第4ー1 エネルギー転換部門における対策

 

1 エネルギー転換部門におけるCO2 排出の状況

1994年度の「総合エネルギー統計」によれば、日本のCO2総排出量は、炭素換算3億4300万tであるが、そのうち、エネルギー転換部門(発電所・製油所部門)の排出量の占める割合は、電力エネルギーの消費各部門への転換後で7.7%、転換前で32%である。このため、エネルギー転換部門におけるCO2 の排出削減が急務となっている。

発電電力量当たりのCO2排出量は、1980年度ころまでは、減少傾向にあったが、現在は横ばい状態である。また、電力需要の増大による発電電力量の増加により、CO2排出量全体は、増加傾向にある(1997年版環境白書)。

 

2 エネルギー転換部門におけるCO2 排出削減の基本的考え方

1)エネルギー総消費量の削減

エネルギー転換部門におけるCO2排出削減を考えるとき、第一に取り組むべきことは、エネルギー総消費量そのものを削減することである。すなわち、消費エネルギーの絶対量を減らすことこそが根本的な課題である。

日本のエネルギー政策の最大の特徴は未だに、右肩上がりのエネルギー需要の伸びを前提として、組み立てられていることである。

(デンマークの場合)エネルギー需要の段階的な減少を予定

 1990年にデンマーク政府は「ENERGY2000」という野心的なプランをまとめた。

 この案では、2005年までに「a.CO2 排出量を20%削減する。b.SOX排出量を60%削減する。 c.NOX排出量を50%削減する。d.エネルギーの総消費量を15%削減する。e.再生可能エネルギーのエネルギー供給に占める割合を5%から12%に増加させる」ことになっている。CO2の20%削減は義務的なものである。

 また、2030年までの長期目標では「a.CO2排出量を50%削減する。b.再生可能エネルギーの割合を35%まで増加させる。」とされている。

 1992年にはCO2税制度が導入され、同年に法律によって再生可能エネルギーの電力買い取りも義務付けられた。

 1996年にはENERGY2000をさらに具体化した「ENERGY21」というプランが策定された。このプランでは1500MWの風力発電の導入が計画され、2005年の再生可能エネルギーの割合を12ないし14%と上方修正している。

ドイツでも、連邦のエネルギー計画において、エネルギー需要は横ばいの状態が続くことを前提としており、ドイツもデンマークも、エネルギーの効率化を押し進める中で、経済成長の持続とエネルギー需要の削減を両立させようとしているのである。

地球温暖化の対策、化石資源の有限性、エネルギー消費の南北格差などあらゆる面から見て、わが国の今後もエネルギー需要の伸びを前提とする政策は見直されるべき時期を迎えている。

2)一次エネルギー投入量の抑制

次に、上記のような削減されたエネルギーの総消費量を前提としつつ、さらに、エネルギー使用のための一次エネルギー投入量を絶対的に削減しなければならない。

そのためには、一次エネルギーの利用効率を可能な限り高めることが必須である。

1994年度の一次エネルギーの全国内供給量(エネルギー転換部門も含む総エネルギーの供給量)は、5.1×1012kcalであるが、このうち、有効に動力等のエネルギーとして使用されているのは、33%に過ぎない。すなわち、投入エネルギーの67%は廃熱として、利用されないままに捨てられているのである(1997年版環境白書)。

「動力の発生を伴わない、熱の高温から低温への移動は、正味の損失とみなさなければならない」(熱力学の始祖サディ・カルノーの言葉)(平田賢「省エネルギー論」より)と言われている。

そこで、一次エネルギーの利用効率を高度化し、利用されないままに捨てられるエネルギーの比率を67%から可能な限り減少させなければならない。

この施策は、独りエネルギー転換部門のみの課題ではなく、エネルギーの輸送(送電など)におけるロスの削減、分散型エネルギーのあり方や需要サイドにおけるエネルギーの有効利用等をも広く射程にいれた対策でなければならない。

3)CO2 排出量の少ない一次エネルギーへの転換

一次エネルギーの投入量の削減とともに重要なのは、投入される一次エネルギーそのものをCO2 排出量の少ないものへと転換していくことである。

そのための方策としては、ア、化石燃料の中でも、比較的CO2排出量の少ない燃料へと転換していく(石炭よりも石油、石油よりも天然ガス)こと イ、再生可能エネルギーの利用拡大が重要である。

