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このページは被写界深度の求め方やその近似式、被写界深度目盛について のメモである。これらの計算式自体は様々な資料で見つけることができるが、 原理を理解するために式の導出を行ってみた。
また、撮影距離は同じだが フィルムサイズや使っているレンズの焦点距離が異なるとき、 同じ被写界深度を得るために必要な絞りの計算方法について考えた。 その結果、変えるべき絞りの段数は近似式を使えば、 フィルムサイズとレンズ焦点距離によって決まることがわかった。 例えば、APS-Cサイズフォーマットで30mmレンズを使う場合、 135フィルムの50mmレンズと同じ被写界深度を得るには、 135フィルムで50mmレンズの絞りから1絞り半ほど開ければ良い、 といった見積りができる。
# 間違いを御指摘いただけると幸いです(fats[at]world.email.ne.jp)。
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: | レンズ焦点距離[mm] |
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: | 被写体距離[mm] |
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: | レンズから結像面までの距離[mm] |
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: | 過焦点距離[mm] (被写体距離無限遠時の近点距離) |
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: | F値 (撮影時の絞り) |
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: | 焦点深度の二分の一[mm] |
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: | 許容錯乱円直径 [mm] |
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: | 近点距離[mm] |
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: | 遠点距離[mm] |
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: | 前方被写界深度[mm] |
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: | 後方被写界深度[mm] |
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: | フィルムの対角線長 |
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図1 : 結像の様子 |
図1に示すレンズ写像の公式は次の形で表される。
(1)
許容錯乱円直径と焦点深度は図1に示す関係があり、
それは次の式で表される。
(2)
フォーマットが異なっても、同じ大きさのプリントを同じ距離から見ることを
前提にしている。
はフィルム対角線長さの
1300分の1として計算されることが多いようである。
1000〜1500という値は人間の目の分解能を基準に決められている。
式(1)を変形すると次のようになる。
(3)
(4)
式(3)から近点距離は次の式で表わすことができ
る。
(5)
式(4)を
式(5)へ代入すると近点距離と前方被写界深度の計算式
が得られる。
(6)
(7)
同様の手順で遠点距離と後方被写界深度が得られる。
(8)
(9)
前方と後方の被写界深度の和が被写界深度となる。
(10)
被写体距離が無限遠の場合の近点距離を過焦点距離という。過焦点距
離は定義から次の式で計算できる。
(11)
過焦点距離を用いると近点・遠点距離や前方・後方被
写界深度は次のような形になる。
(12)
(13)
(14)
(15)
通常、被写体距離や焦点距離よりもフィルム上の焦点深度はかなり小さいの
で無視することができる。すなわち
が成り立つ条件のもとで以下のような近似式を使うことができる。
(16)
(17)
(18)
(19)
(20)
式(20)で計算される過焦点距離
を用いると更に簡単な表示が得られる。
(21)
(22)
(23)
(24)
この近似でどれくらいの誤差が生じるか考えてみる。
例えば、135フィルムの場合は許容錯乱円が約0.03mmで、広角レンズでも焦点
距離はその数十倍になる。誤差はたかだか数パーセントと考えてよいだろう。
ただし、式(22)と(24)
は過焦点距離と被写体距離が近い場合、精度が悪くなる。
マクロ撮影などを除き、被写体距離は焦点距離よりも一般的に長い。このとき、
が成り立つ。この条件における被写界深度の式は次のような表示になる。
