第4ー4 運輸部門での対策

1 運輸部門におけるCO2排出の状況

日本のCO2排出にしめる運輸部門の割合は、1994年度において65.90炭素換算百万トンと全排出の約19.2%を占めている。しかも、その排出量は1990年度と比較して12.5%の増加を示している。1994年6月の通産省の「長期エネルギー受給見通し」によると、2000年の運輸部門からのCO2排出量は1990年度比で11%増と見込まれていたが、すでにこれを上回る勢いである。

運輸部門からのCO2排出の輸送機関別内訳をみると、自動車87.2%、海運6.0%、鉄道3.3%、航空3.4%(以上1994年度 環境庁推定)と自動車の占める割合が圧倒的である。また旅客・貨物別にみると1991年度において旅客が64.4%、貨物が35.6%をしめる(1991年度 運輸経済研究センター)。

 

2 物流(貨物輸送部門)におけるCO2排出削減について

1) 現状

わが国の物流の分野別分担をみると、トンベースではトラックが約90%、内航海運が約9%、鉄道が約1%である。トンキロベースで見ると、トラックが約50%、内航海運が約45%、鉄道が約5%となる。分野別分担としては、近距離の輸送はトラックでまかなわれ、長距離の重量物の輸送は内航海運と鉄道で分担されている。またわが国は内航海運の分担比率の高い国である。

陸上輸送でトラックと鉄道の分担を見ると、輸送距離で400キロを超えると輸送時間と料金で鉄道の優位性が出てくる。都市内輸送や近距離の輸送では、当分トラックの輸送に頼らざるを得ないのも現実である。

近年の産業の発展・高度化に伴い、物流についてはその輸送量全体が大きく延びている。輸送トン数でみると1975年度を指数100とすると1993年は指数128にあたる。その中でもとりわけ少量物品取り扱い個数が増大している。例えば宅配便についてみると、1981年には1億0700万個であったトラックによる宅配便取り扱い件数は、1994年には13億1832万個となり、12倍以上の伸びを示している。宅配便の他にもジャストインタイム方式に伴う多頻度小口配送・時間指定システムなどによって、小口の輸送件数が増加している状況にある。

このなかで問題なのは、トラックによる輸送効率が現状では極めて低いことである。営業用トラックの輸送効率(輸送トンキロ/能力トンキロ)は53.2%、自家用トラックの輸送効率は33.3%しかない現状であり、その傾向は都市内輸送を担うことが多い自家用トラックにおいて高いことがわかる。また一般トラックにおいて99.9%の事業者が中小企業であることからみても、その効率化などには極めて大きな障害が存在する分野であるといわなければならない。

2) 現在行われている方策と到達点

物流部門において、現在CO2排出削減対策として提起されているものは、例えば次のようなものがある。

 ア 物流の効率化

上記の通りとりわけ自動車による物流の分野においての効率向上は重要であり、このため従前から積合せ輸送の推進がうたわれてきた。例えばタ複数荷主の積合せの困難な自家用トラックにおいては積載効率が低くなることが多いため、営業用トラックによる積合せを活用すること、チ長距離輸送においては積載効率を上げるために複数の運送事業者の協力による特定地域の共同運行や、複数の荷主による帰り荷の確保などである。ツまた地域内の物流については地域内共同配送の取り組みがある。例えば福岡市天神、新宿副都心などの地域内共同配送のとりくみなどがあげられる。またテ通産省は自動車使用の効率化に向けて業種別物流効率化ガイドラインを設けているが、例えばコンビニエンスストアにおいては納入業者を組織化し、商品をいったん共同配送センターに納入させるなどして共同配送を行っているものもある。

しかし、この物流効率化については上記の通りの各先進的なとりくみは存在するが、一向に進んでいない。また上記地域内共同配送のシステムについてはNOX削減などの地域的環境改善効果はあるものの全体としては全国1000カ所において行われたとしても排出削減量はわずかであるとする試算もあり(1996年3月日本システム開発研究所試算)抜本的な対策にはほど遠い現状にある。

 イ モーダルシフト

  CO2発生量の原単位については、運輸政策審議会によればトンキロ当たりトラックは370グラム、内航海運35グラム、鉄道24グラムとなっている。このように内航海運と鉄道の原単位はトラックに比べると圧倒的な優位性がある。