なお、日本国政府は、転換するエネルギーの種類として、原子力をオプションに加え、電力会社も原子力エネルギーが、あたかも、地球温暖化対策の切り札であるかのように喧伝している。

確かに、原子力は、発電中に限っては、CO2を排出しないが、後に詳述するように、原子力エネルギーの利用には重大な問題が山積しており、日弁連としては、原子力を温暖化対策の選択肢として加えることには反対である。

 

3 日本のエネルギー政策の現況とその問題点

1) エネルギー消費削減の視点の欠如

日本のエネルギー政策の最大の特徴は未だに、右肩上がりのエネルギー需要の伸びを前提として、組み立てられていることである。すなわち、日本のエネル疑義ー政策においては増大するエネルギー消費を如何に満たすかという観点が強く、エネルギー消費を減らすことの政策順位が低く位置づけられて来た。そして、日本の電気事業は、安定供給を最優先として、冷房の普及などにより伸び続ける夏のピーク電力に対応できるよう、電源立地に務めて来た。

しかし、環境の保全という観点からは、まずエネルギー消費の削減こそが第一次的な目標とされるべきである。エネルギー長期計画そのものを、総消費量の削減を前提としたものに方向転換しなければならない。

2) エネルギー政策決定過程の非民主性

一国のエネルギー政策のあり方はその国の経済及び国民生活に決定的な影響を与えるだけでなく、地球環境に与える影響も大きい。すなわち、エネルギー政策の決定には、地球環境保全の視点からの多様な意見も反映されることが必要である。

ところが、そのように重大なエネルギー政策が日本においては、極めて非民主的な手続によって決定されている。すなわち、日本のエネルギー政策は、資源エネルギー庁の完了がエネルギー関連業界の意見を聞きながら作った原案が、さしたる議論もなく、総合エネルギー調査会を通過して、閣僚の一部によって構成されるに過ぎない総合エネルギー対策推進閣僚会議で決定されるのである。

国際的にみると、国のエネルギー政策は議会の審議、議決を必要としている国が多い。

地球環境の問題が、業界の利益によって駆逐されることのないよう、現在のエネルギー政策立案の過程そのものの変革にまで踏み込む必要がある。エネルギー政策決定を総合エネルギー調査会のような通産大臣の諮問機関で行うではなく、国会での討議を基本に決定手続きを透明化することがまず必要なのである。

3)電力事業独占政策の誤りとその結果としてエネルギー転換効率の遅れ

後に詳述するように、エネルギー転換部門におけるCO2排出削減のためには、コジェネレーションの普及や再生エネルギーの導入促進が極めて重要である。また、工場廃熱や廃棄物焼却による廃熱をエネルギー源として効率良く使用する方途も整備しなければならない。効率性の高い発電事業やCO2排出量の少ない発電事業が伸びるためには、独立電気事業者や地方自治体が発電した電力が社会全体で使用できる仕組みが必要である。

ところが、現在、こうした新しい発電方法を採る発電事業者の電力市場への参入は、電気事業法によって厳しく規制され、日本の電気事業は、基本的に9大電力会社によって独占下に置かれており、所謂独立電気事業者(IPP)の新規参入が阻まれている。

1995年には電気事業法が改正され、余剰電力の買取や卸電力入札制度が導入されたが、未だに不十分であり、社会全体としての効率よいエネルギーの使用のシステムは確立されていない。

電気事業法をさらに改定して、ドイツのように、再生エネルギーの買取を義務づけたり、アメリカ合衆国カリフォルニア州のように発・送・配電分離によって効率性の高い電気事業者の市場参入を促進するシステム、電力の託送制度(自家発電業者による自己託送も含む)等を取り入れることが望ましい。

4)再生可能エネルギー推進策の不十分さ

1996年7月に発表された資源エネルギー庁の試算によると、太陽光、風力、廃棄物発電などのいわゆる新エネルギーの潜在量は、原油換算で年間1億9300万キロリットルであり、日本の一次エネルギー総供給量の3分の1に該るという。

