第4ー3 民生部門における対策

1  民生部門におけるCO2 排出量の状況

民生部門からのCO2 排出量は、1993年で、家庭部門(一般世帯)が3948万トン、業務部門(事業所、事務所等)が3975万トンと、合わせて国内総排出量 3.億トン(90 年) の約23%を占めている。

この部門の主要なエネルギー消費は、冷暖房、照明、給湯、動力機器によるものであるが、1990年における排出量は、家庭部門が3495万トン、業務部門が、3667万トンである。

その増加状況をみると、家庭部門においては、1970年から1993年まで23年で年平均2.3%の増加をみせている。一方、業務部門においては、そののびはもっと著しく、1970年から1993年まで23年で年平均3.8%と高い率での増加をみせている

なお、民生部門においては、電力がどの機器でどれだけ消費されたかを正確に把握することが困難であり、特に、業務部門では、オフィスビル、ホテル、病院、飲食店その他対象が多岐にわたり、エネルギー消費実態の把握が必ずしも容易でない。

しかし、家庭用でのCO2 排出の約40%が照明・動力、28%が給湯、24%が暖房、6 %が厨房、2 %が冷房の各用途からのものとされている(90 年)。一方、1982年の時点では、照明・動力が35%、給湯が33%、暖房が33%であり、80年代において、照明や動力分野での消費の延びが著しい。

また、ある調査では、業務用のうち、48%が空調、20%が照明等との結果もある。

民生部門におけるこのような近年のCO2 排出量の延びは、パソコン等の新たな機器の普及や、多機能の家電製品の普及等による待機電力消費の増大が影響している。

さらに、94年提出のわが国の報告書では、従前のままの対策では、CO2排出量は2000年において90年レベル を3 %上回ることが予測されている。

 

2 従来の対策とその評価

従来の民生部門にかかわるCO2 排出抑制の効果をもった施策は、省エネルギー法(1979年「エネルギーの使用の合理化に関する法律」)による施策(建築物の熱損失の基準、家電製品や事務機器ののエネルギー消費効率に関する基準)や、省エネルギー設備の開発・導入への、補助金、低利融資、優遇税制、認定制度等がある。

それらは、エアコンや冷蔵庫の電力消費の改善をもたらしたが、一方ではその設置台数や機器容量の増大によって、それらのCO2排出量削減効果も十分なものでなくなっている。

また、以上の施策は、限られた分野におけるものであり、法的には強制力のないものにとどまっており、CO2排出量全体を減少させるに至っていない。

 

3 今後のCO2 削減のための手法とその効果

1)民生部門におけるCO2削減のための技術的手法とその効果

民生部門におけるCO2削減のための技術的手法としては、建築物の断熱性を高める方法、冷暖房の効率化を高める方法、太陽光や地温等の自然エネルギーの利用、照明の効率化等の方法、さらに地域でエネルギー利用の効率化等がある。

 ア 環境庁地球温暖化対策技術評価検討会の報告で試算されている技術

2000年までに導入可能な技術を前提として、例えば、住宅において開口部の断熱工事の実施を3 年間で162万戸(削減量24万トン)、省エネルギービルの建設を年間350万平米床面積(同10万トン)、照明の省エネ化(3年間で同54万トン)、冷暖房の省エネ化(同60万トン)等により 3年間で、200万トン程度のCO2 削減(民生部門全体の 約2.5 %)が可能との試算がなされている(環境庁地球温暖化対策技術評価検討会の報告) 。

たとえば、住宅へのペアガラスや断熱構造財の使用による住宅開口部の断熱性能化により、暖房用と冷房用のエネルギー消費量を削減し、世帯あたり年間104キログラムのCO2 削減の効果がある。

また、待機電力の蓄電池への転換により世帯あたり年間23キログラム 、白熱灯に代わるコンパクト蛍光灯の導入の一個年間4.6キログラムのCO2 削減の効果がある。

業務部門においても、そのエネルギー消費量のうち約20%を占めるとされる照明用の分野において、Hfインバータ照明、高効率ルーバー、反射板等を、事務所ビルに導入した場合、平方メートル当たり年間4.2キログラムのCO2削減の効果がある。

 イ 環境庁地球温暖化対策技術評価検討会の報告で論及されているものの試算がされていない技術

 a 既存の業務用建物の空調設備の効率改善と断熱性能の改善

環境庁地球温暖化対策技術評価検討会報告の試算では除外してある既存の業務用の建物の断熱性能強化と空調設備の効率改善についても対策を講じるとすると、さらに毎年2%以上の削減が可能とみられる。

禅述の通り、業務用部門では、エネルギー消費量のうち、約48%が空調に使用されているとの調査結果がある。既設の古いビルについては、空調機器をエネルギー効率のいいものにかえるだけで、空調に関し、20〜40%のエネルギー効率の向上が可能と思われ、仮に既設のビルのうち半数についてそれを実行した場合、全体として、業務用部門全体の10%以上(民生用部門全体の5%以上)のエネルギー消費の削減が可能であると思われる。それに、ビル全体の断熱性能の向上のための措置を講じれば、仮に2010年まで、今後13年間ですべての設備を更新していくとした場合、既設の業務用ビルについての設備更新措置だけで、年当たり0.5%をこえるエネルギー消費量の削減は可能である。

 b 自動販売機の電力消費抑制

また、全国で500 数十万台存在するとされる自動販売機の電力消費(一台あたり家庭1 世帯と同程度の電力消費があるとされる)を大幅に抑制することによって、合計で数百万トンのCO2 排出削減が可能である。

 c 太陽光発電の導入

 d ゴミ焼却余熱や下水汚泥消化に伴う排熱の熱源としての利用

 e コージェネレーションの推進による地域冷暖房設備の普及

2) 技術面以外での対応

また、技術面での対応とは別に、家庭や事業所での過剰なエネルギー消費の削減、自動車使用の抑制、ゴミの抑制やリサイクル等の推進によって、相当のCO2排出削減が可能である。

