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●豊崎由美/大森望『文学賞メッタ斬り!』、増刷出来!(→amazon | bk1 | ABC)。ISBN:4-89194-682-2
●エキサイト・ブックスinterview 今月の人:大森望・豊崎由美「芥川賞・直木賞メッタ斬り!」
『メッタ斬り!』公式サイト | 「メッタ斬り!フォーラム」 | 書評Wiki | blogmap | はてな
●コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』、4月16日刊行予定(→amazon | bk1)。ISBN:4-15-208553-3
●シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon


【4月1日(木)】


『文学賞メッタ斬り!』トークショー@青山ブックセンター本店カルチャーサロン。
 六時ごろに行って、平積みにされている本を見学する。おお、こんなに積んでだいじょうぶなのかっ。豊崎・大森推薦本を集めた『メッタ斬り!』フェアのコーナーもできてました。戸梶圭太『the Twelve Forces』や池上永一『レキオス』が平積みになってる書店は、日本全国でもここだけでしょう。

 豊崎さんもやってきたので、控え室でざっと打ち合わせ。出番を待つあいだぼんやりテレビを見てたら、7時のNHKニュースがはじまり、なんと「ジーコ解任」の速報が!
 いやあ、びっくりしました。トークショーどころじゃありませんね。
 ――という話を枕にすることだけ事前に決めたんですが(せっかく4月1日だし)、一瞬信じた人はわりと多かった模様。

 それにしても満員のお客さんで、わざわざありがとうございました。有料入場者だけでも80人ぐらいで、関係者・招待者合わせると120人近かったのでは。
 対談でしゃべった芥川賞・直木賞ネタに関しては、エキサイト・ブックスのインタビューともけっこうかぶってるので、当日来られなかった人はそちらをどうぞ。
 一時間しか寝てなかったんで、トークショーでは途中、舌がまわらなくなったりしゃべることを忘れたりしてたいへんでしたが、その分トヨザキ社長ががんがん飛ばしてくれたので助かりました。
 トークの模様は録音されてて、アライさんが「引き合いがあればいつでも原稿つくりますよー」と言ってるので、トヨザキ毒舌炸裂のメッタ斬りトーク再録に興味がある媒体の人は適当に公式サイトの問い合わせ先に連絡してください。

 ちなみにうちの息子は終わりごろやってきて、母親と一緒に入口近くで見物してたんですが、なんかうるさくしてるなあと思ったら、「おもしろ〜い」と叫んでいたらしい(笑)。局所的に笑い声が上がっていたのはそういうことだったのか。翌日のトヨザキさんからのメールによれば、
ゲームクリエイターの麻野さんが、トークショー会場で「おもしろ〜い」と叫んだトキオ社長を見て、「なんだ、おい、息子がサクラか」と笑って、「オレんとこも15歳くらいになったらゲーム屋の店先で『このゲームおもろー』言わせたろ」と言ってましたよ。
だって。

 トーク終了後はサイン会。為書きでお客さんの名前を間違えずに書くという難事に挑み、その緊張でめちゃめちゃ疲れました。しゃべるよりたいへん。30分間、ひたすら自分の名前を書くっていうのもなあ。トヨザキさんと二人なんでまだよかったが、ひとりでこれを1時間とか続けられる人はつくづくえらいと思った。

 見物に来ていた柳下毅一郎からは、国書刊行会《未来の文学》のフライヤーをいただく。このパンフでは「2004年夏刊行予定」になってるんですが、サイトによると、「第1回配本:ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』は6月刊行予定です。なお、『ベスト・オブ・ディッシュ』は『アジアの岸辺――トマス・M・ディッシュ短篇集』にタイトル変更いたしました。」とのこと。
 ディッシュの既訳は「リスの檻」「降りる」「リンダとダニエルとスパイク」あたりが入るらしい。意外と順当なセレクションですね。