しかしながら、このように大きな潜在的可能性がありながら、日本には、再生可能エネルギーに対する助成策がほとんどないのが現状である。

太陽光発電に関しては、住宅用太陽光発電のシステムモニター事業(96年度40億円)、公共施設用太陽光発電フィールドテスト事業(19億円)、風力発電に関してはフィールドテスト事業(3・2億円)などがある。また、地域における太陽光、風力などの導入を促進するために、地域エネルギービジョン策定支援(4・7億円)、地域エネルギー開発利用事業補助(4・7億円)などがある。しかし、これらをあわせても、新エネルギー関連予算はエネルギー予算の3%でしかなく、エネルギー関連予算の配分は、相変わらず原子力に偏重している。再生可能エネルギーに関して現在実施されている支援策をさらに充実させるとともに、ドイツ、デンマークで採られたような本格的な導入支援策(建設費の30%助成等)が必要である。

また、現状では、独立電気事業者の発電した電力の買取が、電力会社のボランタリーであり、何の保障もないため、風力発電などへの投資は消極的にならざるを得ない。アメリカ、ドイツ、デンマークにおけると同様に、わが国においても、電力買取の制度化、最低価格の保証を一刻も早く法的なものとして確立するさせる必要がある。

5)現行の省エネルギー政策の限界

わが国は、1979年「エネルギーの使用の合理化に関する法律」により、工場、建築物、機械器具の省エネルギーに関する事業者等の努力義務、所管大臣の韓国、省エネ判断基準の設定、そのための財政上の措置を定めている。近年、地球環境問題への対応から省エネルギー推進の必要性は一層高まりつつある。これこを受けて1993年3月、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」の一部が改正された。また、石油代替エネルギー特別会計に省エネルギーを盛り込んだ「エネルギー需給高度化対策」も創設された。同時に「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」(省エネリサイクル法)が制定・施行された。

しかしながら、これらの法律による施策は、事業者の努力義務や自主的取り組みの促進に止まっており、さらなる対策が必要となっている。

 

4 エネルギー利用効率の高度化

1) エネルギー発生サイドにおけるエネルギー利用効率の高度化

ア コージェネレーションの普及

既存の火力発電や、原子力発電では、投入したエネルギーのうち、有効利用可能なのは、3〜4割に限定されている。投入エネルギーのうちの7割〜6割が廃熱として環境中に捨てられている計算である。

しかし、コージェネレーションシステムを利用すれば、発生エネルギーのの7割まで利用できる。このことは、エネルギー資源を半分に節約できるということである。

コージェネレーション(Cogeneration)とは、「高温の熱は熱機関で動力化し、温度を下げて排出された熱を熱(加熱用)として用いること」で、「熱電併給」と呼ばれている。

既存の発電のエネルギー効率が、3〜4割に止まっているのは、「高温部の熱」を有効に利用せず、500℃の熱のみを「蒸気タービン」による発電に利用してきただけであるからである。「日本における未利用エネルギーの最たるものは、1500℃から500℃あたりまでの高温部の熱である。」(前掲平田「省エネルギー論」)と指摘されている。また、一方で、通常の民生用熱需要(冷暖房・給湯)は、100℃以下の低温部の熱を利用することで十分賄うことができる(電気での給湯・冷暖房は非効率!)。

コージェネレーションは、病院・ホテル・業務用ビルなどの熱と電力需要のバランスが取れている民生部門への導入で大きな削減効果を発揮することが期待されている。既に、「大阪ツイン21ビル」のようにコージェネレーションを利用したビルや、「東京芝浦地域冷暖房」「新宿副都心地域冷暖房」のように一定地域全体に熱電併給するシステム導入例も現れている。しかし、未だ、その普及率は高いとは言えず、潜在的に導入可能な施設や地域も今なお未開拓である。

また、紙・パルプ、食品、製造、飲料、木材、木製品、繊維、染色、薬品、石油化学、石油精製など300℃以下の蒸気や温水を大量に利用する工場において、ガスタービンを導入し、高温部で発電した後に、前記の蒸気や温水を利用するというシステムに転換することも、有効な熱利用の促進に繋がる。

