(COMIC SEED!サイトでの作品解説が余りに物足りないので、例によって自分で書いて見る事にしました)

モン・スール
作・きづきあきら
掲載・ COMIC SEED! 2002年10月号(創刊号)〜2003年2月号


 アマチュア同人誌で精力的な活動を続けてきた作者の、商業誌長篇作品の記念すべき第1作。

 幼い頃に母が家を出、父親と三人の暮しが続いていた柾樹と美波(みなみ)の兄妹。だが、柾樹が大学に受かった年に突如、父親が蒸発してしまう。小学生の美波を抱え途方に暮れる柾樹だが、親友の神田の助力もあり、妹と二人で暮していく道をどうにか模索してゆく。幼いなりに精一杯幸せな「家庭」を守っていたつもりの柾樹だったが、しかし、神田と美波が「肉体関係」を持っていた事を知り、彼の信じていたはずの家族の絆は粉々に砕けてしまう……

 これまでも同性愛や近親相姦、フェティシズム、SM等、ノーマルな恋愛からは一寸ズレた視点や題材で人と人との関わりを描いていた作者が選んだ今回の題材は、よりにもよって小学生との(肉体的)恋愛関係。設定だけ聞くとセンセーショナルでスキャンダラスな内容を想像されるかも知れませんが、しかし、実際の作品は抑制の効いた、重くはあるけれどもけして不快ではない読後感になっています。もちろん直接的な性描写も一切ありませんので。一応念の為に。(某国文部大臣閣下の様に設定自体が絶対に許せん!という方は、まあ別として)

 この様な賛否両論必至の題材を作者が選んだ理由は、一つはプロ作家としてのケレン味であり、そしてもう一つは、あくまで「家族」というテーマを描く為の手段としてでは無いかと。物語の中盤(第4話)、蒸発した父親の元に身を寄せた美波の口から、父親の蒸発の真相が柾樹に語られます。

 以前から柾樹に軽んじられており、職を失い、柾樹に会わせる顔が無いという父親に、美波が家出を勧めた事。
 柾樹が美波に求めていた物は結局、守る対象としての存在だけであり、美波自身の悩みや不安は省みられなかった事。
 そうした美波の支えになってくれていたのは、実は神田だけだった事。

 美波の告白により、一瞬にして逆転していく守る者と守られる者との立場。今の自分とかつての父親の姿を重ね合わせ、家族の意味とは一体何なのか柾樹は初めて考えるようになります。

 兄妹や親子の情愛が家族を維持していく物であるのに対し、恋愛とは新たな家族を作り出していく感情な訳で。酷く拙くて幼い関係ではあるけれども、偽りの家族の殻を打ち砕くものとして、美波と神田の恋愛という設定を思い付いた作者のセンスには脱帽です。

 二人の愛の結末については、是非本編の方で……


<2003年6月25日追記>
単行本ぺんぎん書房から発売になりました。

  「モン・スール」 きづきあきら著 \950 A5版 158P ISBN4-901978-06-3