以上から自動車による貨物輸送をエネルギー効率の優れた鉄道にシフトしていくことが抜本的な対策になることは明らかである。しかし、鉄道輸送の貨物輸送に占める割合は、1965年度の30.5%(トンキロベース)から年々低下し、1993年度には4.7%を占めているにすぎない。

鉄道輸送への誘導についてはタトレーラーやトラックを鉄道貨車にそのまま載せ積み替えの手間や経費を改善し一貫した輸送をめざすピギーパック、チトラックの荷台部分をコンテナ貨車にそのまま積載するスライド・バンボディ・システムの導入などの技術的手法の他、ツ例えば川崎市における廃棄物列車、埼玉新都心からの残土運搬列車などの取り組みもある。

しかしこのモーダルシフトは一向に進んでいない。モーダルシフトの推進はトラックが排出する窒素酸化物による大気汚染対策として10年以上も前から唱えられてきたが全く進んでいないのが現状である。

鉄道へのモーダルシフトが進まなかった理由としては、運輸料金の競争条件がイーコールフィッテイングでないこと、東海道本線など鉄道の幹線では貨物鉄道の増発の余地が少なかったことなどがあげられる。運輸料金の競争条件がイーコールフィッテイングでないこととは、トラックは鉄道の線路の建設・維持にかかる費用の分担がないことである。また大気汚染物質の排出などの外部不経済を負担していないことも含まれる。

また内航海運へのモーダルシフトが進まなかった理由としては、港湾荷役の非効率により時間がかかること、輸送速度が遅いことなどがある。内航海運の高速性の確保については、スーパーテクノライナーの開発などがすすめられているが、内航海運にむく輸送は長距離の輸送であり、また港湾と都市への距離を考慮するとかなり限定される。

 ウ この他の対策

この他、構想段階のものを含めれば、物流分野では次のような施策が検討されている。

 ・ ナビゲーションシステムの搭載による車両の誤送・迷走等の防止

 ・ 高度道路交通システム(ITS)の導入

 ・ 鉄道料金の上限制導入、港湾料金自由化による料金の引き下げ

 ・ 共同配送拠点の整備

3) 抜本的対策の必要性

以上の対策を施した場合物流分野でCO2の排出量は大幅に低減するのであろうか。結論としては現状の各対策のみでは困難であるといわざるを得ない。環境庁の試算によれば、西暦2000年までの運輸部門における定量的な削減量可能量は全体で91.8万炭素換算トン/年であり、現状(1994年)の運輸部門からの排出量の1.4%程度にしかすぎない。このうち定量的に排出削減可能量としてあげられているのは物流部門では鉄道輸送へのシフトのみであり、他の対策は削減の結果はもたらすものの削減量は全体からみるとわずかであるとされている。このように現在の物流の改善策のみによっては、大幅なCO2の排出削減をはかることはできず抜本的な対策が必要である。このために次のような施策を検討することが必要である。

 ア 都市間貨物鉄道の整備

鉄道による輸送はJRの在来線を利用して行われるが、わが国では長距離の貨物鉄道線はなく、都市間輸送においては旅客輸送に混在して貨物鉄道が運行されている。貨物鉄道は旅客輸送と比較して、重量が重い、連結貨車が長い、スピードが遅いなどの特性がある。そもそも貨物鉄道には上記のようなハンディキャップがあるが、国鉄がJRとなってからこのハンディキャップはさらに加速化されている。東海道本線でみると、旅客列車の高速化や待避線の建設が進まないなどの理由から、貨物鉄道の増発余地はほとんどないのが現実である。

他方、鉄道の定時性の高さや道路渋滞、運転手不足などの理由から、鉄道輸送の見直しの動きもある。鉄道輸送はCO2対策としては、トラック輸送に比し圧倒的な優位性があるので、鉄道整備のインフラ整備と鉄道輸送の促進への規制と誘導が必要である。

日本の公共投資を概観すると、道路整備投資が国と地方を合計で年間約15兆円といわれるのに、鉄道投資それも都市間輸送を担うJRの投資額は年間5000億円台にすぎない。鉄道建設を担う鉄建公団の投資額も年間2000億円台である。鉄道投資は地球環境問題を契機に投資額および投資の構造など抜本的見直しが必要である。