コージェネレーションシステムは、熱と電力を併給するという性質上、必然的に地域分散型のエネルギー供給システムとなる。コージェネレーションシステムは、化石燃料をエネルギー源とするものが主であるが、エネルギー効率の向上によって、資源の節約、CO2の排出量削減に大いに寄与することができる。前述したデンマークの地球温暖化対策もコージェネレーション普及を柱に据えている。

このようなシステムの大量の導入をはかり、社会全体で、コージェネレーションで得られた電力を広く利用することを可能にするためには、5で述べる電気事業への参入規制の緩和が極めて必要である。

イ コンバインドサイクル・リパワメント

未利用の高温部の熱を効率良く使用する方法として、コンバインド・サイクル発電がある。コンバインド・サイクル発電とは、ガスの膨張力を利用して発電する「ガスタービン方式」を取り入れてタービン入り口ガス温度を約1100℃にまで高めて発電し、さらに、その廃熱を利用して蒸気を作り、「汽力式」発電を行うという方式である。このように、高温部の熱利用技術を取り入れ(トッピング)、高温部から低温部に至るまでの熱を無駄なく「カスケード利用」するコンバインド・サイクルを採用すれば、熱効率は約50%まで上昇すると言われている(現在の平均の38%より、10%前後効率がいい)。

コンバインド・サイクル方式については、新規設置の際に導入するだけでなく、既存の汽力(蒸気タービン)式の発電所や自家発電に、ガスタービンを追加設置し(リパワリング)、熱効率を高めることも促進されるべきである。

しかしながら、電力会社は、技術的に可能であるにもかかわらず、コンバインド・サイクルの導入をせず、結果として、発電効率はここ30年以上37〜38%に止まり、依然として改善されていない現状が続いている。

2)送・配電ロスの削減

発電したエネルギーが、送配電の過程で失われる率を低下させるための技術導入も必要である。

しかし、問題は、技術面に限るものではない。現在の大規模で広域な送・配電システムを前提とする限り、送・配電ロスを低減させるにも限度がある。ことに、原子力発電所のように、電力の大消費地から離れた過疎の遠隔地に立地する発電所は、送・配電ロスの点からいっても問題がある。

電源システムを地域分散型に転換することがこの意味でも求められている。

3)エネルギー需要サイドにおける有効利用−−−ディマンド・サイド・マネジメント(DSM)

エネルギーの効率利用という対策は、発電・発熱の段階=電力や熱の供給サイドだけでなく、需要側においても必要である。所謂ディマンド・サイド・マネジメント(DSM)がそれである。需要を削減することによって、利用可能エネルギーを生み出すという意味において「ネガワット革命」とも呼ばれている。

省エネルギーの電気機器の購入に補助金をかけたり、省エネルギー技術に助成を行う。また、一日を通じての電気の使用量の平準化を図るため(ロードマネジメント)に時間帯毎の電気料金にいくつかの段階を設け、また蓄熱システムを導入を促進したり、電力の使用料を前年度に比べて減らすことに成功した人には、新しい電力設備の投資をしなくても済んだことに対して避けられたコスト(アボイダル・コスト)に対して報奨金が出るような仕組みも導入していく必要がある。

 ドイツのフライブルグ市では、消費時間帯別の料金制度を導入した外、省エネ型電球を各戸に1個配付したり、市の建物等については、一定基準を満たす省エネルギー建築でなければ建築許可を与えない、など施策をとっている。

 