 ところで、オレが商業誌で初めて翻訳した作品は、じつはディッシュのショートショート、The Invasion of the Giant Stupid Dinosaurs。1981年の春に出た《別冊奇想天外 びっくりユーモアSF大全集》に「まぬけな大恐龍の侵略」っていうタイトルで掲載されたんですが、編集部の手違いで「宮城博訳」に。これは安田均氏が翻訳を手配してて、当初は宮城さんが訳すはずだったんだけど、時間がないとかなんとかでオレのところに回ってきたんだっけか。原稿用紙に訳者名を書く知恵もない学生の頃の翻訳で、それを安田さんが編集部に渡して訳者がかわったことを伝えたはずだったのに……みたいな経緯だと思いました。円盤から降りてくるrampをなんと訳すかですごく悩んだ記憶が。
 たしか「リンダとダニエルとスパイク」は京大SF研の《中間子》でも1983年ぐらいに訳されてんじゃなかったっけ。なにもかもみな懐しい。

 終わったあとはぐったりしながら二次会場。貸切になったと聞いたとたん、あちこちに適当に声をかけたので、なんだかんだで50人近く集まった模様。

 米光一成氏@こどものもうそうとは初対面。『メッタ斬り!』公式サイトでは、かっちょいいフラッシュをつくってくれてます。『ぷよぷよ』や『魔導物語』を世に出したゲームのえらい人に宣伝フラッシュをつくっていただけるとは……。
 その米光氏、「どこかにあったと思って発掘してきたんですよ」と、『パワーアップ英語表現』を持参。うちでもどこにあるかわからない本なのに! 7年ぶりに見てちょっと感動(笑)。
 考えてみると、「予想もしないモノが単行本化される」というパターンは今回と同じかも。『パワーアップ英語表現』のときは、《アルク》の連載コラムがそのままゲラになり、それをざっと眺めたぐらいでほとんどなにもしてないんだけど。

 同じくゲーム業界のえらいひと麻野一哉氏とも初対面だったんですが、すばらしく飛ばしてました。幼児体験を熱く語る口ぶりが爆笑。
 ところで米光・麻野両氏と飯田和敏氏による『ベストセラー本ゲーム化会議』は、あれだけ話題を集めた傑作なのに、文庫化の引き合いがないんだそうで、心ある版元はぜひ検討してください。いまなら早い者勝ち。違うか。

 ちなみにこの日のレポートリンクは、書評wikiのここ参照。「転がりながら生きていく」の、「えーとトヨザキさんは闘莉王である、と。私はどっちかというとマリノスの松田だと思いますが」に笑いました。しかし「SFな感じの人」って……。

 三次会は近所の焼酎バー。わりとミステリ組中心。義理堅くつきあってくださったみなさん、ありがとうございました。
 午前3時ごろお開きになり、堺三保とタクシー帰宅。



【4月2日(金)】


 西葛西で謎めいた単行本企画の打ち合わせ。うーん、うまく行けばおもしろい本になるような気もするが、はたして売れるのか。

『メッタ斬り!』効果なのかなんなのか、ここんとこ連続して、予想外の版元から予想外の書き下ろし企画が持ち込まれてて、ありがたいお話ではあるんだけど、仕事量的には雑誌原稿と翻訳でかなりいっぱいいっぱい。

 というか、新しい仕事をする以前に、書き散らかしてる原稿をまとめたい気も。『SF時評20年分』(笑)とか、『SF翻訳講座』とか、水玉さんとやってた『辺境の電脳たち』とか。
 いままで単行本の話があったときも、めんどさくてほったらかしてるうちに立ち消えになるパターンが続いてたので、心を入れ替えてなんとかしたい。
 と思うなら企画書つくれよ。とかいってるうちにずるずる時間がたっちゃうんだよな。翻訳の企画はすばやく立てられるのに何故。

 19:30、《本の雑誌》編集部@笹塚。だらだらと座談会仕事。本誌の原稿はいつになりますかとM村嬢にきびしく詰問されるが、まだなにも読んでない。うーん。

 いつの間にか、週刊文春3月25日号がオンライン化されているのを発見。大森の『日本の衛星はなぜ落ちるのか』書評もここで全文が読めます。雑誌発売の一週間後でいいから、毎号これやってほしいなあ。有料でも可。月額500円ぐらいでひとつ。

