場面の間に設定されている。
 ハーラン・リーボ「ザ・ゴッドファーザー」によれば、この場面の屋外シーンはニューヨーク・ロケ最終日の1971年7月2日に、35丁目のインペリアル・ピザ・パーラーで撮影された。(脚本では夜だったが、昼に変えられた。)ロケで撮られたのは屋外場面のみで、店内の場面は撮影されていない。同日夜に別の場面を撮影してニューヨーク・ロケは終了。2週間の休暇後、コッポラらはシチリア島ロケへ行く。店内の場面はシチリア島のレストランで撮られた。この作品の特殊メイクでアカデミー賞を受けたディック・スミスは予算の関係でシチリア・ロケには参加できず、撃たれたファブリツィオのメイクアップは地元のイタリア人スタッフが行った。写真も残っているが、ファブリツィオ役のアンジェロ・インファンティは顔から胴体まで過剰なほど血まみれのメイクをほどこされ、やや不自然なほどである。それを隠すためか、別の写真では撃たれたファブリツィオはあおむけではなく、うつぶせに倒れている。脚本にはマイケルの銃についての説明はないが、写真では彼は散弾銃と思しき銃を構えている。前掲書によればこの銃はファブリツィオがシチリア島で使っていたもので、マイケルは復讐の象徴として銃を死体の上に置いて去る。
 この場面がカットされた理由は明らかではないが、長い映画を少しでも短くする必要があったことや、ファブリツィオの不自然なメイクで場面の出来が今いちだったか、5大ファミリーのボス暗殺にカルロ殺害と殺しの場面が続きすぎると判断された可能性はある。ちなみにこの場面でマイケルが銃を構える写真は宣伝用に使われ、有名な幻のシーンとなった。
 『フォッドファーザー』には削除された場面を復活させてコッポラが独自に編集した版があり、DVDも販売されている。マイケルの復讐シーンが含まれるDVDがあると読んだことがあるが、詳細は不明である

(フェードイン)
車内・夜:マイケルのリムジン(1955年)
マイケル、後部座席に一人で座っている。運転しているのはネリ。
二人は長いあいだ、何も話さない。対向車のヘッドライトが光っては通り過ぎる。
ネリが振り向く。
ネリ
ボスの決めたことに口を出すつもりはありませんが
マイケル
(笑いを浮かべ)
何だ、言ってみろ
ネリ
私がやります。そうすべきです。
マイケル
だめだ。これは私がやらなければならない。
屋外・夜:ピザ店前の通り(1955年)
マイケルの車、 閑静な通りの道路脇に止まる。イタリア・ピザ料理店の前。ネリが車のドアを開ける。
マイケル
待っていろ。
室内・夜:ピザ店(1955年)
マイケル、一人で店の中に入ってくる。男がピザの生地を空中で回転させている。
マイケル
ボスはどこだ?

奥にいます。フランク、お客だよ。
暗い中から強いイタリアなまりの男が出てくる。

何だ?
男は立ち止まり、恐怖に凍りつく。ファブリツィオである。
マイケル。コートの下から銃が火を吹く。なぎ倒されるファブリツィオ。マイケル、銃を投げ捨て、振り向いて出ていく。
Godfather Script at IMSDb. - The Internet Movie Script Database