 カリフォルニア州サクラメントの電力公社(Sucrament Municipal Utility District=SMUD)は、原子力発電所の閉鎖後、

ア 省電力製品の普及・開発キャンペーンとして、消費者への報奨金の提供によって、エネルギー効率の高い冷蔵庫・エアコン・照明設備への買い替えを進める、

イ 特別契約した家庭のエアコンや大口顧客の電源を一定時間リモコンによって強制的にオフにする代わりにその顧客の電気料金を割り引くサービスの実施、

ウ 一般住宅・業務用建築の遮熱・断熱対策を推進するための相談業務や検査業務、

エ 遮熱対策として、2000年までに50万本の木を無償で消費者に提供する(南側に落葉時を植樹し、夏は涼しく、冬温かい「緑のエアコン」)、

オ ソーラー・プログラムとして太陽熱温水器を奨励するとともに、太陽光発電の設置への協力を呼びかける、

など、積極的なDSMを行った(長谷川公一「脱原子力社会の選択」参照)。まさにネガワット発電を実践し、SMUDをしてDSMの第一人者ならしめたのである。

4) 地域分散型のシステムへの転換

電力供給のあり方を「地域分散型」のシステムに変えることは、さまざまな面から要求されている。

送・配電ロスの低減という意味においても然りであるし、コジェネレーションの普及という意味においても然りである。

また、供給地と消費地の近い地域分散型システムに於いてこそ、DSMが良く機能を発揮する。

さらには、再生可能エネルギーの導入のあり方は、必然的に、小規模・地域分散型、すなわち、その地に適した、ローカルエネルギーとしての導入となる。

 

5 CO2 排出量の少ない一次エネルギー及び再生可能エネルギーの利用促進

1) 天然ガスの利用

化石燃料の中でも、天然ガスは、同じ発熱量を得るのにCO2の発生量が、石炭の約二分の一、石油の約三分の一である。すなわち、単位発熱量当たりのCO2排出比は、石油を1とした場合、亜炭で1.4、無煙炭で1.2であるところ、天然ガスは、0.65である(平田賢「省エネルギー論」)。

従って、同じ化石燃料を使用する場合でも、天然ガスを選択する方がCO2排出量を抑制できる。

前述のコージェネレーションも、天然ガスを利用すれことでば、よりCO2削減効果が期待できる。

天然ガスの埋蔵量については確立された見解はないが、石油に比べて相当の余裕があることは明らかであり、地球温暖化の面でも石油石炭に比べて条件はよい。埋蔵量の豊かな石炭資源は直接的な公害の発生だけでなく、地球温暖化の面でも天然ガスに比べて格段に条件が悪いといえる。

2) 再生可能エネルギーの利用促進

ア 再生可能エネルギー

CO2の発生量の抑制と、資源の有効利用の観点から、再生可能エネルギーの導入を促進する必要がある。

再生可能エネルギー(ローカルーエネルギー)としては次のようなものが挙げられる。

a 太陽エネルギー−−−太陽熱発電、太陽熱多目的利用、太陽光発電

b 風力−−−−−−−−風力発電、風力多目的利用

c 中小水力−−−−−−中小水力発電、中小水力多目的利用

d 地熱−−−−−−−−地熱発電、地熱多目的利用

e バイオマス−−−−−アルコール燃料利用、バイオガス利用

f 海洋−−−−−−−−波力発電、波力多目的利用、潮汐発電、潮汐多目的利用、海水温度差発電、海水温度差多目的利用

g 廃熱利用−−−−−−ゴミ焼却、工場廃熱等による発電や多目的利用など

h 廃棄物利用−−−−−家庭廃棄物、排泄物、工場廃棄物の利用、発酵ガス利用

前述したように、デンマークの「ENERGY2000」は、2005年まで再生可能エネルギーのエネルギー供給に占める割合を5%から12%に増加させ、2030年までの長期目標では再生可能エネルギーの割合を35%まで増加させるとされ、1996年の「ENERGY21」では1500MWの風力発電の導入が計画され、2005年の再生可能エネルギーの割合を12ないし14%と上方修正されている。また、ドイツでも、ルーフトッププランとして太陽光発電の導入目標を定めて促進したり、風力発電の導入を促進するなどの措置をとっている。

日本において発電部門で再生可能エネルギーが占める割合は、 1995年度で約1パーセントと非常に低く、コスト面の問題もあって、普及が進んでいるとはいない状況である。

イ 再生可能エネルギーの利用促進を図るための措置

環境に適合するエネルギーの中で、既存のエネルギーに価格的に対抗できるだけ成功しているのは風力である。

再生可能エネルギーについては、導入時のコストがある程度下がる時点まで、十分な公的助成や税制上の優遇借置を行うことが必要である。その財源には原子力に対する助成を廃止した後の電源立地のための目的税を流用することも可能である。

また、アメリカ合衆国におけるPURPA法やドイツ、デンマークの電力買取法のように、再生可能エネルギーなどの市場価格に近い金額での買い取りを義務づける法律制度を確立させる。電力会社以外の発電事業が成功するためには投資コストに対する確実な回収の見通しを保障する必要があるからである。