(25)
(26)
(27)
(28)
被写界深度目盛については
http://www.dofmaster.com/
が詳しい(記号の意味が違うものがあります)。
dofmasterの説明に従って
目盛を距離の逆数で考えて、
近似式(21)と(22)
を変形すれば、次の有用な結果が得られる。
(29)
(30)
つまり、距離の逆数で目盛を取れば、
被写体距離をはさんで同じ幅に近点距離と遠点距離の目盛を
打つことができる。そしてその量は過焦点距離の逆数であり、
焦点距離と許容錯乱円直径とF値で決まる。
例えば次のような時に被写界深度を同じにしたいことがある。
これらの場合、絞りをどのように設定すれば同じ被写界深度が得られるだろうか? 前節までの話で被写体距離の逆数で目盛を取るとき、過焦点距離の逆数は被写 界深度の指標になることがわかった。したがって、この量が同じであれば被写 界深度の同じ写真が撮れるはずである。そこで、フィルムサイズやレンズ焦点 距離が異なる場合に被写界深度を同じにするためには絞りをどの程度変える必 要があるか考えてみた。
前提として、撮影距離は同じ、そして式(2)で1300を 使っても1500を使っても良いがフィルムサイズが変わっても同じ値を使うもの とする。
フィルムサイズ
、
焦点距離
のものと、それに対してフィルムサイズがm倍、焦点距離がn倍のものとを使うとき
(記号に'を付ける)を考える。
(31)
(32)
同じ撮影距離であるとき、両者で被写界深度が同じであれば次の関係が成立する。
(33)
式(33)の両辺を具体的に計算すると次のようになる。
(34)
(35)
したがって絞りについては以下の関係が得られる。
(36)
式(36)だけ絞りを変えれば同じ被写界深度が得られる。
これを絞りの段数で表示すると式(38)となる。
(37)
(38)
次に撮影距離をどのように変えれば被写界深度を同じになるか考えてみる。
二つの条件下で被写界深度はそれぞれ式(39),
(40)のようになる。
(39)
(40)
式(39),(40)をまとめると次式に
なる。
(41)
したがって、撮影距離を式(42)のように変えれば、被写
界深度は同じにできる。
(42)
例えば、対角線画角が同じレンズの場合(m=n)、撮影距離を元の mF'/F 倍すれば 同じ被写界深度が得られる。
135フィルム(36x24mm),50mmレンズ → APS-C(23.4x16.7mmとします),30mmレ
ンズの場合
m= 23.4/36 = 0.65
n= 30/50 = 0.6
を式(38)へ代入すると、
i= 2*log(0.6^2/0.65)/log2 = -1.70
が得られる。APS-Cの30mmでは約1絞り半開けてやると、計算上は135の50mmと
ほぼ同じ被写界深度が得られることになる。
(注)デジタルカメラの場合、解像度は 画像処理方法やフィルター(モアレ防止用など)によって変わる。また、許容錯 乱円の取り方もフィルムとは異なる場合があるので、この計算は目安程度の意 味である。
135フィルム(36x24mm),50mmレンズ → 6x6(56x56mm),80mmレンズの場合
m= sqrt(56^2+56^2)/sqrt(36^2+24^2) = 1.83
n= 80/50 = 1.6
を式(38)へ代入すると、
i= 2*log(1.6^2/1.83)/log2 = 0.97
となる。したがって、6x6判80mmレンズで135の50mmレンズと同じ被写界深度を
得ようとすれば1絞り絞る必要がある。
式(38)から下図のようなグラフをつくってみた。横 軸はレンズ焦点距離の比 n 、縦軸に変えるべき絞りの段数 i を取り、135フィ ルムを基準にフィルムサイズを変えた場合を想定してプロットした。
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図2 : 被写界深度を同じにするための絞り段数 |
表1 : 図2の計算に用いたフォーマットとサイズ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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対角線画角が同じレンズを使う場合、f'/f=mの点を読めば等価な絞りがわ かる。例えば、4/3 フォーマットを使う時、135フィルムと同じ画角のレンズ を使って同じ被写界深度を得るには、絞りは赤線の f'/f=m=0.52 の点を読み、 約2絞り開ければよいということがわかる。
135フィルムと同じ対角線画角のレンズを使って被写界深度を同じにするに は、4/3 フォーマットの場合は 2 絞り、APS-Cフォーマットの場合は 1 絞り 開け、逆に中判645フォーマットの場合 1 絞り半、中判66フォーマットの場合 2 絞り近く絞れば良い。これは前述した ように、デジタルカメラの場合、目安程度の数値である。
使用者のみならず設計者の視点からもコメント下さった先輩N氏に感謝します。