ヨーロッパでは、道路整備投資の見直しはすでに行われ、かつて道路特定財源制度を持っていた国もすでに廃止している。ヨーロッパ各国は地球環境問題を踏まえて新たな観点で鉄道整備に取り組んでいる。ドイツでは、道路整備と鉄道整備の投資額はほとんど50%ずつ同額となっている。スイスでは、通過交通となるトラックを鉄道輸送するための鉄道整備を国民投票で決定し、アルプスに新しいトンネルを建設整備中である。オランダは、ヨーロッパ一の港湾都市のロッテルダムからドイツ国境までの貨物専用新線を昨年着工した。オランダの貨物専用線はEU委員会が決めた「スカイ・ウェイ」との名称の規格で建設されている。この規格は海運用コンテナを貨車に二段積みするものであり、輸送の効率化が図られている。「スカイ・ウェイ」の規格はEU委員会の決定であるので、EU加盟のヨーロッパ各国の鉄道建設や改良は今後この規格で進められることになる。このようなヨーロッパの鉄道整備の潮流を見ると、わが国は全くこの流れを見逃しているものである。

翻ってわが国の鉄道整備を考えると、都市間の人流のために新幹線の整備をした区間は、実は貨物輸送においても新線建設を行うべきであったものと考える。特にわが国の物流の骨格部分を走る東海道線と山陽線はその感が強い。在来線を利用した貨物輸送の増発はすでに満杯の状態であるので、鉄道インフラの建設は急務である。

現実的な観点で整備すべき内容をあげると次の通りである。

 ・ 貨物輸送基地に利用できる都市内の操車場、駅の用地の売却をただちにやめること。

 ・ 在来線の貨物輸送能力を高めるため、都市圏を迂回する貨物線の建設や、都市間での大規模な待避路線を建設すること。

 ・ トラックから鉄道へのシフトを誘導するため、夜間の走行禁止などのトラック輸送の直接規制を実施し、鉄道建設のための課徴金もしくは税による経済的誘導を行うこと。

 ・ 内航海運とのモーダルシフトを推進するため、港湾への接続線を建設すること。これは、過去に計画ないし構想されていたものだけでも相当数に及ぶ。

 ・ EU委員会の「スカイ・ウェイ」を参考に、わが国でも大規模な貨物新線の建設を検討すること。

 イ 都市内地下物流システム

また、都市内輸送については都市内地下物流システムが提案されている。この提案によれば、東京都内に地下鉄並の路線を持つネットワーク(総延長が330キロ)の物流システムを地下に建設し、貨物の集約をするデポを地下鉄並の間隔で大規模ビル、デパートなどに150カ所設置し、積み荷はコンテナにのせて輸送するものとしている。試算によると東京都区部全物流の45%(トンベース)、30%(トリップベース)が地下に転換可能である。なおこの新システムの建設費は用地費は既存道路に新設するとして除くと5兆円になるとされる(「東京の交通問題」技報堂出版1993年)。

この構想の実現に向けては、建設の実現可能性、費用対効果などの検討課題も多いが、抜本的に都市内物流によるCO2排出を削減する提案として検討に値する。

 

3 人流(旅客輸送部門)におけるCO2排出削減について

1) 現状

運輸部門からのCO2排出量のうち、旅客輸送部門は64.4%を占め、また自家用乗用車と自家用貨物車による旅客輸送にともなうCO2排出量が52.1%を占めている。自家用乗用車と自家用貨物車の排出割合を距離帯別に見ると、自動車からの排出量のうち50km以下での排出割合が41.3%を占めている(以上 1991年度 運輸経済研究センター)。このように、旅客輸送部門でCO2排出量を削減するためには近距離旅客輸送における自動車交通量自体を削減する必要がある。

2) 公共交通機関の整備

旅客一人を1km輸送する場合に要するkcalを比較すると、鉄道が104.4kcal、バスが173.3kcalなのに対し乗用自動車は630.9kcalを要する。また、旅客一人を輸送する場合、鉄道と比較するとバスは2倍、乗用自動車は7.6倍のCO2を排出する。そこで、都市圏旅客輸送のために鉄軌道交通及びバス交通(トロリーバスを含む)を整備するべきである。

