【12月1日(水)】


 午後4時、プロテウス仕事で神楽坂のメディアックス。ここでも話題は成年コミックの自主規制。
 打ち合わせ終了後、神楽坂の宝龍でトーレン社長と早めの夕食をとってから、東西線で中野。
 三池崇史の映画秘宝的話題作『DEAD OR ALIVE』@武蔵野ホール。映画の日だったんで場内はほぼ満員。口コミの威力か、柳下特殊伝言板の効果か(笑)。
 作品的には、香港ノワールノリVシネマ系ヤクザ映画の極北ですね。哀川翔×竹内力の二大スター対決の最高峰(笑)。これで特撮を樋口真嗣が担当していれば完璧だったのに。
 まあラストはともかく、オープニングとお墓のシーンがあまりにかっこよくて抵抗できない。柳下毅一郎から、
 大森望が見てキネ旬ベスト10の一位にするためにある映画なんだから、見るように(指名)。大森がキネ旬ベスト10に投票する意味なんてそのくらいしかないだろう。
 とまで言われてしまったので、素直にキネ旬ベスト10の一位にするしか。しかし問題は、今年は邦画部門の投票を見送る予定だったこと。いまから邦画ベストテン投票に参加するためには、最低でもあと20本ぐらい未見を消化しなきゃいけないのである。

 というわけでレンタルビデオ屋に寄って、とりあえず4本借りる。




【12月2日(木)】


 市川準『たどんとちくわ』は、いかにも市川準な街の風景が流れつづけ、「ノーライフキング」といっしょやんとか思いながら見てたら、たどん編のあとのちくわ編に仰天。おでん屋でそ、その暴挙は。しかも真田広之。謎すぎる。

 中原俊『コキーユ』は中年の少女マンガ。40歳以上限定映画ですか? 『時雨の記』よりちょっとだけ若い不倫物。風吹ジュンにあんなに迫られちゃよろめくのは当然ですが、小林薫は純情すぎでしょう。

 今日の収穫は、望月峯太郎原作、石井克人監督『鮫肌男と桃尻女』。やっぱり今年はヤクザ映画なのか。浅野忠信はいつもどおりだけど、若人あきら(じゃなくて今は我修院達也ですか)が凄絶。しかし眉毛はあそこまでしなくても。小日向しえは悪くない。鶴見辰吾も怪演。

『メリーに首ったけ』は、ギャグがベタすぎて笑えない。キャメロン・ディアス以外は見るところがないのでは。いや、それだけ見てりゃいいのか。これなら『ウェディング・シンガー』のほうが上でしょう。




【12月3日(金)】


 井筒和幸『のど自慢』が面白い。脚本の勝利か。予告編では主役級に見える竹中直人は、本編ではちょい役。しかもタクシーの中で最初に歌うのがPUFFYで思いきり意表をつかれる。選曲のセンスはかなりいい感じにいまどきのリアルさが出ている。ただし、のど自慢おたくのさいとうよしこに言わせると、のど自慢考証が甘いそうである(トップバッターに妊婦は起用しないだろとかそういうことらしい)。

 矢口史靖『アドレナリンドライブ』は冒頭がすばらしい。巻き込まれ型のドライブ感がこれだけくっきり出てればそれだけでOKでしょう。ジョビジョバの6人のダメぶりが最高におかしい。今度はジョビジョバ主役でどうか。

 鈴木浩介監督『BLOOD 狼血』は全然ダメ。天願大介もこんな脚本書いてちゃいかんよ。警察サイドのセリフとか駄目すぎる。もっとしっかりしていただきたい。インターネット上でロードショウ公開中の三池監督作品『オーディション』(天願大介脚本)のほうは面白いらしいが、これは公開するのか。さすがにノートパソコンでは見たくないなり。

 深作欣二監督『おもちゃ』は、どうせダメだろうと思ったら意外な佳作でした。宮本真希の走りつづける姿が美しい。あの設定でまさか走る映画とは。ひさしぶりに見た富司純子もなかなか。しかし、ラストの北山のお大尽邸宅シーンで大減点。あの前で終わりにすればよかったのに。




【12月4日(土)】


『スパニッシュ・プリズナー』を見ようと思って早稲田松竹に行ったら、今日から番組が変わってたんでした。
 かわりに『天使が見る夢』『ハイ・アート』の二本立てを見る。『天使〜』はありがちなフランス青春映画でしたが、『ハイ・アート』はレスビアンラブ(引退した天才写真家×写真雑誌の駆け出し編集者)物の佳作。ベッドシーンにいたるまでの過程が驚くべき自然さで描かれている――が、これでもし男同士だったらと想像するとこわい。

 そのままユタに流れて、柳下毅一郎、添野知生と今年の映画話。柳下は映画秘宝ベストテンの途中経過に怒っている。なんか全国公開の映画が上位を占めているのが気に入らないらしい。『メリーに首ったけ』とか『ウェディング・シンガー』が上に来るのは素直でよろしいと思うんだが。

『ファイト・クラブ』の先行オールナイトを見に日比谷へ。場内は満席だったんで、通路にすわって見ることに。今日のオールナイトは予告編がないのをうっかり忘れていたため、冒頭15分を見逃す。おかげでたいへんびっくりしました。『シックス・センス』の冒頭10分を見逃すよりはまだましか。話は『マトリックス』と同じ。『未来世紀ブラジル』とも同じです。ネタを割ったあと、余計なカットバックがインサートされるのは『シックス・センス』と同じ。まあしかし、ブラピ様さえ出せばなにをやってもいいということを実証した映画として貴重。

 終電で帰宅、添野知生が、「『のど自慢』より面白い」と断言した続編、井筒和幸『ビッグ・ショー! ハワイに唄えば』をそんなわけないよなと思いながら半信半疑で見る。そんなわけなかった。貴重な2時間を返せ>添野。もしかしてきみは都はるみファンか?