まだまだコストの高い太陽光発電については市場価格の90%での買い入れでは到底コストを回収できない。わが国では、初期費用の50%を補助する制度が取られているが、ドイツのアーヘン市で採用されている考え方がアーヘンモデルである。

(アーヘンモデル)

 儲からない事業に先行投資してくれた人には投資の回収ができる価格での電気の買い取りを約束しようと言う制度。

 実際には再生可能エネルギー買取法では1キロワット時当たり17ペニヒ程度の価格しか支払えないところをその10倍を超える2マルクの価格を保障しようというのである。その財源は電気料金の1%程度の値上げで十分可能だという。

日本はドイツ・デンマーク以上に再生可能エネルギーの自然条件には恵まれている。今後まだまだコストの高いと言われるソーラーチップの量産化等も必要であるが、コスト的にもっと有利な風力発電を強力にバックアップする必要がある。

3)原子力エネルギー利用の問題点

日本の政府は、エネルギー転換部門における地球温暖化対策の一つとして、原子力エネルギーを主要な選択肢に加えている。

原子力エネルギーは、確かに、発電中に限っては、CO2 を排出しない。

しかしながら、ウラン燃料採掘から始まって、精製、濃縮、加工、成形、使用済燃料の貯蔵、再処理、高レベル放射性廃棄物の処分、これら全ての過程における運搬コストという、燃料としてのライフサイクル全体を見た場合には、化石燃料の大量投入に依存し、CO2 削減効果は乏しい。

また、原子力エネルギーの利用の安全性は、確立されているとは言えない。

さらに、原子力エネルギーの利用は、燃料としてのライフサイクル全般に渡って、環境や人体に対して様々な著しい負荷を与える。すなわち、ウラン採掘・残滓による放射能汚染、平常時被爆の問題、事故時の放射能放出リスク、低レベル放射性廃棄物の処分の問題、使用済燃料の取り扱い、再処理による放射能汚染、高レベル廃棄物処分の問題など、未解決な問題が山積している。

エネルギーとしての選択は、運転中のCO2排出如何によって行われるべきではなく、あくまでもトータルとしての環境負荷をも考えた上で行われなければならない。

その点から言って、原子力エネルギーを地球温暖化対策の選択肢として取り上げることは、適切でない。

この点、わが国のエネルギー政策が未だに、原子力に莫大な予算を投じ、プルトニウム利用と核融合に見果てぬ夢を託していることは、欧米の議論の実情から見たとき、きわめて異常な状態になっていると言わざるをえない。アメリカ、イギリスでは特に経済性と安全性の問題から、原子力発電利用は縮小されつつある。また、デンマークは、放射性廃棄物処理の問題から、エネルギーのオプションとして原子力を採らないことを決めた。

日本もドイツなどのように、原子力発電に対する公的な助成策を廃止し、国は中立の政策を散るべきだ。

 

6 エネルギー転換部門でのCO2排出削減のための制度的保障ーその1ー発電事業に対する参入規制の緩和

1) 電力買取の義務づけ

コージェネレーションによる発電、工場廃熱利用による発電、再生可能エネルギーによる発電をより広く、社会で利用し、その普及を図っていくためには、発電事業に対する参入規制を緩和することが必要である。

1995年4月には電気事業法が改正され、発電部門への競争原理の導入、特定地域での電力供給の自由化などが内容である。しかし、この改正は、発電事業に対する規制緩和としては、全く不十分なものである。特に、電力の買い取り義務が法定されていないことが、新規電源の設置の障害となっている。また、電力会社が新規電源に義務づけている保安規制も過剰なものであり、コスト高を招いているとの批評が強い。卸電力に対する入札制度が実施されたものの、電力会社による門戸の開放は狭く、入札は4〜5倍の競争率となっている(つまり潜在的に売電できる電力を有効に利用していない)。

電気事業の独占を当然とする考えは欧米では産業界からの強い逆風を受けている。産業界全体に公的な規制が、企業活動の自由な発展を阻害し、経済の発展の障害となっているという考え方が広まり、産業界全体が、厳しいコスト切り詰めを迫られる中で、レートベース制により、投資の回収を自動的に約束され、高い利潤を上げ続けている電力企業に対し、不満が高まってきたのである。とりわけ、電気の高価格が経済の空洞化を招いているのではないかという危機感が高まり、原油価格の低迷と発電技術の飛躍的進歩により、発電コストが大幅に低下し、新しい企業が電力市場に参入することが容易になってきた。