 ア LRT

鉄軌道交通のなかではLRT(ライト・レール・トランジット)を各都市に広く普及させるべきである。

 a LRTとは従来の路面電車より低床式で乗りやすくかつ高速運転が可能な鉄軌道電車である。地下鉄に比べると建設費が10分の1ですみ経済的であること、駅間が短くきめ細かな交通サービスが可能であり、地下に降りる階段がないため老人や身体障害者などの交通弱者に優しいという特長がある。

わが国の路面電車は最盛期には55都市1400キロの営業距離があったが、自動車交通の支障になるとの理由で廃止が相次ぎ、現在では19都市250キロ営業距離に過ぎない。その結果、自動車交通量を増大させ深刻な排ガス公害をもたらした。

LRTは、クルマ社会ロサンゼルスでも新設され、ジュネーブでは復活し、ドイツのカッセルのように高速道路を廃止してその代わりにLRTを走らせている都市もある。また、オーストラリヤのシドニーでも1997年7月に36年ぶりに路面電車が復活する。日本においても、豊橋市では建設省や運輸省の補助金によって路面電車が駅前広場まで140メートル延伸するし、岡山市では路線延伸について委員会を設置して検討を始めている。

 b LRTを普及させるためには建設補助金制度の充実はもちろんのこととして、運営費を補助する制度を確立させなければならない。また、乗車効率を高める工夫が必要であるとともに、一定の規制や経済的手法を併用する必要がある。

建設費及び運営費の財源には、平成8年度(1996年度)当初予算で5.7兆円(国3.2兆円、地方2.5兆円)にも及んでいる現在の道路特定財源を充てるべきである。

 c 乗車効率向上策としては、定時運行の確保、高密度ダイヤの編成、低運賃(ノーマイカーデーに割引運賃制度を導入するなど)、他の公共交通機関との接続を良くすること、共通運賃制を導入することなどの施策が必要である。定時運行を確保するためには軌道内の自動車走行禁止は当然であるし、優先信号の設置は有効である。

 イ バス走行の改善策

バスについてもLRT同様の改善策が必要である。路線網や運行案内情報を充実して利便性を高めること、定時運行の確保のためにバス専用レーンを設置しかつカラー舗装化や一般車両通行車線との間にパンプを設置して差別化を図ること、あるいは、交差点でのバス優先信号を設置したり、台湾の台北市で実施されているバス専用の逆走行レーンを設置するなどの対策が必要である。

3) 自動車の相乗り促進

自家用自動車の平均乗車率は2人に満たない。したがって相乗り促進(主として通勤の場合)によって自動車の走行量を削減することは直ちに可能な方策である。このためには相乗り自動車専用レーンやランプの設置、相乗り自動車に対する高速料金軽減策も有効である。

4) 自転車交通の促進

自転車は無公害交通手段である。自転車保有台数は年々増加し一世帯に約2台の保有水準に達している。しかし、自転車に対する適正化施策が不十分であるためその交通機関としての機能が生かされていない。駐輪場や自転車道ネットワークを整備するとともに、優先信号などの交差点での優遇策、あるいはレンタサイクルなどの有効活用策を講じるべきである。

コペンハーゲンでは買い物客を対象に、市内各所に約千台の自転車を配置し無料貸し出しをしている。これは硬貨を入れて盗難防止のチェーンをはずし、乗り終って最寄りの自転車置き場でチェーンをはめると硬貨が戻ってくる仕組みであるが、このシステムも参考になる。

5) パークアンドライド

都市郊外に設置した駐車場でLRTまたはバスに乗り換えて都市内に移動することにより自動車交通量を削減する方法である。駐車場の整備及びLRTまたはバスの定時・迅速・低料金運行の確保が前提となる。

 

4 自動車からのCO2排出削減

1)自動車の燃費向上、小排気量低燃費車へのシフト

 ガソリン等化石燃料の燃焼による発熱量とCO2発生量は比例することから、CO2削減のためにはエネルギー効率の向上が必要である。このため自動車の燃費を向上させることは重要で、このため自動車メーカーではさまざまな技術開発が行なわれている。例えば、希薄燃焼(リーンバーン)エンジン・筒内噴射エンジン・ミラーサイクルエンジンなどが開発・実用化されている。これによって、現状でも各エンジンにより差異はあるがおおむね10%ないし20%の燃費削減は可能である。また大排気量車より小排気量車の方がCO2発生率が少ないことから、今後自動車の利用については小排気量車への転換をしていくこと自体も必要である。