 

4 対応策を進めるための法的・経済的措置など

 以上からすれば、高齢化やOA化の一層の進展等にともなうエネルギー消費の増加要因などがあるとしても、民生部門において、技術面の対応にそ例外の対応をあわせることで、年間2 %以上のCO2 排出削減は可能である。

このようなライフスタイルの転換や、技術的な対応策をより早期に推進するために、従来のわずかな補助金制度や、省エネルギー法等による住宅建設の際の限られた基準等を改め、推進の原動力となるような大胆な制度の改変が必要である。

1) 既設の業務用ビルにおける省エネルギー型への空調設備等の転換の義務づけ

第1に、既設の業務用ビルにおける空調設備の効率改善や建物の断熱性能強化等を業務用ビルの所有者に義務づける必要がある。

現在、業務用ビルのうち、数多いテナントビル(賃貸用のビル)においては、電気使用料等エネルギー消費の負担は賃借人、設備更新の費用は所有者である賃貸人の負担となっているため、エネルギー効率の悪い空調設備が放置され、また、ビル全体のエネルギー効率を改善するための断熱性能強化や日射遮へいのための設備の設置などの変更もされない状況となっている。

負担と所有が分離されている現在の状況のもとでは、税や課徴金を導入しても経済的インセンティブにはなりにくく、別の法的手当てが必要である。そこで、既設の業務用ビルについて、空調設備や建物断熱性能について、一定の基準を設け、その基準をみたしていないものについては、一定の期間内にすべて省エネルギー型への設備転換を、既存の業務用ビルの所有者に、義務づけるべきである。

2) 新設される業務用ビルについての基準の設定

また、新設される業務用ビルについては、建物の断熱性能を高め、また空調設備の効率をよくし、さらに照明も最初から計画的に導入することが可能であるため、建築基準を見直して、新設のすべての建物について所定以上の断熱性能と所定以上の効率の空調機器・照明設備の具備を義務化することが必要である。

3) 業務部門における既存の事業所に対する規制

さらに、業務部門における既存の事業所に対する照明設備変更や無駄なエネルギー消費の削減を進めるためにある程度の規制措置を導入する必要がある。

個々の事業者が意識的に業務分野におけるCO2 削減につながる設備変更をすすめ、無駄なエネルギー消費の削減をすすめていくようにしていくためには、効果的に規制措置を導入していくことが必要である。

具体的には、以下の内容をもった規制等が考えられる。

ア 政府による各業種別の目標設定と実施のためのチェックリストなどの作成

イ 責任者の設置

ウ 報告義務

エ 政府の指導勧告権と一定の場合の制裁措置権

4) 省エネルギー商品・設備の普及推進のための認定・補助金制度

また、家庭部門と中小事業者が多い業務部門からなる民生部門において省エネルギー商品・設備の普及をすすめていくためには、上記のような法的規制とともに省エネルギー商品・設備についての認定・補助金制度が必要である。

5) エネルギー料金体系の累進化・削減奨励金など

一方、非効率設備・商品からの転換を促進するとともに、無駄なエネルギー消費を減らすための経済的インセンティブとして、エネルギー料金体系において、基本料金をなくし、累進をきつくして、エネルギー消費をした場合の負担を高くする一方、エネルギー消費を減らした家庭や事業者には奨励金を出すといった、欧米諸国でDSMとして行われている経済的インセンティブを導入することも必要である。

6) 現行税制や補助金の見直し

加えるに、財政措置として、現行税制や、補助金を見直し、CO2 排出行為に対して利益を与え、結果的にCO2 排出を奨励する結果となっているものを廃止し、逆に資源浪費型の設備には、課徴金や課税の対象とする必要がある。

7) 啓発活動の重要性と地方自治体の役割

以上のような制度に加え、市民に対する啓発活動も重要であり、自治体においても、具体的な排出削減目標を設定して、独自に建物や設備において技術的施策を積極的に導入するとともに、一般家庭や事務所でのエネルギー消費削減のための方法の指導・支援の窓口を設置する等、普及のための施策を一層推進すべきである。また、地球温暖化防止のための市民レベルでの活動を国や自治体が支援し、これらの市民組織と協力しながら、啓発活動や学校教育での取組も強めるべきである。

埼玉県川越市での実践

 埼玉県川越市では、電力消費を1%節約するという市役所あげての取組を開始し、1996年度では、前年比5.41%の電力消費を節約した。

 さらに、市独自の太陽光発電への補助制度を設けるとともに、市民への温暖化問題、原子力発電問題等を提起し、エネルギー消費削減のための具体的な手法を市の広報などで示し、市民によびかけている。