【1月15日(月)】

 8時に起きて荷づくりして、10時新宿駅。某パティオで話題の駅弁「元気甲斐」を買ってスーパーあずさにすべりこみ。貫井青年と合流してやれやれとひと息。八王子からはC塚嬢@小説すばると二階堂黎人氏が乗ってきて、PANjA関連の話題で盛り上がる(笑) その他のオカズは冬コミで仕入れた京極本と、逆密室総登場(?)の『ミステリー絶対名作201』(新書館)。遅塚さんは『鉄鼠』を読んで徹夜したとか。それでもまだ100ページ残っているという(笑)
 やはりちゃんと読み切ってこなかったのが悪かったのか、その後、C嬢財布紛失事件、ゲレンデ迷子事件など、怪事件に見舞われることになる。が、その詳細については本人が執筆した『大禿の雪』(仮題)をそのうちどこかに引用しよう(笑)
 白馬に着いてみるとなんか異様にあったかい。途中から雨まで降り出してすっかりダメそうなムード。これも大禿の呪いなのかっ。
 とりあえず一服ってことで入った駅前の喫茶店の壁には岡部冬彦先生の色紙。こ、こんなところにまで水玉螢之丞の魔手がっ。って違うか。とりあえずQV-10で撮影するも、現在カメラ行方不明中のためお見せできませんm(..)m
 愛川さんに迎えに来てもらってクヌルプに到着したものの、天候は回復しそうになく、今日の滑走はパスでしめしめ。


【1月16日(火)】

 どうせ今日も雨だろうと思ってたいへーらくに寝ていると、外はすっかり寒くなっていた。笠井隊長以下、我孫子夫妻、二階堂、貫井の先発隊はすでに支度を整えている。最後に起きた大森は、さいとう、桐野、遅塚の爆睡女性人に混じって後発。さいとうは遅塚さんにまかせて、桐野さんと滑ってればいいやと思ったのが大まちがいで、桐野さんはめちゃくちゃうまい。ぐっちゃんぐっちゃんに荒れたコブ斜面をちらっと眺め、「あら、ひどいわねえ」と一言つぶやいた一瞬後にはしゅるしゅるしゅる。もうゲレンデの下でおれを待っているという。あーもー着いていくだけで死ぬかと思いました。
 
 夜中は、寝付かれないという我孫子夫人の千織さんに、我孫子家の秘密をいっぱい教えてもらってラッキー。しかしこれは約束なのでひ・み・つ。ちなみに我孫子家夫婦漫才は今回大ウケで、夫婦とはじめて同席した桐野さんなど、
「本当におもろい夫婦で、家に帰っても思い出し笑いしてました」
 とのちに書いているくらいである。しかし妻たちのあいだでは、「理屈っぽいのは京大の校風」とかゆわれているらしい(笑) でもおれは我孫子さんよりましだと思うな、絶対に。


【1月17日(水)】

 去年は途中で骨折していちばん上まで上がれなかったので、爆走部隊にくっついて死にそうになりながら八方尾根の頂上をめざす。全共闘世代の人は休むということを知らないので迷惑である。高度経済成長期に子供時代を送った人は遊びも命がけだからなあ。
 スキーはじめて3シーズンめという笠井さんなど、昨シーズンの滑走日数が74日、今シーズンはもう26日とか。それで「人数多いと、ひとりで滑るよりはずいぶん体が楽だね」とかゆってるんだから処置なしである。札幌生まれで、物心つく前から板を履き、大学はスキー部で一級を持っているという桐野さんにまでライバル意識を燃やしているのだろうか……と思ったら、さすがに打倒・桐野はあきらめて、男性作家一をめざすらしい。予定ではあと二シーズンで貫井くんに追いつくそうである。高千穂遙など問題にしないっ、と燃えているです。勝手に燃えろ。
 しかしわりと平気そうな顔で着いてきていた我孫子さんは、じつはひそかに思いきり疲れていたらしい。まあ、疲れが出にくい顔だとは云えるかもしれん。なんせ新本格界の木場修太郎だもん(笑)
 というわけで、宿にもどってさっそく温泉だ〜と浮かれる笠井さんを尻目に、「僕は寝てますから」と宣言。わたしは風呂に行くとなればすぐ体力が復活する現金なタイプなので、倉下の湯でのんびり。
 食事のあとは「今夜もあなたとミステリー」観賞会……のはずがSVHSのデッキがなくて見られなかったというのは我孫子武丸ごった日記にあるとおり。ちなみにごった日記は、最近どうも人生幸朗のぼやき漫才っぽいネタが多いと思ったら、当初は「責任者出てこいっ」というタイトルにする予定だったらしい(笑)
 しょうがないのでSS大会になり、これは我孫子武丸日記には一言も書かれていないことだが、クヌルプに来てはじめて「セガラリー・チャンピオンシップ」にさわった大森が、あっさり3コース完走に成功する。これだけならどうということはないが、所有者である我孫子武丸氏は、いまだに全コース完走していなかったのである。ふっふっふ、自称・日本一ゲームのうまいミステリ作家もこの程度か。というわけで、次回のGamewalkerのネタはもらったぜ。にやり。
 コンピュータ相手では強いはずのVFIIでも、我孫子武丸は、必殺技のコマンドさえ知らない大森にこてんこてんに蹂躙されるのだった。嗚呼。


