これから期待される自己免疫疾患の治療法 part3     part2 / part1  
〜抗サイトカイン療法今後の展望 

>>2007年の使用状況
現在、本邦では、抗サイトカイン療法として、インフリキシマブは既にクローン病(CD)と関節リウマチ(RA)、エタネルセプトは関節リウマチ(RA)において健康保険下によって治療が行われています。更に関節リウマチに加えて強直性脊椎炎(AS)においても、現在臨床試験(インフリキシマブ)が行われており近々保険認証予定の状況です。
続いて、乾癬、SLE、ベーチェット病等にも、有効な治療であるとの報告が増えており益々期待されています。
このように自己免疫性疾患の治療において抗サイトカイン療法は、すでに重要な選択肢となっておりますが、その半面で、副作用の問題や薬剤の種類によって疾患に対する効果が大きく異なるケースも存在することがわかってきました。
例えば、近年わが国でも抗TNFα製剤であるインフリキシマブとエタネルセプトがRA治療に使用されるようになりましたが、クローン病に対しては前者のみが有効であるなど、両剤は、その薬理作用において違いが明確になりつつあります。
おそらく、インフリキシマブは膜型TNFαを介した炎症反応も幅広く抑制することで、エタネルセプトと異なる作用を示すのではないかという推測がされております。例えばインフリキシマブがエタネルセプトと比べて前者が結核を始めとした感染のリスクが高いと言われるのもその辺が関係していると思われます。
最近ではインフリキシマブにおいては強直性脊椎炎に合併する前部ぶどう膜炎(AU)をも改善するというスペインからの報告があり、インフリキシマブとエタネルセプトの違いを示す結果が出ています。


>>今後の展望
次に、アダムリムマブ(D2E7)が、国内でクローン病、関節リウマチなどの疾患に対して製造販売承認を申請している状況ですので、近いうちに使えるようになる可能性があります。
この薬剤は、インフリキシマブが抗ヒトTNFα阻害剤で、ヒトとマウスのキメラ抗体であるのに対して、アダリムマブは100%ヒトの成分でできています。そのため中和抗体によって効果が弱まるということがないようです。また副作用などが、これまでのインフリキシマブ、エタネルセプトなどとくらべても低く抑えられるという報告もあり期待されています。
このように抗サイトカイン治療法も様々なタイプの薬剤が登場して、今後、病名、病態、個々の病状において選択する時代へ向かっていますが、その一方で、抗サイトカイン療法の共通の問題点もあります。
抗サイトカイン療法は、よく自己免疫性疾患の最終兵器などともてはやされていますが、あくまでも
「根治療法」ではなく「強力な対症療法」であるという側面を忘れてはならないとおもいます。
特に長期投与によって重篤な副作用が起こす可能性は完全に否定できません。
確かにTNFが、リウマチの炎症を引き起こしている原因ではありますが、感染症に罹った場合には防御反応に必要となるのもTNFです。つまり、感染に罹ったときには、レミケードなどの抗サイトカイン療法は炎症を引き起こすものと感染症を引き起こすもの区別なく全てTNFをブロックしてしまいます。このことにより感染症が起こりやすくなるのは当然の理屈です。
また、いずれの抗サイトカイン療法もアメリカのFDA認可から最大でも僅か10年程度の臨床データしかありません、本邦特有の状況(結核が多いなど)を鑑みて慎重に使う薬剤であるということは変わりありません。
抗サイトカイン療法は短期的なQOLの向上がみこまれたとしても、長期的なQOLの見地に立った場合は、まだまだ不明な部分があるのも事実です。医師の中にはこの薬剤は今後のリウマチ性疾患治療に不可欠との声も聞かれますが、少し行き過ぎた意見であると感じます。特に強直性脊椎炎(AS)においては、抗サイトカイン療法を必要とするケースはごくまれであるという専門家の意見もあります。
また、治療費の面から考えても大変高額な薬剤であり、少なくとも既存の様々な治療方法を試した上で、効果がない場合のみ検討されるべきだと考えられます。
手術と同様、最終的に治療方法においての選択権があるのは、患者さん本人であることは言うまでのないことです。患者自身も長期的な展望に立ってしっかりとした治療方法の選択をしていくべきだろうと考えます。


>>抗サイトカイン療法、RA治療における使用条件、費用など

* レミケード(インフリキシマブ)
・使用条件
メトトレキサートの効果が不十分な患者さんが条件
・使用方法
点滴使用;初回、2週間目、6週間目に点滴し、以後は8週間ごとに点滴
通常、MTX(メソトレキセート)と併用して使用します。
リウマチの症状がリバウンドしないようにするためと、レミケードに対する中和抗体(抗体を作ってしまいレミケードが効きにくくなってしまう現象)をでき難くするために使われます。
・費用
レミケードは保険適応ですが、レミケードの薬価1バイアルあたり、約12万弱程度かかり、通常は2バイアル必要ですので、約23万円程度かかることになります。
健康保険3割負担は、1回8万円程度、一月当たりに換算すると4万円負担になります(診察、検査などは別途)。
また、公費負担制度をお持ちの方は、その制度により負担額が減額されます。


* エンブレル(エタネルセプト)
・使用条件
既存のリウマチ治療で効果不十分
・使用方法
皮下注射;エンブレルを週に2回注射(現在は医師の指導の下で自宅での自己注射可能)
MTXの併用は必須ではありません。
・費用
1バイアル、1万5千円程度×2(週)×4(月)≒12万強
健康保険3割負担では、一月当たり4万円弱、程度の患者負担(診察、検査などは別途)。


2007/3/25


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