欧米ではリッター当り33km−34km走行する超低燃費車が開発されている。

2) 低・無公害車(ハイブリッド車、電気自動車等)

 ア ハイブリッド車

ハイブリッド車は、燃費が従来型ガソリン自動車の2分の1であるとされる。この秋に従来型ガソリン車より約50万円高の価格において実用普及型ハイブリッド車(トヨタTHS)が販売される。日産自動車からも同様のハイブリット車が来年販売される予定である。マイクロバスのハイブリッド車の販売予定もある。

大型トラック、バス等のディ−ゼル車についてもハイブリッド化が可能である。ハイブリット自動車においてはNOXの発生が通常ガソリン車の10分の1になる効果もある。

 イ 電気自動車、燃料電池自動車

電気自動車は、我が国においてはトヨタ(RAV4)、日産(プレーリー)、ホンダ、マツダ等からすでにそれぞれ販売されている。いずれも従来型エンジン車を改造したものであること、価格も高額であり補助金制度があっても普及車にはならないこと、バッテリーの能力上1充電走行距離が不足すること等が問題とされている。しかし、従来型ガソリン車の改造ではなく、駆動系の改良や独自モーターの開発、さらに高性能バッテリーの開発・低価格化により電気自動車の普及は十分可能である。アメリカGM社が販売している電気自動車EV1も参考になろう。

燃料電池電気自動車は、水素と酸素をエネルギー源とし水を排出するだけのものでCO2削減には最も効果がある。最近では高密度水素吸蔵合金の開発がなされており、この実用化は十分期待される。

また、電気自動車化は、従来のレシプロエンジン、駆動系を不要とすることとなり、下請企業を傘下とする自動車産業を根底から変えることになる。したがってその下請企業変革の抵抗は相当根強いものが予想されるが、この点への対策を講じつつ克服していくべきである。

3) CO2削減効果の試算

我が国の自動車からのCO2排出量のうちの、ガソリン車とディーゼル車の内訳は、日本システム開発研究所の試算では1993年(平成5年)度において年間5940万炭素換算トンのうちガソリン車は年間3175万炭素換算トン(53.5%)、ディーゼル車は年間2633万炭素換算トン(44.3%)である(その余はLPG車)。

このうちガソリン車の燃費改善については、現在の技術開発状況からして、西暦2010年には最低でも30%の削減が可能である。またハイブリッド車、電気自動車への転換について、2010年には現ガソリン車の各10%の台数まで普及していることとする。ハイブリッド車、電気自動車のCO2削減率を現状のガソリン車のそれぞれ50%、60%(エネルギー製造時を含む)とすると

 

 ガソリン車の燃費改善分 3175万×0.8×0.3=762万

 ハイブリッド車化分   3175万×0.1×0.5=159万

 電気自動車化分     3175万×0.1×0.6=191万

 合計                    1112万                            (炭素換算トン)

 

 となり、約1112万炭素換算トンの削減効果があることとなる。これだけで運輸部門における排出量6810万炭素換算トン(日本システム開発研究所による1993年度の値による)の16.3%にあたる削減効果があることになる。

自動車の平均耐用年数を考えれば、今後2010年までにおおむね車種代替が完了するのであり、今から13年あれば技術開発は十分可能である。今後の交通量の伸びの問題も存在するとしても、以上に小型ディーゼル貨物自動車の低燃費ガソリン自動車、電気自動車への転換その他前記物流、人流各分野での施策の実施などとあわせれば、運輸部門において排出削減目標をおおむね達成することは困難な課題ではない。やる気になれば可能なものである。

4) 技術発達と規制・誘導の重要性

技術発達は、法的規制ないし経済的誘導策などにより促進される側面が存するのが重要である。技術的に達成不可能といわれていた技術の実現に関しては、マスキー法により低排出車の開発が行われ、モントリオール議定書によりフロンガスの撤廃がなされた経験を生かすべきである。 

