【3月1日(水)】


 午前8時、電話でたたき起こされる。「米田淳一様からご依頼のお荷物が午前10時までのお届けとなってるんですが……」って、要するに住所がまちがってたらしい。しかも中身の新刊『リサイクルビン』は、昨日のうちに講談社から書評用で届いてたり。

 しょうがないのでのそのそ起き出して、光文社文庫の宮部みゆき『鳩笛草』解説に着手。あとはぼちぼち《本の雑誌》用の未読消化。

 大石英司『ゼウス』は、ガメラの出てこないレギオン襲来。バイオネタに激しくリアリティがないが、自衛隊およびそれに準じる人々の活躍場面はさすがによく出来てて楽しめる。柴田よしき『炎都』系列の特撮系怪獣小説なんですが、田舎町とか都市ひとつとかの話で終わらないのはマル。素人が必死に化物と戦い、あっけなく化物が負けちゃう話はもう飽きた気が。玄人が戦う話が好きってわけでもないんだけどさ。怪獣+自衛隊の組み合わせは本能的に燃えるのかも。
 北上秋彦『闇の殺戮者』も一種の怪獣小説(?)だけど、これは全然ダメでした。いまさらホラー系でこういうスリーコードノベルを出されても……。

 SFバカ本の最新刊『リモコン変化』は、なんかパロディ/駄洒落系と、50年代風アイデアストーリーばかりが並んでる感じ。波多野鷹のギャグセンスは謎としか言いようがない。全体的に、オレの理想とするバカSFからはどんどん遠ざかっているような気が。




【3月2日(木)】


 因縁の(笑)米田淳一『リサイクルビン』を読了。わはははは。紹介が不可能な小説。一応はケイゾク系の警察ミステリなんだけど、まあこの展開は茫然としますわな。それはそれとして、謎解き部分はけっこう感心しました。へんなミステリが読みたい人はぜひ。それ以上はとても書けない。あ、小説的には前作よりはるかに読みやすくなってます。

 柴田よしき『星の海を君と泳ごう 時の鐘を君と鳴らそう』(アスペクト)は、SFオンライン連載と同じ小説とは思えないほど渋い造り。内容的には、(大森定義の)ヤングアダルトじゃなくて(大森定義の)ジュブナイル。ノスタルジーが基本線になるのは当然で、わたしは『11人いる!』とか『わたしを月へ連れてって』とかを思い出しました。しかし大学とかTV局とか選挙とか企業とかの設定は、いくらなんでも現代を引きずりすぎでは。まあ昔のSFだからこれでいいのか。
 うしろ半分は書き下ろしの「時の鐘を君と鳴らそう」。さらに柴田よしき・西澤保彦・坂口哲也の鼎談つき。柴田×西澤でかなり濃いSFおたく話が炸裂してて笑えます。




【3月3日(金)】


 17:30、東京會舘ティールームでアスキーのK原氏と打ち合わせ。4月から社名が変わってエンターブレインになるので、アスペクトノベルスもAノベルスになるらしい。
 18:00からは徳間文芸三賞の授賞式。要するに大藪春彦賞と日本SF大賞と日本SF新人賞。受賞作は順に、福井晴敏『亡国のイージス』、新井素子『チグリスとユーフラテス』、三雲岳斗『M.G.H.』。
 SF新人賞受賞の三雲岳斗氏は1970年生まれですが、佳作の青木和氏は61年、杉本蓮氏は62年生まれ。やっぱりこのへんに中心が来るわけですか。『M.G.H.』はどっちかというとSF新本格ミステリ。不可能状況の殺人事件@宇宙ステーションという趣向で、森博嗣と野尻抱介が合作したような……って違うか。『コールド・ゲヘナ』とは全然違いますね。日本SF新人賞の第一回受賞作にはもっと濃いものが来そうな気がしてたんだけど、いろいろ考えてみると、いまのSFとしてはむしろ正解かもしれない。