【1月18日(木)】

 ふと目を覚ますと午前八時。二段ベッドから降りてきた千織さんが、
「ねえねえ、雪が降ってるよ。雪だよ」
 と泣きそうな声で夫を起こしている。
「それがどうしたんや」
 と邪慳に答える我孫子武丸。千織さんはせっかくの新雪だから滑りたいらしい。けっきょく、ひと晩寝て急に元気になった二階堂さんと千織さんが我孫子さんちの新車でゲレンデに向かい、桐野さんと貫井くんが後発。おれは宿に残って『鉄鼠の檻』の原稿を書く。遅塚さんとさいとうは、ゲレンデ近辺に買い物に行ったらしい。まったくなにを考えているのやら。
 おっと、忘れないうちに、悲惨な目に遭ったC嬢の手記を、ここに無断転載しておこう。ただし、一部『鉄鼠の檻』のネタばれになる部分があります。未読の方はご注意ください。ってあんまり関係ないか。ちなみに「大禿」というのは、「おおかぶろ」と読む妖怪。齢七百歳にして姿童女のごとしとか、そういうやつ。でもって遅塚さんは、一見二十代半ば、ぢつはという恐ろしい妖怪――じゃなくて有能な編集者なわけですね。では、ゆっくりお楽しみください。


 聞いた話である。
 山は雪景色で、空からはしとしとと雨さえ降っていた。雪の中をおして、スキーに行こう、という。この年になってそんな酔狂な、とも思ったが、あまり京極堂が勧めるものだから、行く気になった。

 行きの汽車の中で、財布を無くした。

 「君がぼうっとしているから悪いのだ。少しはしっかりしたらどうだ」
 たしかに、財布を出して茶を買った後の記憶がない。すっぽりと、抜け落ちている。これはどうしたことだろうか。
宿に着いた。
 さっそくスキーをしようという一行について、ゲレンデに出た。何本か滑り、さて皆のもとに戻ろうと思ってリフト乗り場まで降りてみると、誰もいない。そういえば、周りの景色が見慣れたものと違う。
「咲花ゲレンデでしたら、あそこの森の切れ目まで歩いて、そこからずっと右の方へ登っていったところです」
 リフト乗り場の女性が、こともなげに言う。いつの間にか、隣のゲレンデに出ていたのだ。
「あの、歩いて行くしかないのですか」
「そのようですね」
 スキーをはずして、徒歩で咲花ゲレンデに向かった。
 ――なぜ、スキー場で歩かなければならないのか、わからない。わからないながらも歩きつづけ、食堂に入った。
 皆はとっくに飯を食いおわり、私を待っていた。
「だって君、僕の後ろについてきていたじゃないか。見えていなかったのか?」
「猿は猿らしく、おとなしく飼い主の後をついてくればいいものを、勝手に動き回るからそういうことになるのだ!! わはははは」
 
 それだけでは終わらなかった。

 林間を走る迂回路を滑っているはずが、いつのまにか上級者向けの急斜面に出ていたのである。とにかく降りるしか、戻る道はない。万事休す。
 コブだらけの急斜面を、そろそろと滑り降りた。とたんに足をとられ、転倒する。うつ伏せで斜面にしがみついたまま、ずるずると5メートルも滑り落ちただろうか。助けが来ないものかと上を見上げたが、人っ子一人いない。
 ――これは、檻だ、
 抜けられない。誰かが、
 ――結界を、はっている。
 
「…………君。だ……ぶか。……」
 気がついたら、林間コースに出ていた。なんとか、急斜面を降りられたらしい。もっとも、半分以上転がり落ちていたのだろうが。
「まったく君は、何を考えているのだ。ちゃんと『急斜面注意』と書いてあっただろうが! これも見えなかったとでも言うのか」
 ――見えなかった。……
「見えるはずのものが見えていなかったとでも言うのか。馬鹿な!」
「……大禿だ」
 京極堂の目が光った。
「大禿が落ちていない。だいたい、年齢不詳などと言われて浮かれているからそんなことになるのだ。少しは反省したまえ!」
 ――大禿。そんなものが憑いていたのか。道理で。
 しみじみと、思った。
――これからは、年相応の恰好を、しよう。



