今回の京都議定書において法的拘束力のある規制値が定められた場合、我が国としても国内内的にこれを効果的に実行できる施策が必要となる。しかし、国際的にも批判されているように、既に通産省、環境庁、各業界からは多くの行動計画が出されていながら意見の統一がとれず、日本政府自体が地球温暖化防止対策に真剣に取り組む姿勢が欠けているといわざるを得ない。 我が国の地球温暖化防止対策については、これまで平成2年10月23日に関係閣僚会議で決定された地球温暖化防止行動計画の枠組で関係閣僚会議が主導して進められて来ており、これが環境基本法に基づく環境基本計画の中に位置づけられている。しかし、環境基本計画自体、その点検過程において成果が上がっていないことが報告されており、計画だけでは絵に描いた餅に終わり、実効性がないことは明白であり、地球温暖化防止条約における国際的責任を問われることとなる。
現在の行動計画では具体的な対策は各省庁に任され、関係閣僚会議はその報告を受けて、必要に応じ検討するだけであり、政府が一体となって地球温暖化防止対策に取り組む体制になっていない。また、現在の関連法規は、省エネルギー法など努力規定にとどまるものが多く、地球環境保護の視点からは極めて不十分であり、その改正措置だけでは対応できないことも明らかである。
そこで、私たちは、我が国の地球温暖化防止対策を実効あらしめるために最も重要な施策として、「地球温暖化防止法」の制定の必要性を提言するものである。
今回の京都議定書で何らかの削減数値、目標年度、手法が定められたとしても、IPPCの報告によれば大気中のCO2濃度を安定させるためには、究極的にはCO2濃度排出量を現在の半分以下にしなければならないとされており、仮にCO2排出量を1990年レベルから20%削減したとしても、大気中の濃度は増加し続けるものであることを認識しておく必要がある。
しかも、発展途上国の経済成長、人口増加を加味して考えれば、議定書に定められる規制数値と関係なく可能な限りの排出削減を目指す必要がある。
また、温室効果ガスはCO2だけではなく、メタン、亜酸化窒素、フロンガス等があり、これらガスごとの対策を講ずる必要がある。
CO2排出量で見ると、エネルギー関連が90%以上を占めており、その部門(産業、運輸、民生)別の現状及び対策は既に述べたところであるが、適正な経済成長を維持しながらCO2の削減を図るためには抜本的なエネルギー対策等の措置が必要である。
しかも、気候変動問題の解決は、個々的なエネルギー対策、CO2削減対策に限定されるものではなく、人類の文明のあり方を問う問題として総合的多面的な取り組みが必要とされる。
地球温暖化防止対策には、各省庁が縦割りで対応するだけでは実現が不可能であり、その寄合所帯である関係閣僚会議が主体性を持つことは期待できない。地球温暖化防止対策の立案遂行のために包括的な権限を環境庁に統合する必要がある。
新法では地球温暖化防止行動計画に法的根拠を与えるとともに、これを他の行政計画の上位に位置付けるものとし、法的拘束力を与えるものとする。地球温暖化防止のための具体的な諸対策については、前述した通りであるが、このうち法的拘束力が必要な以下のような施策について具体的な条項を整備する。なお、「石油代替エネルギーの開発及び導入に関する法律」、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」との調整、統合が必要である。
本意見書の第4で提言したような具体的規制措置を、新法では、地球温暖化防止のための具体的措置として明記すべきである。
具体的措置としては、以下のものが含まれる。
ア 産業部門における総量規制の導入
イ 総量規制と一体のものとしての排出権売買
ウ 産業部門の小規模事業者や民生の業務部門における事業者、運輸事業者に対する規制措置(責任者の定めや一定の排出抑制商品使用義務づけ、報告義務等)
エ 排出抑制商品の設置義務づけなど(民生の業務部門の新規建物建築者や既存建物所有者)
オ 過剰な温室効果ガス排出製品(家電製品、自動車等)の生産禁止
カ 排出抑制商品(特に自動車等)の販売義務制度
キ CO2排出が少なく効率のいいエネルギー源の利用促進対策としての再生可能エネルギー源、効率のいい独立事業者からの電力の買取義務の導入と電力事業における参入規制の緩和のための措置
有効にCO2排出を抑制する経済的インセンティブとして炭素・エネルギー税を導入する。原子力発電への転換や水力への過剰依存を抑制するために炭素のみでなく、エネルギー使用に対する課税が必要である。
国民が容易に地球温暖化防止に関する最新の情報を得られるように、情報開示を徹底するとともに、情報センターを設置する必要がある。
温暖化防止の施策の実現については、国民、企業が自発的に協力して行くことが重要であり、政府機関の活動だけでは効果が期待できないことは明らかである。
既に地球温暖化防止に向けて多くの地方自治体、NGOが活動を開始しているが、今後、行動計画の策定に参画させるなどの協同作業が必要である。またNGOの育成のための施策を講じる必要がある。
さらに地方自治体に対しても地球温暖化防止対策の責務を明確にし、地域的な地球温暖化防止行動計画、地球温暖化防止条例の制定を義務付ける。
ア ODAの見直し
従来、ODAは開発に向けての援助が中心であったが、対象国の環境保護政策に対する援助を更に拡大するとともに、開発援助に対する環境影響について審査を厳重にする体制が必要である。
イ 海外での企業活動、輸出製品に対する規制措置
国内での規制を免れるために海外に進出する企業、輸出製品に対しても本法の規制が及ぶ措置が必要である。