 青山真治『EM エンバーミング』は、雨宮早希原作(幻冬舎文庫)。部分的にはいいところもあるんですが、全体的に中途半端。




【12月5日(日)】


 きうちかずひろ『共犯者』は、小泉今日子を起用した意味がゼロ。いや、ゼロじゃなくて、ワンシーンだけいいセリフがありました。竹中直人がカルロスと呼ばれるブラジル帰りの一匹狼ヤクザで、昔の親友が命を賭けて組からパクったカネ(その後、組の下っ端に奪い返される)をよこせと組に要求。電話で交渉した結果、組長が、「おまえに暴れられるのはかなわんから素直にカネを出そう」と譲歩する(当然ウソ)。
 電話のこちら側では、竹中直人が仲間と相談、「どうせ罠に決まってる」とか議論してるところに小泉今日子が一言。
「あの……銀行振り込みにしてもらえばいいんじゃないですか」
 そのとおりだ、コイズミ。しかし頭の足りないカルロスは、「どうせ戦って奪わにゃいけんカネじゃけん」とか言ってカタストロフに突っ走るのである。惜しい。
 組が雇う殺し屋は内田裕也と大沢樹生。銃器をたくさん見たい人にはいい映画かもしれない。

 同じ竹中直人主演なら、和田勉『完全なる飼育』のほうがはるかに説得力がある。小島聖も悪くないし、巨乳を観察する楽しみもある。拉致監禁以外のエピソードはどうなってるんだろうと思ったら「めぞん一刻」なんでした。そっちの細かいネタはけっこう面白いんだけど、どうせそれが本線じゃないとわかってるからなあ。




【12月6日(月)】


 映画ばかり見ていると年末進行に対応できない。すでに締切を過ぎた《本の雑誌》のために猛然と読書。
『エンディミオンの覚醒』は、かなり苦しい。消化すべき課題が多すぎて、処理が事務的になってる感じ。そのかわり枝葉のエピソードにはおそろしく気合いが入ってるんだけど(とくに第二部)、それはべつの長編にしてくれたほうがよかったのでは。
 解決にしても、「愛は宇宙の第五の力である」ってことで突っ走ればよかったのに、途中でテイヤール・ド・シャルダン否定しちゃいますからね。このへんがよくわからない。
 だいたいこのシリーズって、解決が出るたびに、次の巻で、「こないだの説明はウソぴょん」とどんでん返しをしながら進めていくから、最後に、「これがほんとのほんと」って言われてもいまいち信用できない気が。しかも最終説明があんまり美しくない。

 とはいえ、キャサリン・アサロの『飛翔せよなんとかかんとか』にくらべればはるかに格上だし、イーガンがなければ前作と合わせて今年のベストワンになってもおかしくないのだが。
 そのアサロですが、一巻目を読むかぎりではへたくそなビジョルド。読みどころは疑似科学的な説明と宇宙戦闘シーンだけでは。だいたいスコーリア王女のソースコニーって48歳だぜ。オナー・ハリントンより年上では。
 しかも48歳らしさは全然出てなくて(出そうという努力はちょっとある。若いツバメを誘惑するとか)、本線の「ロミオとジュリエット」では少女のような反応。さすがに年の功で、勘違いのあげく両方死んじゃうということはありませんが、シリーズ物だから当然か。
 山岸真と冬樹蛉の絶賛は謎と言うしかない。だいたい敵側の設定ってまるでボスコーン貴族じゃん。レンズマンのおばちゃんがボスコーンの御曹司に惚れる話。それがアメリカ版《星界の紋章》とは。あ、ソースコニーの両親はよく書けてます。どうせならドメスティックコメディにすればよかったのに。




【12月7日(火)】


 ひきつづき、角川ホラー文庫新刊の一気読み。中井拓志の第二長編『quarter mo@n』は、SFでもスーパーナチュラルでもないけど、空気はちょっと幻想的。さしずめ『球形の季節』のオンライン版ですか。しかしネットワーク描写には難あり。光オンラインって……。クローズドなシステムになってる理由もよくわかんないしなあ。でも小説はけっこう面白い。「ケイゾク」ファンにはとくにおすすめ。違うか。
 若竹七海『遺品』は意外な傑作でした。今年の本格ホラーのベスト5に入るでしょう。東さんはゆめゆめ見逃さないように。
 瀬川ことび『お葬式』は、書き下ろし部分も悪くない。とくに最後のやつは往年の吾妻ひでおみたいでマル。

 オースン・スコット・カード『赤い予言者』(小西敦子訳/角川文庫八三八円)は、『奇跡の少年』につづく《アルヴィン・メイカー》シリーズ第二弾。ショーニー族の族長テクムシがタクマソーになってるのはなにか意味があるんでしょうか>翻訳。この時代のアメリカ大陸がどういう状況にあるのか、現実の歴史とどんな相違があるのか、「わかってない」度に磨きがかかってる感じですね。せめて訳者あとがきだけでもなんとかしたほうがいいと思うがどうか。

 レイ・ブラッドベリ『瞬きよりも速く』(伊藤典夫・村上博基・風間賢二訳/早川書房二四〇〇円)は、ダメな話も当然ありますが、想像以上に楽しめた。思いつきだけで突っ走れるのも巨匠の特権か。初出一覧がないとか、早川の本とは思えないけど。

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