 をを、富野監督が来てるのはなぜ。と思ったら(ガンダムファンの福井晴敏が角川春樹事務所で『∀』のノベライズを書くことになってて、その関係らしい)、庵野監督も来てました。大賞受賞者だし当然か。
 ひさしぶりなので庵野さんの近況を取材。ジブリで今度撮る実写映画(某スポーツ紙で抜かれてたやつ)のロケハン帰りで羽田からまっすぐ来たんだとか。それの脚本を書いたときの話で、
庵野「現代物なんで、今年の話にしようと思って、脚本の一行めに書いたんですよ。『2000年×月×日』って。そしたら、うわ、SFだ、と(笑)。2からはじまる年ってSFですよね。この数字の並びが。昔のSFって、みんな2からはじまる年だったじゃないですか。2001年とか2010年とか」
大森「頭が3になると終わり(笑)。3000年は終局の旅だし」
庵野「やっぱりこれからはSFでしょう」
 などなど。あとは∀のシャイニング・フィンガーに関する意見交換とか(笑)。次々回作の話はまだ書いちゃダメなんだろうな、たぶん。

 春樹事務所のM松氏から社長の人を紹介される。名刺にはアレクサンダー戦記のシールが貼ってあってポイント高い。しかし「角川春樹事務所 角川春樹」では、個人事務所で仕事してるライターみたいだとちょっと思った。春樹社長はたいへん元気でした。やっぱりこれからはSFだよ、と。じっさい、文庫の年間刊行点数と合計部数では、角川春樹事務所が日本最大のSF出版社かもしれない。年に30冊以上SF出してる会社ですから。

「『宇宙生物ゾーン』はどうでしたか?」と井上雅彦氏から質問を受けたので、
「すいません、まだ田中啓文のやつしか読んでなくて……」と答えたら、井上さんはとても哀しそうな目をして、
「そうですか……。あれを最初に読まれたんですか……」とつぶやくように言って去っていきました。いやまあ、気持ちはわかりますね。わからない人も読めばわかる。つくづく田中啓文も罪な男である。でも『リモコン変化』に載ってるやつよりはまだましだよな。ネタはもう少し練ったほうがいいのでは。

 パーティ終了後、角川ホラー大賞組に混じってティールームでお茶。岩井さんの下ネタも、瀬名秀明がとなりにすわってると不調らしい(笑)。しかし横にいる担当者に向かって、
「瀬名さんと合作で、幻冬舎と新潮社のホラーサスペンス大賞に応募することにしたけん。賞金一千万はこれでもらった!」と放言(笑)。
「たった60枚で500万円もらってまだ足りないんですか」とためいきをつく角川書店K氏。こういう作家を担当する編集者もたいへんである。
 あとはシマシマ姉妹(島村洋子と岩井志麻子のユニット名)のペアヘアヌードを週刊大衆に売り込む作戦とか。飯野文彦にとって、島村洋子の乳と岩井志麻子の乳はどっちがより揉みがいがあるかとか。瀬名さんがいるので話題は主に上半身なんでした。

 角川組と別れてSF組の一部がたまってるマイアミを覗くも、席がいっぱいだったのですばやく退散し、とりあえず大藪賞の二次会場へ。先に行ってたはずのホラー大賞コンビは道に迷ってたらしく、大森より遅れて到着。オレの道の教えかたが悪かったらしい。失礼しました。こちらのパーティは冒険系のお歴々が集合。富野監督の挨拶もあり。瀬名さんに紹介したら、
「あんなに長いの書かないでください。『BRAIN VALLEY』はほんと、読むのたいへんだったんですから」とか。あいかわらず小説はマメに読んでる模様。あ、∀シャイニングフィンガーの話を聞こうと思ってたのにすっかり忘れてたなり。これが富野&瀬名ツーショット写真
 馳星周はついにスカパーに加入、すっかりサッカー漬けの模様。瀬名さんは、福井晴敏が自分よりひとつ年下と知って感動してました。