【1月19日(金)】

 週刊現代の書評をなおも呻吟しつつ仕上げてから、病院に寄って喘息のクスリをGETしたのち東西線→武蔵野線→京葉線で海浜幕張。今日のメッセはオラクルオープンワールド。昼間のショウのあと、夜からはじまるオラクル冠の小室哲哉ライブ取材が主目的なんだけど、まあついでに話題のオラクルパワーブラウザを見物するか、と。思ったけどどこがすごいのかよくわかんない。だいたいオラクルなんて関係ないしなあ。でもなんだかX55のサーバはオラクルが動いているらしい。
 ライブのほうは、「吸血鬼ハンターD」のキーボードソロが収穫。いやあかっこよかったっす。しかし招待券もらって来てる客たちが超行儀悪い。前に座ったオラクルの若手社員らしき一行は1時間も経つと「××さんはどうしたの?」「まだ仕事おわんないのかねえ」などと雑談の嵐。まったくなあ。


【1月20日(土)】

 3時半、歌舞伎町のルノワールでRAY会。高橋良平氏は年明けからずっと寝たきり生活だったそうで、予想通り新書館は一本もやっていないらしい。山岸真はえんえんと担当本を再読している模様。内田昌之は今日はひとりだったのでつまんない。『フラックス』の出だしって『天の筏』そっくりじゃんとゆったら、だいたいそんなようなもんだというお答え。やはり『時間的無限大』を期待してはいけないらしい。まあそうだろうな。
 小野田和子さんは着々とGreen Marsを進めている模様。いまやSF翻訳の中核は小野田和子かもしれない。
 終わりごろにやってきた白石朗といっしょに紀伊国屋。今日はNIFTY-Serveの某ぱちおのオフなんだけど、わたしは小説トリッパーのミステリ特集打ち上げなので出られないのだった。そこでとりあえず関口苑生の顔だけ見て挨拶し、「年賀状見せて」とゆったら、「じゃあちょっとだけね」と鞄からとりだして、切手シートが当たったという某N木K次氏のラブリーな賀状を見せてくれました。ピンクの蛍光ペンで「殺」と大書した下に、「蛆虫には死を!」と書いてある立派なもの。年頭からこれだもんなあ。この心がけを見習いたいものである。なむあみだぶつ。と拝みながらあとずさりで紀伊国屋を出て飯田橋。
 もうひとりの当事者(笑)茶木則雄氏の所在を確認しておくべく深夜プラス1に寄って見ると、「今日はもう帰宅しました」の返事。逃げたかっ、茶木(笑)
 しょうがないのでタクシーに乗って(笑)エドモント。地下の中華料理屋の個室が打ち上げ会場。参加者は、黒須、長田の朝日新聞編集者コンビに、二階堂黎人、篠田真由美、北村薫、山口雅也、麻耶雄嵩、森英俊の各氏。いいだしっぺの笠井さんは、創元で毎月やってるミステリー勉強会の流れ組(創元の戸川さん、笠井・巽・法月の鮎川賞評論部門選考委員&歴代受賞者がメンバー)といっしょに一階のティールームでお茶を飲んでいるという(笑)
 前菜をかたづけたあとで覗きにいくと、飢えに耐えかねた法月さんはピザを食べていた(笑) そのうち選考委員三人が中華テーブルに合流、「今夜もあなたとミステリー」あんどPANjAあんど野性時代笠井論文あんど創元推理夏木論文その他の話題で盛り上がる。しかし海外本格系の濃い話題にはついてゆけないSF者のおれ(笑)
 麻耶くんとは一年ぶりくらい。講談社ノベルズのつづきを三分の一くらい書いてるそうです。なんか、写真はべつにNGじゃないし、次の本には著者近影をつけるということなので、最初のグラビア&インタビューはぜひJUNEで、と売り込む弟思いのおれ(笑)なんかちょっと本人は怯えてたけど(笑)
 中華のあとはカーニバル2に流れ、笠井さんが引き上げるまでボックスにこもって歓談(笑) やがて携帯で連絡をとりあった甲斐あって、綾辻、遅塚も合流。しかし綾辻さんはげっそりやつれて死にそうな顔。なんか歌いすぎて声帯がぶよぶよになって、医者にカラオケを止められているらしい。……というような誤解を招く書き方だけはやめてくれといわれたけど事実だからしょうがないよね。
 今夜はなんか摩耶くんが全開で、アニソンから演歌まで、綾辻氏の分まで歌いまくり。しかし最近10年間の曲がないのはなぜ(笑) いちばん若いくせに細川たかしとか天知茂るとかなぜ歌う。けっきょく最後まで残った大森、麻耶、法月、巽、さいとう(終電合流)の5人で白百合に流れ、ボックスシートで高鼾をかいているおっさんたちの中、二時間ばかりうだうだしゃべって帰る。