自動車メーカーが、この1―2年の間に電気自動車、ハイブリット車、希薄燃焼エンジン、筒内噴射エンジンなどたて続けに低・無公害車技術を発表し販売を開始していることは、カリフォルニア州の自動車販売義務規制と無関係ではない。低・無公害車の販売は自動車メーカーが本気になってその開発をした結果で、カリフォルニア州規制が低・無公害車の早期開発の重要なインセンティブになっている証左であろう。その目標値は「絶対に達成可能」な目標値を設定されてはいない。「達成可能であるであろう」、または、「達成すべきである」数値を設定することが重要である。要は達成不能とあきらめることではなく、開発をしようと思えばできるという認識を持つべきである。

5) 自動車からの排出削減をすすめる法的施策

 上記のような自動車からの排出削減をすすめるために、次のような法的施策を検討することが必要である。

ア メーカー平均燃費規制の実施

現在「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」に基づく通産省・運輸省告示(1993年)によってガソリン乗用車に対して2000年レベルでのメーカー平均燃費基準が定められているが、この規制は車両重量ごとに3ないし5段階の基準となっており、燃費向上率も7.3〜11.0%と低い。ガソリン乗用車のみならず全車種を対象とした規制にこれを改め、燃費向上率を大幅に引き上げることが必要である。

イ 低排出自動車の販売義務規制

電気自動車、ハイブリッド車、天然ガス車などのCO2の排出量の低い代替燃料車を普及するために、インフラなどの整備などの他、米国カリフォルニア州規制同様の販売義務規制を導入する。また低公害車の高速道路料金の割引、低公害車専用駐車帯などの制度を設け、低公害車への誘導を行うことなどが検討対象となろう。

ウ 自動車取得税・自動車重量税・自動車税の税率を燃費により定める

消費税導入による物品税の廃止にともない、3ナンバーの普通自動車と5ナンバーの小型自動車の税負担格差が縮小したため、普通乗用車の比率が大幅に増え、この結果CO2排出量が増大した。このような環境を省みない税制はあらためることが必要で「税制のグリーン化」が提起されているところである。具体的には燃費により各自動車関連税の税率を段階的かつ累進的に定めることで、低燃費自動車の普及に向けての経済的誘導を行うことが必要である。

エ 自動車交通総量の抑制

CO2排出削減のためには、自動車交通量自体を削減することが必要である。このためには交通需要マネージメント(TDM)を総合的に推進することが必要である。事業所ごとにCO2排出総量を削減するための管理者を設置し、CO2排出総量を削減する規制を行う。

 また交通総量の抑制のためには乗り入れ規制、例えば都心部への自動車乗り入れ規制を実施すべきである(大型車に限定する、ナンバーの末尾数の奇数・偶数によって乗り入れが可能な曜日を決定するなどの例がある)。また一定区域への流入に課徴金を課する制度(ロードプライシング)の実施などの経済的手法の導入も重要である。

オ 道路建設の抑制、道路特定財源制度の廃止

以上とは逆に、CO2排出削減を渋滞解消に求め、このための道路建設を進めるべきとする議論は有害なものといわねばならない。我が国においてはすでに高規格道路の総延長は6545キロメートルにおよび国土面積当たりにすればアメリカの3倍、イギリスの2倍に相当する。また道路投資額も国土面積あたりにすれば欧州諸国の5倍、アメリカの50倍に上っている。このような状況のもとで、交通量の抑制のためには、道路建設自体を抑制することが必要である。道路建設によって自動車交通量が増加し、そのために増大する燃料税収によりさらに道路建設をするという悪循環による弊害はすでに明白になっている。

 このために道路特定財源制度を廃止し、その税収相当分を前記の通り公共輸送機関の整備、貨物鉄道輸送などへのシフトなどに充てることを検討していかなければならない。また道路特定財源を廃止したとしても、既存の揮発油税等に相当する分の税負担を軽減すべきではない。軽減を行うことは経済的に自動車交通量を増大させるシフトを働かせ、また燃費の改善などに逆行することになるからである。

また炭素・エネルギー税を導入する際には、鉄道輸送や電気自動車などの利用に際しては、炭素・エネルギー税の軽減・免除を図るなど税設計上の工夫が必要である。