 大藪賞二次会がお開きになったところで、SF大賞/新人賞の二次会場へ。森奈津子と岡本賢一が爆裂。その場にいるすべての人間に対して、「あなたは××××(←女性作家の実名が入る)で勃ちますか?」と質問しつづける森奈津子。べつの席にすわってた瀬名秀明をわざわざひっぱってきて同じ質問をつきつけたそうなので、岩井志麻子より大物かもしれない。アンケートの結果、田中啓文が変態だと判明した模様。そんなん最初からわかってるやん。ま、世の中のアンケートの9割は自明のことを確認する役にしか立たないのである。
 岡本賢一のほうは、なんか激しく芸風が変わってたような。それともカミングアウトしただけ? まあ頼みもしないのに肩を揉んでくれたのでいい人である。わたしがいないあいだにとても人に言えないようなことをしたらしいが、その秘密は厳重に秘匿されていた模様。なにをしたんだろう。気になるー。
 二次会場には電撃デビュー組の作家多数。三雲岳斗はヤングアダルト系のSFとプロパー系SFの架け橋か。荻野目悠樹を交えてSFおたく話を少々。三雲さんはコードウェイナー・スミスとか、けっこう正統派の趣味。荻野目悠樹は……やっぱりヴァンスがとか言ってるようでは売れるのは困難かも(笑)。次はSFを出すらしいので刮目して待ちたい。




【3月4日(土)】


 寝てると朝っぱらから電話がかかってきて、なにかと思ったら「これからPS2をお届けに」。ちゃんと届くんだから立派なものである。
 ウェブ予約に関してはいろいろたいへんな騒ぎがあったらしいんだけど、オレは、「アクセス殺到でサーバが二時間ダウン」みたいな記事を朝日の朝刊で読み、どれどれと思ってplaystation.comに行ったらあっさり予約できちゃったので、なんにも苦労してないのだった。ちなみに大森の注文番号は577380。三村美衣は62万番台だかで、一週間後出荷組にまわされちゃったらしい。けけけ。どうせ買うなら発売初日に入手しないとね。

 夕方起きて、届いた箱を開ける。こんなに重いのか。足がついてないと知ってがっかり。そんなもん、別売にするなよ。試してみようと思ったがソフトがないので、とりあえずエヴァのDVDをかけてみる。こ、このブチブチはいるノイズはなに? 初期ロットだから? 配線の問題? CDかけてもノイズは出ないんですが、どういうことなんでしょう。

 と疑問を残したまま馬場に出てユタへ。『ダーウィンの使者』のプルーフコピー(二段組再校ゲラの書評用仮綴じ本)を配ったりとか。ちなみに完本はハードカバー一段組の上下本になる予定なんですが、このプルーフは重量半分以下(推定)で上々の出来。なんかノベルス版が先にできちゃった感じですが、まだたくさんあるみたいなので、書評等で先に読みたいひとはメールでリクエストしてください。
 内容はグレッグ・ベア版『継ぐのは誰か?』……と勝手に思ってるんだけど、テクノスリラーなスタイルを採用してるので、最近の情勢からすると「ミステリー」で通るかも。じっさい、瀬名さんに頂いた推薦文では、
「現代進化論に真っ向から挑んだ驚異の傑作。もう遺伝子スリラーはここから引き返せない」
 となってます。ネオダーウィニズムには敵対的ですが、まあネオダーウィニズムを採用すると小説にならないので。プルーフには著者あとがきと訳者あとがきがまだついてませんが、必要なかたは、これまたリクエストしていただければメールします。以上、営業活動でした。

 殊能将之公認ファンページが開設された模様。「インターネットで選ぶ日本ミステリー大賞 2000」2位ランクイン記念とか? ってまだ『美濃牛』の告知ぐらいしかありませんが。

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