カットされた場面や舞台裏
The Godfather Museum

(2)『ゴッドファーザー PART II
 ファブリツィオをめぐる因縁は『ゴッドファーザーPART II』でも描かれるはずだった。前作ではアポロニアの殺害後、ファブリツィオは映画から完全に姿を消してしまい、その消息は不明のままである。PART IIでは、ファブリツィオがニューヨークにいることをマイケルが知る場面と、ファブリツィオが車に仕掛けられた爆弾で殺される場面があった。
 ファブリツィオの消息について語られるのは、1958年の場面の冒頭のパーティーのシーンである。映画では野外パーティーで上院議員への寄付を発表した後、ボートハウスで議員と密談に入るが、1973年9月24日付けの脚本では、上院議員のシークエンスの前にマイケルはボートハウスでいくつかの「ビジネス」をこなす。前作で死んだ兄ソニーの娘フランチェスカとそのボーイフレンドに会い交際を許可したり(この場面も撮影されたが本編からカットされた)、妹コニーとヒモ男に説教をしたり、ハイマン・ロスの手先ジョニー・オラと会う(本編ではコニーとオラの場面は順番を入れ替え、上院議員との密談の後になっている)。フランチェスカらと会った後、マイケルはネリからファブリツィオの消息について報告を受ける(前作と同じく、ピザ屋をやっているというのが面白い)。彼の密入国に手を貸したバルジーニは前作でコルレオーネ・ファミリーと敵対したマフィアのボスで、前作のラストで警官に変装したネリに射殺されている。ファブリツィオがニューヨークで生きていると知り、マイケルはしばし感慨にふける。後に公開された場面では、マイケルは「やつだ。ファブリツィオだ。」のセリフの後、「長い時間がかかったな(It took so long.)」と言っている。(アポロニアの死は1950年頃なので8年かかった。)彼はファブリツィオの始末についてその場では命令をくださず、トム・ヘイゲンと上院議員との密談について事前の相談を始め、それからコニーらと会うのである。ファブリツィオの話題はその後は出てこない。
 脚本では、パーティーの夜マイケルとケイがダンスするシーンでパーティーのシークエンスは終わり(マイケルが寝室で銃撃されるのは別の日になっている)、続いて、ファミリーが乗っ取ったラスベガスのカジノからネリが前オーナーのクリングマンをたたき出す(ここも撮影されたが本編からカットされた)。そしてその後が、ファブリツィオの殺害シーンである。後に公開された場面では、ファブリツィオが店の外の看板を片付ける映像に、先の場面でマイケルが見ていたファブリツィオの写真が二重写しになり、男がファブリツィオであることが説明される。エンジンをかけて車が爆発した後、ファブリツィオが車から這い出して事切れるところまでがワンカットのロングショットで撮られている。脚本ではファブリツィオ殺害後、夜の湖で感慨にふけるマイケルが描かれるが、ここは撮影されたか分からない。(この場面からオーバーラップして1915年の場面へと移っていく。)ちなみに車に爆弾を仕掛けるというやり方はアポロニアが殺されたのと同じ方法であり、前作のカットされた場面の散弾銃と同様、復讐に対するマイケルの思い入れを表しているのだろう。
 これらの場面はしかし、またしても映画本編から削除の憂き目に会う。ただし今回は特別編集版のDVDでカットされたシーンが復活しており、ネットでも見ることができる。

室内・タホーのボートハウス − 日中
マイケル、暗いボートハウスの中で座っている。 トム・ヘイゲン、行ったり来たりしている。
マイケルは写真を見ている。すぐそばにネリが立っている。
マイケルのクロースアップ。
写真をじっくり見ている。
ネリ(声)
名前はフレッド・ヴィンセント。バッファローで小さなピザ屋をやっています。
写真のクロースアップ。
中年の男性のスナップショット。ハンサムなイタリア系。どこかで見たような男である。
ネリ(声)
(続けて)
アメリカ人の妻と二人の小さな子供がいます。調べたところ、不法入国者で。シチリア島から・・・。
マイケル、別の写真を見る。同じ男。ただしこちらは若く、シチリア島の羊飼の服装をしている。そう、彼はファブリツィオだ。マイケルを裏切ったシチリア島のボディガードである。
ネリ(声)
1956年ころに来ています。バルジーニ・ファミリーの支援で。
マイケル、写真を置く。
マイケル
やつだ。ファブリツィオだ。
(自分自身に言うように)
復讐という料理は、冷めたころが最高のご馳走だ。
ネリ
どうしますか?
マイケル、待ち続けているヘイゲンを見る。
マイケル
後だ。トム。
ヘイゲン、ファイルを渡す。マイケル、目を通す。
・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・
屋外:ニューヨーク・バッファローの通り − 夜
「フレッドのピザ屋」のネオンサインが消える。
少ししてオーバーコートの男が出てきて、レストランのドアを施錠する。
コルレオーネワルツがバックに流れる。
男が振り向く。
クロースアップ。
フレッド・ヴィンセント。シチリア人のファブリツィオとして我々の記憶に残っている男だ。
彼は停めてある車まで歩き、乗る。
離れたところからのショット。
スターターを回す。と、車は爆発を起こして吹き飛ぶ。
(オーバーラップ)
室外:タホーの邸宅 − 夜
前の場面のワルツが流れ続ける。誰もいないまだイルミネーションで飾られた館の光景。地面に散らばったパーティーのごみくずを、清掃員が黙々と片付けている。
光景(ミディアム・ショット)
マイケルが一人で歩いている。その後ろに2頭の飼い犬(アイリッシュセッター)。
マイケル、水際まで歩き、湖の方を見る。棒を拾って投げると、犬たち棒を追って走る。
邪魔にならない距離から、ボディガードたちがマイケルの動きをじっと見ている。
マイケルのクロースアップ
湖の方を見る。その心にさまざまな思いが去来する。ワルツの音楽が次第に、イタリアン・ミュージック・ホールの音楽と笑いの反響音へと変わる。
(オーバーラップ)
室内:ニューヨークの劇場 − 1915年 − 夜
23歳の内気な若者ヴィトー・コルレオーネが、エネルギッシュで充足感のある友人ジェンコ・アバンダンドに連れられ、イタリアン・ヴォードヴィル劇場の混雑した通路を帽子を手に進む。
・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・
The Godfather: Part two - Daily Script

ファブリツィオの消息を聞くマイケル  

ファブリツィオの殺害シーン

<参考>
ハーラン・リーボ著「ザ・ゴッドファーザー」河原一久・鈴木勉監修、ソニー・マガジンズ、2001年

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2015年3月7日作成