 有料といえば、東浩紀のメールマガジン「波状言論」もバックナンバーが1号あたり250円で販売開始。こっちは@niftyを使ってるのですぐ買えて便利。
 巻頭の東浩紀「crypto-survival noteZ」では、ダルコ・スーヴィンやボードリヤールを引きつつ一種のライトノベル論が展開されてるんだけど、
「キャラクター小説」でも「ライトノベル」でも「ヤングアダルト」でも呼び名は何でもよいが、ここでの問題は、僕たちが、なぜ、荒唐無稽なキャラクターが荒唐無稽な事件に出会って荒唐無稽な活躍をする物語に一定の「リアル」さを感じてしまうのか、ということだ。
みたいに書かれると、具体的になんのことを指しているのかがいまいちよくわからない。ライトノベルが従来のジュブナイルSFや児童ファンタジーと明らかに違っていることには同意するにしても、どう違うかをはっきりさせないとトートロジーになっちゃうんじゃないですか。

 個人的には、作品が作品の中だけで完結するのが児童文学、過去の(それと似たような)小説を参照するのがジュブナイル(年少読者向けジャンル小説)、他メディアを参照するのがライトノベル――っていうふうになんとなく区別してるんだけど。
 つまり、先行作品の存在を前提にしてるのがジャンル小説なら、ゲームとかアニメとかマンガとか、小説以外のもの(とりわけ絵または声で表現されるもの)の存在を前提にしているのがライトノベルだと。ていうか、物語構造からライトノベルの共通項を抽出しようとするのはほぼ不可能でしょ。

 べつのところでは、『佐藤心が「現代ファンタジー」と呼ぶような作品、「まんが・アニメ的リアリズム」に支えられた新しい小説』と書いてて、それだと対象はライトノベルよりもっと限定的みたいですが、それはセカイ系のことですか? 《新現実》が出てこないので佐藤心の原稿は読んでないんだけど、モダン・ファンタジー(ファンタシー)っていう用語がすでに存在するのに「現代ファンタジー」って呼称をそういう特殊な意味で採用するのはわりと抵抗があったり。
 まあ、電撃文庫の帯とかカバー袖の紹介を見ても、「SF」と「ファンタジー」と「SFファンタジー」の使い分けはものすごく恣意的で、ほとんど区別されてないみたいですが。

 ところで、ライトノベルの第一号は、高千穂遥《クラッシャー・ジョウ》の第一作『連帯惑星ピザンの危機』である――という通説はオレもまちがってないと思うけど、いま読むと書き方は全然ライトノベル的じゃなくて、むしろその後の展開から遡ってライトノベルになったっていう印象。そりゃまあ最初から安彦良和カバーだったけど、あれってどっちかと言えば、斎藤和明の《スターウルフ》とか(ハヤカワ文庫SF)の感じでしょ。文体的にはむしろ同時期に出た新井素子の影響のほうが大きいかも。新井素子はたしかジュブナイルSFをテーマにした星群祭に呼ばれたとき、「わたしはジュブナイルを書いてるつもりは全然なかったのでわかりません」みたいなことをしきりに言ってたけど、その意味では、「同世代に向けて書く」という大森のライトノベル定義を満たしてたわけですね。ただし、アニメやマンガは参照してない。そう考えると、高千穂遥+新井素子でライトノベルが誕生したのか。



【4月3日(土)】


 西上心太仕切りの花見屋形船に初参加。総勢45人ぐらい? そのうちミステリ業界関係者が20人弱。トキオ社長は吉田伸子ジュニア(春から小学生)とふたりで、『ドラえもん』OPとか『特捜戦隊デカレンジャー』OPとか歌ってご満悦。座敷の外に出て船の舳先から身を乗り出すので母親はひやひやしていたらしい。
 屋形船の食事なんて……と思ってたけど、揚げたてのてんぷらが次から次へと運ばれてきて、意外と美味。とくに海老とメゴチがなかなか。
 2週間も前に花見をしたというのに、隅田川ベリの桜はまだ満開に近く、おかげさまで堪能しました。

