ミステリーショートショート風エッセイ

「不思議な部屋」
Written by Kei Nakahara

※注意 この物語の最後にある男女の会話は実際にあったものです。




ある部屋が売られている。一般的なワンルームマンションの価格に比べると、かなり安い。こぢんまりとして窓の広い部屋だ。その部屋で多少騒いでも隣の部屋の人から苦情が来ることはないという。
一人になるには最適で、音楽を聴いたり、TVをみたり、窓から外を眺めたりできる。もし、愛し合う二人ならそこで抱擁し合うこともできる。−−−−その勇気があればだが。
部屋の中には、いくつかのしっかりとしたつくりの椅子があって、そこで体を休めることができる。

ただし、多くのペットはこの部屋には入りたがらない。気分が悪くなるのだ。動物にとっては本能的に嫌悪感を感ずる部分があるらしい。

その部屋のさらに不思議なところは、自分の所有物であるにかかわらず、禁忌(タブー)があることだ。
−−−−ある時間には、絶対に眠ってはいけないという。絶対に。

もしも、その時間に眠ってしまうと、考えられる限りの災禍が呪いのごとく、その部屋の持ち主に降りかかることがあるという。
もし、その過ちを犯せば、その部屋の持ち主の運命を大きく変えるという。

ドアを開けると猫の死体が転がっていることもある。ひどい場合は、血だらけの人間が転がっていることもあるという。あるいは突然に、本人自身が、椅子に座った姿勢のまま、全身に損傷を受けて死んでしまうこともあるのだという。特に、首に損傷が集中することが多いとも言われる。

このように、この部屋には禁忌もあるが、実に多くの人が欲しがるのも事実だ。
もっていないと馬鹿にされてしまうくらいだ。より立派な部屋を持つことが、人々の間である種のステータスとなっている。

なぜなら、この部屋は、テクノロジーの粋を集めたものであり、部屋のドアを閉めた後、椅子に座り、一連の操作をし、再びドアを開けると希望する場所に出られるのだ。人々はこの便利さを求めて、競ってこの部屋を買い求める。

しかし、この部屋の存在が恐ろしいものであることは間違いない。
この部屋のおかげで、日本では年間1万人近くの人が実際に死亡しているのだから。

              *      *      *

ある男女の会話
 男:「オレ、車の免許、もってないんだー」
 女:「マイナス50点!!!」




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