2)発・送・配電の分離

送配電設備を持たない独立発電事業者の電力市場への新規参入は、当然、既存の電力会社の持つ送配電設備の利用が前提となる。コンピューター技術の進歩により、発電から、送電・配電の過程を1社の電力会社が行うという垂直統合を解体しても、電力の消費ニ生産のバランスを図って、管理することが技術的に可能となってきた。

(カルフォルニアでの電力市場自由化計画の推進)

 現在カリフォルニア州では98年1月を期して、電力市場を自由化する計画が着々と進められている。この電力市場自由化の仕組みはかなり複雑でここで詳細に説明することは不可能だが、簡単に説明すれば次のようなものだ。

 第1に、既存の電力会社は発電会社、送電会社、配電会社に分割される。そして、「電力取引所(Power ExchangePX)」と言う電力市場が設立される。ここから、翌日の30分ごとの必要電力量が示され、これに対する発電事業社の入札が行われ、入札結果の電力のコストも公開される。既存の電力会社も、独立発電事業者も原則としてこの市場を通じて電力を供給することとなるのである。

 しかし、顧客はこの電力市場からだけでなく、発電会社に直接アクセスすることもでき、そのためのブロ−カ−「アグリゲ−タ−」も併設されることとなっている。このシステムの要は「独立システム管理者(Independent System Operater ISO)」という名の管理機関の創設にある。ISOは送電、給電の一元的な管理者であり、顧客に配電を行う配電会社からの供給要請を把握して電力取引所とアグリゲ−タ−にこれを指示して、電気の供給が確実に行われることを保障する。すなわち、従来電力会社が負っていた電力の供給義務はこのISOが負うこととなるのだ。

カリフォルニアで実地されたような、完全自由化は、独立電気事業が未熟な日本では、まだ先のことであるが、まず、前記のように電気の買取制度を確立したうえで、次のステップとして、コストの透明化と競争条件を公平なものとするため、発電部門と配電部門の分離は比較的はやい時期に実地する必要がある。電気通信事業で生じたような、本格的な価格競争がこのような規制緩和によって加速されることになるだろう。

電気事業の規制緩和はアメリカのカリフォルニア、イギリス、ノルウェ−などでも実地され、1997年5月16日には、日本政府の経済構造改革の中でも発・送・配電の分離を含む規制緩和の方針が示され(同日付電気新聞)、OECDの1997年5月27日に勧告された規制緩和勧告案でも、発電部門と送電部門の分離を含む規制緩和案が勧告された(同月28日付電気新聞)。

3) 託送の自由化

独立電気事業者が、電力市場に参入するためには、既存の電力会社の持つ送・配電設備の利用が可能であることが前提となることは、先にも述べた通りである。そのため、託送の自由化も求められる。

一般企業が発電した電気を電力会社の送電線で遠隔地の自社工場に送る「自己託送」も、産業界の自家発電の有効利用やエネルギーコストの低減に貢献するものである。1997年7月9日付け朝日新聞によれば、日本で初めて、王子製紙が中国電力の送電線を使用して、呉工場で発電した電気を米子工場に振り向ける自己託送が翌10日から実施されるとのことであり、託送サービスは、まさに緒に着いたばかりである。

 

7 エネルギー転換部門でのCO2排出削減のための制度的保障ーその2ー炭素・エネルギー税の導入とエネルギー料金体系の見直し

しかし、参入規制を単純に撤廃し前記6でみたような措置をとっただけでは、電気料金が安くなる結果、その使用量が増加し、結果としてCO2の排出量の増加をまねきかねない。

それを防ぐためには、後に、産業部門、民生部門で述べるような具体的措置を講じるとともに、炭素・エネルギー税の導入によって電気料金水準を一定に保ち、さらに、基本料金の撤廃、累進的電気料金制度の導入、ピーク料金の設定などによって、エネルギー消費の多い場合に経済的負担が大きくなるようにエネルギー料金体系を見直す必要がある。