 終了後は馬場に出てSF組と合流。SF大会でクイズ・ヘキサゴンをやるらしい。



【4月4日(日)】


 竹書房文庫から4月中旬刊行予定の『ホーンテッド・マンション』ノベライズ訳者校正。正味260枚ぐらいしかないので、ゲラを見るのも半日で終了。『犬』と比べるとウソみたいだなあ。「最後のウィネベーゴ」の校正より早かったかも。

 そういえば、書くのをすっかり忘れてたけど、この校正に備えて、3月23日に浦安ディズニーランドへ行って、ホーンテッド・マンションの実物を見てきたんでした(3回目ぐらい)。タダ券があったんで、なんとか春休み前に消化しようと滑り込んだんだけど、寒くて死にそうな天候だったのにそれでもTDLは大混雑。20周年おそるべし。もう暗いから帰ろうというのにまだ遊ぶと言い張って遊びつづけたトキオは翌日から熱を出し、保育園を三日休んだことである。



【4月5日(月)】


 《本の雑誌》用の読書。今月はライトノベル特集――なんだけど、そう決めたとたん、読むべき本が数十冊単位であることに気づいて気が重くなる。とてもぜんぶは読めません。電撃小説大賞のは金賞も銀賞もわりとよかった。『先輩と僕』はかなり惜しいところで傑作になり損ねてるけど、ラストの結論はすばらしい。フェミニズムSF?

『流血女神伝』外伝の『女神の花嫁』三巻を書泉西葛西でまとめて買って一気読み。すごい話になりそうなのにそっちへ行かないのはシリーズの制約か。これ以上、密度を上げるとコバルトじゃなくなっちゃうしなあ。と言いつつ、『砂の覇王』は途中までしか読んでないのだった。いっぺんに読まないと忘れちゃうんですよ。



【4月6日(火)】


 めざましテレビの本のコーナーに『文学賞メッタ斬り!』が登場。綿矢りさ・金原ひとみの映像からつなぎ、「必殺」のテーマに載せて本文のページをぱっぱっぱっと紹介してゆく完璧な構成。1分間ぐらいのVTRなんですが、たいへんよくできてて感心しました。
 《週刊朝日》では斎藤美奈子さんが1頁コラムで紹介してくれてます。amazonによれば『文学的商品学』と併読率が高いみたいだし、斎藤美奈子ファンが買ってくれると大吉。ちょうど2刷が店頭に並びはじめたところでタイミング的にもばっちり。ちなみに『メッタ斬り!』の脚注では、たしか『輝く日の宮』がらみで斎藤美奈子に言及してます。

 と言いつつ、ぼちぼち『犬は勘定に入れません』も発売なので、ひさびさにコニー・ウィリス日本語サイトの全面改築。『航路』関連ページを独立させて、『犬』中心に模様替え。
 『犬』の初版部数は、『ドゥームズデイ・ブック』四六判のときより若干増えたんだけど、『航路』上下各巻初版部数の半分(泣)。考えてみると『不思議のひと触れ』も『文学賞メッタ斬り!』も『犬』と同じ初版部数なので、そのぐらいが大森関連本の適正初版部数なのかも。まあ、2,940円(税込)だしねえ。とはいえ初版止まりだと労力的にまったくペイしないのでがんがん増刷してゆきたい。ここしばらく貧乏なのでたぶん訳者献本もできませんが、お値段分以上の値うちはあると思うので何卒よろしく。

 なお、bk1では「コニー・ウィリス特集」を開催中です。復刊した『リメイク』は、在庫がなくなったらまた目録から消えちゃうと思うのでいまのうちにどうぞ。今回の復刊の消化率が高ければ『わが愛しき娘たちよ』も復刊の道がひらけるかも。





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